西への帰路 〜恋路と伝承と大樹と〜
本日は第173話を投稿します!
いよいよ西方大陸への帰路に着いたウィル達一行! とりあえずは順調そうな旅ですが……?
-173-
広大な東方大陸の原野に延びる街道を1台の竜車が駆けて行く。ドラゴンキャリーに乗り込んでいるのは無論俺達『神聖な黒騎士団』のメンバーと西方大陸冒険者ギルド最高統括責任者のセルギウス改めオルガ女史、そして──
「うーんッ、本当にドラゴンキャリーと言うのは乗り心地が抜群よね!」
もう1人、フェンチェンの町で偶然再会した俺の師匠であるルストラ師匠も乗っている。彼女はここドゥンダウ大陸に親友の墓参りの為に訪れていたが、たまたまフェンチェンの町で厄介事に見舞われていた際に俺達と出会い、俺の結婚式に出るが為に俺達のルォシー大陸への帰路に同行しているのだ。そしてあとは──
「ふぅ、本当に快適だわァ。こんなに快適だと普通に宙を飛んだり地を駆けたりするのが面倒臭くなるわねぇ♡」
「そうよねぇ〜、もういっその事ヴィーごと向こうに連れて帰りたいわねぇ♡」
ドラゴンキャリーの客車の一番後ろの席を陣取る2人(2匹)の魔物──女王蛾亜人のセレネとご存知ラミアのヤトまでもがそんな事を宣っていたりする。因みにヴィーとはこのドラゴンキャリーを曳く地竜の事であり、ヤトが勝手に命名した名前である。どうでも良いが君達は魔物としての誇りとか無いのか? 特にセレネ、君はつい最近まで野生の魔物だったよな?
そんなヤトとセレネの台詞を聞いて思わず苦笑いを浮かべる俺。まぁドラゴンキャリーに関してはアン達の評判も良いので、本気で導入を検討していたりする。尤もそれにはグランドドラゴンを飼う為の厩舎をどうするか、と言う問題を解決しなくてはならないのだが。
そんな様々な者達の思いを乗せたドラゴンキャリーは街道を一路、次の目的地であるドゥングアの町へと向かって車輪の音を響かせて行くのであった。
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迷宮『黄昏の城』手前の町フェンチェンから来た道を戻るように帰路に着いた俺達は、この旅の始まりの町である港町ドンチュワンに再び立っていた。ここからルォシー大陸冒険者ギルド所有の高速船「大海の剣」に乗り、荒れる海を渡りルォシー大陸へと戻るのである。
尤もそれには魚人族の ” 水路 ” を使うのでかなりの時間短縮となる、と思う。まぁ途中でマディやマーユやジータが待つオーリーフ島には寄る事になるのだが。
兎にも角にもまずはこの町にある冒険者ギルドに寄り、こちらのグラマスであるトゥ・シンイェン女史を呼んで貰う事にした。
トゥ女史は非常用転移陣で直ぐにやって来て、大人の女性になったオルガさんを見て物凄くびっくりし、魔法生命体の身体になったルアンジェにびっくりし、自動人形となったコーゼストを見てびっくりし、ルストラ師匠の事を聞いてびっくりと、四度もびっくりしていた。一方でセレネの件は既にフェンチェンの冒険者ギルドから報告を受けていたらしく驚かれる事は無かったが。まぁあまりにも驚く事が多過ぎたのかも知れん。
そののち無事『黄昏の城』を攻略した事を報告し、前回同様にギルド指定の宿を紹介してもらう俺達。何せただでさえうちのパーティーは大所帯なのに、従魔とヒトのメンバーが増えているのだ。かなりの広さがある宿屋でないと泊まれないからな。
そして紹介されたのは宿屋『金羊亭』と言う前回より大きな宿屋で、俺達のパーティーメンバー+オルガさん+現実体のヤトとセレネと仮想体のファウストとデューク全員が居ても余裕の大部屋を借りる事が出来た。
「さて……と、漸く腰を落ち着けて話せるね」
部屋に入って皆んなが落ち着いた頃、オルガさんがそう口を開く。
「モデスト船長には出航準備を頼んでおいたけど、食糧の積み込みに2日欲しいんだそうなんだ。なので今日明日は休息日としようと思うんだよ。何しろこの先しばらくは海の上だしね」
これからの予定を口にするオルガさんに一様に頷き賛意を示す俺やアン達。
まぁ後は帰るだけだし、あまり急ぐ必要も無いからなァ。
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『金羊亭』に泊まった翌日、俺は何時もより少し遅く目を覚ました。昨夜寝る前に師匠が「出航前の休息日は鍛錬を休むから」と言ってくれたからに他ならない。まぁ尤も起きたら起きたで、ベッドで寝ていた俺の周りは──
「「「うぅん、ウィル♡」」」
「へへへっ、ウィル君♡」
「んん、ウィル……大好き」
──アン、エリナ、レオナ、そして新たに婚約者となったオルガさんと何故かルアンジェがピッタリと俺に添い寝していたりする。ルアンジェ、その寝言の「大好き」ってどう言う意味だ?! 思わず焦る俺だが両膝には両膝で
「くぅ……くぅ……えへへへ……御主人様……」
「すぅ……すぅ……んっ、御主人様ッ、そこは……ダメ♡」
ヤトさんとセレネさんに占拠されていて簡単に動きが取れない状態になっている。セレネさんや、キミは一体何をユメに見ている?! と言うか、君達は本当にブレないな!?
