師匠と武技と婚約者の彼女と
本日は第175話を投稿します!
突如現れたS+ランクの魔物アスピドケロン! それに対峙するルストラ師匠! 果たして?!
前話から読んで頂くと話が良くわかるかと思います(宣伝)
-175-
東方大陸から西方大陸への帰路、魚人族の ” 水路 ” で俺達が遭遇したのは、順位S+の災禍級の魔物である『鯨亀』!
「ハァァァーーーーーッ!!」
その圧倒的な存在に思わず怯む俺達を尻目に、黒檀拵えの戦杖を槍の様に構え、鋭い気合いの声と共にアスピドケロンに飛び掛るルストラ師匠──あの構えは──皇竜砕牙か?!
アスピドケロンの頭部の高さに達するが早い、師匠はバトルスタッフを一閃! その額に相当する部位目掛け鋭い「突き」を打ち込んだ! 次の瞬間に辺りに響き渡るのは、鋼の様な硬く澄んだ音!
「ヴオォォウッ?!」
その瞬間、威嚇とは違う叫び声を上げるアスピドケロン! 良く見ると額のところが大きな陥没しているッ?! 師匠はバトルスタッフを打ち込んだ反動を利用して、何事も無かったかの様に船の甲板に戻って来ていた!
「オォ……オ……オ……オ…………」
一方、額を陥没させたアスピドケロンは声にならない声を漏らすと、白目を剥いて擡げていた頭を海面へと落とす! そしてそのままピクリとも動かなくなり、海流に流され始めた。
「ふぅーーーッ」
『大海の剣』の甲板に立ち、大きく息を吐くルストラ師匠。あまりの出来事に言葉も出ない俺達。
流石にコレは規格外過ぎないか、師匠?!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局、ルストラ師匠のたった一撃でアスピドケロンは失神し、『大海の剣』は動かなくなったアスピドケロンの横を無事に通り過ぎる事が出来た。
「あのアスピドケロンを一撃だなんて……」
「ルストラさんッ、凄すぎですッ!」
「ルストラさんッ! いや、これからは師匠と呼ばせてもらいますッ!」
「ん、流石はウィルのお師匠様。流石の強さですね」
「「「ルストラさん、凄いですッ!」」」
船上ではアン、エリナ、レオナ、ルアンジェ、そしてフェリピナ達が口々に賞賛の言葉を発し
「いやぁ、話には聞いていたけど……改めて凄まじい腕前だねッ! 流石だよルストラさんッ!」
オルガさんはオルガさんで師匠を絶賛し
「流石は御主人様のマスター! 強いわね! 今度は私と戦ってくれるッ?!」
ヤトはヤトで師匠の規格外の強さに手合わせを所望し
「もうヤトったら……でも私達魔物と呼ばれるモノ達は強さこそが全てですからね。私も機会があれば一度お願いしたいですわ、御主人様のお師匠様♡」
セレネはセレネでヤトを窘めているのか、自分も混ぜろと言っているのか訳が分からない事を口走るし
「災禍級と言われるアスピドケロンをたったの一撃で黙らせるヒトは、私の記憶領域にも記録が有りませんね。これは確かに賞賛に値するかと」
終いにはコーゼストまでもがそう師匠を評する始末。あちこちから言われるだけ言われた師匠も困り顔だ。もう何がなんだか──はぁ。
「あーっと、皆んな。ちょっと1回落ち着こうか?」
完全にお祭り騒ぎになっている全員に、師匠へ助け舟を出すべく声を掛ける俺。
女3人と鵞鳥1羽で市が出来るとは、本当に良く言ったもんだな!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ……ありがとうウィル、お陰で助かったわ」
漸くアン達から解放され、苦笑いを浮かべながら俺に礼を言ってくるルストラ師匠──色々お疲れ様でした。
「いや──それより師匠、俺からもひとつ聞いても良いか?」
そんな師匠に此方も苦笑を返しながら、さっきから気になっている事を尋ねる俺。
「うん? 何かしら?」
「さっきアスピドケロンに使った武技、あれは唯の ” 皇竜砕牙 ” じゃなかったよな?」
俺の質問に一瞬だけ驚いた顔をすると、次には笑顔で
「流石ウィル、良く見ていたわね」
と感心して来る師匠。
「そらまあ俺も師匠から伝授されて結構使っている武技だし、それなりにこの武技を理解しているしな」
俺がそう答えると満足気にひとつ頷き
「ふふふっ、そうよね。で、さっき使ったのは ” 皇竜砕牙・衝破 ” と言う武技よ。普通の皇竜砕牙が狭い ” 面 ” の破壊をするなら ” 衝破 ” は唯の ” 一点 ” に対する破壊を目的にした武技になるわ」
笑顔でその武技の特性を教えてくれる。
「そんな派生型があったなら何で教えてくれなかったんだ?」
それを聞いて至極真っ当な意見を述べる俺。すると師匠は
「昔のウィルにはそこまで使いこなせる力量が少し不足していたからよ。でも今なら大丈夫そうね。この航海中、みっちりと教えてあげるわね」
満面の笑みを浮かべるとそう宣う──それはもう物凄く良い笑顔で。どうやら迂闊に薮を突いて大竜蛇を起こしたみたいである。
やれやれ…… 。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんなこんなで更に5日経ち、中継地であるオーリーフ島まであと3日となった頃──
「ハアァァーーーッ!!」
俺の木刀の突きを受けて、甲板に置いてあった木人形の重甲冑が深く穿たれ、その背後が吹き飛ぶ!
