猫娘、『家族』の村へと還る
本日は第171話を投稿します!
宿屋で皆んなで朝食を摂っているウィル達。スサナの様子が──?
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「あのぉ〜ウィルさん、ちょっと良いですかぁ?」
魚人族のマデレイネ──マディの元を訪れ、マディとジータから結婚の約束を取り付けて来た翌日、フェンチェンの宿屋『黒鷲』で皆んなで朝食を摂っているとスサナが話し掛けて来た。
「ん? どうしたスサナ?」
俺は食後の香茶を飲みながらスサナに答える。アン以下のメンバー達も手を止め、俺とスサナに注目する。するとスサナは二度三度口を開きかけ、また閉じるを繰り返していたが、意を決したらしく少し言いにくそうに話し始めた。
「えっとですねぇ、ドゥンダウに来る前に話した事なんですけどぉ。ルォシーに戻る前に、曾お祖父さん達が住んでいた村に少し行って来たいんですけど、良いですかぁ?」
そこまで言うと上目遣いで此方を見てくるスサナ。そういや出発前にそんな事を言っていたな、自分の起源を知りたいとか。
「それは構わないが……それってこの近くなのか?」
「あっはい、何でもこの街の30キルト北西に行った所らしいですぅ」
馬車でですけどね、とはスサナの話である。その距離なら竜車でなら2時間半ぐらいだから往復しても充分日帰り出来る距離ではある──しかしなぁ…… 。
「うーん、俺の方は良いんだが……」
そう言いつつ俺はオルガさんやアン達やルストラ師匠の顔をチラッと見る。特にオルガさんはなんと言っても依頼主だしな。彼女が許可してくれない事には何とも言えない。
「そう言う事なら1日ぐらいここを発つのが伸びても問題無いよ」
そんな俺に気付き笑顔でそう宣うオルガさん。その辺は流石ヒトが出来ている。
「私は特に予定も無いから大丈夫だけど……皆んなはどう?」
一方のアンはアンで残りのメンバーに問い掛ける。先ずエリナはレオナと向こうに残ったベルタ達にお土産を買いに行きたいのだと、申し訳無さそうに断りを入れてくる。
「僕も今回は遠慮して大人しく宿で休んでいるよ」
「私は半獣人の村に興味あるわねぇ」
オルガさんは留守番を申し出る一方、師匠は何やらスサナの先祖の村に興味があるらしい。ルアンジェやフェリピナやマルヴィナも「スサナの先祖が暮らしていた地に興味がある」と付いて来る気満々である。
「それなら少し行ってみるか……」
皆んなの意見も出揃った事もあり、俺達はスサナの帰郷(?)に同行する事となったのである。
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そうと決まれば早速と言う事で、朝食を終えて直ぐに俺と師匠とアン、ルアンジェとフェリピナとマルヴィナ、そして当事者であるスサナとコーゼストと共にドラゴンキャリーで一路、スサナの曾爺さんが住んでいた村に向かっていた。因みにヤトやセレネ達従魔達にはコーゼストの中で大人しくして貰っていたりする。
ドラゴンキャリーの手綱は俺が握り、スサナは道案内として御者台の隣りに座っていた。
「そういやスサナ」
「はいっ、何ですかぁウィルさん?」
地竜の手綱を操る俺の呼び掛けに、猫耳を頭の高い位置でピンと立てて返事をするスサナ。
「良く半獣人の村の場所を調べられたな?」
「えっとそれはですねぇ、フェンチェンの町に戻って来てから何回か皆んなで出掛けた時に立ち寄った先々で聞き込んだんですよねぇ」
そう言うとにぱぁ、と笑顔を見せるスサナ。そういや彼女は優秀な斥候でもあったから、情報収集ぐらいはお手の物だろうな。
そんな事を思いつつドラゴンキャリーを操っていると、スススッ……と操車している俺の横にスサナが身体を寄せて来る。なんだ何だ?!
「あのぉー、スサナさんや?」
「はい?」
「その、身体、随分近くないか?」
俺の質問に密着と言う形で答えるスサナ──おいおい!? 対処に困ってスサナの顔を見ると、琥珀色の瞳と目が合った。大きく開かれた目は瞳が細くなっていて、心做しか頬がほんのり紅い気がする。ショートパンツから出ている尻尾がピンッと立っているのから見ると、嬉しいのは間違いないのだが。ついスサナを昔飼っていた猫のフェルロットと比べてしまうのは勘弁して欲しい。
などと現実逃避をしていると疎林と疎林の切れ間に何やら柵らしき物が見えて、やがて何軒かの家が纏まって建っているのが見えて来た。
「あっ、あそこですウィルさん! あそこが目的の村ツアヤですぅ!」
俺に身体を密着させたまま目の前に見えてきた村を指差し、嬉しそうに声をあげて身を乗り出すスサナ。
それはわかったから俺の左腕に柔らかな胸を押し付けるのは止めてくれないか、スサナさんや?!
