真夜中の決戦 〜自由ヘの道程〜
大変お待たせ致しました! 本日は第262話を投稿します!
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メペメリア帝国帝都エカーハル、そこの宿屋『赤煉瓦亭』に俺達が腰を落ち着けてから4日後の真夜中── 。
帝都にある大店カースタイン商会の裏口に闇夜に紛れて向かう10数人もの怪しい一団が。彼等の出で立ちは頭に黒い頭巾、口元には黒い布で覆面をし、衣服も黒い服で靴も黒と、上から下まで黒尽くめで怪しい事この上無い。もし警邏している官憲と出会したら、間違い無く捕縛されるだろうと言うレベルの怪しさである。
そんな一団が声も音も立てずに静かに、そして素早く星明かりだけの薄闇に包まれた帝都の往来を移動して行く。やがてカースタイン商会の裏口に達すると、その中の1人が徐ろに腰に下げていた歩兵剣を抜くと裏口の扉の隙間に差し込み、扉に掛けられていた鉄製の閂を鮮やかな手並みで切断する。皆んなが寝静まった静寂に甲高い金属音が響くが、それも一瞬の事、あっという間に全員が店内へ侵入を果たす黒尽くめの一団。無論ここまで誰1人として言葉を発してはいない。
『その辺は流石、向こうも専門家だからな。抜かりは無いか』
『変な所で感心しないで下さいね、マスター』
『分かっているよ。お前は引き続き『星を見る者』で奴等の動向を監視しておいてくれ』
『それは勿論、任せておいて下さい。それにしても──ここまでバルドさんの言った通りに事が運んでいますね』
『まぁな、バルドもその道のプロだからな。何方にしても接触まであと少しか……待つのは苦手なんだがなぁ……』
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カースタイン商会の店内を金庫室目掛けて、魔導照明の仄暗い灯りの中、静かにそして速やかに移動する黒の一団。
途中にある部屋には目もくれず、ひたすらに奥へと進んで行く。彼等の頭の中にはこの店舗の間取り図が叩き込まれているらしく、決して迷う事無く最短距離で金庫室へと歩を進めて行く。
バルドが言うにはボッケローニの連中は押し込みはしないらしい。奴等は綿密な下調べで金品の在処の情報を得てから、盗みに入るのだそうだ。今回もご多分に漏れず、飽くまで金庫にある大金が目的だ。
やがて黒の一団──ボッケローニ団はカースタイン商会店舗の最奥にある金庫室前まで辿り着いた。黒尽くめの1人が金庫室を顎で刳ると、その後ろから小柄な黒尽くめが前に出てきて、金庫室の錠前の鍵穴に細い金具を差し込んで何やら動かしていたのだが、数十秒後には錠前が解錠されていた。どうやらこの ” 小柄な黒尽くめ ” が件の ” マリオン ” なのだろう。
そうアタリをつけた俺は念話で天井に居るニュクスにマリオンの保護を指示する。同時にやはり念話でオルト達『デュミナス』とジゼルに突入の準備をさせる。因みに『デュミナス』の面々は一時的にコーゼストの念話の連絡網に組み込んであったりする。更に因みに言うとマーユとアンは『赤煉瓦亭』に置いてきていたりする。
そうこうしている間に金庫室の中に入って行くボッケローニ団の面々。それを確認すると
『良し、作戦開始だ!』
俺は短くそう指示を出すのだった。
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金庫室の暗がりに点される灯り。黒の一団の使う魔導提燈の灯りだ。そしてその灯りに照らし出されるのは幾つもの金袋の山。黒尽くめの1人がその金袋に手を掛けて紐を解き、中を覗くとそこには魔導提燈の灯りに照らされた黄金色の眩い輝きが。それを見た黒尽くめの目が厭らしく笑う──とその時
「そこまでだッ!」
金庫室の廊下に朗々たる声が突如として響き渡る! いつの間にかボッケローニ団の背後には、歩兵剣と盾を構えた蒼い重甲冑の美丈夫と、短剣を構えた黒尽くめの淡褐色の鋭い眼差しの男と、短杖を構えた翠玉の瞳の貴森精霊の女性と、柄の長い鎚矛を構えた白金色の髪の法衣を纏った女性の4人、そして半人半蜘蛛の見た事が無い魔物が立っていたのだ! 魔物の腕にはいつの間に捕らわれていたのか、 ” 小柄な黒尽くめ ” の姿があった。
4人の男女は御存知オルト達『デュミナス』の4人であり、魔物はこれまた御存知の女郎蜘蛛のニュクスである。何の前触れも無くいきなり姿を現した彼等を見て、明らかに動揺が走るボッケローニ団。それでもそれぞれにショートソードやダガーを腰の鞘から抜き放ち、抵抗の意思を見せる。
「無駄な抵抗は止めておけ。お前らはもう詰んでいるんだよ」
突然現れた『デュミナス』に気を取られているボッケローニ団の、そのまた背後からそう声を掛ける俺。驚いて振り返るボッケローニ団の目前に、金庫室の奥から俺とジゼルとコーゼストが悠然と姿を現したのであった。
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「──待ち伏せか?!」
金庫室の中に響く籠り声。黒尽くめのボッケローニ団の1人が発した声である。同じ黒尽くめでも他の奴等と少し身形が違うので、恐らくコイツが頭領なのだろう。
「その通りだ。全員大人しくしてもらおうか?」
一応は投降を勧告してみるが、奴等は有無を言わせず一斉に斬り掛かって来た!
