出立 〜盗賊と銅と〜
本日は第206話を投稿します!
ウィル達がいよいよシグヌム市を発つ所から話が始まります!
-206-
ルストラ師匠やうちのギルマスに俺が『英雄』となった事を話した翌日の朝、ネヴァヤさんの屋敷に横付けされている俺達の竜車。なんのかんのしていたらシグヌム市に6日も滞在してしまっていたが漸く今日、北東に位置するリータグ市へと向かう事となった。
「それではネヴァヤさん──いやファーザム卿、短い間だったが色々と世話になった」
「いいえ、私の方こそハーヴィー閣下方にはすっかりお世話になってしまいました」
差し出しあった右手を握り締め合いながら、お互いに声を掛け合う俺とネヴァヤさん。
「セルギウス閣下にも色々と御骨折り頂き、何と御礼を言えば良いか……」
「あははっ、今回私はウィルの婚約者の1人として付いて来ているからね。そんなに気に病む事は無いよ」
続けてオルガと握手を交わしながら言葉を掛け合う2人。オルガは自分の事を次いでみたいに言っているが、彼女が居なくては上手く事が運ばなかったのも事実である。流石は侯爵と言う位階を長年勤め上げている訳では無い。
「ウィル、オルガさん、そろそろ──」
ドラゴンキャリーの客車の中からアンが時間だと声を掛けて来る。
「おっ? そうか、それじゃあファーザム卿、名残りは尽きないがそろそろ行かせて貰うよ。直臣の件は緩く考えておいてくれ」
「はいっ、それではハーヴィー閣下、セルギウス閣下、そして皆さん、本当に有難うございました。道中お気を付けて! 最近街道で盗賊の被害が報告されていますので!」
そうした声に見送られてドラゴンキャリーに乗り込む俺とオルガ。キャリッジの扉が閉まり、アリストフの手綱でゆっくりと動き出すドラゴンキャリー。
こうして俺達はようやっとシグヌム市を発ったのであった。
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シグヌム市から北に延びる街道をひた走るドラゴンキャリー。シグヌム市から直にリータグ市へと向かう街道は整備されておらず、一旦北にあるサンドノと言う村を経由して、東に向かう街道でリータグ市へと向かう道順だ。
「やれやれ、今回は少し長居したねぇ」
シグヌム市を離れて少ししてそう宣うオルガ。
そうは言っているが、原因の何割かは君だよね?
「まぁ無事にトラブルを解決出来たから良かったよ」
そんな事を思っているとはおくびにも出さないで、当たり障りの無い返事を返す俺。
「でも今回に限らず、ウィルって行く先々でトラブルに巻き込まれるのが本当に多いわよね……」
当たり障りの無い返事をしたらエリナからそんな風に言われてしまった──チョットマテ。
「それって俺がトラブルを呼び込んでいるみたいに聞こえないか……?」
あまりの事に思わず反論する俺。ヒトを厄介者みたいに言われるのは流石に心外である。
「ウィルの場合はどちらかと言うと「トラブルが向こうからやって来る」感じかしら?」
俺のエリナへの反論に反応したのはアン。だがそれもちょっと待て。
「アン……それは幾ら何でも酷くないか?」
ジト目でアンに抗議する俺。流石にこれは俺、泣いても良いよな?
「皆さん、それはあまりにもマスターに対して失礼かと」
おっと?! ここで真逆のコーゼストから異議が唱えられた。これは珍しい、どの様に俺を援護してくれるんだ?
「マスターはただ単にトラブルに溺愛されているだけです」
「そっちの方がなお酷いわぁーーーッ!!」
コーゼストに向かい思わず叫ぶ俺。ったく、なんつー言い草だッ! ちくしょうめ!!
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そんなこんなで2日ほど経ち、サンドノ村までの道程の半分を消化した頃
「ウウゥゥゥゥーーッ」
レオナに抱かれていた短身サイズのファウストが不意に唸り声をあげた。
「ん? 何だ、どうしたんだファウスト?」
マーユやアンと話していた俺はファウストの異変に気付いてそう声を掛ける。と同時に
「──広範囲探索──進行方向600メルト先に複数のヒトの反応があります。ファウストが反応したのは多分これかと」
コーゼストが感覚端末で探査した結果を報告してくるのが一緒に重なる。
「怪しいな……ルアンジェ、コーゼスト、窓から前方を確認してくれ」
俺の指示にキャリッジの窓から顔を出して進行方向に目をやるルアンジェとコーゼスト。
「──ウィル、ヒトが沢山集まっているのが見えるわ、それと馬車も」
「──そう、ですね。大勢が馬車を取り囲んでいる様です。馬車の傍のヒト達は馬車を守っているみたいです。状況から推測するに──あれは盗賊の襲撃かと」
2人からは真逆の報告である。その報告に緊張が走る車内!