「「「「「「「「「おお〜ッ」」」」」」」」」
それを近くで見ていたアン達からは感嘆の声が上がった。
「うんっ、こんな短期間で会得するとは流石ね、ウィルッ!」
俺の後ろでは指導していた師匠が、嬉しそうにそう話し掛けて来た。
アスピドケロンの一件のあと師匠はその言葉通り、俺に ” 皇竜砕牙・衝破 ” を指導して来たのである。最初はその発動に苦労していたが、以前ファウストの技能である破滅の咆哮が俺も使える事を確認するだけして放置していたのを思い出し、物は試しとばかりに使用して見たら意外とあっさりと使える様になった。
まぁ破滅の咆哮も ” 衝破 ” も同じ性質を持つ衝撃波だったから、コレはこれで正解らしい。
それで今やっている事は、発動させた衝撃波を「一点に絞り込む」訓練だ。これにもそれなりに苦労したが、何とか3日ほどでこれも習得する事が出来た。そして今は──ご覧の通りである。
「良しッ! それじゃあ次は私と手合わせをしましょう! さあ構えなさいッ!!」
何やら1人で納得すると、そのままバトルスタッフを構えるルストラ師匠──それはもう本当に物凄く爽やかな笑顔で。
「オテヤワラカニオネガイシマス……」
その笑顔を見て顔を引き攣らせながら、棒読みの台詞を口にする俺。
ここからが実践訓練本番だったのをすっかり忘れていた!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんな事があった更に翌日──
『魔動波探知機に反応! 前方正面より接近する船影確認! 距離10キルト!』
今日も今日とて甲板上で師匠と実践訓練をしていると、船橋からの報告が拡声器で俺達に伝えられた。
「船だって?」
「あらっ、珍しい。何処の船かしらね?」
その報告に訓練の手を止めて『大海の剣』の前方に視線を送る俺と師匠。訓練を一緒になって見ていたアン達も同じ様に視線を向ける──が、当然俺の目に見える訳が無い。そりゃそうだ。
「んー、ルアンジェ、コーゼスト、何か見えないか?」
そこで俺は視力が常人離れしたルアンジェとコーゼストに確認してみる。
「ん、確かに船が居るわ。ただどんな船かは分からないけど」
「ただ、此方に向かって来ているのは1隻だけの様ですね」
俺の問い掛けにそう答える2人。流石に10キルトともなると直ぐには判別はつかない、か。そんな事を思いつつ、暫し前方に意識を集中していると
「ウィル、見えてきたわ。あれは──ジータの船よ」
先ず最初にルアンジェがそう教えて来てから
「ルアンジェの言う通り、アレは『ヴィテックス』号ですね。間違いありません」
ルアンジェに続きコーゼストが、そう見えて来た船の事を伝えて来る。しかしジータのヴィテックス号か…… 。まさかわざわざ出迎えに来たとかじゃない、よな?