『オルト! バルド! ベルナデット! ゼラフィーネ! ジゼルにコーゼストも! なるべく殺すなよッ?!』
斬り掛かって来た黒尽くめの1人の刃を躱して、愛刀の『天照』でその腕を斬り飛ばしながら、オルト達にそう念話で声を掛ける俺!
『応! 任せておけッ!』
『まぁッ! 腕の一本や二本で勘弁してやるがなッ!』
『わかってますよ!』
『任せて下さいッ!』
『それはッ! 相手に言って欲しいッス!』
『なかなか無茶な相談ですが、まぁ善処しましょう』
銘々に念話で返事を返すオルト達! 金庫室とその廊下は瞬く間に戦場と化す! 俺やオルト、バルドやジゼルの斬撃が黒尽くめ達の腕や脚を斬り飛ばし、ベルナデットやコーゼストの魔法が黒尽くめ達に炸裂し、ゼラフィーネの聖魔法が俺達を包み込む。一時的に乱戦模様だったが、見る間に手傷を負う者が増え、まともに動ける者が減って行く黒尽くめの一団!
『ニュクス!』
『くふっ、お任せ下さい主様』
黒尽くめの数が数人まで減った所でニュクスに指示を出す俺! 残った数人もニュクスの糸操術に絡め取られて、文字通り一網打尽になったのであった。
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「ふぅ……」
思ったより短時間で決着が着き、安堵の息と共に残心を解く俺。辺りにはまだ微かに血の匂いが漂っており、また微かに黒尽くめ達の呻き声が漏れ聞こえて来る。
「ウィル! やったな!」
俺が『天照』に付いた血をなめし革で拭っていると、そう声を掛けて来るオルト。
「ああ、オルト達の方は大丈夫だったか?」
「ははっ、俺は勿論、バルドやベルやゼラも全くの無傷だ! 第一こんなのは準備運動にもならんしな!」
「相変わらずだな、お前は……」
俺の言葉を呵々として笑い飛ばすオルト。本当に此奴は戦う事が好きな奴だな?! そんなオルトに呆れながら、俺は今度はジゼルの方に向き直ると彼女にも声を掛ける。
「ジゼルも大丈夫だったか?」
「はいっ! あたしも大丈夫ッス! ただ戦斧だと加減が難しかったので精神的に疲れたっすねぇ」
「確かに……ジゼルの武器じゃあ加減が難しいだろうな」
そんな会話を交わすと、次はコーゼストとニュクスにも労いの言葉を掛ける。
「コーゼストもニュクスもご苦労さん。お陰で上手く行ったよ」
「お役に立てて何よりです」
「くふっ、妾も主様の役に立てて良かったですわ♡」
俺の言葉に嬉しげに言葉を返すコーゼストとニュクス。そんな彼女らに笑みを返しつつ、ゼラフィーネが黒尽くめ達に「止血」を掛けて回るのを見ながら、ギヨーム皇帝陛下に官憲を派遣してもらうべく、遠方対話機を腰袋から取り出す俺。
何れにしてもこれで一区切り、かな?
