師匠と妹と策謀の成就と
大変お待たせ致しました! 本日は第268話を投稿します!
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「それじゃあ行ってくるわね」
「魔王の庭」でジョミエル・フォン・オルコット子爵の『急速格上げ』を終えた3日後、俺はラーナルー市にある俺の屋敷の玄関ホールで、とある人物を王都ノルベールにあるブリシト城へと送り出そうとしていた。
「ああ、宜しく頼むよ、師匠」
それは俺の武術の師匠であるルストラ・フォン・モーゼンハイム、そのヒトである。そう「最強の保険」とはズバリ! ルストラ師匠にアドルとオルコット卿の護衛を頼む事だったのだ。師匠には今回の計画を全て話し、理解と協力を取り付けたのである。
何より師匠なら俺とアドルの関係も、そして当然アドルの重度の兄恋慕の事も知っているからな。それに幼い頃からアドルは師匠には何故か頭が上がらないのだ。そうした所も含めて俺が師匠に表向きはアドル達の護衛として、其の実、アドルとオルコット卿の橋渡し役を頼んだのだ。
また師匠をアドル達の護衛に付ける事は、「魔王の庭」から帰還後直ぐに遠方対話機でエリンクス国王陛下に連絡済である。陛下も最初は吃驚していたが、「ウィルの推薦ならば」と此方も理解を示してくれた。
「コーゼストも頼んだぞ。師匠を無事に送り届けてくれよな」
「お任せ下さい──それでは転送開始します」
師匠と並び立つコーゼストの声と共に、ホールの床に転移魔導機の魔法陣が展開され、師匠とコーゼストの姿が煌めきの中に消えていった。
さてと、これで出来る手は全て打った。後は結果待ちだな。
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「ただいま戻りました」
師匠とコーゼストを送り出してから30分、コーゼストが屋敷へと帰って来て、俺達が待つ大広間に顔を出した。
「おかえりコーゼスト。どうだった、向こうは?」
彼女に労いの言葉を掛けつつ、向こうの状況を尋ねる俺。アン達も注目している中、口を開くコーゼスト。
「はい。ブリシト城に転移魔導機で転移した所、国王陛下と共にアドルフィーネ様がいらっしゃいました。どうやら陛下がアドルフィーネ様に声を掛けられていたみたいですね。アドルフィーネ様はマスターが来るものと思われていたみたいで、実際はルストラさんだった事に大変驚かれていました」
「それで──アドルは愚図らなかったのか?」
俺の言葉にコーゼストはひとつ頷くと
「それは当然愚図られましたが、陛下やルストラさんから窘められて、渋々了承されていましたね。それにルストラさんの「私じゃ不満なの?」の一言も効いた様でした」
何とも言えない顔をしてそう話す。何となくだがその時の光景が目に浮かぶ様である。
「まぁ、あのアドルだからな……」
寧ろ良くアドルが了承したなと改めて思う俺。まぁコーゼストの言う通り師匠の一言が決め手になったんだろうが…… 。コーゼストの話を聞くにつけ、やはり師匠にお願いして正解だったな、と沁々と思う俺。アン達アドルを知る者達も、何だかホッとしているみたいだ。
これは……何となくだが師匠が何とかしてくれる予感がしないでもない。
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そうしてルストラ師匠を送り出してから8日経ち
「ウィル、皆んな。帰ったわよ」
唐突に屋敷に師匠が帰って来た。どうやらオルガが気を利かせて、冒険者ギルドの非常用転移陣を使わせてくれたらしい。
「おかえり師匠」
『『『『『ルストラさん、おかえりなさい』』』』』
そんな師匠と出迎えの挨拶を交わす俺とアン達。
「それで……どうだったんだ、アドルの領地査察の方は?」
「あー、うん。それなんだけどね……」
続く俺の言葉に若干の苦笑いを浮かべながら話し始める師匠。それによると──王都から南に馬車で3日のヴィルジール伯爵家の領地パフト市には、アドルとオルコット卿と文官3人、そして師匠の合計6人が向かったのだそうだ。領地を預かる名代はデーヴィン・フォン・イースデイル子爵、彼等には何の連絡もせずに完全な抜き打ちで査察が行われたのだ。イースデイル子爵は突然のアドルらの文字通りの電撃訪問に驚き、慌てふためいていたらしい。
アドルとオルコット卿らは訪問の目的が領地内に於ける不正の有無である事、それ等をはっきりさせる為にすぐさま査察を行う事を宣言。イースデイル子爵らに反論の余地を与える間も無く、公金や租税の帳簿を提出させるだけに留まらず子爵公邸を徹底的に家宅捜査、その結果、公金の横領や領民に対する租税の不当な引き上げ等を裏付ける云わば裏帳簿を発見。
それによりイースデイル子爵らの不正と悪事が白日の下に晒されたのであった。
