束の間の旅情 〜行先に控えるはトラブルか〜
本日は2022年一回目の本編、第209話を投稿します!
色々あった夜が明け、サンドノ村を出立するウィル達のシーンから!
-209-
エトムント・ツァーベル男爵の屋敷に泊まった翌朝── 。
「ハーヴィー閣下、セルギウス閣下、そしてお連れの皆さん、今回は誠に有難うございましたッ!」
「両閣下とも大したおもてなしも出来ずに大変申し訳御座いませんでした」
玄関前に横付けされたご存知竜車とホルスト会頭の荷馬車の前で、俺達に深々と臣下の礼とお辞儀を執る男爵夫妻、そしてこれまた深々と頭を下げる侍女さん達。
「いやいや、此方としては充分に世話になったよ。有難うツァーベル卿、奥方も」
「2人とも世話になったね、本当に有難う」
一方キャリーの前でそう受け答えをする俺とオルガ。これももはや出立前の定番のやり取りである。
「しかも過分な物まで頂き何と御礼を言って良いか……このツァーベル、身を粉にして頑張らせていただきます!」
そう言うと再度深々と臣下の礼を執る男爵。過分な物とは勿論『聖晶貨』の事であり、彼にはそれを手渡しながら直臣になってくれる様に頼んだのだ。やがて礼を解くと
「それでは両閣下、ホルストの事を何卒よろしくお願い致します。『灰狼』もホルストの事を頼むぞ。ホルストも気を付けてな」
ホルスト会頭とケヴィン達にそう声を掛ける男爵。
「それではツァーベル閣下、今回もお世話になりました。奥方様もお元気で」
「は、はい! お任せ下さい!」
男爵の台詞にそれぞれ答えるホルスト会頭とケヴィン。
兎にも角にもこうして俺達は無事にサンドノ村を発ち、次の目的地であるリータグ市へと向かったのであった。
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その日の昼過ぎ── 。
「はぁ、やれやれだったぜ……」
ホルスト会頭の荷馬車を曳く馬を休ませるのを兼ねた昼食時、食事の輪の中に居る『灰狼』のケヴィンが盛大な溜め息をつく。因みにホルスト会頭達とは行先が一緒なのでリータグ市まで同道する事になっていたりする。
「ん? どうしたケヴィン。そんなにでかい溜め息をついて?」
「いやあの……貴族様のお屋敷なんかに初めて泊まっただけじゃなくて、あんな晩餐会にまで出させてもらって……何か疲れたッス……」
俺の問いに心底疲れたみたいに答えるケヴィン。彼の仲間もリーダーのケヴィンの言葉に盛んに頷いている。
「あははははっ、まぁ何だ、貴重な体験が出来たと思わないとな。これでクラスがSクラスになれば君らも嫌が上にも貴族のお仲間入りだからな、まぁ今回はその予行練習が出来たぐらいに思っておいた方が良いぞ?」
「そうね、ウィルの言う通りだわ。何せある日突然貴族になるんですもの」
ケヴィン達を励ます言葉に同調するのは俺の隣で食事を摂るアン。まぁ彼女も昔の事を思い出しているのか、苦笑いを浮かべているが。その横に居るエリナも同様だ。
「うん、そうだね、アンやウィルが言う通りに何事も経験だよ。何せ叙爵式当日には国王陛下や王侯貴族達にも会うんだし、今からそうした事にも慣れる事は良い事だよ」
最後にオルガが俺やアンの言葉を引き継いで締め括る。
「そっかァ……そうですよねぇ、俺らも上のクラスを目指すなら避けては通れない道なんですよねぇ……」
俺らの言葉に遠い目をして何やら納得しているケヴィンとその仲間達。どうにかして彼等には頑張って欲しいものである。
特に後進が育つと言う意味に於いて。
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「それにしてもハーヴィー閣下──ウィルさんのお持ちの『聖晶貨』は良い商材になりますなぁ」
同じ食事の輪の中で食事を摂っていたホルスト会頭が、燕麦粥を掬う手を止めて徐ろにそんな台詞を口にする。彼はツァーベル男爵の屋敷で俺が男爵に『聖晶貨』を手渡すのを間近で見ていたのだ。
「それは男爵の所でも少し聞いたが……そんなに金になるのか?」
「はい、今はこうした物の蒐集家もかなりおりますので、その手のヒト達からは喉から手が出るほどの価値があるかと。特に競売ともなればその価値は計り知れません」
俺の問い掛けにそう力説するホルスト会頭。だが俺にはいまいちピンと来ない。
「因みにホルストさんならオークションで幾らぐらいから始まると思うんだい?」
そこでそう尋ねるのはオルガ。実にナイスである。
「そうですな、私がオークションを取り仕切るとなると最低でも──7000万フルからかと。最終的には最低でも1億5000万フルは行くかと思われます」
「「「「「そんなにッ?!」」」」」
ホルスト会頭の口から語られる、その余りにもとんでもない金額に仰天して驚きの声が見事に重なる俺達。
だって最低1億5000万フルって言ったら、俺らが聞いていた価値の3倍だぞッ?! 幾らオークションとは言え、そこまで跳ね上がるものなのか? 普通の家族4人ならオークション1回で3000日は楽に暮らせる金額だぞッ?!
