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なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?  作者: 逢坂 蒼
名声と風評の狂騒曲編!
206/330

不敬な子爵、そして色を視る愛娘

本日は第192話を投稿します!

無事にエーフネ市へと到着したウィル達! ここを治めている子爵は果たして…… ?!

 -192-


「ここを治めるブライアン・フォックス子爵は宮中伯であるジェイムズ・フォン・アトキン侯爵の陪臣(ばいしん)だと聞いた事があるよ」


 巡行(じゅんこう)の最初の目的地であるエーフネ市に着いた俺達一行。


 竜車ドラゴンキャリーはエーフネ市内の大通り(メインストリート)をエリナの手綱でゆっくり進んで行く。


 その後ろに()かれる客車(キャリッジ)の中、後ろの席に座るオルガがそうした細かい情報を俺に色々と教えてくれる。その辺は流石オールディス王国の侯爵の地位に長年居るだけの事はあり、そうした貴族の事情には色々と精通しているな。


 因みに陪臣だとは言っているが、正確にはフォックス子爵はアトキン侯爵の姪婿(めいむこ)に当たるらしい。なので身内と言えば身内なんだろうが、こうした場合は良く出来た人物か、伯父(おじ)に当たる侯爵の権威を笠に着る無能な人物かの(いず)れかであるんだけどね、とはオルガの談である。


 俺としても出来るなら前者であって欲しいものである──割と切実に。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「侯爵閣下、遠路はるばる、ようこそこの様な僻地(へきち)にお出で下さいました」


 メインストリートを道なりに進んだ先にあった屋敷の玄関先で、そう言いながらドラゴンキャリーから降りた俺達に向かって臣下の礼を()る、如何(いか)にも貴族然とした若い男性。どうやら彼がブライアン・フォックス子爵らしい。そして彼の横に一列に並んでいるのはどうやら使用人達みたいである。それにしても俺とオルガが一緒にキャリッジから降りて来たのに、俺は眼中に無いみたいだな。


「フォックス卿、王城での一瞥(いちべつ)以来だね。此方(こちら)に居るのは新たに辺境伯となったウィルフレド・フォン・ハーヴィー閣下だ。挨拶を──」


「ウィルフレド・フォン・ハーヴィーだ。どうか(よろ)しく頼む」


 挨拶をしたまえと言うオルガの台詞に被せて、自分に出来る出来るだけの笑顔で右手を差し出す俺。だが


「……ようこそお出で下さいました」


 それだけ言うと俺の手を取る事無く、再びオルガに話し掛けるフォックス子爵。オルガには「どうか我が屋敷に滞在して頂けると幸いです」と盛んに勧誘をしている。俺には一度も目を合わせようとすらしない。


 どうやら彼は後者であったみたいである──やれやれ。どうやら冒険者上がりで海の物とも山の物ともつかぬ駆け出しの辺境伯より、根っからの王侯貴族である侯爵のオルガの方が信用出来ると思っているのだろうが──爵位は俺の方が上なんだし、その対応は流石にどうかと思うぞ?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……フォックス卿、君は今、自分が大変不敬な行いをしている自覚はあるのかい?」


 そんなフォックス子爵の様子を見咎(みとが)めたのはオルガ。その台詞の端々に静かな怒りを感じ取れる。俺の後ろに控えるアン達やヤトやセレネなんかも、子爵へ怒りが混じった鋭い視線を向けている。すると流石に不味いと思ったのか


「……これは大変失礼致しました。改めましてようこそお出で下さいました、辺境伯閣下。(ひら)にご容赦を」


 そう言って改めて俺に向かって臣下の礼を執る子爵。だが明らかに俺からは顔を(そむ)けているのがわかる。


「ッ! フォックス卿! だからそれが──」


 思わず激昂(げきこう)するオルガの肩に手をやり、ゆっくり首を振る俺。それを見て口に出かけた言葉をグッと呑み込むオルガ。と言うか彼女がこんなに怒りを(あらわ)にするのは初めて見たな。


 いつも顔に人懐(ひとなつ)っこい笑みを浮かべているオルガしか見た事が無い俺にとっては、こうした感情的な彼女もまた新鮮ではあるが──愛娘(マーユ)の教育にはあまりよろしく無い、気がしなくも無い。


 そのマーユは子爵の屋敷に到着してから、ずっと俺の左手を握り締めたまま、何かに警戒するみたいに俺の後ろに隠れているんだが。


 そんな事をつらつら考えながら俺は後ろに居るアン達やヤト達にも目配せし、彼女らが殺気立つのを抑えさせるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「もうッ! 何なのよ、あの態度ッ!」


 宿屋の大部屋で不機嫌な声でそう声を荒らげるエリナ。


 結局此方が押し掛ける形となったのと、一度に15人もの人数を泊めるだけの空き部屋も屋敷に無かった事で、エーフネ市内にある宿屋『香油亭』を紹介して(もら)い、そこに宿泊する事となった。そして大部屋に腰を落ち着けるなり、冒頭のエリナの台詞である。


