対戦、苦戦、そして── 。
大変お待たせ致しました! 本日は第255話を投稿します!
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「魔王の庭」第十二階層の守護者部屋に満ち満ちる濃密な殺意! 俺達の目前にはその殺意の主である女郎蜘蛛のミロスラーヴァが、立ちはだかるかの如く悠然と構えている。
改めて良く見ると、蜘蛛の身体である下半身だけでも4対8本の脚を含めて、横幅2メルトは優に有ろうか。蜘蛛の上顎部に載っているヒトの上半身を含めると体高も2メルトはありそうだ。
「皆んな! 火属性の攻撃はするなよ!」
そう全員に注意を喚起する俺。迂闊に火属性の攻撃を使うと、周りにある蜘蛛の糸に引火して、向こうに人質に取られているジゼルやフェデリカにまで損害を与えかねないからだ。
「くふふっ、賢明な判断ですね」
俺の言葉を聞き、そう言ってほくそ笑むミロスラーヴァ。嗤う口元から覗くのは鮫の様なギザギザした歯。それが一層ミロスラーヴァの凶悪性を物語っているかの様である。
『ミロスラーヴァは格82、順位はSランクと推定。技能は糸操術と罠設置、能力は眷属支配を保有。魔法は大地属性魔法を幾つか使用出来るようです』
コーゼストからミロスラーヴァの情報が念話で瞬時に伝達される! レベル82か、これは無事では済まなそうである。
『先手必勝だ! ファウスト! デューク! スクルド! ヤト! セレネ! アン! レオナ! ルネリート! 俺に合わせろ! ルアンジェとスサナはジゼルとフェデリカを助けろ! アリストフは全員に『大地加護』を掛けろ! コーゼストは魔法障壁と物理結界を多重展開! 俺は空裂斬で行く!』
コーゼストの言葉を受けて、俺は全員に念話で指示を飛ばすのだった。
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「母なる大地よ、我等に力を──『大地加護』!」
「魔法障壁及び物理結界、多重展開へ」
「──空裂斬ッ!」
「「ヴァォォォォーーン!」」
「ヴ、金属槍」
「──ッ!!」
「いっけーッ! 霹靂乃衝撃ォ!」
「暴風豪槍ッ!」
「貫け! 『Lightning Blaster』!」
「やぁぁぁぁーーッ! 正拳砲撃破ッ!」
「届いてッ! 風纏螺旋矢!」
アリストフの詠唱と同時にコーゼストが魔法障壁と物理結界を多重展開し、続けて俺が空裂斬を、俺に合わせてファウストの爪撃破が、デュークとスクルドの金属槍が、ヤトの霹靂乃衝撃が、セレネの暴風豪槍が、アンのLightning Blasterが、レオナの正拳砲撃破が、ルネリートの渾身の風纏螺旋矢が放たれる!
9つの攻撃が重なり合い、激しい破壊の奔流となってミロスラーヴァへと押し寄せる! だがミロスラーヴァは落ち着き払って一言
「くふっ、『強剛の城壁』」
そう短く魔法の名を口にする! ただそれだけでミロスラーヴァの目の前に、床から後ろへ傾斜した大きな岩の壁が出現し、俺達が放った数多の攻撃は悉く逸らされ弾かれる──何だと!?
確かに最大火力では無かったが、この同時攻撃はそれなりに強力な筈だ。それをいとも簡単に受け流すとは! 流石はレベル82、ランクSの魔物だけの事はある。アン達も自分達の攻撃が弾かれて唖然としている中、俺は油断無くミロスラーヴァを見据えるのだった。
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『──アレは避弾経始ですね。装甲を傾斜させる事により、攻撃の運動エネルギーを分散させ、逸らして弾くという概念です。装甲の厚さや重量は同一のままでも、装甲を傾斜させることで垂直の装甲より高い防御力を得ることが出来ます。魔法に関しては「詠唱破棄」を行使している模様です』
コーゼストからミロスラーヴァの『強剛の城壁』に関する情報が逐一念話で報告される。
名前は知らずともその避弾経始とやらは分かる。俺達冒険者が使う盾も剣や槍や弓矢に対して斜めに傾斜させると、より効果的に防御出来る事は知られているからな。
「くふふっ、今の攻撃はなかなかのモノでしたね。しかし届かなければ意味の無い事です」
役目を終えた岩壁が瞬く間に崩れると、その影から姿を現すミロスラーヴァ。その表情から余裕が感じられる。だが確かに攻撃は届かなかったが、ミロスラーヴァの気を逸らす事には成功したみたいで、ジゼルとフェデリカの所にルアンジェとスサナが到達したのが見えた。これから蜘蛛の糸で出来た繭を手持ちの獲物で裂くところだ。
「そうそう、1つ言い忘れていましたが──」
とその時、ミロスラーヴァが何とも厭らしい笑顔で何事かを口にする。
「──妾の生み出す糸は星銀並の強度を持ちます。唯一の弱点は火属性の攻撃ですが、ミスリル製の武器ぐらいでは切り裂くのは困難かと」
そう言ってほくそ笑むミロスラーヴァの背後で、スサナの大型短剣が硬い音を立てたのである。
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「なん……だと」
ミロスラーヴァの台詞に言葉を失う俺。
「くふっ、妾の視野は意外と広いのですよ? それに大切な贄を容易に奪われるほど間抜けでもありません」
そう言うとそれまでダラリと下げていた左腕の掌を軽く動かすミロスラーヴァ。
「えっ!?」
「キャッ?!」
次の瞬間、ジゼル達が閉じ込められている繭の周りの蜘蛛の糸が投網の様に引き絞られて、2人を助けようとしていたルアンジェとスサナを包み込む!