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スサナの案内で半獣人の村に到着した俺達。村の名はツアヤ、何でも半獣人にだけ伝わる旧い言葉で『家族』と言う意味らしい。
兎に角ツアヤ村にドラゴンキャリーで乗り付けたのは良いが村の入口が狭く、そのままではキャリーは疎か馬車も中に入る事が出来ない。入口付近には馬車の馬の繋ぎ場が置かれており、仕方なくそこの綱木に地竜を繋いで、全員徒歩で村に入る事になった。
そんなこんなでツアヤ村の中に入った俺達の目の前には木組みの家が建っているのが飛び込んで来た──但し木の上にであるが。樹上に舞台を組み、その上に板葺き屋根の家が建っているのだ。
「随分変わった造りの家だな」
「森精霊の家と造りが似ているわね」
俺の率直な感想を聞きつけて、そう答えるアン。何でもエルフも基本樹上生活なのだそうだ。滅多にお目に掛かれない光景に目を奪われていると
「ほうほう、この村に客人とは珍しいのぉ」
樹上に気を取られていた俺達に不意に声が掛かる。その声の主に視線を向けると、1人の年老いた猫の半獣人がいつの間にか目の前に立っていたのであった。茶色に白が混じる半獣人にしか有り得ない毛色の男の老人は、穏やかな笑みを浮かべながら俺達に声を掛けて来たのである。
「ふぉっふおっふおっ、これは失礼。儂はカリメルと言う名の者ですじゃ。それで何か御用ですかな?」
穏やかな笑みを崩す事無く話し掛けて来る老人──カリメル。
「あ、ああ。俺はウィルフレド・ハーヴィー、冒険者だ。一緒の彼女らは俺の冒険者仲間なんだが、メンバーの1人にアンタらと同じ半獣人の娘が居てな──」
俺はカリメル老人に自分とアン達を紹介するとスサナを手元に呼び寄せて、此処に来た目的──スサナの起源である彼女の曾爺さんや曾婆さんが、嘗てこの村の出身者である事を話すのだった。
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「ほうほう、なるほど。それがあなた方がこの村を尋ねて来られた理由なのじゃな」
話を聞き終えたカリメル老人は白い顎髭を撫でながら、スサナをじっ……と見ていたが
「半獣人のお嬢さん──確かスサナさん、じゃったか?」
徐ろに話し掛けて来た。
「は、はいっ!」
「その曾お爺さんと曾お婆さんの名は何と言うか知っているかの?」
「あっはい、えっと曾お祖父さんはティゴウ、曾お婆さんはフェランと言う名前だと聞いてますけどぉ……2人とも結構若くして亡くなったらしいんですけどねぇ」
カリメル老人の問い掛けにスサナは自身の記憶を呼び起こしながら、自分の曾爺さんと曾婆さんの名前を口にする。するとそれを聞いたカリメル老人は「おおっ、ティゴウとフェランとはまた懐かしいのぅ」と手を打った。
「何だ、爺さん。その言いぶりだと爺さんは知っているみたいだが……」
そんなカリメル老人に尋ねる俺。だってまさかスサナの曾爺さん曾婆さんの事を知っているとは思っても見なかったからだ。
「ほっほっほっ、まぁのう。何せ2人とも儂の幼馴染みだしのぅ」
俺の問いに顎髭を撫で付けながら笑顔で答えるカリメル老人。これはまた一発で当たりを引き当てたな。
「そう、か。なら話が早い。爺さんの口からその2人の話をスサナに聞かせてやって貰えないか? それとこの村の長は何処に居るのか教えて欲しいんだが……僅かな時間とは言え此処に滞在する許可を貰わないといけないからな」
そうカリメル老人に申し出る俺。明らかに部外者である俺達が此処に留まる許しを請わないとな。するとカリメル老人は「それならもう許可されとるよ」と言いながら笑顔を見せる。
「それってどう言う──」
──どう言う事なんだと尋ねようとする俺に、カリメル老人は笑顔のまま自身を指差して驚きの台詞を口にした!
