閑話〈11〉オルガ、独白す 〜過去、そこから続く未来〜
本日は閑話を投稿します!
今回はセルギウス・フォン・ライナルト改めオルガ・ロラ・セルギウスさんにスポットを当てます!
閑話〈11〉
「おいっ! しっかりしろッ!」
「う……ううん……」
薄明かりが灯る室内、1人の男に激しく揺さぶられて私は目覚めた──君は誰?
「おい! その子はどうなんだ?!」
「大丈夫だ、今目を開けた! どうやら生きているようだっ!」
「ったく、何なんだよこの部屋は?! 変な物が色々置かれているが、何だかさっぱりわからん!」
「おいっ! 不用意に触るなよ?! こうしたのは大体罠が仕掛けられている場合が多いんだ!」
「──行けます──! 皆さんっ! 拠点帰還を使います! 私の傍に急いで集まって下さいっ!」
拠点帰還?! そんな魔法は聞いた事が無いんだけど? 男の腕にしっかり抱き抱えられた私は、必死に言葉を紡ごうとするが未だ思う様に声が出ないでいた。声だけじゃない、身体も思う様に動かせない。
「ッ! 良しっ! 皆んな集まったぞ! 行ってくれッ!」
「はいッ! 『拠点帰還ッ!』」
女の魔法士の言霊が響き、私と5人の男女の姿は部屋から掻き消える。
こうして私は740年振りに外界へと帰還したのだった。
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私はオルガ。オルガ・ロラ・セルギウスと言う名を持つ、古代魔導文明の恐らく最後の生き残りだ。
私は近い将来に滅亡する事を悟った古代魔導文明人の『未来への種の保存』を目的にした冷凍睡眠実験の被験者の1人だった。本当は他にも私の婚約者のエーリヒが、私の後に続いて冷凍睡眠している筈だったんだけど……740年後の未来で目覚めさせられた時は私1人だけだった。
多分別の施設でコールドスリープしているのか、或いは…… 。
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まあ兎に角だ、東の大陸に有る実験施設の最奥で眠りについていた私は、偶然施設内に入り込んだ探索者と呼ばれる人達の手によって目覚めさせられた訳であり、今は紆余曲折を経て西の大陸にあるオールディス王国と言う国のライナルト子爵に保護して貰っている。
このライナルト子爵と言う人は各地で活動する探索者を個人的に多数支援していて、その見返りにあちこちの国や地域の情報をいち早く手に入れ、その中でも有益な情報をオールディス国王陛下以下の上位貴族達に売って、多額の金銭あるいは庇護を受けていた。
そんな彼にとっては、古代の遺跡に眠っていた古代魔導文明の生きた証人である私と言う存在は、何者にも変えられない程の貴重性と重要性を有していたらしく、大変手厚く保護される事になった。
其れは私にとってもとても好都合であり、彼の庇護の下で古代魔導文明が今から733年前に完全に滅んだ事、古代魔導文明と争っていた古代魔族も今から250年前に世界に向けて侵略戦争を引き起こし、今ここに居るヒト族に滅ぼされたと言う事、そして世界の様相が大きく変化している事を知る事が出来た。
私がコールドスリープに入る時には、あと数年で古代魔導文明は古代魔族に滅ぼされるだろうと予想はされていたが、その予想は見事に的中した訳だ。
それと今繁栄しているヒト族は──恐らく古代魔導文明人に仕えていた従者の一族の末裔だろう。私のコールドスリープ実験とは別に、従者の一族に古代魔導文明の知識を分け与えて、私達古代魔導文明の技術と文明を継承させる計画が有った事を頭の片隅に記憶していたからだ。
尤も今のヒト族を見ると、そのプランも上手く行かなかったみたいである。技術水準も文明水準も私達古代魔導文明には遠く及ばないからだ。恐らくはちゃんとした知識を彼等に与える事が出来なかったのだろうと思う。
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「私を養子に?」
「……そうだ」
目覚めから7年、充分に今の世界の状況を理解出来た私はある日、庇護者であるライナルト子爵と話していた。しかしいきなり養子とは…… 。
「随分いきなりなんですね」
流石に急な話に眉を顰める私。だがそんな私にお構いなく話を進めるライナルト子爵。
「気分を害したなら謝ろう。だが私ももう歳だ。妻にも若い頃に先立たれ、跡取りと呼べる子も近縁も居ない。なので君なのだ。君の持つ知識は何者にも変えられない財宝であり、また君の人柄もこの7年の間見てきて大変好ましい。どうか頼まれてはくれまいか?」
そこまで言うと深く頭を下げるライナルト子爵。私達古代魔導文明人にとっては7年なんか瞬く間に過ぎないが、ただのヒト族であるライナルト子爵はこの7年でめっきり老け込んでいた。そこで少し思案する私。
まぁ特に私に不利益は無いかな? と言うか寧ろ利益の方が大きい、か。それに世話にもなっているし──うん。
「──良いでしょう。お引き受けします」