それこそあっという間にルアンジェとスサナの2人も、抵抗する間もなく蜘蛛の糸の檻に囚われてしまったのである!
「!?! ルアンジェ!? スサナ!?」
目の前で起きた出来事に思わず声を上げる俺! 一方のミロスラーヴァは
「くふふっ、作戦としては良かったですが、妾を見縊り過ぎなのではないかと思いますわ。まぁ妾にとっては贄が2人増えただけの事ですが」
そう言うとギザ歯を剥き出しにして嗤う。此奴はただ凶悪なだけでなく、頭も切れるのか!?
『アレがミロスラーヴァの糸操術と罠設置ですね。予め張り巡らせている糸に魔力を通して操っている様です。特に糸操術は魔法に近しいかと思われます』
『魔法に近しい……だと』
コーゼストからの念話を聞いてある事を思い付いた俺は、その思い付きをコーゼストに確認する。するとコーゼストからは「昰」との返事が。
『良し、皆んな! 攻撃続行だ! 奴の注意を惹き付けておいてくれ!』
俺は『天照』を手に、全員に念話で指示を飛ばすと駆け出した!
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迅風増強を発動させて、ジゼル達やルアンジェ達が囚われているミロスラーヴァの左後方へと駆けて行く俺! アン達には先程と同じ様にミロスラーヴァに対して遠距離攻撃を仕掛けてもらい、奴の注意を惹き付けておいてもらっている。但し先程ルアンジェ達に気付いていたのと同じく、とっくの昔に俺にも気が付いているだろうが…… 。
ミロスラーヴァも先程と同じく『強剛の城壁』を前方に展開してアン達の同時攻撃を受け止めており、時折攻撃の余波が跳んで来る事もあるが、迅風増強を発動している俺には掠りもしない。
そして俺は僅か数秒後にはジゼル達4人の元に到達した。先ずは網に囚われたルアンジェとスサナの救出からである。手にした神鉄製の愛刀『天照』を振るおうとした、正にその時!
「くふっ、そうはさせませんわ」
チラリと此方に視線を向けたミロスラーヴァから発せられた言葉! 次の瞬間、ミロスラーヴァから繋がる蜘蛛の糸に魔力が通されるのが視える──やはりコーゼストの言った通り、糸操術は魔法に近しいらしく、俺の「魔力視認能力」で充分に視認出来る!
そう思いつつも『天照』で魔力が通って来る糸を断ち切る! 魔力を断ち切られた糸は罠を発動させる事無く沈黙する──良し! 上手く行ったな! やはりコーゼストの読み通り、魔力を断たれればミロスラーヴァが仕掛けた罠は発動しなくなるみたいである。
俺は自慢の罠を破られ愕然とするミロスラーヴァに不敵な笑みを見せるのだった。
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「な、何故妾の罠を止める事が出来たのですか……?」
愕然としたミロスラーヴァから漏れるそんな言葉。どうやら余程自分の仕掛けた罠に自信があったらしいな。
「さぁな……唯の偶然かも知れないぞ?」
一方でそんな軽口を叩きながら、ルアンジェとスサナの囚われている網を『天照』で切り裂き、先ずは2人を救出する俺。
「大丈夫か、ルアンジェ? スサナ?」
「ん、大丈夫。少し油断していた」
「本当に助かりましたァ、ウィルさん」
口々に礼を述べるルアンジェとスサナ。そんな彼女達を一旦下がらせて、ジゼル達が閉じ込められている繭と改めて対峙する。
「くっ、くふふっ、偶然なら二度目はありませんわね!」
そう言うが早い、再度張り巡らされていた蜘蛛の糸に魔力を通して、別の罠を発動させようとするミロスラーヴァ! だが二度目もやはり俺の『天照』のひと振りで魔力を断たれ、罠が発動する事は無かった。
「ッ!? もしや貴方は魔力の流れが見えているんですの?!」
二度も偶然を起こされたミロスラーヴァは、俺の「魔力視認能力」に気付いたみたいである。
そんなミロスラーヴァに俺は答える代わりに、正対していた2つの繭に向かって『天照』を二振りすると、静かに鞘に納める。次の一瞬、繭に裂け目が生じて、中からジゼルとフェデリカの身体が吐き出される!
