『家族』の村の小さな騒動
本日は第172話を投稿します!
今回は半獣人の村ツアヤのトラブル解決編です!
-172-
魔物出現──その一報を聞いた半獣人の村ツアヤの村長であるカリメルは、顔を見る間に青褪めさせた。
「な、なんじゃと?! そ、それで?!」
青褪めながらも何とか、それを伝えに来た村人に向かい先を促す。魔物出現の報をもたらした村人はカリメル村長の家人から水を貰い、ひと息に飲み干すと
「あ、あれは恐狼だ。間違い無い……」
乱れた息そのままに口を開く。聞けばその村人はもう1人の村人と西の森に薪刈りに出向いたのだが、森奥の楢を切ろうとしてそのダイアウルフらしき魔物と遭遇したらしい。驚いた村人2人は大慌てで村に知らせるべく舞い戻って来たとの事だった。
「なんと言う事じゃ……」
そう言って頭を抱えるカリメル村長。ダイアウルフは順位としてはAからA+と強力な魔物で、縄張り意識も強く数キルト四方の範囲を縄張りにする厄介な魔物である──但し自分よりも弱い者より同等か強い者に戦いを挑む傾向があり、そうした面においては一般人よりも俺達みたいな冒険者にとっては、となるが。
ただ一所に居続けられると危険なのは変わり無く、特にこうした小さな村では大問題となる。冒険者ギルドに依頼するにしてもかなりの金が必要となり、村の経済を圧迫しかねないからだ。
「ウィルさん……」
俺がそんな事を考えていると琥珀色の大きな瞳で不安そうな顔で見つめて来るスサナ。ショートパンツから出ている尻尾も力無く下がっている。
君、俺がそう言う顔をされるのに弱いの知っていてやってないか?
「はァ……あーっとカリメル村長、ちょっと良いか?」
俺は小さく溜め息をつくと村長に声を掛ける。
「は、はいっ! な、何ですかな?」
一方、俺から声を掛けられた村長は慌てて返事を返してくる。村人の報告に驚いたらしく、尻尾の毛が逆立ってパンパンである。
「その魔物、俺達が何とかしてやろうか?」
その尻尾の事には触れず、単刀直入に切り出す俺。
「し、しかし、お客人を巻き込む訳には──」
俺の申し出に躊躇する村長。やはり村にはあまり蓄えが無いのが躊躇する理由らしい。だがまぁその辺の事は確かに気掛かりだろうが──
「──最初に会った時にも言ったが俺達は冒険者だ。魔物が出たならそれを退治するのが俺達の本分だ。それに金の事は心配しなくてもいい」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そう言って何とかカリメル村長を安心させてから、早速行動に移す俺達。兎にも角にも先ずは俺達を西の森の入口に案内してもらう。案内にはダイアウルフ出現の報を伝えてきた村人と
「ここが西の森ですじゃ」
心配なのだろう、村長自ら案内に立って付いてきたりする。
「ここだけでも100万スクエアあるのじゃが、ここからダイアウルフを捜すのは──」
──かなりの難題なのではと、それもまた心配な様子のカリメル村長。
「まぁそれならそれで、幾らでも遣り様はあるがな──村長、これから俺の使役する魔物を喚び出すから驚かないでくれよ?」
一方の俺は当初から考えていた策を実行に移すべく村長に声を掛け、返事を待たずに4匹の従魔を目の前に顕現させる。4つの光がそれぞれの形を成し、やがて光が薄れると──
「「ヴァンヴァン!」」
「ヴ、マすター、でゅークはココに」
「御主人様の一の下僕、ヤト参上ッ! やっと出番ねっ!」
「同じく御主人様の一の下僕、モスクイーンのセレネですわ。お見知り置きを」
2つ首の黒き魔犬のファウスト、剛鉄ゴーレムのデューク、半人半蛇のヤト、そして女王蛾亜人のセレネがそれぞれ声を上げる。どうでも良いがヤトにセレネ、お前ら何で両方とも俺の一の下僕を自称する?!
「ひいぃぃ!」
「おおっ、こ、これは?!」
案内してくれた村人と村長が俺の仲間である従魔達を見て悲鳴にも似た声を上げる。まあ、これが普通の反応だよな。
「良しッ、それじゃあ皆んなやる事はわかっているな?!」
とりあえず村長達の反応は無視してファウスト達に確認を行う俺。ファウストとデュークは頷く事で返事を返し、ヤトとセレネは「わかっているわ(いますわ)」と声を返してくる。
「良しッ! それじゃあ皆んな取り掛かってくれ!」
俺の号令に一斉に森の中に散るファウスト達!