割と即答だった。
こうしてライナルト子爵の養子となった私は、名をオルガ・ロラ・セルギウスからセルギウス・フォン・ライナルトへと男の名に改名した。
これは養父となったライナルト子爵から「貴族の跡取りは男子にしか務まらないから」と懇願された為だ。まあ元々私の見た目は中性的だったのと、私自身あまり女性でいる事に固執しなかった事もあり、そんなに男だと偽るのに抵抗は無かった。
そして「私」は「僕」へとなったのだった。
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そうして「僕」が「男」として生きる事となって、凡そ40年程経った。養父は僕を養子に迎えて5年のちに亡くなり、僕は家督を継いで新しいライナルト子爵となっていた。
当主となった僕が真っ先にした事、それは先ず探索者達をひとつに束ねる組織の構築だった。無論そんなに簡単には行かない事は重々承知していたが、僕には普通のヒトには無い長寿種族であると言う強みを存分に活かし、長い時間を掛けて少しずつ、そして確実に事を進めて行った。
そうして約50年を掛けて既知世界の2つの大陸に居た探索者を、新たに『冒険者』と定め、其れを束ねる組織『冒険者ギルド』を設立するに至り、僕は時のオールディス国王から一連の功績を評価され侯爵位を賜うまでに至った。
勿論その間もオールディス王を初めとした有力貴族達に、冒険者から得た世界各地の情報とそれプラス、僕が知り得る古代魔導文明の魔法技術を幾つか提供しており、それも加味されたみたいだった。
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侯爵となって更に150年ほど経過した。冒険者ギルドの運営もすっかり軌道に乗り、オールディス王と貴族達も何代も代を替え、エリンクス・フォン・ローゼンフェルト国王陛下の治世となった頃──
「有知性魔道具を見つけた冒険者だって?」
──いつもと同じ様に王都ギルド本部で最高統括責任者として執務を熟していた僕の元にそんな報告が入って来た。
「はい、しかもS級迷宮「魔王の庭」で隠し部屋を発見した際に、だとはラーナルー市の冒険者ギルドからの報告です」
「「魔王の庭」だって?!」
報告にあったS級迷宮「魔王の庭」とは、オールディス王国の北方のラーナルー市の中心に有るダンジョンで、しかも今から500年前に侵略戦争を引き起こした古代魔族の王──『魔王』の居城地下に有った『実験場』がダンジョン化した場所だ。
そうした隠し部屋が見つかる事は今までも時折あったが、今回の報告みたいな有知性魔道具発見は、今から15年ほど前に当時最強のAクラス冒険者パーティーだった「煉獄」の時以来だった。その時はパーティーの魔法士が事故で所有者となってしまったが…… 。
「それでそのインテリジェンスアイテムは?」
「は、はい、何でもその発見した冒険者が事故で所有者となってしまったとの事です」
……正に歴史は繰り返されるみたいである。僕はあまりの事に唖然とするしか無かった。
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兎にも角にもそのインテリジェンスアイテムの所有者になってしまった冒険者の事を、僕は詳しく調べさせた。
名はウィルフレド・ハーヴィーと言う24歳の王都ギルド所属のBクラス冒険者で、今までギルドの賞罰歴は無しと言う、極々平凡な男性冒険者だった。ただ唯一平凡では無かった点、それは今時珍しい単独で活動をしている点だけだった。
寧ろ興味を惹かれたのは彼に取り憑いたインテリジェンスアイテムの方だ。出処が出処だけに間違いなく古代魔族が製作したインテリジェンスアイテムの筈だからだ。
僕はそのウィルフレドと言う冒険者とインテリジェンスアイテムの動向を逐一報告して貰う事にした。もしも万が一にも、そのインテリジェンスアイテムが既知世界に害を成す存在なら、古代魔導文明人の生き残りとして、過去の亡霊から今ある未来を護る為に僕が何とかしなくては。
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そうして常に報告を貰う様にしたのだけど、このウィルフレドと言う冒険者とコーゼストと名乗るインテリジェンスアイテムは、僕の懸念などお構い無しに立て続けに起きた様々な問題の中心にいつも居る様になっていった。でもそれは彼等がトラブルを起こすと言うよりは、向こうからトラブルがやって来ては其れを彼等が解決する、と言う事ばかりだったのだ。
それだけで無く「魔王の庭」の守護者級のヘルハウンドや宝石ゴーレムや、Sランクの魔物ラミアまでも従魔にし、更にオールディス王国の西方にあるツェツィーリア共和国で発見されたダンジョンで蟻亜人と邂逅したり、最深部に存在していた古代魔導文明の施設での魔導人工頭脳との邂逅、そして更に古代魔導文明製の自動人形の少女を受領すらしてしまったのだ!