「仲間は返して貰ったぞ、ミロスラーヴァ」
俺は鞘に納めた『天照』に手を掛けながら、今度はミロスラーヴァに対峙するのだった。
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絶え間無く部屋の中に響き渡る破壊の音。ミロスラーヴァを護る『強剛の城壁』の岩壁を叩くアン達の攻撃の音だ。
「さてと、そろそろ終わりにしようか? ミロスラーヴァ?」
ジゼルとフェデリカにルアンジェとスサナが肩を貸して、皆んなが居る所へと連れて行くのを横目に見ながら、そうミロスラーヴァに話し掛ける俺。
「くっ!?」
それまで見せていた余裕を無くし、焦りの声を上げるミロスラーヴァ。それでも最後の抵抗とばかりに、自身に繋がっている全ての糸に魔力を流そうとするのが俺の目にハッキリと視える!
「甘いッ!」
そう言うが早い、鞘から『天照』を抜き放ち一閃! 周りにある全ての糸を瞬く間に断ち切る俺。続けてミロスラーヴァに斬り掛かろうとするが
「『強剛の城壁』ッ!」
俺と自身との間に岩壁を出現させて、『天照』の斬撃が逸らされる! だがそんなのはとうの昔に予測済みである!
「皇竜砕牙ッ!」
即座に『天照』で「突き」の体勢をとると、目の前の岩壁に垂直に皇竜砕牙を叩き込む! 次の瞬間、熱したナイフを牛酪に突き立てるかの様に、さしたる抵抗も無く神鉄製の刀身が強固な岩壁を容易く貫いて行き、遂には岩壁を打ち崩す! そして!
「ギャァァァァーーッ!!」
岩壁を貫き砕いた刀身はミロスラーヴァの蜘蛛の下半身にまで到達し、その胸部に当たる部分を深く穿っていたのである!
室内に初めてミロスラーヴァの喚声が響き渡るのだった。
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初めて受けた損傷に苦悶の表情を浮かべていたミロスラーヴァは
「ぐっ、お、おのれーーーッ!」
そう言うと俺の首に両手を回して締め上げて来た! ヤトの時もそうだったが、コーゼストの魔法障壁と物理結界は相手の体と接触すると自動で解除されるらしく、あっという間に呼吸困難に陥る俺! だが、しかし!
俺に意識を集中した瞬間に、それまでアン達の攻撃を受け逸らしていた『強剛の城壁』を維持出来なくなり脆くも崩れ去る! それはつまり!
「ぐわあぁぁぁぁーーッ!?」
背後からアン達の一斉攻撃をモロに受ける形となったのだ! 爪撃破が、金属槍が、雷撃槍が、Lightning Blasterが、正拳砲撃破が、風纏螺旋矢が次々とミロスラーヴァの背中に命中して行く!
その攻撃自体はミロスラーヴァの致命傷には至らないが、隙を生み出すのには充分である! 首を絞める力が緩んだ瞬間に、全力でその手を振り払い脱出に成功する俺! 彼我距離1メルトも無い位置から右腰に下げていた『神威』を左手で抜き放つと、右手に持つ『天照』と共に再度「突き」の体勢に!
「喰らえッ!」
『神威』と『天照』をミロスラーヴァの豊満な双丘目掛けて突き立てる! ズブリと言う感触と共に肉を切り骨を断ち、神鉄の刀身がミロスラーヴァの身体に沈んで行き、一瞬で背中に突き抜ける!
「アガ……アガガガガァァ……」
その黒き眼から光が喪われて行くのが分かる! その次の瞬間!
「──Confirmation of submission(服従化確認)」
コーゼストの抑揚の無い声が部屋の中に木霊した。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




