確固たる信念 〜そして前人未到へ〜
大変お待たせ致しました! 本日は第251話を投稿します!
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「どうしたハルト? 何かあったのか?」
『ジゼルとフェデリカが強制降下の罠で下の階層に落ちましたッ!』
やや間延びした声でどうしたかと尋ねる俺の耳に聴こえて来たのは、エアハルトの緊迫感のある言葉。その言葉に瞬時に弛緩から緊張へと切り替わる俺。近くに居たアン達も何事かと此方の方に視線を向け、聞き耳を立てている。
「何っ!? 慌てず詳しく話してくれ!」
『は、はい! 実は──』
そうして改めて聴き直したエアハルトの話を要約すると──彼等分隊『戦乙女』は、地図が充実している第九階層から未踏破区域が多い第十階層へと降りたらしい。
だが未踏破区域が多いと言う事は、当然の事ながら魔物達の強さもそれなりに強いと言う事であり、エアハルト達『戦乙女』も苦戦を強いられた。なので一度第九階層に戻る事を決め、来た道を戻る途中に足元にあった強制降下の罠をうっかり踏んでしまい、ジゼルとフェデリカの2人が落ちたとの事だった。これは一大事である。
『お、俺は一体どうすれば……』
遠方対話機の向こうから不安気なエアハルトの声が聴こえて来る。俺はひとつ深呼吸をすると
「ハルト、他のメンバーは無事なんだな?」
先ず他のメンバーの安否を確認する。
『は、はい、俺とクロエとミアは今のところ無事です』
「『魔物避け』の魔道具は手元にあるか?」
『はい、俺の背嚢に入っています』
「良し、そうしたらその場から動かず救援を待て。良いか、俺が必ず全員助ける」
俺はそう言ってエアハルトを元気づけるのであった。
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エアハルトとの通信を終えた俺は、アン達氏族のメンバーやコーゼストを伴い、急ぎラーナルー市冒険者ギルドへと出向いた。ギルマスに報告する為に、である。
「あら、どうしたのウィル? 何かあったの?」
受付帳場で受付をしていたルピィが俺の姿に気が付くと、怪訝そうにそう声を掛けて来た。
「ああ、ルピィ。実はな──」
それに対して声を潜めて端的に用件のみを話す俺。俺の話を聴いて「えっ!?」と思わず叫びそうになり、慌てて自分の口を手で押さえるルピィ。その顔色は少し青ざめている様に見える。そんなルピィに俺は
「──なので大至急ギルマスに会いたいんだ。急いで取り次いでくれるか?」
と小声で言葉を続ける。
「わ、わかったわ」
それだけ言うと急いで2階へと駆けて行くルピィ。程なくしてルピィが2階から階下の俺達に向かって手招きをして来た。それに頷いて答えると急いで2階へと上がる俺達。
上がった先にある執務室の扉をノックすると「入って来い」とのギルマスの声。その声に従ってドアを開けて中に入る俺達。中ではギルマスが難しい顔をして俺達を出迎えた。
「ルピィからは簡単な説明はあったが……それは本当なのかウィル?!」
「こんな事、冗談でも言える訳が無い。間違いなく本当だ」
俺の発言にやおら執務机から立ち上がると符号表を手に、隣に置かれている水晶地図板追跡盤に向かうギルマス。そして操作する事数度
「……間違いない。第十二階層から2人の反応がある」
力無くそう言うのだった。
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「第十二階層……だと?」
ギルマスの台詞に言葉を失う俺。一緒に来ていたアン達も同様だ。
「魔王の庭」に於いて第十二階層と言うのは文字通り前人未到の階層であり、絶望的な状況と言えるのだ。ギルマスやアン達の反応もそうした事からである。だが──
「──わかった。それじゃあ直ちに2人の救助に向かう事にする」
そうはっきりと言葉にする俺。それを聞いたギルマスは血相を変えて俺を止めにかかる。
「お、おいウィル!? 今の話を聞いていただろ?! 2人が居るのは誰も未だ到達してない第十二階層だぞ?! そんな所に行くなんざ自殺行為だ!」
「危険なのは百も承知だ。だが俺は全員を必ず助けるとハルト達に約束したんだ。俺が行く理由はそれだけで充分だ」
はっきりとそう言い切る俺。俺の言葉に銅色の短髪をガシガシと掻き毟ると盛大な溜め息を吐くギルマス。
「はァァ……全くお前と言う奴は…… 。どうやら止めても無駄みたいだな」
「悪いなギルマス。俺にはこんな道しか選べないんだ」
心配してくれているギルマスに俺はそう言うと軽く頭を下げる。それに対して曖昧な笑みを浮かべていたギルマスだが
「お前の決意の程はわかった。だが俺から一言だけ言わせてもらう」
そう言うと一転真顔になって
「必ず無事に生きて帰って来い! これはギルド統括者としての厳命だ! 良いな?!」