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「お父さん、おかえりなさい!」
「ウィル、お疲れ様!」
「マーユ、アン。ただいま」
ギヨーム皇帝に官憲を派遣してもらい、捕らえた黒尽くめの一団の連中をキチンと手続きを踏んで官憲に引き渡した俺達。この際、俺の「栄誉伯」と言う地位が役に立ったのは言うまでもなく、手続きはサクサクと終える事が出来たのだ。
まぁそれでも手間が掛かったのには変わりは無く、全てを終えた頃には空が白み始めており、「赤煉瓦亭」に戻った頃には早起きして待っていたマーユとアンの出迎えを受ける形になっていた。正に熱烈歓迎であった。
ここで一連の流れを解説しようと思う。ギヨーム皇帝に謁見した翌日、俺達はカースタイン商会を「客」として堂々と来店し、カースタイン商会会頭と直接会って今回の襲撃計画の件を全て話して、協力を取り付けたのだ。勿論俺達の真の目的についてもキチンと説明し、理解と協力を求めた。
カースタイン商会会頭は俺達の話に驚き、憤りも見せたが、協力を快諾してくれ、ボッケローニが押し入る当日の夕方に店舗の裏口からこっそりと入店させてもらい、金庫室とその近くの部屋に分かれて待機していたのだ。その際、店内に残るカースタイン商会の関係者も含め、全員コーゼストに『迷彩』の魔法を掛けて貰い、姿を消していたのだ。
兎に角そうして、ボッケローニ団が押し入るまで全員息を潜めて待機していたのであり、あとは前述の通りボッケローニ団を一網打尽と相成ったのであった。
これこそがコーゼストの言った「妙案」の中身である。
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さて、これで話は終わらない。
そもそもはボッケローニに債務奴隷として拘束されていた階級Aの斥候の実力を持つ、マリオンと言うバルドの恩人の孫娘の身柄を確保する為に、わざわざメペメリア帝国くんだりまで来たんだ。今は一刻も早くマリオンを奴隷の身から解放しなくてはならない。
幸い今回の襲撃の後、ギヨーム皇帝がボッケローニ商会に官憲隊を即座に送り込み、奴等の悪事の証拠を全て押さえたとの事だから、程なくマリオンの債務奴隷契約も無効になる筈だと俺は踏んでいた。
因みにそのマリオンだが、ニュクスの糸操術で捕らえられた際、いきなり姿を現した順位Sの魔物に吃驚して、気を失っていたりする。今は顔見知りのバルドが居る『デュミナス』が身柄を預かっており、落ち着きを取り戻しつつあるらしい。まぁニュクスの事が心的外傷にならなけりゃ良いんだが…… 。
そして襲撃事件から3日後、皇城からギヨーム皇帝の使いの者が「赤煉瓦亭」にやって来た。曰く、ボッケローニの悪事の証拠は全て調べられ、マリオンがボッケローニに騙されて借金を抱えた事が判明、マリオンの債務は無しと判断されたのだ。またそれと同時に今回の襲撃の一件も不問とする旨も伝えられ、晴れてマリオンは自由の身となったのである。
しかも皇帝陛下直々の御下知であり、これは殊の外大きな意味を持つのだ。流石はギヨーム皇帝陛下、中々に良い仕事をする。
さてと、それじゃあ俺も本来の仕事をするとしよう。
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ギヨーム皇帝の使いが来た翌日、俺はアンやジゼルやマーユ、そしてコーゼストやニュクスと共に、「赤煉瓦亭」の隣室に居る『デュミナス』の所を訪れていた。事実上晴れて自由の身となったマリオンを、改めてうちの氏族に勧誘する為に、である。
「あの、こ、今回はあたしの事で色々と有難うございましたッ!」
俺達が部屋に入った早々、そう言って頭を下げる赤毛の肩までの短髪で、濃褐色の瞳の大きな目を持つ、割と端正な顔立ちの少し気弱そうな若い女性。どうやら彼女がマリオンらしいが、いきなり頭を下げられても此方が対応に困る。彼女の傍らに一緒にいるバルドも苦笑いを浮かべている。
「あーっと、マリオン。顔を上げてくれないか」
俺の言葉に顔を上げるマリオン。それを見て言葉を続ける俺。
「バルドから聞いていると思うが、俺の氏族では腕が立つ斥候を募集中でね。今回たまたまバルドから君の話を聞かされて……まぁ今回の出来事に至ると言う訳だ。それでどうだろう、バルドの推薦も有るし、君の腕を見込んでうちのクランに来てもらえないだろうか?」
「それはバルドのおっちゃんから聞きました。本当にあたしなんかで良いんですか? あたしは盗賊ですよ?」
「ああ、それは一向に構わない。優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいからな。どうかな? 来てくれないか?」
俺の言葉にマリオンが返して来た答えは…… 。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




