東方の情報とお抱えと
本日は第212話を投稿します!
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リータグ市にあるクザーツ商会の店舗を訪れた俺達。ただいま会頭のホルスト氏から絶賛歓待を受けている最中である。
そのホルスト会頭だが、東方大陸の情報が欲しいらしいのだ。何でもクザーツ商会は向こうへの進出を計画しており、ドゥンダウ大陸の情報は喉から手が出るほど欲しいらしい。んでもって
「是非ともウィルさん──ハーヴィー閣下やセルギウス閣下から向こうの情勢等を教えて頂きたく思う次第です。もちろん御礼はさせて頂きます」
現在絶賛ホルスト会頭から深々と頭を下げられていたりする。さて、どうするか? 話す事自体は一向に構わないんだが…… 。
「まぁまぁ、どうか頭を上げてくれたまえホルスト会頭。君が何を知りたいかによりけりだけど、可能な限り協力させてもらうから、ね? ウィルもそれで良いだろう?」
俺がどう答えるべきか逡巡していると、そう取り持ってくれるのは隣りに座るオルガ。その辺は流石に上位貴族の先達である。
「まぁオルガが言う通り、俺らで答えられる範囲でなら構わないが……」
「おおっ、有難うございます! ハーヴィー閣下! セルギウス閣下!」
オルガの言葉に俺も歩調を合わせて答えると、とても嬉しそうに握手をして来るホルスト会頭。その様子に思わず苦笑いを浮かべる俺。
「それで? ホルストさんとしては具体的にどんな話を聞きたいんだ?」
「そうですな、先ずは──」
気を取り直してどんな事を聞きたいのか尋ねる俺の質問に、ホルスト会頭は居住まいを正して話し始めるのだった。
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ホルスト会頭が俺達に聞きたい話は端的に言うと3つ、ドゥンダウ大陸の景気の良し悪しと各国の情勢、それと戦の有無についてだった。そのどれもが直に向こうの住人や文化に触れてきた俺達に尋ねるのは確かに適切ではある。しかし景気と情勢と戦か…… 。
「ホルストさん、ひとつ良いか?」
「はい、何でしょうか?」
「景気の良し悪しと各国の情勢はわかるんだが、何で戦なんだ?」
俺は疑問に思った事を率直にホルスト会頭に尋ねてみた。するとホルスト会頭からは
「ああ、それはですね、各国の情勢にも関係するのですが……大陸の何処かで戦があるか無いか、それだけでも売れる物売れない物が違って来ますからね。我々商人と言う者はそうした戦には特に敏感になるのですよ」
との答えが返ってきた。それを聞いていたオルガもひとつ大きく頷くと
「うん、そうだねぇ。うちのお抱えの商人も同じ事を言っていたよ。ホルスト会頭の前でなんだけど、商人と言うのは利益があるなら多少の危険などお構い無しらしいからね」
若干の苦笑い混じりにそう宣う。それを聞いて何とも言えない顔に笑みを浮かべるホルスト会頭。だがまぁ言いたい事はわかった。『利に聡い商人は悉く成功する』と俺が棄てた「父親」も言ってたしな。
「そう言う事なら……」
俺はとりあえず納得すると、向こうで実際に肌で感じた「ありのままの現実」をひとつひとつ思い出しながら、ホルスト会頭にオルガ共々語って聞かせるのだった。足りない部分はアン達やコーゼストに補足してもらいながらではあるが。
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それから小一時間、俺とオルガはホルスト会頭にドゥンダウ大陸の景気と情勢と戦について話して聞かせた。此方がひと通り語るべき話をし終えると
「ハーヴィー閣下、セルギウス閣下、皆さん、貴重なお話を色々と有難うございました。これでドゥンダウ大陸へ出店する夢にまたひとつ近付けました」
そう言いながら再び深々と頭を下げて感謝を示すホルスト会頭。顔が喜色に満ち、如何にも嬉しそうだ。
「此方としても役に立てた様なら何よりだよ」
それに釣られて笑顔で言葉を返す俺。まぁ何にせよ喜んでもらえたなら良かった。
「このホルスト・クザーツ、先の盗賊の一件でもそうでしたが、両閣下並びに皆さんには返し切れない程の多大な恩を受けました。如何にしてもこの大恩に報いねばなりません、私めに出来る事があれば何なりとお申し付け下さい」
笑顔から一転、偉く真剣味のある顔付きでそう言うホルスト会頭。そういや盗賊から助けた時もそんな事を言っていたな。律儀と言うか何と言うか、ホルスト会頭の実直さが如実に現れているな──等と俺が一頻り感心していると
「そうだウィル。この際だからホルスト会頭のクザーツ商会に君のお抱えの商人の1人になってもらうのはどうだい?」
そこではたと膝を打って自身の考えを口にするオルガ。そうか、その手があったか。そうすれば今後便宜を図ってもらうのにも都合が良いが…… 。
俺はそれもありかと、オルガの言葉を良く良く考えるのだった。
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「私もハーヴィー閣下のお抱えとなれれば、これに優る喜びは御座いません」
オルガと俺との会話を聞いて三度深々と頭を下げるホルスト会頭。本人もこう言っているんだからお抱えにしても特に問題は無いな、うん!