そう声にして送り出してくれるギルマス。俺はそんなギルマスに「わかった」とだけ短く答えるのだった。
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そうして冒険者ギルドを辞した後、その足で市場まで行き、アン達と手分けして食糧品の不足分を急ぎ購入した。
因みに今回「魔王の庭」に同行するメンバーは俺の他にアン、レオナ、ルアンジェ、スサナ、ルネリート、アリストフ、そしてコーゼストの7人と、ファウスト達5体の従魔であり、「魔王の庭」に持ち込む物資の量もそれなりである。まぁ尤も、その大半はコーゼストの無限収納に直行なので、俺達自身は非常に身軽でいられるのは助かるが。
更に因みに、エリナやオルガやリーゼには途中で遠方対話機を使い、何が起きたのか事情を説明しておいた。エリナは一緒に行きたがっていたが、ハーヴィー騎士団とマーユの事を頼んでおいた。オルガやリーゼも同様に、である。オルガやリーゼにもギルマス同様、一度は反対されたが、最終的には向こうが折れる形となった。彼女ら曰く「ウィルはそう言う所は融通が効かない」そうだ。
あとルピィにはルストラ師匠が屋敷に戻って来たら、今回の事情を説明しておいてくれる様に頼んできたのは言うまでもない。
兎に角そうして急ぎ「魔王の庭」に潜る準備を整えた俺達は、ラーナルー市の中心に位置する「魔王の庭」へと文字通り急行し、領兵のおっちゃんに入宮手続きを済ませて、管理機構が有る大広間へとやって来た。
エントランス中央には水晶が嵌め込まれた台座があり、俺達はいつもの手続きを経て、現在俺達が潜れる最下層の第八階層へと転移したのである。
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目を射る様な眩しさが薄れると転移が明ける。俺達は第八階層の避難所へと到着したのだ。ここからはコーゼスト先生の出番である。
「良しコーゼスト、頼んだぞ」
「はい、お任せ下さい──使用可能の感覚端末を全起動。人感センサー、生命感知センサー、魔力波センサー積極化。熱感知センサー覚醒。『星を見る者』情報処理」
コーゼストがそう唱えると、同時に彼女の頭上に浮かび上がるのは複雑な文様の魔法陣!
そうなのだ、コーゼストの探知能力をフルに使い、この第八階層から第十階層に居るエアハルト達の正確な位置を割り出そうとしているのだ。位置を割り出したなら当然転移魔導機で一気に助けに行くつもりだ。本来なら各階層をちゃんと時間を掛けて攻略して行きたい所だが、今回は緊急事態なのでソレは無しである。
それにしても改めて思うが──コーゼストの能力はあまりにもデタラメ過ぎる。いつか前に『私が自己の能力を最大値で使用した場合、 「魔王の庭」に存在する全ての魔物を支配下に置く事も可能です』とコーゼスト自身が言っていた事も満更嘘でも無さそうである。
俺がそんな事を思っていると、探知に集中していたコーゼストの目がゆっくり開かれ
「──全階層探知完了。エアハルトさん達とジゼルさん達の位置をそれぞれ特定出来ました」
ハルト達の位置を割り出したと、そう事も無げに口にするのだった。
その辺は流石『既知世界最高の魔道具』と豪語するだけの事はある。
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再度の転移の光が薄れ、視界が急激に開けると目前には俺に言われた通りに通路の片隅で待機しているエアハルト達の姿が。コーゼストの転移魔導機による転移が無事に終了したのである。
「「「ウィルさん!」」」
「ハルト、クロエ、ミア、ちょっと待て!──スサナ、頼む」
「はいっ!」
転移して来た俺達に驚きつつも駆け寄ろうとするエアハルト達を手で制して、斥候のスサナに周辺に他に罠が無いか調べさせる。
「大丈夫ですぅ、トラップはありませんよォ」
辺りを丹念に調べていたスサナから、そう報告が入り、漸く俺達はエアハルト達3人と合流を果たしたのであった。
「良し──3人とも無事──」
「ウィルさん! すいません! 俺の不注意ですッ!」
俺の言葉に被せる様に大声を発して頭を深々と下げるエアハルト。余程今回の事を気にしていたらしい。
「顔を上げろ、ハルト」
エアハルトに静かにそう声を掛ける俺。俺の声に顔を上げる彼の顔には焦燥感がありありと浮かんでいた。
「今回は君の責任じゃない。責めを負うとすればそれは俺だ。君らに注意喚起しなかった俺の責任だ。だから君達が気に病む事は無いぞ」
そんなエアハルトに一言一言言い聞かせるかの様に言葉を選んで話す俺。それを黙って聞いているエアハルト達。
「兎に角だ、3人だけでも無事だったんだ! あとは俺達に任せて君達は地上へ戻って休め! わかったな?!」
ハッキリと3人にそう言い切る俺。
そうでも言わないと、3人共ジゼルとフェデリカの救助まで付いてきかねない!