「それはな、儂がこのツアヤ村の村長だからですじゃ。ようこそ儂らの村ツアヤへ。お客人達を歓迎させてもらいますのじゃ」
俺達は当たりどころか大本命を引き当てていたらしい。
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それからカリメル老人改めカリメル村長に案内されて、俺達は村の中でもひときわデカい家へと連れて来られた。何でもカリメル村長の家なのだそうだ。
内部は家具が必要最低限で椅子と卓等は無く、板張りの床に麻の敷物と何かの毛皮が敷き詰められていて、家族と思しき7人の半獣人の男女が快く出迎えてくれた。
「まあ座ってくだされ」
そう言うとカリメル村長は床に敷かれた毛皮の上に座り込み、俺達も円座となって同じ様に毛皮の上に座り込む。すると座って直ぐに半獣人の老女が、俺達の前に木杯に淹れたお茶を置いて行く。
「儂の妻のブラリヌですじゃ」
そう老女を紹介してくれるカリメル村長。ブラリヌと紹介された老女は笑みを浮かべて俺達に頭を下げる。それを見てからカリメル村長が先ずお茶に口をつけ
「このお茶は黒茶と言いましてな。儂らの村で作っております」
と笑顔を見せ、手を向けて勧めてくる。
「黒茶なら知っているけど、この村の特産とは知らなかったわねぇ」
黒茶と聞いて俺より先に口をつけたのはルストラ師匠。一口飲むと「うんっ、これはまた美味しいわ」と御満悦である。
「そんなに美味しいのか……」
続けて俺達も木杯を手に取ると黒茶に口をつけた。香茶とは違い渋味が少なく尚且つ甘味を感じ、口当たりがまろやかで凄く飲みやすい。アン達も口々に「これは美味しいわね」と声をあげる。因みにコーゼストは自動人形なので飲むフリをしているだけである。
「ふぉっふおっふおっ、気に入って貰えた様で何よりですじゃ」
特産の黒茶を褒められ、自らの顎髭を撫でながら満足気に何度も頷くカリメル村長に俺は
「美味しいお茶をご馳走様、帰る時にお土産に買わせて貰うとしよう。それで急かす様で済まないが本題に入らせてもらいたいんだが……」
本来の目的──スサナが知りたがっていた彼女の曾爺さん達の事を尋ねるのだった。
何しろそれがそもそもの目的だしな。
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俺の台詞にカリメル村長はひとつ頷くと、家の中に居た壮年の半獣人の男性を呼び寄せ、何やら耳打ちする。男性は小さく頷くとそのまま家を出ていった。
「今のは孫のガーフィと言いましてな、人を呼びに行かせました」
聞けばスサナの曾爺さん曾婆さんの事を知っている幼馴染が4人居るらしく、そのヒト達に声を掛けに行かせたらしい。スサナの曾爺さん達の話はそのヒト達が来てからと言う事になり、カリメル村長からこの村について色々と話を聞く事にした俺達。
何でもこのツアヤ村には猫の半獣人が集まって出来た村で、現在は600人が暮らしているらしい。男女比は4:6で女性が多いのだそうだ。産業は先程飲んだ黒茶の生産とその元になる茶の木の栽培──茶業と狩猟が主で、畜産は村人が消費する分だけ細々と営んでいるらしい。
「そういや村長、ツアヤ村は皆んな同じ猫の半獣人だけなのか?」
「そうですじゃ。他の半獣人はそれぞれ自分と同じ種の半獣人達と集まって暮らしていると聞き及んでおります」
聞くと半獣人は猫以外に犬種、狐種、狸種といて、それぞれがこうした村を作って生活しているのだそうだ。それぞれの種族は仲が悪い訳ではないのだが、あまり交流は無いらしい。
そんな事を聞いていると不意に外が騒がしくなり、続けて誰かがこの家に昇る為の梯子を上がって来る音が聞こえて来たかと思うと、木製の扉を盛んに叩く音が響く──何か物凄く嫌な予感しかしないんだが?
カリメル村長の家人が扉を開けると
「村長、大変だッ! 森に魔物が現れたッ!」
慌てた風情の半獣人の村人がそう声を張り上げる。
俺の嫌な予感が見事的中した瞬間であった。
スサナの曾お祖父さん達がかつて暮らしていた半獣人の村ツアヤにやって来たウィル達!
折角穏やかな時を過ごしているのに、トラブルの予感が?! 流石トラブルに愛されている男!(笑)
*カリメル…………半獣人の村ツアヤの村長。茶色に白の毛が混じる年老いた半獣人。スサナの曽祖父曾祖母の幼なじみ。
*ティゴウ…………スサナの曽祖父。
*フェラン…………スサナの曾祖母。
*ブラリヌ…………カリメル村長の妻。
*ガーフィ…………カリメル村長の孫。
☆manakayuinoさんに描いていただいたモスクイーンのセレネのイラストを第169部百五十七話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




