とある村の驚異 〜西の狗と南の子鬼〜
本日は第189話を投稿します!
いよいよ南のゴブリン、西のコボルトの討伐の為に行動を開始したウィル達! 先ずは偵察から!
-189-
辺境伯として巡行で赴いたエリック・ローズ男爵が治めるシュシェシ村で、期せずして魔物討伐をする事となった俺達。
聞けばエリック男爵──エリックが治めるシュシェシ村の南の穀倉地帯から更に南にある開拓村の跡地には子鬼族の中規模な群れが棲み着き、更に西の原野には大規模な狗人の群れが居着いたらしい。
エリックはゴブリンの討伐依頼をラーナルー市の冒険者ギルドに出したが、その直後に現れたコボルトの追加の討伐依頼を出す予算が村に無く、彼1人でコボルトを追い払おうと準備を進めている最中に、俺達が立ち寄ったのであった。これは正直言ってタイミングが良かったのかどうか。
兎にも角にもここで何もしないのは道義に悖る事である。昔の言葉で「義を見てせざるは勇無きなり」とも言うしな。
俺達が討伐する事に最初は難色を示していたエリックも何とか納得させて、屋敷に1泊し翌日早朝に早速行動に移る俺達。なんと言ってもこっちの方が本職だしな。
「良しッ、先ずは偵察だ。南のゴブリンの方はスサナが、西のコボルトの群れはルアンジェがそれぞれ担当になって偵察して来てくれ。良いか、くれぐれも戦闘はするなよ? 下手に戦闘して警戒されても困るからな」
無限収納に仕舞っておいた軽鎧を着込んだ俺は、同じく準備済の皆んなと屋敷の外に出ると、スサナとルアンジェにそう指示を与える。
「はいっ! わかりましたッ!」
「ん、わかったわ。任せて」
それだけで彼女らは短く答え、それぞれに指示された方角に向かって素早く、そして静かに駆けて行った。
まあスサナは斥候が本職だし、ルアンジェに至っては普通のヒトよりも格段に優れた魔法生命体だし、特に問題は無いだろう。
俺達は2人が情報を持って帰って来るまで暫く屋敷で待機する事にした。
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それから1時間半ほど経って──
「戻ってきましたァ!」
「ただいま、ウィル」
スサナとルアンジェの2人がシュシェシ村の屋敷に戻って来た。
「2人とも、お疲れさん。それでどうだった? 状況を説明してくれ」
帰って来た2人を労いながらも偵察の結果を尋ねる俺。それを確認出来ないとどう言う風に行動するか、決めるに決められないからな。
「はいっ! それじゃあ私から先ず説明しますねぇ──」
俺の問い掛けに先ず手を挙げたのはスサナ。
「えっとですねぇ、村の南10キルトぐらいに有る村跡には、確かにゴブリンの群れが居ましたよぉ。数はざっと見て凡そ50匹ぐらいですねぇ。一応ゴブリンジェネラルの存在も確認しましたァ」
そう神妙な面持ちで説明をするスサナ。普段はあまり頼り無さげで口調もこうだが、うちの氏族に来てから数多くの実戦で鍛えられて、今では斥候としては極めて優秀な人材となっていた。
「そうか、良くやったなスサナ」
そう言うとスサナの蒼灰色の猫耳の頭を撫でる俺。マーユとは違い髪がふわふわもふもふである。
「えへへへぇーーッ」
撫でられているスサナも気持ちよさそうに目を細めてされるがままである。その様子を見ていると、亡くなった母さんが飼っていた猫のフェルロットをやはり思い出さざるを得ないんだが?
