転移の魔道具と空青色の少女と淑女
本日は第169話を投稿します! コーゼストがサクッと作った転移魔導機! 今回はこれを使って懐かしのオーリーフ島へ向かいます!
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目の前に立つコーゼストが差し翳す右手の上に浮かぶ複雑な魔法陣。幾重もの円環の中にはこれまた複雑な魔法文字が輪となって流れている。
「──Construction of proper operative method(適正術式構築)」
コーゼストの台詞と共に魔法文字が次々と入れ替わり組み替えられて行く。
「Construction method completion(術式構築完了)──Start writing(書込み開始)」
その台詞と共に幾重もの魔法文字の円環はひとつ、またひとつとコーゼストの翳した掌の上の魔核へと吸い込まれて行く──でも何か違和感が?
「──Check of operative writing(術式書込み確認)──Activation simulation(起動シュミレーション確認)───Complete confirmation(確認完了)──全工程完了致しました」
全ての工程を終えてそう話すコーゼスト。見ていたアン以下の全員は「おおーーッ!」と拍手喝采である。
「なぁコーゼスト」
「なんですか?」
俺は先程感じた違和感を実際に確認してみる。
「今のは何だか、以前のとは作業工程が違ってなかったか?」
「流石はマスター、良くお気付きに」
俺の質問にわざとらしく大きな身振りで答えるコーゼスト。
「茶化すなよ」
「茶化してなどいません。でも本当に良くお気付きになられましたね」
「そりゃまぁ、な」
それはそうだ。今まで何度も目の前で同じ様にサクサクと魔道具を作られているんだ、嫌が上にもその工程ぐらい覚えるものである。
「今回のは今までのとは違い、より緻密に術式を書き込む必要があった為です。それだけ転移魔導機には細密な術式操作が必要なのですよ」
聞かれたコーゼストは俺が感じた違和感について丁寧に説明してくれる。
その辺は流石、伊達に《この世界最高の魔道具》を自称している訳では無いな。
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そんな感じでコーゼストは魔道具──転移魔導機と言うらしいが──を2つと、あと1つ小さな魔道具をちゃっちゃっと製作した。
「なんだこのちっこいのは?」
「これは標識、こちらに設置する分です。これが無いと向こうから戻れませんからね。2つの地点のそれぞれの座標が判れば使わなくなりますけどね」
「お、おう。そ、そうか」
その辺はやはり流石と言うべきか。そんな事を思いながらふとルストラ師匠を見ると「い、今のは一体なに?」と驚いている。そういや師匠は初めて見るんだったな。
「あーっと、師匠。コーゼストはこうして魔道具作りをするんだ。まあ慣れてくれ」
俺は苦笑しながら師匠にそう告げる。
「そ、そうなのね……はぁ、ここ何日かで何年分驚いたかしらねぇ」
俺の台詞を聞いて大きな溜め息と共に呆れた口調の師匠──すんませんが慣れてください。俺の傍ではアン達も苦笑いを浮かべているし、ヤトはアヒルの燻製肉、セレネは蜜桃に齧り付いている──何なんだこの構図?!
「えへん──えっと、これはもう使えるのかコーゼスト?」
兎に角、場の空気を変える意味も込めて、部屋の片隅にビーコンを設置しているコーゼストに改めて問う。
「勿論使えます──が、一応はテストはすべきかと。それとマスター」
俺の問いにコーゼストは端的に答えると、何かを確認して来る。
「ん?」
「向こうに行くのであればマデレイネ様とジータの事をどう扱うべきか、決断してからの方が宜しいかと思いますが」
……どうやらコーゼストは、マディとジータ2人との婚約、果ては結婚について危惧していたみたいである。本当にそんな所には妙に気が回る奴である。
「うん、まぁそれはもう決めているから大丈夫なんだが……」
「それなら安心しました。今回は随分と決断が早いのですね?」
「そりゃまあ、な」
変な所に感心するコーゼストに苦く笑う俺。普段からその気遣いをしてくれれば本当に嬉しいんだが…… 。
