女ギルマスの憂鬱と悪いヤツ
本日は第202話を投稿します!
なんのかんのの末、ようやくネヴァヤさんの屋敷に到着したウィル達一行から話が始まります!
-202-
なんのかんのでシグヌム市に着いた俺達。そのまま冒険者ギルドにいるネヴァヤさんと面会し、夕方と言う事もあり仕事を終えた彼女をドラゴンキャリーに乗せて、彼女の屋敷へと来た……と言うのがここまでの流れである。
んでもって、現在は屋敷の応接間に通されてネヴァヤさんを待っている所である。そして程なくして
「皆さん、お待たせしてしまって大変申し訳ありませんでした」
仕事着のワンピースからドレスに着替えて来たネヴァヤさんが応接間に現れた。銀青色の髪色に良く映える黄色のドレスである。こうして見ると流石貴族らしく見える。
「どうぞ今夜は私の屋敷でゆっくりと旅の疲れをとって下さい。もう少しするとささやかながら夕餉の支度も整いますので」
そう言うとニッコリと笑みを浮かべるネヴァヤさん。気遣いも流石である。
「どうしましたか、マスター? そんなにネヴァヤ様の事を見詰めて?」
黙ってネヴァヤさんを見ていた俺にコーゼストが声を掛けて来る。
「いや……流石はネヴァヤさんだなぁと思ってな。つい見蕩れてしまった」
コーゼストの問い掛けに、つい何も考えずにポロッと本音を言うと、途端にアン達やオルガから冷たい視線を浴びせかけられる。
「「「「「まさか、次はネヴァヤさん(様)が8人目の婚約者ッ?」」」」」
「うぉいッ?! ちょっと待てーーーッ!」
冷たい視線と共に投げ掛けられた台詞に思わず反論する俺。
だから何がどうしてそうなるんだよ?!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アン達からあらぬ誤解をされたりもしたが、それ以外は特に何も無く(?)、食堂で無事夕食の時間となった。より正確には俺達の歓迎を兼ねたささやかな晩餐会、であるが。
ささやかな、とは言ったが料理や酒などが充実していて、なかなかに豪勢な晩餐会となった。そして──
「初めましてファーザム卿、私が魚人族の女王マデレイネ・ジョゼ・ファンティーヌです。宜しくお願いしますね」
「は、初めまして、ファーザム閣下! 私はジータ・ルモワールと言います! 以後宜しくお願いしますッ!」
オーリーフ島からマディとジータを呼び寄せていたりする。こう言う時はやはり転移魔導機があると何かと便利である。但し時差には気を付けないと駄目であるが。因みに晩餐会が始まったのが午下の6時なのでオーリーフ島では朝の11時、呼ぶには何ら問題は無い……無いよな?
「今日は特に込み入った公務はありませんでしたから問題ありませんよ。ただヨエルが頭を抱えていましたが」
そう笑顔でサラリと宣うマディさん──これはあとで摂政のヨエルさんに何か差し入れせねばなるまい。
「これはこれは、遠路遥々ようこそお出で下さりまして、誠に有難うございます、マデレイネ陛下、ジータさん。大したおもてなしは出来ませんがどうかお楽しみくださいませ」
だがネヴァヤさんの笑顔には揺るぎがない。いきなりメロウ族の女王陛下を目の当たりにしても、だ。
「……何だかあまり驚かないんだな、ネヴァヤさん?」
「いいえ? 充分に驚いていますよ? でもウィルさんとコーゼストさんですからね、これくらいは普通かと思いまして」
俺の問い掛けに笑みを深めてそう答えるネヴァヤさん。
是非その心構えをうちのギルマスにも聞かせてやって欲しいものである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一方で俺がマディ達を連れて来た様にネヴァヤさんもヒトを呼び寄せていた。イサーク・パレンティ男爵とその夫人である。
「は、ハーヴィー閣下並びにセルギウス閣下、それにマデレイネ女王陛下に皆様におかれましては、彼の地までようこそお出で下さりました。私がファーザム閣下の補佐を務めさせて頂いております、イサーク・パレンティですッ」
「イサークの妻のラウラと申します。両閣下並びに女王陛下と皆様におかれましては御機嫌麗しく」
やや緊張した面持ちで臣下の礼を執るパレンティ卿と、優雅にお辞儀を執るラウラ夫人。毎度の事ながら御苦労な事である。
「やぁ、パレンティ卿とこうして会うのは初めてだね。私がオルガ・ロラ・セルギウス侯爵だ。宜しく頼むね」
そんな夫妻の挨拶にいつも通りに鷹揚に返事を返すオルガ。君は慣れているから良いんだろうが、俺はまだこうした挨拶には慣れていないんだよ。
「丁寧な挨拶痛み入るパレンティ卿。俺がこの度エリンクス国王陛下より辺境伯を拝命したウィルフレド・フォン・ハーヴィーだ。ここに居るのは俺の氏族の仲間と婚約者達と従魔達だ。辺境伯とは言っても冒険者が本職なんでね、無作法なのは許して欲しい」
とりあえず差し障りの無い挨拶を返す俺。この挨拶もだんだん常習化してきたな。