「ッ!? フェリピナ!」
「は、はいっ! 急ぎます!」
俺の声に反応した御者台に座るフェリピナが手綱を操作し、ドラゴンキャリーを曳く地竜を急がせる!
「お父さんッ!」
「マーユはそのまま姿勢を低くしていろ! コーゼスト、マーユを頼むぞ!」
「お任せ下さい」
そうマーユに声を掛ける間にも加速するドラゴンキャリー!
間に合う──か?
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瞬く間に600メルトの距離を駆けるドラゴンキャリー! キャリッジの窓から顔を出していた俺の耳に時折剣戟の声が聞こえて来る! 馬車を背に剣や槍や弓矢を構える冒険者らしき3人の若者と、それを取り囲みながら此方も剣や斧や槍を向けて襲いかかっている、明らかに盗賊風情の15人ほどの男達が見えて来た!
「フェリピナッ!」
そう短く叫ぶ俺! それだけで俺の意を汲み、ドラゴンキャリーの速度を急激に落とすフェリピナ! そして襲撃現場の手前で停止するドラゴンキャリー! キャリーが停るのと同時にキャリッジの扉を開けて、飛び出す俺達!
「ラーナルー市冒険者ギルド所属、『神聖な黒騎士団』ウィルフレド! 其方の所属とパーティー名はッ?!」
先頭を切る俺がそう双方に声を掛けながら、首に下げた認識札を見せる! 睨み合っていた双方とも、俺達のドラゴンキャリーが突っ込んで来たのを見て全員その場で固まっていたが
「ッ、俺達はシグヌム市冒険者ギルド所属! 『灰狼』! 俺の名はケヴィン! 後ろの馬車を護衛している! 奴等は盗賊だッ!」
長剣を構えた若者が俺の問い掛けに、やはり首に掛けたタグを見せながらそう答える。これは平原での対盗賊戦に対し、何方が冒険者で何方が盗賊か判断に迷った時にとる確認方法だ。
事実盗賊かと思い込んで討ったら実は冒険者で、馬車側に居たのは実は盗賊だった、と言う事は割と多いのだ。何事も確認は大事である。
『灰狼』のケヴィンの言葉を聞いて、俺は腰に帯びた神鉄の刀を抜きながら
「加勢するッ! 行くぞ皆んな!」
一言叫ぶと馬車を取り囲む盗賊目掛け斬り掛かったのである!
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「とりゃあああーーーッ!」
「ぎゃ!」
俺の刀が近くにいた盗賊の1人を横薙ぎに両断する! 盗賊の身体が血飛沫を上げて上下が哀れ泣き別れする!
此方の戦力は俺、アン、エリナ、レオナ、ルアンジェ、ベルタ、ユーニス、そして
「やあぁぁーーッ!」
「うふふふっ、ほぉら「風槍」♡」
薙刀を振るうヤトと魔法を放つセレネも戦列に加わっている。フェリピナ、マルヴィナ、ルネリート、アリストフ、そしてファウストとデュークにはそれぞれドラゴンキャリーと襲撃された馬車を守るのと、後方からの支援をして貰っていたりする。
うちのドラゴンキャリーに居るオルガ達は兎も角、いきなり現れた2つ頭の魔犬に守られる馬車の方々には申し訳ないが、現在絶賛非常事態である。
「ぎゃあああ、ま、魔物だぁ!」
「ひいぃぃぃーーッ!」
ヤトとセレネの姿を見ただけで大混乱に陥る盗賊達!
「はァァァッ!」
「ぐ!」
「たあああッ!」
「ぎ!」
その混乱する盗賊を1人また1人倒して行くアン達うちのメンバー! 瞬く間に数を減らして行く盗賊達!
「く、くそぉぉぉ!」
そして最後に残った盗賊のお頭らしき男が、手にした戦斧を振りかざして俺の方に襲い掛かって来た!
風切り音と共に襲い来るバトルアックスを掻い潜り、振り抜かれたバトルアックスを持つ腕をすれ違いざまに斬り飛ばす俺!
