西方への帰還 〜姦しくも賑々しく〜
本日は第178話を投稿します!
長い航海の末、いよいよウィル達を乗せた『オーシャン・ソード』の進む先に見えてきたのは──?!
-178-
荒れる海の荒波を断ち割るかの様に突き進むは白き大剣『大海の剣』。東方大陸を発って既に29日目を迎えており、ちらほらと見慣れた島影を遠くに見る様になって来たらしい。
「そろそろ西方の陸地に近付いているんだろう、な」
宛がわれた船室のベッドの上で横になりながら、拡声器から聞こえて来る船橋の報告に独り言ちる俺。多分アン達も同じ思いだと思う。
「恐らくは明日にはこの荒波も収まるかと。それにしてもマスターもすっかり船酔いしなくなりましたね」
俺の言葉にベッドの横で椅子に座るコーゼストが律儀にそう答えてくる。
「そらまあ、最初は何もかもが初めて尽くしだったし、な……」
コーゼストの台詞を聞いて苦笑を浮かべる俺。やっぱり何事も慣れってのは大切だよな。恐らくは他の船室に居るアン達も同じ思いだと思う──さっきも言ったが!
そう考えていると不意に腹がグゥと鳴る。そういやそろそろ昼飯の時間だな。
俺はベッドから飛び起きると食事を摂る為に食堂へと向かうのだった。そしてその2日後── 。
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『陸地が見えたぞーーーッ!』
拡声器から聞こえて来た声に、俺達皆んなで甲板から船首の先へと目をやる。遥か海の彼方にぼんやりと見えているのは黒々とした島々の影。間違い無い、あの影像は海蠍と戦い、マディを助け出した群島のシルエットだ。
「戻って来たんだね……」
目に見える島影にそう呟くオルガさん──と言うか、アンタは船橋に居なくても良いのか?
「ああ、戻って来たんだ──俺達は」
思わずツッコミたくなる所をグッと我慢してそう相槌を打つ俺。その辺は流石に空気を読むぞ?
一方アン達も口々に「戻って来たわね」と島影を指差して中々に姦しい。
「私も2年振り……かしらね、本当にこの大陸も久しぶりだわ」
此方もいつの間にか俺の傍に来ていたルストラ師匠が懐かしげに言葉を漏らす。師匠は結構前に向こうに渡っていたンだな。かく言う俺達も久し振りの故郷であるのだ。嫌が上にも盛り上がるのは勘弁して欲しい。
そうこうしている間にも『大海の剣』は群島の近傍を通り過ぎ、小型の船の姿が多く見受けられる頃に前方に見えて来たのは、この旅の出発地であるレーヌの街並みと港。
その風景が見る間に近付いて来るのを感じる。やがて『大海の剣』は主推進機である魔導推進機を停めると、前後の側方推進機を稼働させてレーヌの港の埠頭へと、その巨体を静かに横付けする。
こうして俺達は約4ヶ月振りに故郷であるルォシーの地へと戻って来たのである。
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埠頭に着けられた『大海の剣』から大きな錨が下り、繋船柱にロープが架かると、左舷側から舷梯が埠頭に降ろされて、先ず俺とオルガさん、コーゼストがルォシーの地に足を着ける。次いでアンやエリナ、レオナやルアンジェ、フェリピナ達、ルストラ師匠と爬虫類人のゾラが埠頭に降り立つ。因みにヤトやセレネ達にはコーゼストの中で大人しくして貰っていたりする。
「ふぅ……」
「何だいウィル、そんなに大きな溜め息を付いたりして?」
俺の口から出た大きな溜め息を聞き付け、顔を覗き込みながらそう尋ねて来るオルガさん。因みに彼女には「君」付けは止めてもらっている。
「いや、特に意味は無いんだが……ここの地面に足をつけたらホッとした」
俺が感じたままを口にすると納得がいったらしく
「そうだねぇ……かく言う私もホッとしたよ」
そう言って笑みを浮かべるオルガさん──ん? 今なんて言った?