「これはこれは、初めましてパレンティ卿、そして奥様も。私はメロウ族の女王マデレイネ・ジョゼ・ファンティーヌですわ。本日は宜しくお願いしますね」
最後にマディがパレンティ夫妻と挨拶を交わすと漸く晩餐会の始まりである。
改めて思うんだが……貴族ってのは本当に面倒臭いな!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、何とか無事に晩餐会が催されると、うちのクランの胃袋担当であるヤトが「さぁ、食べまくるわよォーーッ!」と変な意気込みを口にして、食卓に並んだ料理に突撃して行った。前にも言ったがこれで本当にヤトが料理出来れば完璧なんだがな…… 。
もう1人、セレネの方はと言うとダイニングテーブルの隅の方で、落ち着いて取ってきた料理をゆっくり楽しんでいたりする。本当にこの2人は見事なまでに性格が対照的だな。
ヤトとセレネを見比べながらそんな事を思っている俺は俺で、現在絶賛ネヴァヤさんとパレンティ卿夫妻に7人の婚約者達を改めて紹介していたりする。アンとエリナの事は知っていたネヴァヤさんも、流石に婚約者が7人と聞いて笑みを引き攣らせていたが
「はぁ……これは流石に一生分驚いた気分ですね……」
と少々呆れ顔でそんな感想を口にする。
「何かこの先、あと2,3人は増えそうな予感がするのですが……」
そして何やら恐ろしい事をさらりと宣うネヴァヤさん──ちょっと待て。
「済まんネヴァヤさん、変に波風立てないで欲しいんだが?」
一応抗議を申し入れる俺。しかし
「でもウィルなら有り得そう、よね? ね、エリナ?」
「ええ、私もそんな感じが最近よくするのよ、アン」
アンさんとエリナさんのお2人がネヴァヤさんの台詞に同意を示し、オルガ以下残りの婚約者達も一様にウンウンと頷いて同意を示す。
今ここでそんなあるかどうか分からない未来の可能性を言われても俺が困るんだが?!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「──そう言えば」
そんなトラブル(笑)もあったが、比較的穏やかな雰囲気で宴が進む中、ふとある事を思い出した俺はその事をネヴァヤさんに尋ねる。
「はい、何ですかウィルさん?」
「スサナが『紅霞』を辞める切っ掛けになった商会ってのは、結局あれから一体どうなったんだ?」
俺の問い掛けにネヴァヤさんの表情が一瞬で曇る。
「……はい、まだここシグヌム市で商売を続けていますが……実は少々困った事がありまして……」
「困った事だって?」
心底困ったと言わんばかりの面持ちのネヴァヤさんに問い直す俺。
「何だい何だい、どうかしたのかい?」
俺がネヴァヤさんと話し始めると、いつの間にか俺の傍にやって来るオルガ。他のメンバー達も何事かと此方に注目をしている。
「実は──」
そう言って話し始めたネヴァヤさんの話によると──件の商会はスサナの1件以来すっかり増長しているらしく、何かにつけて我儘を言う様になったらしい。
ある時は自分の商会の隊商の護衛依頼の料金が高いからと不当な値引きを要求し、ある時はキャラバンの護衛がヘマをしたから高価な品物に傷が付いたから弁償しろと言い、またある時は女性ばかりの冒険者パーティーを指名して来ては無理矢理に夜伽をさせようとしたりと、酷いの一言では片付けられないぐらいの悪行を重ねているとの事だった。
しかも此方から抗議をすると、ギルドへの高額寄付の打ち切りをチラつかせて有無を言わさせないらしいからタチが悪い事この上ない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ……そんな事になっていたとはねぇ……」
ネヴァヤさんの話を聞き終えたオルガから溜め息と共にそんな台詞が漏れ聞こえる。一緒に話を聞いていたアン達からも「なんて酷い事を」と激しい憤りの言葉が聞こえて来る。
「……まぁ私が「女」だと言う事も軽んじられる理由なのでしょうね」
そう言うと寂しそうに弱く笑うネヴァヤさん。
「それは違うぞ、ネヴァヤさん」
そんなネヴァヤさんにそう声を掛ける俺。
「冒険者が性別云々で差別されるのは違う、違うと思うんだ。男だからと言っていつまでもDやCクラスの奴も居れば、エリナやあんたみたいに女性でもSクラスや統括責任者を任されるヒトだって居るんだ。それは与えられた依頼や仕事をキチンと熟せる能力だと思う」
「……ウィルさん、有難うございます」
俺の言葉に少し嬉しそうに笑みを浮かべながら頭を下げるネヴァヤさん。
「でもまあ、そうだよねぇ。ウィルの言う通り女だからと言って侮られるのは違うよね」
オルガも俺の言葉に盛んに頷いているし、何よりアン達も「そうよそうよッ!」と息巻いているし
「私の所為でネヴァヤ様に御迷惑をお掛けして申し訳ありませんですぅ……」
スサナに至っては自分の所為ではないかと、気に病んで半分涙目である。これはもう俺が首を突っ込んでも良いよな?
