ルストラ、しごきと過去と秘密
本日は第168話を投稿します!
先ずは謝罪から! 前回は前書き後書きを書きませんでしたが今回から再開します!
さて、ルストラ師匠から鍛錬を受けているウィル! それはどんな鍛錬なのか…… ?
-168-
恩師ルストラ師匠と再会した翌朝、宿泊している宿屋『黒鷲』の裏手にて──
「ほらっ! もっと脇を締めて腕を振り抜く様にッ!」
「はっ、はっ──はっ、はっ──!」
俺は師匠から刀を使った剣術、より正確には刀術を習っていた。あのあと師匠に神鉄製の刀を手に入れた事を話したら、「それなら刀に適した剣術を習得させてあげるわ」と、朝から稽古をつけてもらっているのだ。もちろん神鉄の真剣で、である。
「あぁ、それじゃあ駄目よ! 腕を振り抜けとは言ったけど、腕力に任せて振り回しているだけよ! もっと斬る相手より遠くを斬る様に大きく!」
そう言うと手に持った指導用の杖で俺の腕を打ち据える師匠。そのまま続けて足も打ち据えられる。
「ほらほらっ、足が止まっているわよ?! 足捌きも意識しながら足を止めないで! 腕の力で無く、もっと刀の重さを感じて刀の重みを活かしなさいなッ!」
更なる檄が飛び、俺は足捌きを意識しつつ、刀の重みを認識し、左手指2本のみでしっかり握り、添えていた右手を含めた他の指は振り下ろす一瞬、柄をグッと握り締めて一気に振り下ろす! 瞬間、それまで「ブォン」と低い鈍り音をあげていた刀が「ヒュンッ」と甲高い風切り音を奏でる。それを耳にした師匠は
「そうよ、さっきよりとても良くなってきたわ! 今の感じを忘れない様にね! さぁ続けてッ!」
更なる素振りを課して来る。師匠から注意された箇所に留意し、真っ向への斬り下し、右上から左下への斬り下し、左上から右下への斬り下し、横薙ぎ、左下から右上への斬り上げ、右下から左上への斬り上げ、そして突きと7つの動作を流れる様に連続して行う俺。
それ等の動作を何十回となく繰り返し刀を振るうと、漸く師匠から「そこまでッ!」と声が掛かり、俺は素振りを止めると肩で大きく息をする。今まででも自己鍛錬は欠かして来なかったのだが、それでも10年ぶりの師匠の鬼の指導はきつい。
俺は両手を膝に置く形で体を屈め、呼吸を整える様に何度も大きな呼吸を繰り返すのだった。
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「はぁはぁはぁ、はぁはぁ、はぁ……あ、ありがとうございましたッ」
漸く呼吸も落ち着き、刀を鞘に納めると、師匠に向かい頭を下げる俺。「修行は礼に始まり礼に終わる」、俺が修行時代に師匠から幾度も聞かされ叩き込まれた精神である。
この人は礼を失すると例え修行がちゃんと出来ていてもお叱りが飛んでくる。実戦ならいざ知らず、教えを請う者の姿勢には師匠はうるさいのだ。
「うん、これから毎日基本の型の素振りをする様に。大丈夫、ウィルなら直ぐに上達するわ」
そんな俺の様子に満足気に頷きながらそう言葉を発する師匠。何と言うか昔の修行時代に戻った感じである。
「ウィル、お疲れ様ッ」
一通りの修練を終えた俺に手拭いを差し出すアン。俺が師匠と修練すると言ったら、何故か全員「見学」と称してついて来たのである。
「はい、ルストラ師匠もどうぞッ」
「あらッ? ありがとうアンさん! 流石に気が利くわね! ウィルが惚れ込む訳だわぁ」
俺にタオルを差し出すと、師匠にもタオルを手渡すアン。受け取りながら師匠がアンをそんな風に褒めちぎると、アンの丁子色の頬が照れて真っ赤になる。
「はいッ! ウィルにルストラ師匠さん、冷たいものをどうぞ!」
真っ赤になったアンの横から今度はエリナが俺と師匠に水の満たされた銀杯を差し出してくる。このコップ、正確には銀杯ではなく星銀で出来ていて、内底の方に冷却の魔法陣が刻まれている。なので中に注いだ飲み物はいつまでも冷たいままなのだ。
実はコレ、『黄昏の城』で回収した魔道具なのである。効果の程はコーゼストとオルガさんの保証付きだ。
「ああ、ありがとうエリナ」
俺はエリナに礼を言いながら笑顔で受け取り
「ん、ごくごく、ごく、ぷはぁ! これは生き返るわねッ! ありがとうエリナさん!」
一気に飲み干した師匠も笑顔である。それを受け「いえいえ」とこちらも笑顔で返すエリナ。
「ふふっ、エリナさんも気が利くわね! きっと良い奥さんになれるわよ!」
そんなエリナに追撃の声を掛ける師匠。お陰でアンに続きエリナも頬を赤らめて照れてしまう。
師匠……開放的なのは良いんだが、自由過ぎるのも何だぞ?