「ウィルフレド様……あの魔物達に何をさせるのかの?」
その様子を見てそう声を掛けて来る村長に端的に答える俺。
「彼等にこの森に居るダイアウルフを討伐してもらうんだ。ダイアウルフの気質を利用してな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺の言った事を良く理解出来ないらしく「はぁ……」と生返事の村長らに、改めて懇切丁寧に説明する。
「俺達みたいなヒトの冒険者に魔物を討伐させるにはそれ相応の報酬が必要になるが、従魔達ならそうしたのが発生しないからな。それにダイアウルフは自分より強い相手と戦う傾向があるから、あいつ等ならうってつけさ」
この策を思い付いた背景は至極簡単、俺達が討伐すると報酬が発生するが従魔なら発生しないだろうと言う、ぶち上げると単なる屁理屈からに他ならない。
「おおっ、なるほど! それなら有難い!」
俺の説明に村長らは合点がいったらしく、盛んに「有難い」を繰り返しているし
「うんっ! 流石はウィル! 私の弟子だけの事はあるわねッ!」
ルストラ師匠は俺をやたら褒め称えるし
「「「「「流石はウィル(さん)♡」」」」」
アン達も声を揃えて褒め言葉を宣う。正直言って小っ恥ずかしいからヤメレ!?
「──皆さんお楽しみのところ申し訳ありませんが、ファウストが目的のダイアウルフと会敵、現在戦闘中の模様です」
俺が1人心の中で悶絶していると暫くして、ファウスト達の動向を見守っていたコーゼストがそう声を掛けて来た。いつも言っている事だが、本当にお前は空気を読め。
だがまあ、その辺はある程度予想していた事だ。何せファウストはダイアウルフと同じ四脚歩行型の魔物であるし、それに相手の気配を察知するのは他の3匹の従魔達より頭ひとつ抜きん出ている。それに何よりファウストの順位は間違いなくダイアウルフよりも上だから、ダイアウルフが放っておく訳が無いからな。
「そうか──それで状況はどうなんだ?」
まあ万が一にもファウストが負けるとは思わないが、それでも一応は確認をする俺。
「はい──生命感知センサー反応消失。今ダイアウルフを倒したところです」
どうやら心配は杞憂に終わったみたいである。続けて俺はコーゼストに確認をする。
「そうか。ファウストの位置はわかるか?」
「はい、ちゃんと把握しています。こちらです」
そう言うとコーゼストは先頭に立って、俺達を案内するのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
デュークやヤト、そしてセレネに念話で集まる様に声を掛けてから森の中を北北西に600メルトほど歩くと、少し木と木の間隔が空いた疎林となった場所に出た。
そこには首の骨を噛み砕かれ斃れている2メルトほどもあるダイアウルフと、その傍に「おすわり」の姿勢で前足と後ろ足をキレイに揃えてしゃがんでいるファウストの姿が。口を開けて舌を出し「ハアハア」と荒い呼吸を繰り返して、尻尾をブンブン振り回している。
「「おおっ!?」」
その様子に一緒に付いてきた村長らが驚きの声を上げる。
「よぉし、ファウスト! 良くやったなッ!」
「「ヴァン!!」」
俺の台詞に嬉しそうに一声吠えると、尻尾をぶん回したまま駆け寄って来て俺を押し倒し、2つの顔で左右から俺の顔を舐め回すファウスト──ちょ、ちょっと待てって!?