「オルガさん、今「私」って言ったよな?」
「うん、そりゃまぁ、ね。なんと言ってももう自分を偽る必要も無いしね。これからは一人称は「私」にしようかなぁ、と。でも偶に気を抜くとつい「僕」って言いそうになるけど……」
そう言って苦笑を浮かべるオルガさん。そりゃまぁ、そうだよなぁ。
「さてと、とりあえず先ずはレーヌの冒険者ギルドに顔を出すとしようか!」
気を取り直したみたいに両手を握り締め、ふんすっと気合いを入れてそう声に出すオルガさん。どうやら宿を探すのもギルドに頼むらしい。モデスト船長以下船員はこのまま船に留まり入港手続きや船の整備をするのだそうだ。
俺は後ろに続くアン達に声を掛けて、皆んなと共にギルドの庁舎へと向かうのだった。
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明けて翌日──ギルドに指定されている宿屋「チヌーソ」の大部屋のベッドで目覚める。因みに師匠とゾラはそれぞれ別の一人部屋である。
目を覚ますと毎度の事ながら俺の膝の上はヤト、セレネ、ファウスト、デュークの短身サイズ達が仲良く並んで占拠していた──どうやら今回は戦いは勃発しなかったみたいである。コイツらはこれからもチビサイズで顕現させておくと、無駄な争いが起きなくて良いかもしれん。
そう思いつつ辺りに首を巡らせて見ると、俺の傍にはアン、エリナ、レオナ、オルガさん4人の奥さん(仮)と、フェリピナ、マルヴィナ、スサナの3人プラス、ルアンジェまでもが寄り添い合う様に寝息を立てている。本当に君達も相変わらずだな?! その様子に思わず苦笑していると
「おはようございますマスター」
ベッドの脇で椅子に座っていたコーゼストが皆んなを起こさない様に小さな声で朝の挨拶をして来る。
「おう、おはようコーゼスト」
首を其方に向けてやはり小声で返事を返す俺。
「皆さん、爆睡ですね。アン達は兎も角ファウスト達までも」
「そらまぁ、皆んな長旅を終えてホッとしたんだろう」
「そうですね──やはり生まれ育った地と言うのは特別なモノなのでしょうね。かく言う私もいつもより少し気分が高揚していますが──時にマスター」
「ん? なんだ?」
「そろそろ起きた方が宜しいかと。何時もより2時間ほど遅い起床ですが?」
「ッ?! そう言う事は早く言えよなっ!」
コーゼストの至極真っ当な指摘に慌てて皆んなを起こす俺。
流石に2時間は寝過ごし過ぎだ!
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2時間と言う大寝坊をしてしまったアン達と俺は遅めの朝食を摂ってから、師匠とゾラと共に退館手続きをする。因みに師匠らはいつもと変わらない時間に起きて朝食を摂り、俺達が起きて来るのをゆっくりと待っていたのだそうだ。
「仕方ないわよ。皆んな、ホッとしたんでしょう」
師匠はそう笑いながら許してくれたが、続けて
「でも本当は自分の拠点に無事帰り着くまでが「旅」なんだけどね」
と旅の熟練者らしいアドバイスもしてくれた。そらまあ確かに以前ツェツィーリア共和国の迷宮『混沌の庭園』に行った時は俺もそう思っていたが、今回は本当に色々とあり過ぎた──いや、ホントに!
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兎にも角にも昨日でギルドへの報告は済んでいるので、あとはここのギルドの非常用転移陣でオールディス王国王都ノルベールのギルド本部へ戻り、先ずはオルガさんとゾラを送り届けてから、俺達の拠点であるラーナルー市へと還る、と言う手順となる訳だ。
まぁ本当は王都に着いた時点で王城に登城してエリンクス・フォン・ローゼンフェルト国王陛下に謁見しなくてはならないのだが、その辺はオルガさんに丸投げさせて貰う事にした。一刻も早く自分の屋敷に戻りたいのもあるが、ただ単に面倒臭いからでもある。
「それじゃあ皆んな、忘れ物は無いね?」
冒険者ギルドレーヌ支部の転移陣部屋の中央で、そう声を掛けてくるオルガさん。俺達皆んなが頷くのを確認すると、担当職員に合図を送り担当職員が管理端末を操作する。すると部屋の床一面に描かれた転移の魔法陣から光が溢れ始めて、眩い光に包み込まれる俺達は眩しさに思わず目を瞑る。何度も転移陣を使っているが、どうしてもこの眩しさには慣れないな。
やがて閉じた瞼越しに光を感じなくなり、目を開けるとそこは何度も見慣れた広い部屋の中。
「皆んな、お疲れ様っ! 無事王都ノルベールに還って来れたよ」
そう嬉しそうに声を上げるオルガさんと相変わらず無口なゾラ。だがその尻尾はゆったりと揺られていてゾラの機嫌を表しているみたいだ。
こうして俺達はグラマスとゾラの2人を無事に王都ギルドへと連れ帰る事が出来たのである。