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「何とも呆気ない結末だな」
師匠の話を聞いてありのままの心情を口にする俺。
「それがそうでも無かったのよ」
俺の言葉にそう答えを返す師匠。
「うん? どう言う事だ?」
「えっとね、裏帳簿が発見されてアドル達がイースデイル子爵を追求しようとした時に、いきなり子爵とその配下の者達が剣を抜いて私達に斬り掛かって来たのよ」
何でもその場に子爵とその護衛が合わせて4人おり、アドルが話し始めるや否やいきなり抜剣して斬り掛かって来たそうだ。それに対してアドルの方はと言うと、アドルは勿論の事だが文官3人も全くの戦力外で、戦力になるのは師匠とオルコット卿のみだったそうだ。
なので師匠はアドルと文官達の護りをオルコット卿に任せて、1人で子爵らと相対したそうだ。
「師匠なら4人ぐらい何ら問題ないんじゃないのか?」
俺の言葉に師匠は頭を振ると
「素人に毛が生えた程度なら問題ないけど、3人だけ手強かったのよ。アレは多分傭兵崩れだと思うわ」
そう言って少し顔を顰めた。兎に角その3人に師匠が少しだけ難渋している間に、子爵はアドルを亡き者にしようと文官達には目もくれず斬り掛かったそうだ。尤も師匠が少しだけ本気を出して3人を沈黙させるまでの間、オルコット卿が子爵と斬り結んでいたらしい。
「全く……ウィルがオルコット卿を鍛えて無かったら、ちょっと危なかったわね」
そう言う師匠の顔には先程と同じ苦笑いが浮かぶ。
何れにしてもオルコット卿は見事アドルを守り抜いたらしい。ここまでは此方の目論見通り、か?
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まぁ結局の所、イースデイル子爵とその護衛達を師匠が完膚無きまでに叩きのめしたので、アドルとオルコット卿らは事無きを得たのである。
彼等は公金横領や租税の不当な搾取で罪に問われる事になり、更に今回の一件で領主殺害未遂の罪も課せられる事だろう。彼等4人は武装解除され、その身柄はパフト市に駐留する領兵の手に渡り、牢舎の中で厳重な監視下に置かれているそうな。
兎に角査察を終えるまで丸2日を要し、子爵の悪事を暴いた後は連れてきた文官の1人を臨時の名代としてパフト市に置いて、混乱を速やかに収めると、残りのメンバーは揃って王都へと帰還したそうだ。
「そうか……有難う師匠、アドルを護ってくれて」
俺は素直な感謝の気持ちを込めて師匠に頭を下げる。
「良いのよ、それが私の役割なんですからね。それよりも感謝するならオルコット卿にも、ね?」
「それは勿論分かっているよ」
俺の謝意に笑顔でそう言葉を返す師匠と、それに更に言葉を返す俺。なんのかんの言っても半分は血が繋がっている妹だからな、アドルは。
まぁそう言うならお前がアドルの護衛に付いてやれば良かっただろが、と言う話になってしまうんだけどな。今回はアドルにオルコット卿を意識させる為に敢えてこんな形を取ったんだ。多少の危険は承知の上だったが、実際にこう言う事が起きると心配してしまうのは勘弁して欲しい。
まさに痛し痒しだな……はぁ…… 。
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「はァ……まぁそれはそれとして、アドルのオルコット卿に対する反応はどうだったんだ? 師匠?」
俺は頭の中に浮かんだそんなどうしようもない事を消し去る様にひとつ頭を振ると、ズバリ核心に迫る事柄を師匠に尋ねる。
「うん? あー、えっとね、それは勿論上手く行ったわよ?」
俺の問いにそう端的に答える師匠──だがその顔はニンマリとしていた。師匠の言う事には、王都への帰路についた馬車の中で、アドルは熱い視線をオルコット卿に向けており、それに気付いた師匠がそれとなくオルコット卿の話を振ると、文字通り飛び付いて来たそうだ。
「アレは完全に恋する乙女の顔だったわ」
とはそんなアドルの様子を見た師匠の弁だ。その辺は流石人生経験が豊富な師匠の言葉だけあって説得力がある。
「すると師匠、アドルの奴はオルコット卿に興味を持ったんだな?」
「興味と言うか……アドルフィーネは間違いなくオルコット卿に恋愛感情を持ったわね」
俺の言葉にそう嬉しそうに話す師匠。師匠もアドルのあの兄恋慕ぶりを心配していた1人だからな。そのアドルが俺以外の異性に恋愛感情を持ったとなれば、喜びも一入だろう。かく言う俺も正直に言って嬉しいの一言に尽きる。
「まぁそう言う事だから、アドルフィーネには色々とアドバイスして来たわ! 勿論人生の先達としてね!」
そう言って呵呵と笑う師匠。俺としては師匠がして来たと言うアドバイスが凄まじく気になるんだが?!