「本当に、ここまで明白(あからさま)にウィルを拒絶するのも初めての事よね」


 エリナの台詞を継いでアンも不機嫌な声でそう自分の意見を口にする。ベルタやユーニス、フェリピナやマルヴィナ、そしてスサナもエリナやアンの台詞に色を()す。


「あたしはまあ、貴族らしいっちゃあ貴族らしい態度だなぁとは思ったけどね」


「ですねぇ、全部じゃないですが一部の貴族では(いま)だに新貴族を排斥(はいせき)する人達もいるとは聞きましたしね」


 一方アンとエリナとは違い、随分と冷めた意見を述べるのはレオナとルピィ。それに頷くのはルネリートとアリストフ。まあその辺はヒトそれぞれの受け取り方なんだけどなぁ。


 俺も腹が立ったには立ったが、あれが(むし)ろ普通の貴族の反応なんじゃないか? と思うんだが…… 。


「あの何とかと言うオトコ、すっごく嫌な感じがしたわ! 腹立つわねぇ!」


「ヤトの言う通りですわね! 特に御主人様(ダーリン)に対し、あの様な態度は失礼ですわッ!」


 ヤトとセレネも、それぞれ思った事、感じた事を銘々(めいめい)に口にして、怒り心頭のご様子である。


 どうやら腹に据えかねるヒトが多いみたいである──やれやれ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「まあねぇ。フォックス子爵の寄親(よりおや)に当たるアトキン侯爵自身、王城内では選民思想の急先鋒なのは確かさ。その姪婿である子爵も同じ思想(考え)に染まっていてもおかしくはないんだけど……流石にアレは酷いね」


 俺の婚約者4人がそれぞれ私見を述べたところで、それを継ぐ形でオルガが若干客観的な視点での考えを口にする。彼女は子爵の屋敷への滞在の誘いを断って俺達と同じ宿に泊まる事を選んでいたりする。


「オルガも何でまたわざわざ相手の面子(めんつ)を潰す様な真似を……」


「そりゃあ私だって腹立たしかったのは間違い無いんだし、そんな失礼を働いた貴族の屋敷に泊まる気にはなれないのは当然さ。それに私だってウィルの婚約者なんだから、ねッ♡」


 俺の問い掛けにオルガは満面の笑みで真っ当な理由を述べるのであった。


 因みにオルガの言う「選民思想」とは、自分達は神によって選ばれた特別な民族もしくは人種である、と言う思想である。先代の国王陛下の治世(ちせい)の時代にはかなりの貴族がそうした思想であり、割とありふれた思想でもあったらしい。まあ自分は特別だと言う奴に限り、実は凡俗(ぼんぞく)な場合が多いんだが。


 更に因みに何時(いつ)もは彼女の傍に居る筈の爬虫類人(レプティリアン)のゾラだが、今回の巡行には付いて来ていない。オルガ(いわ)く「彼には別の仕事を頼んであるから」だそうだ── 一体何をさせているんだか…… 。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それで? この後はどうしますか?」


 アン達やオルガが話終えるのを待っていたらしく、それまで黙っていたコーゼストが話題を振ってくる。


「この後って?」


「こんな最悪な状況でこの後、向こうに『聖晶貨(セントクォーツコイン)』を贈るかどうかですよ」


『『『『『ああ……そういやそれがあったな(ありましたね)』』』』』


 コーゼストに指摘されて皆んなの声が見事に重なる(ハモる)。そういや対面した貴族には今のところ全員『聖晶貨(セントクォーツコイン)』の入った小箱を贈っているんだっけな。


 うーん、まあ不敬な事をされたのだし、嫌われているのに無理矢理贈り物をするのも何か違う気がしなくも無いが…… 。


「うーん、向こうにどう思われようと「贈らない」と言う選択肢は無いね。「誰々には贈ったのに誰々には贈らなかった」と言う噂が広まるのは、ウィルの立場からするとあまり宜しくないんだよ。他の貴族からハーヴィー辺境伯は「狭量(きょうりょう)な人物」と言う印象を与えてしまうからね。逆にこうした状況だからこそ()えて贈り物を贈れば「ハーヴィー辺境伯は度量の大きな人物」として認識される事になるし、フォックス子爵が受け取りを拒否すれば今度は彼が「狭量な人物」と言う認識を受ける事になりかねないからね」


 思い悩む俺にオルガからの的確なアドバイスである。まぁそう言う事なら、明日改めて面会する時に『聖晶貨(セントクォーツコイン)』を渡しても良いか。


 まあ半分以上は意趣返しみたいなもんだがなッ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……ねぇお父さん、なんでそんなに(いや)なヒトに気を使ったり贈り物をしないといけないの?」