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兎にも角にもテストと言う事になり、メンバーを選出する事にした。俺とコーゼストは勿論なのだが、あとは誰を同行させるべきか──つい先日旅の同行者となった師匠以外のメンバーが話し合い、ここはやはり第1夫人予定のアンと現状での最高戦力と確認されているヤトが同行する事になった。エリナ達やセレネはお留守番である。
「よし、じゃあ少し行ってくる。皆んな、あとは頼むな。師匠、少しの間よろしくお願いします」
「ええ、任せておいて」
ルストラ師匠が力強く頷くのを見て、俺は頷き返すとコーゼストに作動開始を指示する。
「──それじゃあコーゼスト、頼んだ」
「わかりました。それでは皆さん此方にお寄り下さい──魔力波標識を受信。方角確認。距離確認。転移魔導機起動開始」
俺の言葉にひとつ頷くと魔道具を起動させるコーゼスト。手に持たれた転移魔導機が輝くと、俺達の足元一面に魔法陣が現れ明滅を繰り返している。
「転送開始」
コーゼストの短い台詞に床の魔法陣がひときわ輝きを増すと、目の前が眩しい光に埋め尽くされる! あまりの眩しさに思わず目を閉じる俺! 次の瞬間、閉じた瞼越しに眩しさを感じなくなり目を開けると
「おお……」
ふた月ほど前に世話になった魚人族の宮殿の中庭に立っていた。間違い無い、確かこの中庭のココはコーゼストがビーコンとか言うのを設置した場所だ。
「えっ? も、もう着いた……の?」
アンも辺りをキョロキョロ見回してここが宮殿なのを確認している。ヤトも「へぇ、もう着いたのね!」とアン同様に辺りを見回している。
何と言うか迷宮の転移陣はゆっくりとした感覚なのだが、この転移魔導機による転移は本当に一瞬なんだな。
俺もやはり辺りを見渡しながらそんな事を思うのだった。
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「えっ?! お……お兄……ちゃん?」
アン達と共に転移して来た宮殿の中庭を懐かしげに見回していると背後から俺の名を呼ぶ声が。振り返るとそこにはメロウ族の少女が──空青色の髪にコルチカムの様な淡い紫色の瞳。間違い無い、この子は──
「お兄ちゃーーーんッ!」
──俺が思い至ると同時に、大きな声を上げながら一目散に駆け寄り抱き着いてくる少女。
「おっと! ははっ、久しぶりだなマーユ!」
そう彼女こそはメロウ族のお姫様のマーユなのである。
「ほんとに本当にお兄ちゃんよね?! 夢じゃないよね?!」
「ああ、正真正銘本物さ。約束通り転移の魔道具が出来たんでテストを兼ねて来てみたんだ」
「えへへっ、やっぱりお兄ちゃんだぁ!」
そう言いながら俺の腰辺りにギュッと抱き着いて顔を埋め、ひと通り満足すると
「アンお姉ちゃんッ! ヤトお姉ちゃんッ!」
アンとヤトの方に駆け寄って行くマーユ。
「こんにちは、マーユちゃん!」
「マーユ、元気だった?!」
そして2人(1人と1匹)にもギュッと抱き着いて再会を喜び合うと、再び俺のところに駆けてきて
「えっと、お姉ちゃんはだァれ?」
傍に立っていたコーゼストに向かって首を傾げる。そりゃそうだ、何しろマーユは妖精体のコーゼストしか知らないんだから。
「お久しぶりですマーユちゃん。私はコーゼストですよ」
「えっ? コーゼストさん……って、うそでしょ?」
笑顔を浮かべながらマーユに再会の挨拶をするコーゼストに訝しむマーユ──そりゃ仕方ないよな。
「嘘じゃないぞ、マーユ。コイツは間違い無くコーゼストだ。俺が保証する」
俺は苦笑しながらコーゼストの肩に手を掛け、マーユに言って聞かせる。マーユが「コーゼストさんが妖精さんから大きくなっちゃった!!」と驚きの声を上げたのには思わず笑ってしまった。
「あははははっ、まあその辺も含めてお母さんの前で説明するから」
「あ、うん、そうだね! お兄ちゃん達が来たの知ったらお母さんもびっくりするだろうね!」
俺の台詞に笑顔で答えると「お母さんは今ならぎょくざのまにいるよ!」と、俺の手を嬉しそうに握ると案内するマーユ。
やれやれ、マディが驚く姿が目に浮かぶ様である。
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「ウィルッ!」
俺の姿を見てそう叫ぶが早い、俺に抱き着き胸に顔を埋めるマーユと同じターコイズブルーの髪の女性。
ここは宮殿の玉座の間、抱き着いている女性はメロウ族の女王であり、マーユの母親であるマデレイネその人である──と言うか、今の動きは俺の目にも追えなかったのだが?!