だがそれは聞かないお約束だな、うん!
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ルストラ師匠が帰って来てから2日後、俺はエリンクス国王陛下からブリシト城に呼び出された。最早日常になりつつあるコーゼストの転移魔導機で城のエントランスホールに転移し、そこで待ち構えていた顔馴染みの侍従長に案内され、長い廊下の先にある謁見の間へと向かう。勿論お供はコーゼストである。
謁見の間では陛下やマティルダ王妃殿下、ジュリアス王太子殿下やステラシェリー王女殿下と形式的な挨拶を交わし、本日本命本題の話に入る──やれやれ。
「ウィルよ、此度はアドルフィーネ嬢とオルコット子爵の件で尽力してもらい、本当に感謝する」
話の出出し早々、そう言って謝意を伝えてくる陛下。そして続けて
「それで──オルコット卿とアドルフィーネ嬢からは報告を受けているが、実際の話はどうなのだ? ルストラ殿は何と言っていたか、是非とも聞かせて欲しい」
「私も是非に」
目を輝かせて尋ねて来る陛下とマティルダ王妃。どうやら2人とも当事者同士でない第三者の視点からの話を聞きたいらしい。なので俺は師匠から聞いた出来事を余す事無く、陛下らに話して聞かせたのであった。パフト市であった騒動からオルコット卿の活躍まで全て──勿論師匠の主観も交えて、であるが。
しかし、何でそんなにヒトの色恋沙汰に興味を示すのか? その辺の事を陛下と王妃殿下に尋ねたら、帰ってきた言葉が「刺激が欲しい」の一言。
どうやら王族と言う職業は普段は退屈極まりないものらしい。
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そんな事があってから更に2日後、今度はアドルから王都にあるヴィルジール伯爵家に呼び出された。何でも重要な話があるらしい。思えば俺が実母マリアネラを喪ってから、実に11年ぶりの伯爵家への帰省である。
今回のお供はご存知コーゼスト以外にアンとエリナ、それとオルガだ。今回はオルガの屋敷にコーゼストの転移魔導機で転移し、其処から馬車でヴィルジール伯爵家に乗り付ける。
「兄様、皆様も、本日は当屋敷にお越しくださり有難うございます」
昔と変わらない伯爵家のエントランスホールで、俺達を笑顔で出迎えるアドル。いつも通りに一目散に抱き着いて来るかと身構えていたが、今回はそう言う事は無かったので、内心ホッとしているのは秘密である。
「さて、こんな所で立ち話も何ですから此方へどうぞ。美味しいお茶が手に入りましたの」
笑顔を崩すこと無く、俺達の先頭に立って奥にある大広間へと案内するアドル。そこにはあの兄恋慕のアドルの様子は微塵も感じられない。
そうして程なくして大広間へと通される俺達。其処には1人の男性の姿が。誰であろう、オルコット卿そのヒトである。
「兄様、皆様も。紹介しますわ。彼は査察部統括官の任に就いているジョミエル・フォン・オルコット子爵。今回の査察では大変お世話になりましたの」
それは勿論知っているぞ、とは言える訳も無く、お互い初対面の体を取り挨拶を交わす俺達とオルコット卿。俺達が挨拶し終えると急にアドルがモジモジし始め、そして一言
「に、兄様、わ、私、このオルコット卿と結婚する事にしましたの」
遂に自らの口からオルコット卿との結婚を宣言したのである。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




