婚約報告(其ノ陸) 〜最後は海の女と荒くれ達〜
本日は第221話を投稿します!
-221-
オーリーフ島にある魚人族の宮殿に1晩泊まった俺達。昨夜は歓迎の晩餐会が催されたのは言うまでもない。まぁ既に前回、メロウ族の公家や貴人──いわゆる有力貴族達への婚約の報告は済ませてあるので、今回は身内だけの本当にささやかな晩餐会となった。お陰で肩が凝らずに済んだので正直助かった。
そして明けて翌日、オーリーフ本島からジータの船『ヴィテックス』号で、伍の群島に渡る事になった俺達。穏やかな海を伍の群島を目指して突き進む『ヴィテックス』号。その船上にて──
「風も良いし、これだけ波が穏やかなら伍の群島まで30分ぐらいだね」
『ヴィテックス』号の甲板に立つ俺の傍に来てそう教えてくれるジータ。
「ん、そうか……」
それに対して短く答える俺。そんな俺の顔を覗き込みながら
「何だいなんだい、随分と素っ気ないじゃないか……はっ?! も、もしかしてあたしとの婚約を今になって後悔してるとか?!」
いきなり変な事を口走るジータ。何故にそうなる?
「そんな事は断じて無いよ。ただなぁ……」
ジータの邪推を否定するが、不安が拭えない俺。
「ただ? 何だい?」
「挨拶する相手があのザイラだからなぁ……」
まだ訝しんでいるジータに不安の元を話して聞かせる俺。なんと言ってもザイラはジータを「姉様」と呼んでいるくらい、少し、いや、かなり危ない趣味嗜好の持ち主である。それはもう色んな意味で。
「ははっ、何だそんな事かい! そんなら大丈夫さ!」
俺の危惧を聞いて呵々と笑い飛ばすジータ。
そうは言うが、波風立たないだろうなァ?
~~~~~~~~~~
「へ、へ、辺境伯閣下に、お、お、おかれまひてはご無沙汰しておりにゃ──ッ?!」
伍の群島に着いて早々、港で久しぶりに顔を合わせたザイラが俺の顔を見るなり、いきなり深々と頭を下げて挨拶しようとしたら思いっきり台詞を噛んだ。特に最後は完全に舌を噛んだな。まぁ俺も普段使い慣れていない台詞を言おうとして何度も舌を噛みそうになったから良くわかる。
「……うぅぅ」
口を押さえながら涙目のザイラが顔を紅くして俺に目で訴えて来る。
「はァ……ザイラ、普通に話しても良いんだぞ?」
そのあまりにも忍びない姿にそう声を掛ける俺。するとザイラは
「……怒らないかい?」
と小声で確認して来る。なので俺は
「怒るも何も、俺だってあまり畏まられても尻がむず痒くて落ち着かないから、普段通りに接してくれても一向に構わないぞ?」
と、ありのままの気持ちをぶち上げる。
「はァァァァ…………アンタがそう言うならそうさせてもらうとするよ。やっぱり普段使い慣れていない台詞を使うもんじゃないね……」
俺の言葉に盛大な溜め息と共にそうボヤくザイラ。その気持ちは痛いほど良くわかる、実際に舌を噛んだから痛かっただろうけど。そんなザイラを見て、ジータが何とも言えない顔をしている。
「さてと、改めてようこそ伍の群島へ! あたし達はアンタらを歓迎するよ!」
気を取り直して、いやこの場合は最初の出来事が無かったかの様に、俺達を笑顔で出迎えるザイラ。
危ない趣味嗜好の持ち主かと思ったが、意外と此方が本来の姿だったりしてな。
~~~~~~~~~~
着いたばかりの港で立ち話も何だと言う事で、場所を港近くにある建物に移して、話の続きをする事になった。
聞けばこの建物はザイラを始めとする元海賊達の詰所だそうな。ここに交代で寝泊まりして24時間、オーリーフ本島からの出動要請を受けるのだそうだ。まぁ其れはどうでも宜しい。
兎に角その詰所の中にある応接間で本来の目的を果たすべく、ザイラと向き合う俺。卓を挟んで向かいの椅子にザイラが腰を下ろすのを確認して