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「ん、次は私の番ね」
スサナの頭を撫でていたら今度はルアンジェが手を挙げた。そういや彼女の報告も聞かないとな。
「村の西、約20キルト付近の原野に約80体ほどのコボルトの群れがウロウロしていたわ。此方はコボルトナイト2体とロードが居る事を確認、かなり統率がとれている群れね。辺りの獣を狩りながら東──この村に向かって来ているわ。恐らく1週間も掛からずこの村に達しそう」
そう淡々と報告をするルアンジェ。話からするとコチラの方が由々しき事態になりつつある感じだ。実際開拓村跡に居着いたゴブリンよりもこのシュシェシ村に向かって来ているコボルトの方が遥かに驚異となりうるのは明白である。
「……そうか、ルアンジェも有難うな」
そう言って今度はルアンジェの頭を撫でる俺。だってスサナは撫でたのにルアンジェはしないとか、そんなの可哀想だからな。
「ん……ウィル、嬉しい♡」
撫でられるルアンジェもやはり目を細めて、とても気持ちよさそうである。
これって傍から見ると、単にほのぼのとした絵面だよなァ。
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「さて、と……それじゃあ作戦を立てるぞ」
エリックの屋敷の中、応接間に今一度全員で集まってそう口にする俺。俺の言葉に皆んなの視線が集まる。
「あーっと、ゴブリンとコボルトの状況はスサナとルアンジェから聞いた通りだ。なので俺達は二手に分かれてそれぞれにゴブリンとコボルトを伐つ事にする。何か異論があるなら言ってくれ」
俺の問い掛けに誰も何も言わない──どうやら異論は無いみたいである。俺はひとつ頷くと
「よしっ、それじゃあまずゴブリン討伐にはベルタがリーダーで、ユーニス、スサナ、フェリピナ、ルネリート、アリストフ、ヤト、スクルドで、コボルト討伐の方は俺、アン、エリナ、レオナ、ルアンジェ、マルヴィナ、コーゼスト、それとエリックとセレネ、ファウスト、デュークで担当する。オルガとルピィは悪いがマーユと一緒に屋敷で留守番を──」
していてくれと言おうとした正にその時
「私、お父さん達のカツヤクを目の前で見てみたいッ! ね、良いでしょ?!」
何とマーユからそう言う言葉が飛び出したのだ。
「うーん、それは……危険じゃないか?」
その台詞に思わず渋い顔をする俺。だがマーユは「やだッ! 絶対に着いていく!」と頑として譲らない。そういやマーユは前にもこんな風に駄々を捏ねてマディや俺達を困らせた事があったな……うーん、これは困ったぞ。
目の前で「やだやだやだッ!」と駄々を捏ねるマーユに頭を抱えそうになるが
「マスター、ここでマーユちゃんの機嫌を損ねるのは得策ではありません。そう言う事でしたら私がマーユちゃんを魔法障壁と物理結界でお護りしますので連れて行ってあげて下さい」
ここでコーゼストからの真逆の申し出である。うーん、それなら大丈夫……なのかな?
そこでふと視線を感じて目をやると、アン達討伐メンバーからの視線とオルガとルピィ2人組からの視線である。アン達は「仕方ないわね」と了承の意味を込めた、オルガとルピィからは「それなら私達も連れて行って」と言う懇願の意味が込められた視線である──やれやれ。
「……はァ、わかったわかった。全員で行く事にしよう。オルガとルピィ、それとマーユはコーゼストの傍を決して離れない、それが連れて行く条件だ」
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兎にも角にも話は纏まり、早速行動を開始する俺達。全員で行く事にしたので更に慎重に行動する。
先ずは従魔達全員を等身サイズで顕現し直した。尤もファウストとデューク、そしてスクルドを顕現したらエリックとシンシアとアリアは吃驚していたが。だが君ら、その前にリアルサイズの半人半蛇や女王蛾亜人に会った時はそんなに驚かなかったよなッ?!
色々と突っ込みたい所は有るが、それはとりあえず口に出さずに先程決めた通りにメンバーを二手に分ける。ヤトは「私は御主人様と一緒に居たいのに……」と始終グチグチ文句を言っていたが、ちゃんと言う事は聞いてくれるみたいである。
二手に分かれた俺達はそれぞれ西と南に向かって直ちに移動を開始した。ベルタ達南組は俺達西組よりも距離が短いので2時間も有ればゴブリンが居る開拓村跡に到着するだろう。上手くすると今日昼前には決着が着くかも知れん。
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「良し、此方も出発だ」
ベルタ達を見送った後に俺達も西の原野に向かって出発した。目的地まで凡そ3時間とちょっとの道程である。エリックの話だと原野の手前に疎林があるとの事なので、そこまでは西組で足が遅いオルガ、ルピィ、マーユの3人はデュークとファウストに運んでもらう事にした。体高2.5メルトまで大きくなったデュークの両肩にオルガとルピィが乗り、マーユはやはり体長2メルト程になったファウストの背に乗っての移動である。
「うわぁ〜、ファウストの背中っておっきいぃ!」
マーユはファウストの背中に乗ってやたら御満悦である。それにファウストも。
「マーユ、何時までも燥いでないで、ちゃんとファウストの背中にしがみついて居ろよ? ファウストもマーユを頼むな」
「はぁーい、お父さん!」
「「ヴァンヴァン!」」
俺の言葉にマーユは元気良く返事を返し、ファウストも「任せろ」と言わんばかりに尻尾をぶん回しながら大きな吠え声で返事を返して来る。
「オルガ、ルピィ、どうだ? デュークの肩の上は?」
マーユとファウストに声を掛け終えると、今度はデュークの両肩に座るオルガとルピィに声を掛ける俺。
「うん! これは眺めが良いね! 最高だよ!」
「で、でも私には高過ぎて少し怖いですぅ」
2メルト超えの高さからそう答えを返してくる2人。その答えも各人各様である。
「ははっ、そこは慣れてくれとしか言えないな。デュークも2人の事を頼むな」
「はい」
2人の答えに苦笑いを浮かべながら、デュークにもそう声を掛ける俺。デュークは短く答えるとひとつ小さく頷く。
良しッ、それじゃあ行くとしますかッ!