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兎にも角にも救助したエアハルト達3人を、コーゼストに転移魔導機で第八階層の避難所へと一旦送り届けてもらった。少しして俺達の目前の床に浮かび上がる転移魔導機の魔法陣! コーゼストが3人を送って帰って来たのだ。
「ご苦労様、コーゼスト。ハルト達はちゃんと帰って行ったか?」
戻って来たコーゼストの労を労う俺。
「はい、マスター。丁度避難所にはルストラさんが来ていらしたので、エアハルトさん達の事を御願いしてきました」
「師匠が?」
コーゼストの言葉にちょっと驚く俺。
「ええ、何でもルピィから今回の事を聴いたそうで。それで何かご自分に手伝える事が無いか、と取り急ぎ駆け付けたそうです」
「師匠は何か言っていたか?」
「はい。ルストラさんはエアハルトさん達の無事を喜んでいられましたね。あとマスターには「頑張って、でも気を付けてね」と伝えて欲しいと仰られていました」
俺の問い掛けにそう言葉を結ぶコーゼスト。これはいよいよもって気を引き締めて事に当たらないとな。師匠の言葉にそんな思いを巡らせつつ
「良し、皆んな、第十二階層のジゼルとフェデリカの所に急ぐぞ。コーゼスト、転移魔導機で2人の居る位置に転移だ」
コーゼストにそう指示を出す俺。しかしコーゼストから意外な言葉が返ってきた。
「──すいませんマスター。ジゼルさんとフェデリカさん2人の反応を消失しました」
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「反応を消失しただって?!」
驚いて大声を上げる俺。傍に居るアン達も俺の声に吃驚している。そんな俺達とは対照的に淡々と自分の仕事を熟すコーゼスト。彼女の頭上に再度魔法陣が浮かび上がる。
「はい──現在再度使用可能の感覚端末を全起動。並びに『星を見る者』情報処理──発見しました。どうやら何者かが2人を連れて高速で移動している様です。対象を未知の対象と認定──!──『星を見る者』に不調──反応、再度消失しました。恐らく結界による探知妨害かと思われます」
そう再度の探知の結果を報告して来るコーゼスト。その言葉の端々には彼女の若干の悔しさを感じられるのは俺だけか?
「どうするの、ウィル? これはかなり危険を伴う事も覚悟しておかないといけないみたいよ?」
コーゼストの言葉を受けてアンが、他のメンバーを代表して俺にそう尋ねて来る。俺はそれにひとつ大きく頷くと
「うん、アン達の懸念ももっともだ。だが俺の中にはジゼル達2人を見捨てると言う選択肢は最初から無いんだよ」
決意のほどを改めて口にする。
「はぁ、そう言うだろうと思った……分かったわ、私達も貴方に付いて行く。皆んなで行けば生還の確率も確実に上がるでしょうし」
俺の言葉に苦笑いを浮かべながらそう答えるアン。他のメンバーも一様に頷いている。そんな皆んなに「有難う」と頭を下げる俺。そして
「良し、コーゼスト! ファウスト達5体も顕現させるぞ! 出し惜しみは無しだ!」
コーゼストにそう指示を出すのであった。
ここから先はいよいよ前人未到の領域である。
ここまでお読みいただき有難うございました!
次回は2週間後になります!
それではお楽しみに!!