「ネヴァヤさん、その商会の名前は何て言うんだ?」
気が付くと俺はネヴァヤさんにそう訊ねていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
明けて翌日、俺はコーゼストと共にネヴァヤさんに伴われて、その件の商会の応接室に居た。因みに竜車だと騒ぎになるので、普通の馬車で乗り付けていたりする。
昨夜ネヴァヤさんから聞いた話によると、この商会の名はグーコフ商会、会頭はサーヴァ・グーコフと言う中々やり手の商人らしい。勿論悪い意味で、であるが。何方にしても気を引き締めて行かねばなるまい。
「大丈夫でしょうか?」
ネヴァヤさんは心配気であるが、まぁ何とかなるだろう。
「待たせたな」
程なくして部屋に入って来たのは、褐色の蓬髪の目付きが悪い壮年の男。何だか血圧が高そうな男である。良く見ると頭頂部の毛が薄い気が……? うん、やっぱり薄い。大切な事だから2回言わせてもらったが、コイツがサーヴァ・グーコフか。
そのサーヴァ・グーコフはそう一言だけ言うとソファーの対面にドカリと腰を下ろして、此方を一瞥してくる。仮にもネヴァヤさんは子爵なんだが? その横柄な態度はどうなんだ?
「何だ? 今日はまた新しい護衛か? 毎度ご苦労なこって……」
「ええ、まぁ……」
サーヴァの呟きにも近い言葉に曖昧な返事を返すネヴァヤさん。それだけで俺には興味を示さなくなるサーヴァは、今度はネヴァヤさんの後ろに俺と一緒に立っているコーゼストを、上から下まで舐め回す様に品定めをすると
「ほほう、コッチは冒険者にさせておくには惜しい女だな……」
そう下卑た笑みを浮かべるサーヴァ。だがそんないやらしい視線にも全く動じる事が無いコーゼスト。
『流石にこの視線は不快ですけどね』
一方で念話ではっきりと不快感を顕にするコーゼスト。
然もありなん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「それで? 今日は一体何の用があって来たんだ? 言っとくがこちとら暇じゃないんだ」
ソファーにふんぞり返ってネヴァヤさんに問うサーヴァ・グーコフ。もはや横柄を通り越して尊大な態度である。
「はい、近々ウィルフレド・フォン・ハーヴィー辺境伯閣下がこのシグヌム市を来訪する話はしたと思いますが、先触れが来ましたので連絡をと思いまして」
こちらとの打ち合わせ通りに話をするネヴァヤさん。実は昨夜のうちに打ち合わせていたりする。
「ふん、確か冒険者からの成り上がり者の辺境伯閣下殿だったな。話だと男は自分1人でパーティーメンバーは全員女だと言う話じゃないか? そんな田舎者の貴族様には適当に女を宛がって御機嫌でもとるさ。上手く行きゃお抱えの商人になれるかもしれんからなぁ」
そう言うとまたもや下卑た笑いをするサーヴァ。やれやれ、ここまで馬鹿にされて黙っておく手は無いな。
「はぁーーッ。もう良い、お前黙れ」
俺はサーヴァに向けてそう言い放ったのだった。
スサナが「紅霞」を追われる切っ掛けとなった商会とネヴァヤさんのトラブルに首を突っ込むウィル! それにしても随分悪どい事をしている商会ですね!
果たしてウィルはこのトラブルを解決出来るか?次回をお楽しみに!
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの自称唯一無二の相棒コーゼストのイラストを第173部百六十一話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます!