その一連の事実を報告として受けていた僕の興味はいつの間にかインテリジェンスアイテム──いや自我保有魔道具のコーゼストより、彼のオーナーとなったウィルフレドへと向いていた。
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それから程なくして、僕はウィルフレドとそのパーティー達と面会を果たした。彼は僕がイメージしていた厚顔無恥な冒険者では無く、ぶっきらぼうではあったが礼節を弁えている好青年であり、彼のパーティーメンバーであるダークエルフのアンヘリカさんと自動人形の少女ルアンジェさん、そして従魔の3体の魔物達と《意思あるアイテム》コーゼスト殿にも好感を持つ事が出来た。特にコーゼスト殿は高い知性を持ち、我々に仇なす様子は感じ取れなかったのである。
そんな彼等を僕は僕直属の冒険者パーティーとして囲い込んだ。コーゼスト殿の首に鈴を着ける意味合いもあったが、それ以上にウィルフレドの事が気に掛かった──いや、はっきり言うととても好ましかったと言う純粋な好意からに他ならない。
そうしてより彼等と深く関わって行く内に、ウィルフレド──ウィルの飾る事の無い実直な性格はアンヘリカ──アンさんやルアンジェさんや3体の魔物達だけでは無く、シグヌム市の二国間ギルドのギルマスであるネヴァヤさんや彼女の妹の冒険者パーティー『紅霞』の面々、ウィルと同じSクラス冒険者パーティー『デュミナス』のオルティース・トリスタンとその面々、そして同じくSクラス冒険者パーティー『白の一角獣』のエリナベルさんとその面々、無所属の拳闘士のレオナさんらを惹き付けていたのである。
そして勿論、僕もその中の1人なのだが。
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そんな紆余曲折の果てに僕はウィルとその氏族と共に、嘗て自分が眠りについていた東の大陸のダンジョン『黄昏の城』最奥の施設を再び訪れる事となった。
その道中、魚人族の女王マデレイネ親子や女海賊ジータを助けていたりしたが。
兎に角この施設を再訪した理由は、単に僕の我儘に過ぎなかった。目覚めてから250年、全く行方が掴めなかったエーリヒを捜し、僕自身のココロに決着をつける為に必要だっただけなのだ。
その途中で僕が「女」である事がウィル達にわかってしまったが、別に秘密でもなんでもないし、この旅が終わったら僕から明かすつもりだったので、特に問題にはならない……と思う。
そしてウィルやコーゼスト殿の助力で明かされた真実は僕を打ちのめしたのだが、落胆する僕をウィルは優しく、何を言わずに抱き締めてくれ、そして──僕を受け入れてくれた。その瞬間こそ、僕がウィルを心底愛した瞬間だと思う。
そうして今、僕の──いや「私」の傍にはウィルが居てくれる。長寿種である私より、きっとウィルは先に逝ってしまうだろう。でもそれでも「この人と居たい」と思えた事に嘘も偽りも無いのだから。
「──改めてよろしくね、ウィル君♡」
こうして私は長い年月の果てに、再び「私」に戻れたのだ。
波乱万丈過ぎるオルガさんの過去から今へと続く人生でした! 上手くオルガさんの心情を表現出来ていれば良いのですが…… 。
それにしても流石は長寿種族。考え方のスケールが違います!
次はまた本編へと戻りますので宜しく御願い致します!
☆manakayuinoさんに描いていただいたモスクイーンのセレネのイラストを第169部百五十七話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