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国王陛下との謁見はオルガさんに丸投げし、俺達はオルガさん達を王都ギルドに送り届けると、再度転移陣を使い今度こそ拠点であるラーナルー市の冒険者ギルドへと転移して来た。
とても見慣れた、だがとても懐かしく感じる転移陣部屋を出ると、その足でラーナルー市冒険者ギルド統括者であるヒギンズのおっさんの執務室へと向かう。今日還って来る事は昨日遠方対話機で既に連絡済である──まぁ多分大丈夫だろう。
執務室ではギルマスが執務をしている最中で、顔を出した俺達を見て吃驚していたが同時に、「良く無事に帰って来たな」と労いの言葉を掛けてくれた。そしてひと通り言葉を掛け合うと、今度は近くに居た職員に声を掛けるギルマス──そして
「アナターーーーーッ! お帰りなさーーーいッ!!」
執務室内に響く若い女の声。ギルマスが気を利かせて階下の受付帳場で仕事をしていたルピィを呼んでくれたのだ。
部屋に入るなり脇目も振らず俺に抱き着いてくるルピィを、しっかりと抱きとめながら
「おっと! ははっ、ただいまルピィ」
そう声を掛ける俺。後ろではアン達が笑みを浮かべていたりする。ルピィは暫く俺の胸に顔を埋めていたが
「無事に帰って来てくれて何より嬉しいです! 本当にお疲れ様でしたッ!」
と顔を上げて潤んだ目で俺を見詰めてくる。そして続けて
「アナタの居ない間は、私がしっかりとハーヴィー伯爵第三夫人として頑張って、お屋敷を盛り立てておいたから安心してッ!」
と満面の笑みでそう宣うルピィさん。
それはそれで何だか不安でいっぱいなんだが?!
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「んんっ! まぁ、それはそれとして──」
漸く抱き着くのを止めて体を離したルピィが話を切り出す。
「ん? どうしたルピィさん?」
「また新しいオンナが増えたって本当ですかッ?!」
いきなり真顔でそんな事を宣うルピィと、思わず前につんのめる俺! それはそれでイキナリだな?!
後ろではアン達が笑いを堪えているらしく、クックックと小さな声が聞こえてくる──キミタチもシツレイだな?! そらまあ事実ではあるが少しは手助けする気は無いのか?
「あーっと、それも話さなきゃならないんだが、その前にルピィとギルマスに紹介したいヒトが居るんだ……」
とりあえずちょっとした暴走気味なルピィの事は無視して、今度は俺から話を切り出す。
「ん? なんだ何だ?」
「ブツブツブツブツ……はっ!? えと、はいっ! 誰をですか?」
ギルマスは兎も角、何なんだ今のルピィの呟きは?! 色々ツッコミたくなる所をグッと堪えて師匠に手を向けて
「えっとな、このヒトはルストラ・フォン・モーゼンハイムさん。俺の武術の師匠であり、冒険者としても大先輩に当たる人だ。ルピィはともかくギルマスなら名前ぐらいは聞いた事があるんじゃないか?」
2人にアン達に言ったのと同じ紹介をする俺。
「「え、ええぇぇぇぇッ?! そんな有名人がウィルの師匠?!?」」
俺の言葉を聞いて驚きの声を上げるギルマスとルピィと苦笑いする師匠。
ギルマスは兎も角、ルピィが師匠の事を知っていたのに逆に俺が吃驚したわ!
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師匠の紹介も済んで、屋敷に戻る旨をギルマスに告げて執務室を辞する事にした俺達。因みにギルマスとルピィの2人から聞くに、師匠はギルド職員達の間ではかなりの有名人だったのだそうだ──その数知れぬ逸話とともに。そのうちの幾つかを本人から聞かされている者としては、苦笑を禁じ得ないのだが。
兎にも角にもルピィも今日は早退して屋敷に一緒に帰っても良い、とはギルマスの弁であるが中々に気を使ってくれたりする。
「では帰りましょうか、ア・ナ・タ♡あっ、ちゃんと帰り道にさっきの事は洗いざらい話してもらいますからね♡」
俺の腕をガッチリ捕まえてニッコリと笑みを浮かべるルピィと
「「「「「「これは流石に仕方ない(わね)(ですよね)」」」」」」
と何事かを納得しているアン達の対比が何とも言えない。
こうして俺とアン達は久しぶりに自分達の住処である屋敷へと戻って来たのであった。
そういやルピィさんや、キミはまだ師匠への挨拶が済んでいないよな?
遂に自分達のホームである西方大陸に戻ってきたウィル達! 約4ヶ月に渡る冒険も終わりとなりました! そして同時に「思えば東方に来たもんだ!編」もこれで終わりとなります!
次回からは新章、ウィル達の相変わらずのドタバタ振りをこれからもお楽しみに!
☆manakayuinoさんに描いていただいた海賊団「黒百合団」の頭領ジータのイラストを第141部百三十三話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