俺には決してわからない世界がそこにはあった。
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それから5日後── 。
「ウィル、遠くに城壁が見える」
地竜の手綱を握るルアンジェからそう声が掛かる。やはり魔法生命体のルアンジェの視力は抜群である。
道中で小鬼やら牙狗と遭遇し、それ等を全て排除した俺達は、いよいよ遠くにリータグ市の城壁が見える所まで到達したのであった。因みに道中遭遇したゴブリンらは全てケヴィン達『灰狼』が討伐したのは言うまでも無い。まぁそれはそれとして。
「やれやれ、漸くか……オルガ、確かこのリータグ市はクリフォード・ギムソン子爵が治めているんだっけか?」
客車の中、ルアンジェの言葉に改めてオルガに確認を入れる俺。実は昨夜オルガとホルスト会頭から聞いていたりするが、何事も確認が大事である。
「うん、その通り。流石に昨夜話した事だからウィルもしっかり覚えていたんだね」
そんな俺に笑顔を見せるオルガ。何だか出来の悪い弟子の正解に上機嫌な師匠みたいである。実際うちのルストラ師匠はそうだったが。
「ウィルさん! リータグ市が見えて来ました!」
そんな事を思っていると、ホルスト会頭の荷馬車を警護していたケヴィンが後ろにいるキャリッジの所に来て、窓越しに声を掛けて来る。すまん、それ既にうちのルアンジェが気が付いているから。
等と言う事はおくびにも出さず「有難う」とだけ言っておく俺。
そう言っている間にも段々と大きく見えてくる城壁。
こうして多少の遅れはあったが俺達はリータグ市へと無事に到着したのである。
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リータグ市に入るに当たって、今回はいつも通りの門番とのやり取りは起きなかった。より正確には一緒に来たホルスト会頭が門番に全て話してくれたのだが。まぁお陰で此方の手間が省けた。流石リータグ市有数のクザーツ商会、その知名度は計り知れないな。
「ウィルさん」
今までで一番スムーズに中に入れた事に感心していたら、ホルスト会頭が声を掛けて来た。
「それでは私はこのまま真っ直ぐ店に向かいたいと思います。早く店の者を安心させたいですし。ウィルさん達には本当にお世話になりました。落ち着いたら是非とも店までお出で下さい」
「俺達もこのままホルストさんを送って行きます! ウィルさん、皆さん、本当に色々とお世話になりましたッ!」
ここで別れる旨を告げて来るホルスト会頭とケヴィン。
「そうか、じゃあここで別れるとするか。俺達はクリフォード子爵の屋敷に向かうとするよ。ホルストさん、あとで必ず寄らせてもらうからな」
「『灰狼』の皆んなも気を付けて。「確実」に依頼を熟すんだよ」
「ホルストさん、また後で。ケヴィン君達、また何処かで!」
そんな彼等に俺、オルガ、アンがそれぞれに言葉を掛ける。
こうして俺達はホルスト会頭らと別れると、リータグ市を治めているクリフォード子爵の屋敷がある高級住宅街へとドラゴンキャリーを向けるのであった。
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ルアンジェの手綱で閑静な高級住宅街を抜けると、やがて目前に周りより一際大きな邸宅が見えて来た。彼処が目的のクリフォード子爵の屋敷らしい。キャリッジの窓から見ると屋敷の玄関前には既に出迎えのヒトが並んでいるのが見える。そういやさっき正面門の所で門番の1人が早馬で駆けていったな。
そんな事を思っている間にキャリーは出迎えが待つ玄関前につけられ、キャリッジから降りる俺達。
「ウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯閣下、オルガ・ロラ・セルギウス侯爵閣下、そして皆様方、リータグ市にようこそお越し下さりました。私がここを治めるクリフォード・ギムソンです。何卒宜しくお願い致します」
そんな俺達を臣下の礼で出迎えるのは少し頬が痩け、顔色が優れない長めの金髪を後ろ手に束ねた壮年の男性。どうやら彼がギムソン子爵らしいが……顔色悪過ぎないか?