そんな事を思いつつ更に数分後、先に停船した『大海の剣』の右舷に接近し、ゆっくり接舷するヴィテックス号。やがてヴィテックス号も完全に停船し、両船の間に渡り板が渡されると
「──ウィルッ!!」
一目散に渡り板を駆けてきて、そう俺の名を呼びながら抱き着いて来たのは──俺の嫁さん予定者の1人であるジータその人であった。
「おいおい、本当に出迎えに来たのかよ?!」
思わずツッコミを入れる俺。するとジータは
「アンタが向こうを発つ日がわかっていたからね。大体この日ぐらいかと当たりを付けて ” 水路 ” の哨戒に出ていたのさッ! まさかこんなにバッチリ会えるとは思いもしなかったけどねッ!」
俺に抱き着いた身体を離すと、そう言ってまた抱き着いて来る。
今日はいつにも増して情熱的だな、ジータさん!?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「えーっとウィル? 彼女は?」
俺に抱き着いて離れないジータを見てそう声を掛けて来る師匠。そういやジータとは初対面だったな。俺は未だに抱き着いているジータを引き剥がすと
「あーっと師匠、彼女はジータ。この前話した俺の嫁さんになるヒトの1人で、元海賊団の頭領だったんだ──ジータ、このヒトがこの前話した俺の師匠のルストラ・フォン・モーゼンハイムさんだ」
師匠とジータを改めて対面させてそれぞれに紹介する。
「あらっ、貴女がジータさんなのね! ルストラよ、宜しくねッ!」
ジータと聞いて人懐っこい笑顔を見せる師匠と
「えっ?! このヒトがウィルのお師匠さんなのかい?! あっ、は、初めましてルストラ師匠さんッ! アタシはジータって言いますでしゅッ!」
対照的にいきなり緊張して変な挨拶をするジータ──君、今最後に噛んだだろ? 師匠の後ろではアン達がジータの思いもよらない醜態に笑いを堪えていたりする──キミタチも少しはお目溢ししてあげなさいっての。
「あははっ、そんなに緊張しなくても良いわよジータさん。貴女はウィルの大切な人の1人なんだから」
そんなジータの様子に笑って緊張を解く様に声を掛ける師匠。一方のジータは「は、はいっ! あ、ありがとうございます!」と未だ無駄に緊張していたりする。
「ジータ……そんなに緊張しなくても師匠は別に獲って食ったりしないから大丈夫だぞ?」
思わず苦笑を混じえてジータの緊張を解す為にそんな冗談を飛ばす俺。
「「「「「「「「ウィルがジョークを飛ばすなんて……」」」」」」」」
師匠の後ろではアン達が今度は顔を見合わせてヒソヒソ話しているが──君達、良く聞こえているぞ?
「マスターの場合、日常がジョークみたいな物ですけどね」
いつの間にか俺の横に来ていたコーゼストがそんな事を宣ったりする。
良し、この件についてはオーリーフ島に着くまでの間、じっくりとお説教な!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんなやり取りをした後、アンやエリナ、レオナやオルガさんにフェリピナ達にも改めて挨拶を済ませたジータは、「あたしは先にオーリーフ島に戻ってマディやマーユに知らせておくからね♡」と言ってヴィテックス号に駆け戻ると、舷側から櫂が何本も出して急速に船を左に回頭、そのまま帆を張るとオールで漕いで速度を上げてオーリーフ島へと戻って行った。どうやら水流推進機を使ったらしいがそんなに急がなくても…… 。
「あれはどちらかと言うと……ジータは自分が誰よりも一番最初にマスターと話したと、マディさん達に自慢したいだけなのではないでしょうか?」
意気揚々と帰って行くヴィテックス号を見送りながら、そう口にするコーゼスト。うん、まあ、俺もそう思ったよ!
「うふふっ、これはウィルもうかうかしているとお嫁さん達の尻に敷かれそうね」
同じくヴィテックス号を見送りながら、笑みを浮かべてそう不穏な文言を宣う師匠。
「それ、冗談にならないから止めてくれよ、師匠……」
師匠の一言にがっくり肩を落とす俺。それでなくても今でも肩身が狭いんだからな?!
「核心を突かれましたね、マスター?」
「うぐっ?!?」
俺の様子にクスリと笑いながら言ったコーゼストの台詞に軽く打ちのめされる俺。お前は少し黙っていようか?! ふと見ると、師匠の後ろではアン達が笑いを堪えて肩を震わせている。
「もう……好きにしてくれ……」
そんな周りに手を上げてしまう俺。または開き直ったとも言う。
そしてそんな事があってから2日後──俺達を乗せた『大海の剣』はメロウ族の住まう島オーリーフのルルン湾に再び錨を下ろしたのだった。
強力な魔物であるアスピドケロンを一蹴! 流石規格外の強さを誇るルストラ師匠です!
それにしても次に遭遇(?)したのがまさかのジータ?! ウィル達の航海スケジュールを読むとは……こちらも流石海のオンナです!
そして遂に中継地であるオーリーフ島に到着しました! 次回はオーリーフでのドタバタをお送りします! お楽しみに!
*皇竜砕牙・衝破…………ルストラ師匠が使う武技の1つ。普通の皇竜砕牙が狭い ” 面 ” の破壊をするなら ” 衝破 ” は唯の ” 一点 ” に対する破壊を目的にした武技である。
☆manakayuinoさんに描いていただいた海賊団「黒百合団」の頭領ジータのイラストを第141部百三十三話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