「ぶっ?! こ、こらッファウスト! おち、落ち着けって!」
俺は慌てて声を掛け、その場で「おすわり」をするファウスト。対して2枚のでかい舌で舐め回されたので、涎で頭から水を被ったみたいにびしょびしょになる俺。
これって傍から見ると魔物に喰われている様に見える構図だよな…… 。そう思いつつアン達の方を見ると顔が引き攣っていたりする。やはりあまり絵面がよろしくないみたいである。
「お戯れのところ申し訳ありませんがマスター、次の指示をお願い出来ますか?」
片やコーゼスト先生はひたすら鷹揚である。
「えへん! あーっと、コーゼスト先生? この森に他に驚異になるような魔物の反応は有るのか?」
俺は咳払いをひとつするとコーゼストにそう尋ねる。
「少しお待ちを──広範囲探索──はい、今の所ランクC以上の魔物の反応はありません」
俺の問い掛けに一瞬目を閉じて、全感覚端末で森の中を調べたコーゼストの口から緊急を要する驚異は無いとの返答を得た。
「あ、あの、これは一体どう言う……」
俺とコーゼストの会話を聞いていた村長は訳が分からないとばかりに訊ねてくる。
そういや村長には、コーゼストが自動人形の身体を持った知性ある魔道具だと言う事を説明するのをしっかり忘れていたな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
村長らにコーゼストの事を説明してから、ファウストが斃したダイアウルフを無限収納に収納し、ヤト達従魔と合流してから全員でツアヤ村に戻って来た。
村の入口には村人が総出で出迎えており、俺と村長の「魔物は討伐した」と言う言葉を聞いて、それまで心配そうな面持ちだったのが一転、誰もが魔物が無事討伐された喜びと安堵の声を上げる。そして村長の家に向かうまでの道すがら、誰もが口々に俺達に「有難うございます」と感謝の言葉を掛けてくれたのだが──そう言うのは正直言って小っ恥ずかしいからやめてもらいたい。そして── 。
「本当にこの度は有難うございますじゃ!」
床に敷き詰められた毛皮の上に跪いて頭を下げるカリメル村長とその家族が目の前にいた。何だか気楽な姿勢で座っている此方が申し訳なく感じるのだが?!
俺が人知れず羞恥に身悶えていると
「それでですな。今夜魔物の無事な討伐を祝ってささやかな祝宴が催されるのですが、皆さんで是非とも参加してくだされ」
駄目押しとばかりにそんな事を笑顔で宣うカリメル村長──ちょっと待て! 何でそんなに大事になっている?! 俺は慌てて固辞しようとしたのだが「折角だから」と押し切られてしまった! アン達はアン達で「やっぱりこうなるわよね」と既に達観していたりする。
「まぁウィル、折角の心尽くしのお祝いなのだからお受けしなさいな! そうでないと逆に失礼になるわよ?!」
師匠は師匠で俺の肩をポンッと叩きながら笑顔でそう促して来たりする。
それを言われた俺はただただ脱力するのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局フェンチェンの宿屋に居るオルガさんに遠方対話機で事情を説明し、明日の朝一番で帰る旨を伝えた。無論エリナやレオナへの伝言も忘れていない。遠方対話機の向こうのオルガさんには「まぁそんな事だろうと思ったよ」と笑いながら言われてしまったが。それでもちゃんとエリナ達や宿には話しておいてくれるそうだ。
そして程なくして夕刻となり──村の中央にある広場に高く積み重ねられた薪に火が着けられ、その周りには村人達と俺達が円座を組むように思い思いに集まった。
やがて夜の闇が世界を黒く染める頃、俺達は焚火の前に集まった村人達から「ありがとう」の言葉と共に何度も木杯に酒を注がれる羽目になった。勿論今夜の主役であるファウスト達従魔も喚び出して輪の中に参加させている。最初は怖がって遠巻きだった村人達も今はファウストやデューク、ヤトやセレネに近付き、気さくに声を掛けていたりする。
その横ではスサナが村長と4人の年寄り達から本来の目的だった自分の起源である曾爺さん曾婆さんの話を色々と聞かされ、また村長らからの質問に色々と答えたりしている。
漸く絶え間なかった村人からのお酌から解放された俺は、焚火の灯りに照らし出される光景をぼんやりと眺めていたのだが
「ウィル、お疲れ様」
いつの間にかアンが傍に来て労いの言葉を掛けてくれた。
「ああ、ありがとうアン。でもまさかこんなに祭りみたいになるとは思わなかったがな」
その言葉に多少の苦笑を浮かべ、そう言葉を発する俺。その言葉にやはり苦笑を浮かべながら、そっと寄り添うアン。
兎に角こうしてスサナの先祖達の足跡を辿る為の小探訪は、思いもかけない出来事が満載の探訪となったのであった。
俺、こんなに酒を呑んで明日は朝起きれるのだろうか?
見事に村のトラブルを解決したウィル! この男、意外と(?)細かい気遣いが出来ます! それにしても無事解決で何よりです!
*恐狼………………順位AからA+に相当する狼の姿をした四脚の魔物。体長2から2.5メルトになる。縄張り意識が強く、闘争本能も強くて自分より強い相手と戦う傾向がある。
*100万スクエア→1㎢
☆manakayuinoさんに描いていただいたメロウ族の女王マデレイネのイラストを第136部百二十八話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