「それじゃあひとつ頼む事にしようと思うんだが……オルガ、こうした約定事にはやはり一筆認めた方が良いのかな?」
「うん、そうだね。単なる口約束より其方の方が形に残る分、後で揉める事にならずに済むし、何より国王陛下に御報告しなくてはいけないからね」
俺の問いにこれまた丁寧に答えてくれるオルガ。と言うかこんな事まで陛下に報告しなくてはいけないのか。本当に貴族って言うのは面倒くさいな…… 。思わずそんな事を思ったりもしたがおくびにも出さず
「わかった。それなら約定書を俺とホルストさんの分と、国王陛下に提出する分の3通を書く事にしよう」
そうとだけ答えておくに留める俺。そうしてオルガから約定書の書式を教えて貰いながら、俺は俺とホルスト会頭の間で取り交わす分の約定書を2通と、国王陛下に提出する分の約定書を1通書き上げた。その為の羊皮紙はホルスト会頭に用意してもらったのは言うまでも無い。
書き上げた約定書は俺とホルスト会頭、そしてオルガの3人で書面を確認し合うとそれぞれに3人の名前を署名する。今回オルガは立会人と言う立場である。そうして俺とホルスト会頭の分の2通はオルガが封蝋を施すと指輪印章で封をしたのである。
あとで俺もシグリットリングのひとつでも作っておくか。まぁその前に自分の家の紋章を決めなくてはならないが。
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兎にも角にもこれでホルスト会頭のクザーツ商会は晴れて俺のお抱えの商人となった。陛下に提出する分の約定書はラーナルー市に戻ってから提出すれば良いだろう。
「改めてこれから宜しく頼む、ホルストさん」
「此方こそ末永く宜しくお願い致します、ハーヴィー閣下」
お互いにそう言いながら笑顔で握手を交わす俺とホルスト会頭。
「よかったねお父さん! ホルストさんも!」
そんな様子に笑顔で言葉を掛けて来るのはマーユ。彼女は俺とオルガがホルスト会頭と話している間、愚図る事も無くずっと良い子で待っていてくれたのである。その辺は流石魚人族のお姫様だけあってマディから教育されているみたいである。
「有難うなマーユ。それとごめんな? 難しい長話に付き合わせてしまって」
「そうですな、有難うございましたマーユさん」
「ううん全然! だってこれがお父さんとホルストさんのお仕事なんでしょ?」
俺の謝罪に笑顔を浮かべて答えるマーユ。それを聞いて思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる俺。何て良い子なんだろう、我が娘は! 流石は自慢の娘である。
「流石はハーヴィー閣下とアンさん達の御息女だけあってヒトが出来ていますなぁ」
ホルスト会頭が感心したみたいにそう言葉を発する。
「「「「それは勿論、私達の娘ですから!」」」」
俺が答える前に声を重ねてそう答えるアン達4人。全員が全員ドヤ顔である。だからそのドヤ顔はヤメレと言うに。
俺は思わず心の中でツッコミを入れるのだった。
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小難しい話も終えて、折角なのでクザーツ商会リータグ支店の店内を自由に見て回る事にした俺達。まぁ元々ここに買い物に来たのだし、本来の目的に戻ったと言えよう。
オルガやアンやエリナ、ルピィやレオナは銘々に店内を見て回る中
「ふわぁぁ、色んな物があるね!」
「なかなか品揃えも豊富ですね」
俺の傍にはマーユと、そして当然の如くコーゼストも居たりする。店内に置かれている様々な品物を見ては感嘆の声を上げるマーユ。因みに今居る所は装身具売り場である。
ホルスト会頭に聞いた話ではグーコフ商会は基本、食料品や日用雑貨、衣服やアクセサリー類をメインに販売しているとの事だった。その商売形態はドゥンダウの町フェンチェンにあったコウ婆さんの万屋に近い物がある。そういやコウ婆さんは元気かな…… 。
「さてと、マーユ。さっきは良い子にしていた御褒美に俺が欲しいものを買ってあげちゃうぞ?」
懐かしい顔を思い出しながら、マーユにそう話し掛ける俺。
「えっ?! お父さん、ホントにいいの!?」
俺の言葉に驚きながら聞き返して来る愛娘のマーユ。
「ああ、言っただろ? 御褒美だって」
「わぁーい! お父さん大好きッ!」
そう言いながら抱き着いて来るマーユに目尻が下がる俺。可愛いなぁ、やっぱり!