それに思わず苦笑すると皆んなを起こさない様にそろりそろりと足を、身体を動かして包囲網から抜け出る俺。やれやれ──ヤトとセレネを何とか起こさずに済んだ。
『おはようございます』
ホッと気を抜いたのに合わせるかの様に頭の中に響くコーゼストの声。驚いて辺りを見回すとベッドの傍らで1人椅子に座るコーゼストの姿が。
『昨夜は大変お楽しみでしたね』
俺の顔を見てニコリと笑みを浮かべながら念話でとんでもない事を宣うコーゼスト。
『はァ……何がお楽しみだ、この野郎……』
そんなコーゼストの台詞に頭を抱える俺。大体こんな状況で楽しむも何もあったもんじゃない。
『大体だな、師匠が隣りの部屋にいるのにそんな事が出来る訳が無いだろがっ!』
ジト目を向けたままコーゼストに抗議する──無論念話で。第一お前はそこで一晩寝ずに俺達の事を見ていたんだろが?!
『──はい、勿論。これは単なる冗談ですが何か?』
笑顔を崩さずにそう言い切るコーゼストに、ガックリと肩を落とす俺。
「頼むからそう言う笑えないジョークは止めてくれ……」
何となくだがコーゼストの人間臭さに拍車が掛かっている様に感じるのは俺だけだろうか?
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それから程なくして全員目を覚まし、遅めの朝食を摂った俺達はドンチュワンの町に繰り出した。俺は各自自由にして良いと言ったのだが──
「おお、今回も大物揃いだな!」
──食肉店の主人であるウベルトが、目の前に積まれた鎧水牛の山を見てそう声を上げる。
前回繋がりが出来たウベルトには「戻って来たらまたアーマーバイソンの猟を頼む」と言われていたので早速尋ねたのだが、何故か全員が全員とも俺の後について来たのである。そしてそのまま一緒に狩りに参加して現在に至る。お陰でアーマーバイソンの狩りは早く済んだのだが、お陰で時間が余ってしまった──どうすべ?
「いやぁ、しかしまぁ、戻って来たらヒトだけじゃなくて魔物も増えていたのには驚かされたが……」
俺が1人思い悩んでいると、ウベルトはウベルトでいつの間にかメンバーが増えていた事に驚きを通り越して呆れている。
「それについては俺が一番驚いているんだが……」
そう答えて苦く笑うしかない俺。そらまあオルガさんと俺の師匠は初見だろうし、女王蛾亜人のセレネも加わったし、コーゼストも自動人形になったし、なァ…… 。
「まぁ頼むこっちとしては人手が一気に集まって大助かりだったが、こんだけ構う相手が居るとウィルも色々苦労してそうだな……」
何だかウベルトが遠い目をして俺を見ている。
「あははは……あ、そういやウベルト」
「ん? 何だ?」
「この町のオススメの見所とか知らないか?」
俺はこの際なのでウベルトにドンチュワンの観光名所が無いか尋ねてみる事にした。すると
「そうだなぁ、この町の港の南に少し突き出した岬があってな。その岬から見る風景が結構有名だぞ? 岬の先には大きな樹が1本生えていてな、その樹の枝に恋人同士が自分達の名前を書いた木札を結びつけて願掛けすると結ばれると言う言い伝えがあるんだ」
そこまで言うとニヤリと笑うウベルト。一方その台詞を聞いたアンさん達が後ろで色めき立っている。
なるほど……言い伝えは兎も角、景勝地と言うのなら行ってみる価値はある、かな?