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それからほぼ3時間で目的地手前の疎林に着いた。ルアンジェの話だとこの疎林は10分程で抜けられるそうな。だとするとここからは本気で気を引き締めて進む必要があるな。なのでここからはオルガとルピィにはデュークから降りて貰い、徒歩でついて来てもらう事にした。マーユはそのままファウストに乗ったままである。
そう言えば此処に来るのに際し、うちのメンバーは兎も角エリックが俺達の移動速度について来れたのには驚いた。その辺は流石鍛えていると見える。
あとそれとデュークが音も立てず、且つ肩に乗るオルガとルピィが酔わない様に揺れを抑えて静かに歩いていたのにも驚かされたが。
「ウィル、こっちよ」
偵察をしてきたルアンジェが先頭に立ち、俺達を誘導してくれる。オルガとルピィを降ろしたデュークは体高を1.8メルト程に縮め、隊列の一番後ろを歩くオルガとルピィ、そしてファウストに乗るマーユの傍に3人の護りとして付く。
「……良し、行くぞ」
俺の小さな声に皆んな頷くと、ルアンジェの先導で疎林へと足を踏み入れたのであった。
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ルアンジェが言った通り、疎林を10分程で通り抜け、更に原野をコボルトの群れ目指して慎重に移動する。コボルトは鼻が利くので風下から回り込んでいるので、多少時間が掛かったが、それでも凡そ15分程で目的の群れの近くまで来た。
「アレか……」
近くとは言ったが、実際には群れから20メルトも離れていない所に点在する岩陰に、である。
奴等は耳も良いのだが、群れに接近するにあたりセレネが「丁度良い結界魔法があるわ」と、俺達全員を特殊な結界に包んでくれた。何でも『消音結界』と言う結界の外に音を漏らさない様にする結界魔法で、蛾亜人──より正確には女王蛾亜人だけが使える特殊な結界なのだそうだ。
因みにコボルトは目がすこぶる悪いので、かなり接近しないと相手の姿形がわからないらしい。主に相手を匂いと音で判断しているのだとは、ギルドの魔物図鑑に書いてあったのを思い出す。
「……奴等、かなり油断していますね」
俺の傍で一緒に岩陰からコボルトの様子を見ていたエリックが小声でそう呟く。確かにコボルト達は何かだらけている感じで、その場に座り込んだり中には寝転がっている奴までいる。
「──生命感知センサー、動体センサー全起動。周囲200メルト内に他のコボルトの反応もですが他の動物の反応もありません。様子から推測するに恐らくはこの周辺で狩りをした直後なのではないかと思われます。狗人王は格50、順位はA、技能は指揮を保有。士卒狗人2体は共にレベル47、ランクはB+、スキルは守護を保有。あとはレベル34から40、ランクC+からBのコボルトが全部で78体ですね」
コーゼストは感覚端末を駆使して周囲の様子とコボルト達の情報を調べた結果と、奴等の状況の推測を報告して来る。
因みにコーゼストが自動人形なのはエリックには最初に説明済である。尤も本体は俺の左腕に有る有知性魔道具だとは言ってないが。
「……良し、全員で一斉に突っ込むぞ。コーゼストとファウストはオルガ達3人を護れ」
俺はそう言うと左腰に下げた刀に手を掛けたのだった。
人手を二つに分けてゴブリンとコボルトに対処する事にしたウィル! 確かにその方が効率的ですが、マーユちゃん達もついて来てしまいましたね。これがこの後ウィル達の討伐戦に影響を……一切与えません(笑)なのでどうか安心して次回もお読み下さいませ! 次回はいよいよ戦闘開始です!
☆manakayuinoさんに描いていただいたサブヒロインの1人、自動人形のルアンジェのイラストを第47部四十四話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