「早速だがザイラ、俺がジータと婚約した事は既に知っていると思うが……」
此方の方から早速要件を切り出す。
「それはもう知っているよ。ジータ姉様があたしに本当に嬉しそうに婚約指輪を見せてくれたからね」
俺の言葉にどことなく悔しそうに答えるザイラ。
「うん、今日はその事の挨拶と結婚する事の報告を兼ねてここを訪れたんだ──ザイラ、俺はジータと結婚する。だから──」
出来るだけ言葉を選びながら声を掛ける俺。悔しそうにしていたザイラだが、俺の「祝福して欲しい」と言う台詞に被せる様に
「ウィルフレド!」
一言そう叫ぶなりいきなりガバッとテーブルに手を付いて深々と頭を下げて
「ジータ姉様はあたしにとっては大切なヒトなんだ! その姉様が選んだ男であるあんたを見込んで頼むよ! どうか姉様の事を幸せにしておくれ!」
そう懸命に懇願してくる。そこには俺に対する恨みも打算も無い、ただ純粋な「願い」があった。
~~~~~~~~~~
「おいおい、頭を上げてくれッ!」
俺は慌てて頭を下げるザイラに声を掛ける。だがザイラはテーブルに額を擦り付けるぐらい頭を下げたまま、ひたすら「お願いするよ! お願いするよ!」と譫言の様に懇願の台詞を繰り返す。これはアレだな、彼女ザイラの願いをちゃんと聞いてやらないと、延々と繰り返すタイプのヤツだわ。瞬時にそう判断した俺は
「陳腐な台詞だがジータはきっと幸せにして見せる。それは必ず約束するよ。だから、な? どうか頭を上げてくれッ」
と少々、いや、かなりキザな台詞を敢えて口にする。全く俺の柄じゃないのにな。だが俺の臭いセリフを聞いたザイラは、漸く頭を上げると
「本当に約束だよッ?! 絶っ対! ジータ姉様を幸せにしておくれよッ!」
真っ直ぐな視線を俺に向けながら「絶対」と言う所に特に力を込めて、今一度熱願してくるザイラ。それに大きく頷いて決意を示す俺。
ふと横に目をやると、隣に座っていたジータの顔が真っ赤である。そらまぁ、間近でこんな話をされたら、話の当事者としては恥ずかしいの一言に尽きるだろう。俺がジータの耳朶まで紅くなった顔を珍しげに見ていると
「聞きましたか姉様! これで姉様の幸せは間違い無いです! あたしがこの手で姉様を幸せにしてあげられないのは残念だけど──おめでとうございます!」
先程とは打って変わって笑顔全開でジータにそう宣うザイラと、顔を引き攣らせながらただ頷くジータ。
何となくザイラの危ない一面を垣間見た気がしたのは俺だけか?!
~~~~~~~~~~
「ジータ姉様の婚約、そして結婚を祝して! 野郎共、杯を上げな!」
「「「「「応ッ!」」」」」
ザイラの掛け声に応えるのはジータとザイラの元海賊団の荒くれ達。伍の群島でザイラに会うと言う当初の目的は達した俺達だが、結局その後そのまま歓迎パーティーを兼ねた祝賀パーティーへと流れ込んだ。パーティーの主役は勿論ジータと俺達であり、彼女の部下である荒くれ達の輪の中心に居て、彼等からの祝福を受けていたりする。
ザイラの音頭で乾杯のあとは、主だった者達がジータや俺の所に来て、木杯に酒を注いで行きながら口々に祝いの言葉を投げ掛けて行った。それはアン達も同様であり、その中には当然の事ながらマディもマーユ共々祝福の輪の中に居て、如何にも嬉しそうである。
「さぁ、美味しい料理をじゃんじゃん持ってらっしゃいな!」
「もうヤトったら……あ、お兄さん、私はお酒を頂くわ」
そして当然の事ながら、ヤトとセレネの2体もちゃんとパーティーに参加しており、ヤトは料理を、セレネは酒をそれぞれ満喫していた。最初は遠巻きにされていた2体だが、今や完全に荒くれ達の中に溶け込んでおり、彼等から「ヤト姐さん」「セレネ姐さん」なんて呼ばれたりしている。それにしてもキミらも本当に周りに馴染むのが早いな?!