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とりあえずウベルトからアーマーバイソンの報酬を貰ってから、教えてもらった港の南にある岬へと向かう事にした。因みにここの港の名前は『ダゥチェウ港』だそうな。
更に因みに何故ウベルトがそんな事に詳しいのか疑問に思い訊ねてみると、何とウベルト本人も若かりし頃、恋人とその岬の樹に木札を結びつけたのだそうだ。そしてその恋人は今の奥さんなのだとは、ウベルト本人からの申告である。と言うか、ウベルトは所帯持ちだった事に少なからず驚いたりする。何でも現役の冒険者だった時にとある商店の娘を見初めて、紆余曲折の末結婚したそうな。道理でこの言い伝えにやたら詳しい訳だ──何しろ当事者だしな。
そんなこんなしているうちに南端の岬に着いた俺達。岬の入口にはこじんまりだが綺麗な門が作られており、岬の突端にはここからでも目立つ大樹が。突端へと続く道沿いには何軒かの料理店や色んな店が建っていてまるで小さな街みたいである。そしてどの店先にも同じような木札が売られていた──どうやらこの木札がウベルトが言っていた願掛けの木札らしく、師匠とコーゼストを除く女性陣は挙って買い求めていた。果てはヤトやセレネまでもが──君達、何度も言うけど魔物としての誇りはどうした?!
そう頭の中でツッコミを入れつつ俺も折角なので木札を買おうとして、はたと手が止まる。どうやらこの木札には自分と相手の2人分の名前しか書けないらしい。するとつまり俺の場合だと──アン、エリナ、ルピィ、レオナ、オルガさん、そしてマディとジータの合わせて7枚必要となる訳で、改めて今回結婚をする事を決めた嫁さんの人数が半端ないな、と自覚し直した瞬間であった。
結局、1軒で7枚買うのは店の店員から色々好奇の目で見られるので、7軒から1枚ずつ買う事にしたが。
それでも嫁さん全員の名前と俺の名前を書くのにかなり骨が折れる作業だった──やれやれ。
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兎にも角にも名前を書いた木札を結び付けなくて終わらないので、全員揃ってゾロゾロとその樹がある突端へと向かう。僅かな道中、周りからの視線が妙に痛く感じるが無視を決め込む俺。
そして歩いて10分ほど歩いて突端の大樹へと到着した。大樹は高さ10メルトもあろうか、幹周りは大人が一抱えしても足りないくらいだ。そしてその大樹には既にかなりの木札が下げられており、手が届く範囲には結べる場所が見当たらない。
「私に任せなさいってのッ!」
そう言うとヤトが皆んなの木札を奪う様に預かると、3メルトある蛇身を樹の幹に巻き付けてシュルシュルと上の方へと登って行く。そして上の大きな枝まで進むと、俺達からの預かった木札と自分の木札を、未だ誰も手をつけていない枝へと1つ1つ結びつけた。
「「「「「「「「「おお〜っ!」」」」」」」」」
それを見て思わず歓声を上げるアン達。そういやヤトは半人半蛇だから木登りは得意なんだな。俺がそんな風に考えている内に樹から下りて来て、皆んなの前でドヤ顔で「どうよっ!」と威張るヤト。アン達からは拍手喝采である。
「ヤト、良くやったな」
俺も頑張ったヤトの頭を撫でて労いの言葉を掛ける。「えへへっ」と嬉しそうに目を細めるヤト。
兎にも角にもヤトのお陰で無事木札も下げられたので、神に祈る様に両手を組んで願いを込め始めるアン達。小声で「ウィル(さん)と結婚出来ます様に」と聞こえて来るのはルアンジェにフェリピナ、マルヴィナやスサナの声か。ヤトやセレネもアン達を見習って同じように願いを込めている──三度言うが、君達魔物としての誇りはどうした?
そんな様子を苦笑気味に見ながら俺も願いを込める。
願わくば、この先に控える7人との結婚が平穏無事であります様に──と。
まさかの恋愛イベントのランダム発生(?)に巻き込まれた……のかな?
半ば自業自得の感は否めませんが、何とかそれもクリアしたウィル! これでフラグが立ってないと良いんですが(笑)
☆manakayuinoさんに描いていただいたメロウ族の女王マデレイネのイラストを第136部百二十八話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