 ここの宿屋に着いてからも俺の横でずっと黙っていたマーユが、皆んなが一通り話終えると俺の服の(すそ)(つか)みながらそう尋ねて来る。


 そんな幼気(いたいけ)な眼差しで見詰(みつ)められると、お父さんの方がいたたまれなくなるからヤメテッ?! それに説明するったってなぁ、どう説明すれば良いか……うーん。


「マーユ、君はまだ幼いから分からないだろうけど、貴族同士って言うのは君が思っている以上に複雑でややこしくて難しいんだよ。特にウィル──お父さんは結構偉い貴族さんになったから余計に、ね」


 俺が何と答えていいか考えあぐねていると、マーユに出来る限り優しく、そしてわかり易く教えるのはオルガ。その辺は流石に年の功である。年の功と言うのは失礼だが。


「ふーん、そうなんだぁ。お母さんも前に島で貴族さん達に会っていた時に、()()()()()をしていたんだけど、お父さんもさっき凄く暗い色だったから心配になっちゃったの。本当に貴族って凄く大変なんだね」


 だがオルガの説明に対するマーユの答えは俺達の想像の斜め上を行く答えだった!


 何だよ、()って?!?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「マーユ、その()って言うのは一体?」


「うん、えっとね──」


 今度は俺が質問し、それに答えるマーユ。彼女の話をわかり易く言い表すと──マーユには物心ついた時からヒトの体から発せられる()が見えるのだそうだ。


 それだけ聞くと何を言っているかさっぱり解らないが、この色と言うのはマーユだけが見えるものであり、最初は何だかわからなかったマーユも、大きくなるに従って()れがヒトのその時その時の感情や思考によって()が変わる事に気が付いたらしい。


 喜びや楽しいと言った好感情の時や善い心掛けのヒトは明るい色に見え、怒ったり哀しんだりと言った悪感情の時や悪い事を考えている時は暗くくすんだ色に見えるとの事だった。


 つまりはどんなに表面上では笑顔で()(へつら)っていても、腹の底で舌を出して悪い事を考えている(やから)を見抜く事が出来るのであり、(まつりごと)の頂点に立つ事になるであろうメロウ族の女王の後継者としては絶対的な能力(ちから)を有しているに他ならない。


 正に世の為政者(いせいしゃ)垂涎(すいぜん)の能力なのである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「マーユにそんな能力(ちから)があったなんて……」


 マーユの話を聞き終えて絶句する皆んな。勿論俺も含めてである。


「話からの推測ですが、マーユちゃんのはある種の『()()』の(たぐい)かと思われます。マスターの「魔力視認能力」も魔眼の一種とは思われます。さしずめマーユちゃんのは『正邪の魔眼』と呼ぶのが相応(ふさわ)しいかと」


 俺達が言葉を失っている中、ひとり自らの推測を口にするのはコーゼスト。確かにもうコレは魔眼と言っても過言ではないな。ん? そうすると──


「──もしかして最初に出会った時からマーユが俺に(なつ)っこかったのはその『魔眼』で俺の()を見たからなのか?」


「うんッ! ウィルお父さんはとってもキレイな虹の色だったんだよ! アンお母さんなんかもとってもキレイな白色だったの!」


 虹の様な七色のヒトは今までのマーユの経験則からたった1人、マディだけなのだそうだ。赤の他人である筈の俺が母親であるマディと同じ虹色だった事で、マーユは俺に絶対の信頼を置いたらしい。また真っ白な色と言うのも自分に対して十二分に好感情を持っていて庇護してくれるヒトになるそうな。


 因みにフォックス子爵は暗いオレンジ色から(たま)に赤が見えたそうな。


「成程、それでなのか……」


 マーユの答えに納得する俺。逆に今の答えを聞いて、今まで()に落ちなかった部分がハッキリとし、(むし)ろスッキリしたのは事実である。


 まさか俺の愛娘がそんな凄い能力(ちから)を持っていた事に驚きを禁じ得ないんだがなァ。


「そう言えばマスター。いつの間にかマーユちゃんの呼び方から(仮)(カッコカリ)が消えていますね」


 マーユの力に感心している俺にコーゼストからまさかのツッコミである。


 あれ? そういやいつの間にか無くなっていたな! 俺本人もあまりに自然過ぎて気付かなかったわッ!



このエーフネ市のフォックス子爵はハズレでしたね! 勿論このままで良い訳がありません。その辺のケジメはきっちり話をつけます!

それにしてもマーユちゃんの特殊能力にはびっくりですね! 世の中の為政者達が求めてやまない「正邪の魔眼」! これからも度々この能力が発揮される……予定です!

さてフォックス子爵に無視される形となりましたが次回はどうなるか? お楽しみに!



☆manakayuinoさんに描いていただいたサブヒロインの1人、自動人形のルアンジェのイラストを第47部四十四話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!


いつもお読みいただきありがとうございます。

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