「ッッ?! ギィヤァァァァーーッ!」
お頭らしき男の絶叫が響き渡る中、俺は男の鳩尾目掛けて刀の峰を勢いよく叩き込む! 肋骨が折れる音がして、男はその場に崩れ落ちたのであった。
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「ふぃぃ〜、た、助かったぁ〜」
そう言うとその場にへたり込むケヴィン達『灰狼』の面々。2頭立ての荷馬車のコーチマンシート付近に居た魔法士らしき女の子もしゃがみ込んでいる。どうやらパーティーメンバーはこの子も含めて4人だったらしい。しかし然もありなん、ケヴィンが俺に見せたタグは銅──つまりCクラス冒険者である事に他ならない。それから考えると今回の盗賊の人数は少々荷が重かったかも知れない。
「大丈夫か? もし誰か怪我をしているならうちの神官に回復魔法を掛けさせるが……」
「あっ、はい、それじゃあ……」
俺の言葉にケヴィンと槍士の青年が手を挙げたので、マルヴィナに治癒を掛けてもらった。
一方でアリストフには生き残った盗賊の怪我を「止血」と言う魔法で止血のみに留めてもらっている。相手は盗賊だ、わざわざ怪我を回復してやる義理も無いからな。そんな事を思っていると
「あ、あの! お陰で助かりました! 改めて俺らはシグヌム市冒険者ギルド所属の『灰狼』、Cクラスです! 俺はリーダーのケヴィン、戦士をしています!」
ケヴィンが姿勢を正しながら改めて礼を述べて来た。それに続いて
「自分はアイザック、このパーティーでは槍士をしています! 先程は助かりました!」
「あ、お、俺はジュリアン! 弓士です! お陰で助かりました! 有難うございます!」
「私はぁ、魔法士のマリオンって言いますぅ。先程は本当に助かりましたぁ。魔力が切れちゃって回復魔法が使えなくなっていてぇ、困っていたんですよねぇ」
残りのメンバー達もきちんと挨拶と礼を述べて来る。なかなかに礼儀正しいパーティーである。
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「私からも是非とも御礼を言わせて下さい」
ケヴィン達との話が一旦終えると同時に荷馬車から1人の男性が降りてきて頭を下げてきた。
「挨拶が遅れました。私はシグヌム市で商店を営んでいるホルストと申します。この度は本当に助かりました。お陰で荷も若い冒険者さん方も無事でした。本当に有難うございます」
そう言うと再度深々と頭を下げるホルスト氏。荷物だけでなく雇った冒険者達の心配をするとは……なかなかに出来た御仁の様である。
「ご丁寧な挨拶痛み入る。俺は氏族『神聖な黒騎士団』のウィルフレド・フォン・ハーヴィー。Sクラス冒険者で──辺境伯を国王陛下から拝命しているんだ」
ケヴィン達とホルスト氏の挨拶と礼を受けて、俺も彼等に向かって自己紹介をする。
「──ッ! こ、これは大変失礼致しました!」
ホルスト氏は大慌てでその場に跪く。一方でケヴィン達は「へ、辺境伯って?」とか「Sクラス? でもタグは金だったけど……」といまいちわかってないみたいである。
「辺境伯と言うのは伯爵と侯爵の間に位置する爵位で、実際のところ侯爵以上の強力な権限を有する地位さ。それとハーヴィー卿のタグは金じゃなくて神鉄の英雄のタグなんだよ」
そこにドラゴンキャリーを降りたオルガがそう話しながら歩み寄って来た。
「皆んな、紹介するよ。彼女は王都冒険者ギルド本部最高統括責任者、オルガ・ロラ・セルギウス閣下だ」
俺がそうオルガを紹介するとホルスト氏は勿論の事、ケヴィン達も「ええっ!?」と声を上げると一斉に跪く。やはり知名度と言うのは大事である。
「セルギウス閣下もご同道とは……重ね重ね失礼致しました!」
俺が1人納得していると跪いたまま深々と頭を下げてそう恐縮しきりのホルスト氏。ケヴィン達も畏まっている。
「ああ、そんなに畏まらないで良いよ。私は今回はハーヴィー閣下の連れ添いだからね」
その様子に苦笑いを浮かべながらそう宣うオルガ。「は、はい、そ、それでは……」と身体を起こすホルスト氏とケヴィン達──やれやれ。
「あ、あの! は、ハーヴィー閣下のタグが英雄って本当ですか?!」
やっと真面に話せるな、と思っていたらケヴィンから案の定の質問が来た。彼等も話には聞いた事があっても、実物を見たのは初めてなのだろう──当然と言えば当然だが。
「はははっ、それに答える前に此奴らを縛るのを手伝ってくれないか?」
俺は笑いながら無限収納からロープを取り出して、彼等『灰狼』の面々にそう頼むのだった。
折角無事にシグヌム市を出発したのに道中で盗賊の襲撃現場に遭遇してしまうウィル達! やっぱりウィルはトラブルから愛されているのか?! とりあえずそうした疑問は横に置いておいても、盗賊達をあっという間に討伐する手腕は流石です! さて盗賊達を倒した後始末が控えていますが、それはまた次回!
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの自称ライバルで親友のオルティース・トリスタンのイラストを第56部五十二話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます!