マディの動きにアンも驚愕し、俺の傍にピッタリと付いているマーユも驚いている。
「あーっと、マディ、久しぶり」
兎にも角にも黙っている訳にもいかず、在り来りな台詞を口にする俺。すると俺の台詞に反応して
「もうッ! 「久しぶり」じゃないですよ! 私は貴方に忘れ去られてしまったかと思いましたッ!」
ガバッと顔を上げ、そう抗議の声を上げて来るマディ。見る間に紫水晶の目から涙が溢れ出て来て、再び俺の胸に顔を埋めると小さな嗚咽を漏らす。
参ったな、まさか泣かれるとは思ってもいなかった。ふと気になり後ろに視線を向けるとアンは「仕方ないわね」と言う顔で此方を見ているし、玉座の方を見ると摂政のヨエルさんがウンウンと頷いている。と言うか臣下としてその反応はどうなんだ?!
思わずツッコミたくなる所をグッと抑え、改めて両腕でそっとマディを掻き抱く。
「……マディ、泣かないでくれ」
女性特有の柔らかい感触に少しドギマギしながら、そう優しく声を掛ける俺。すると
「はい……そう……ですね、私が泣いてしまうとウィルが困ってしまいますよね……」
漸く俺の胸から顔を上げて濡れた瞳で掬い上げる様に見つめて微笑むマディ。やれやれ、このまま泣き続けられていたらどうして良いかわからなくなる所だった。
俺がそんな事を思っているとは露知らず身体を離すマディに、俺は今回はコーゼストが作った転移魔導機のテストを兼ねて訪れた事、俺の傍に立つ女性が迷宮『黄昏の城』で自動人形の身体を手に入れたコーゼストである事をマーユ共々に説明して聞かせた。
最初は黙って聞いていたマディとマーユは話を聞くに従って目を見開き、最後には驚きを顔に貼りつけていた。
「はぁ……ふた月ほど会わないうちにそんな事が……」
「コーゼストさん、すごぉい!」
「まあ、それ程でもあります」
マディとマーユの感嘆の声にドヤ顔で答えるコーゼスト。
何故にお前がそんなに威張るんだ? 俺は思わず頭の中でツッコミを入れてしまった。
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「えへん。それでな、今日はマディとジータの2人に話があるんだ」
とにかく一旦落ち着いたのを見計らって今回来訪したもうひとつの目的について話す俺。
それだけでマディは何かに気付いたらしく、玉座の傍に置いてある魔道具の釦をリズム良く数回押す。すると少しして取り付けられた小さな魔水晶が何度か明滅した。
聞くとこれはオーリーフ島と『伍の群島』を繋ぐ直通通信で、何方かで釦を押すともう片方の魔水晶が光り、その明滅の回数や点灯時間の長さで短文なら連絡出来る魔道具なのだそうだ。
つまりは船舶同士で短文のやり取りに使われている光の明滅を利用した通信と同じと言う訳である。
「これで凡そ40分も有ればジータが宮殿に顔を出しますよ」
連絡し終えてマディが俺にそう宣う。それはもう物凄く良い笑顔で。どうやらマディは此方の意図に勘付いているみたいである。
「お兄ちゃん達、今日はゆっくりしていけるの?」
一方のマーユは俺の腰に手を回し、咲き誇る花の様な満面の笑みで尋ねて来る。
「いや、今日はさっきも言った通りテストだからな。そんなに長居はしないつもりなんだが……」
俺の返事に一瞬マーユの表情が曇るが、直ぐに笑顔で「そっかぁ」と言ってギュッと抱き着いて来る。そんなマーユの頭を優しく撫でながら
「そんな顔をするなよ、マーユ。これからは何時でも会えるんだ」
とこれまた優しく諭す俺。後ろではヤトが俺に抱き着きたいらしくウズウズしている様子を感じ取る──お前は後でな。
「とにかく、立ったまま待ち続けるのも大変ですし、奥の応接間で待つ事に致しましょう」
そんな俺とマーユのやり取りを見ていたマディはそう言って俺達を応接間へと誘う。
ここは、素直に厚意に甘えるとするか。
久々のオーリーフ島で熱烈に歓迎してくれたのはコチラも久々のマーユとマディ! 更にジータも呼んでますが、次回はウィルがマディとジータ2人に……?! それはまた次回ご期待下さい!
☆manakayuinoさんに描いていただいたモスクイーンのセレネのイラストを第169部百五十七話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