「ハーヴィー辺境伯閣下様、セルギウス侯爵閣下様、そして皆様、お初にお目に掛かります。クリフォードが妻のジョアンナ・ギムソンです。夫共々宜しくお願い致します」
その男爵の横で深々とお辞儀を執る、やはり長い金髪を垂髪にした妻を名乗る女性。此方も顔色が優れない。
何となく一抹の不安は拭えないが、こうして俺達はクリフォード子爵と面会を果たしたのであった。
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とりあえずここで立ち話も何だと言う事で、ドラゴンキャリーは屋敷の横にある厩舎に置かせてもらい、俺達は屋敷の中に案内された。俺達の先に立って案内するギムソン子爵夫妻だが、やはり体調が優れないのか時折どちらともなく口にハンカチーフを当て咳き込んでいる。
「ギムソン卿、奥方共々あまり体調が優れない様だが……大丈夫か?」
「は、はぁ、お恥ずかしい限りですが、一週間ほど前から2人とも咳気らしく体調が優れません」
口にハンカチーフを当てたままそう答えて恐縮するギムソン子爵。確かに症状は咳気っぽいが…… 。
そうこうしてる間に俺達は応接間に通された。応接間は扉が開け放たれ、応接間にある窓と言う窓も全て開けられて換気を徹底している。咳気は密閉された室内だとヒトに伝染すると言われており、その対策だと思われれる。
その応接間では俺達と子爵夫妻はそれぞれに1メルトほど距離を空けて座席に腰を下ろした。これもまた咳気対策と思われれる。しかし何だかこれだと逆に落ち着かない。
「ギムソン卿、ジョアンナ夫人。来たばかりで無作法だと思うんだが、うちのクランには治癒魔法が使える者が3人居るんだ。彼等に君らを一度診させたいんだが……」
「そうだね、ハーヴィー卿が言う事ももっともだ。クリフォード卿、奥方共々診てもらいたまえ」
少し不躾かと思ったが、思った通りの事を口にする俺。俺の台詞をオルガが後押ししてくれる。もし本当に咳気なら此方にも感染りかねないからな。
「おお、それでは是非にお願い致しますハーヴィー閣下!」
「閣下、お願い致します!」
ギムソン夫妻からもそう頼まれたので、俺はアン、マルヴィナ、アリストフに2人の診察をさせるのだった。
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先ずはアンが子爵夫妻2人を診断する事になった。涅森精霊であるアンの方がマルヴィナやアリストフと比べて傷病の知識や経験が豊富だからだ。アンの診断結果でそれに対応した治癒魔法をマルヴィナらに掛けてもらうのである。
子爵夫妻に一言断ってから2人に診断魔法を掛けるアン。これもまた森精霊独自の物らしい。
「では失礼して──『診断』──『診断』── これは?!」
2人に診断魔法を掛けたアンの表情が俄に曇る。
「ん? どうしたんだ、アン?」
「ギムソン卿、これは咳気じゃありません。失礼ですが症状が出る前に森に入った事はありませんか? 奥様も」
俺の問い掛けに答えずに子爵に矢継ぎ早に質問をするアン。
「う、うむ、丁度8日ほど前に妻を伴って南にある森まで遠駆けをしたが……」
「そう言えば、あの遠駆けから帰って来てから直ぐに咳が出るようになりましたわ」
「その時に花弁が瑠璃色に輝く百合を見ませんでしたか?」
2人の答えに何時にも増して真剣な面持ちで質問を重ねるアン。
「あった……な。森の一角が不意に開けていて一面その瑠璃色の百合が咲いていたのを妻と2人で見ていたな」
「ええ、とても綺麗でしたわ」
子爵夫妻の答えを聞いたアンは血相を変えて一言
「ウィル、これは不味い事になっているかも」
ようやくリータグ市に到着したウィル達一行! 同行していたホルスト会頭や『灰狼』の面々と別れ、リータグ市を治めるクリフォード・ギムソン子爵夫妻からの出迎えを受けますが、着いた早々トラブルの予感が?! アンの慌てぶりからして、かなり切迫しているのか? 次回、お楽しみに!
いつもお読みいただきありがとうございます!