「私には買ってくれないのですか、マスター?」
「勿論お前にも買ってやるよコーゼスト。ついでだがな」
「……何か私とマーユちゃんの扱いの差が気になるのですが?」
俺の台詞にジト目のコーゼスト。
お前は一度自分を省みた方が良いと思うんだが?
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その後マーユとコーゼストと店内を一緒に見て回ったのだが
「私はこれがいい!」
マーユは色んな服がある中から腰にリボンがワンポイントで付いている淡いイエローのワンピースを選び
「では私はこれを買わせてもらいますね」
コーゼストは薄紫の肩巾が小さく裾広がりのドレスをそれぞれ選んだ。マーユは勿論の事だが、コーゼストのセンスも中々である。
「それで良いのか?」
そう問い掛ける俺の言葉に2人とも首を縦に振って同意を示す──と言うか、そんな真顔で頷かれてもこっちが反応に困る。特にコーゼスト、そんなに真剣な眼差しを向けてくるんじゃありません。
俺はひとつ大きく頷くと
「よしっ、それじゃあアン達と合流するか……」
一言そう言って後ろを振り向く。するとそこにはアン達の姿が!?
「うおっ?! アン、エリナ、ルピィ、レオナ、オルガ、ど、どうしたんだ?」
「「「「「ねぇウィル、これを買って欲しいんだけど……駄目?」」」」」
驚く俺に全員が全員、銘々に手にしたアクセサリーやら服やらを見せながら上目遣いでお強請りして来る。止めてくれ、俺はそうした顔をされるのに弱いんだ!
「はァ、わかったわかった。皆んなのも俺が買ってやるからな。だからそんな顔で強請らないでくれ」
半ばヤケになってそう言う俺と、歓声を上げるアン達婚約者の面々。
実に対照的な絵面がそこでは繰り広げられていた。
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「皆さん、欲しいものはお決まりになられましたか?」
丁度タイミング良く声を掛けて来るのはホルスト会頭。何処かから見ていたのだろうか?
「あ、ああ、ホルストさん。うん、今丁度決まった所だ」
「そうですか、それでは皆さんのお買い上げされた品ををお包みしましょう──おい、此方のお客様方の品物を頼む」
俺の言葉にひとつ頷くと近くに居た店員にそう指示を出すホルスト会頭。「はいっ!」と言う元気良い返事と共にアン達を案内する店員。
「ふぅ、それで支払いなんだが……」
「ええ、存じ上げておりますよ。ハーヴィー閣下が全てまとめてお買い上げなのですよね?」
俺がまとめて払う旨を言おうとすると、食い気味に答えて来るホルスト会頭──やっぱりあんたは何処かからこっそり見ていたんだろ?!
そう頭の中で1人ツッコミを入れながら、ぎこちない笑顔で「あ、ああ」とだけ答える俺。ホルスト会頭はニッコリ笑うと「では此方の方に」と俺を店の会計へと案内してくれる。因みに代金は定価の2割引だったりする。
「これはお世話になった皆さんへの奉仕ですから」
満面の笑みでそう宣うホルスト会頭。そう言われてしまっては固辞するのも失礼にあたるので、有難く受ける事にした俺。
こうして俺達はホルスト会頭との有意義な一時を終えて、俺達は世話になっているクリフォード・ギムソン子爵の屋敷へと帰るのだった。
勿論荷物持ちは俺であるのは言うまでも無い。
いつもお読みいただきありがとうございます!