俺はジータの横で、他の荒くれ達と普通に接しているアン達やヤト達の様子を見ながら、そう突っ込まざるを得なかった。
~~~~~~~~~~
そんなお祭り騒ぎも終え、オーリーフ島での子夜にアン達にマディやジータを揃えた7人の婚約者達と共に、転移魔導機で本拠地であるラーナルー市の屋敷へと帰還した俺。
当然の事ながらラーナルー市は時差の関係で朝の7時であり、そして当然の事ながら時差の関係で、俺達全員各自の部屋で昼まで朝寝する事になった。そうでもしないと日中に眠くなる事必至だったからだ。
兎に角部屋の窓のカーテンを閉め切り、暗くしてからベッドに潜り込んで寝た訳だが、4時間程して目覚めると──
「……すぅすぅ」
「……くうくう」
「……ヲイ」
──いつの間に潜り込んだのか、マディとジータの2人が俺の両腕を枕替わりに、一緒に寝ていたのである。道理で腕が痛い訳だ。しかしこの間のオルガの時もそうだったが、キミらは本当に自由だな?! 因みに俺の両膝はと言うと短身サイズのヤトやセレネ、ファウストやデュークに仲良く占拠されていたりする。
色々と困惑する中、目を覚ました俺が思わず身動ぎすると「う、うーん」と言う声と共にマディ、ジータが目を覚まし
「「あっ、ウィル。お早う♡」」
と悪びれた様子も無く、艶やかな笑みを顔に浮かべながら起床の挨拶を口にする。
「……キミら、いつの間に?」
俺の問い掛けに「えっとォ、ウィルが寝付いて直ぐぐらいかしら?」と全く悪びれた様子も無くそう答えてくる2人。繰り返すが本当にキミらは自由だな?!
俺はヤトやセレネがマディ達に続けて目を覚ますのを見ながら、どでかい溜め息を盛大に吐くのだった。
~~~~~~~~~~~~
寝起きの騒動にげんなりしながらアン達婚約者が待つ食堂へと向かう俺。俺の両脇にはそれぞれマディとジータがおり、それぞれ俺の右腕と左腕を占拠していたりする。そして後ろにはヤトとセレネが、更にその後ろにはコーゼストが付き従っていたりする。
そのコーゼストだが俺やマディ達が全員目を覚ますと「昨夜もお楽しみでしたね」と含みのある笑みを浮かべながらそう言ってきたのだが、断然無視したのは言うまでも無い。と言うかお前は前回のオルガの時もそうだったが、誰か俺の部屋に潜り込んだら教えろって。だが俺がそう言うと
「そんな事、わざわざ言うつもりはありませんよ? だってその方が面白いじゃないですか。無論マスターに危害を及ぼそうと言う輩の場合はちゃんと報告しますけどね」
これまた満面の笑みでそんな事を宣ったりするコーゼスト先生。お前は絶対この状況を楽しんでいるだろ!?
コーゼストの言葉に更にげんなりしながら食堂の扉を開ける俺。既にアンを初めとした婚約者達は席に着いており、雑談に花を咲かせていた様だが、俺がマディ達と入ってくると室内に居た婚約者全員の視線が此方に集まる。何か嫌味の一言でも言われるかと思ったら
「ウィル、マディ、ジータ、お早う♡どうだったかしらマディ、ジータ? ウィルに添い寝してみて♡」
アンが代表してそう言葉を発する。他の婚約者達も俺とマディ達を見てニヨニヨしている。
2人を焚き付けたのはキミらだったんかい! 要らぬ心配をしたわ!
~~~~~~~~~~
兎にも角にも皆んな揃った所で朝食と昼食を兼ねた食事を摂る。因みにメニューは料理長特製血吸牛の炙り焼きに銀鱒の燻製、特製スープとサラダ、それとパンである。更に因みにヤトとセレネはブラッドブルの鉄板焼きだったりする。
そんな食事を摂り終えて、食後の香茶を飲みながら
「あーっと、今日この後の予定なんだが……」
今日の予定を口にする俺。とりあえずこの後は王都ノルベールにあるオルガの屋敷に転移魔導機で向かい、そこで1泊して翌日に王都にある大聖堂に出向いて、大司教と結婚式の段取りや日取り等を話して来る予定でいる事を話して聞かせる。
俺の話を黙って聞いていたが、話を聞き終えると一転、キャイキャイと途端に姦しくなるアン達。聞くとはなしに聞いていると、どうやら結婚式当日に着る婚礼衣装について、お互い意見を交わし合っているみたいである。
そらまあ一生に一度の一大イベントだから盛り上がるのはわかるのだが……結婚式の日取りが決まってもない時から盛り上がるのは是非とも止めて欲しい。「卵から孵る前から、鶵の頭数に数えるな」と昔から言われているのを知らないのか?
俺はどんどん話が盛り上がるアン達の様子を見ながら、失礼とは知りつつも、ついそんな事を考えるのだった。
いつもお読みいただき有難うございます!