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「それにしても──ウィルはこんな厳しい修行をしてきたんだねぇ……」
アンとエリナの2人が隅で照れ照れしていると、今度は4番目の嫁さん候補であるレオナが俺の修練を間近で見た感想を率直に述べる。
「ふぅ……まぁな。基本うちの師匠は実戦主義なんだが、昔から基本はみっちりと叩き込まれたよ」
「あらっ、今回だって基本の型を習得出来たら直ぐに私との真剣を使った手合わせよ?」
俺のレオナへの返答に被せる様に笑顔のままそう宣う師匠。どうやら迂闊に薮を突いて大竜蛇を起こしたみたいである。
「オテヤワラカニオネガイシマス……」
そんな師匠の台詞に思わず棒読みで答える俺。
因みに今まで師匠との手合わせは49回あったのだが成績は49戦全敗である。その事をその場に居る皆んなに伝えると「そんなに?!」と声が上がる。
「実力差があるのはわかるけどウィルが一度も勝ててないなんて……」
照れ照れから復活したアンは呆然とした声を上げている。
「ん? いや、師匠の実力はそんなものじゃないぞ? 何でも俺を指導する前にはその辺に落ちていた棒切れひとつで『深淵の森』を単身で攻略していたって話だ」
「「「「「「「えっ?!」」」」」」」
俺の台詞に皆んな一斉にそんな声を上げ、一斉に師匠へと視線を向ける。
「あぁ、そう言えばそう言う事もあったわねぇ、若気の至りよ。でもウィルも随分と昔の話を覚えていたわね」
皆んなの視線を受け、全く意に介さない様子で答える師匠。
「そりゃもう、最初に聞いた時の衝撃が大きかったからね」
「でもアナタだってアンさんとパーティーを組む前は単身で『魔王の庭』に潜っていたって言っていたわよね?」
「そりゃまあ、そうなんだが……」
師匠からの的確なツッコミに言葉が詰まる。実の所、俺がソロだったのは単に目付きが悪いだけだったんだが…… 。
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兎にも角にも修練を終えたので、場所を宿の食堂へと移して師匠とアン達の話は続く。
「あの、前から気になっていたのですが、ルストラ師匠さんは貴族の家の出ですか?」
そう聞いたのはエリナ。まあ師匠の氏名に『ルストラ・フォン・モーゼンハイム』と雅名が入っているからな、当然の疑問だろう。アンやレオナ、フェリピナ達も聞き耳を立てている。
「うーん、まぁ、それは……ねぇ」
エリナの問い掛けに、苦笑いを浮かべながら歯切れの悪い生返事を返す師匠。昔から師匠は自分の出自になると歯切れが悪くなるんだが、まぁその辺は今の俺なら察しがつく。なので──
「エリナ、師匠にも話したくない事はあるんだよ。エリナだって俺に聞かれたくない事はあるんじゃないのか? それと同じさ」
──ここは助け舟を出す事にする。俺の台詞に「しまった」と言う顔をすると
「そ、そうよね! すいませんでしたルストラ師匠さんッ! 不躾な質問をして……」
慌てて師匠に謝罪するエリナ。そんなエリナの謝罪を「そんなに畏まらなくても良いわよ」と笑って受け取る師匠。そして俺の方に視線をチラリと向けると、「助かったわ」とばかりに片目を瞑る仕草をする。対して俺は「どういたしまして」とばかりに苦笑を浮かべるしかない。そんな俺の傍ではヤトとセレネが宿の料理を黙々と食べていたりする。
一方オルガさんは何かを考えていたみたいなのだが、俺を手招きすると
「……ウィル、僕の記憶だと確か40年程前に取り潰しにあった貴族の中にモーゼンハイムと言う家名があった記憶が……」
そう耳打ちしてくる。どうやら彼女は昔の記憶を思い起こしていたらしい。にしても40年前か…… 。
「……そんな昔の話を良く覚えていたな?」
「……いや、丁度その頃に今のエリンクス国王陛下が即位された時期で、前国王の件で揉めていたんだよ」
聞けば当時前国王が病で倒れた時に、正室派と側室派に別れ侃々諤々としていたらしく、その煽りを食らって幾つかの貴族が取り潰しの憂き目にあったのだそうだ。その中でもモーゼンハイム家は側室派の有力貴族として名を馳せていたのだが、側室が追放されると同時に取り潰されたらしい。
それにしても流石はオルガさん、その辺は伊達に長く生きて来た訳では無いな。
因みにモーゼンハイム家は辺境伯だったそうな。
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そんなこんなしているうちに朝食を食べ終えて泊まっている部屋に一旦戻る俺達。因みに師匠も昨日から此方の宿に宿泊先を変えている。更に言うと俺達の大部屋の隣りだったりする。
「それじゃあ今後の予定について話そうか?!」
そして更に言うとオルガさんが俺達の大部屋へとちゃっかり部屋を変えていたりする。
「……全く、いきなり夕べ「僕も今夜からここに泊まるからね」と言って来たのには驚いたぞ、オルガさん?」
「ん? だって僕はもうウィルの婚約者なんだしアンさん達と同じ様に一緒に居ないとね!」
俺のツッコミにも怯む事なく、あっけらかんと答えるオルガさん。なんと言うか、凄く積極的なんだが? アン達も顔を引き攣らせているし。
「まぁそれはそれとして、今後の予定だよ」
オルガさんが脇道に逸れかけた話を元に戻す。
「とりあえず、2日ほどしたらこのフェンチェンを発とうと思うんだけど……何か意見とかあるかな?」
「うーん、俺はここでの用事はもう済ませたし良いんじゃないか? アン達はどうだ?」
オルガさんの問い掛けにそう答えた後にアン達に改めて俺から尋ねる。
「そうねぇ、私達も特には無いかしら?」
俺からの問いにアンはそう答えると他のメンバーに視線を送る。エリナ、レオナ、そしてフェリピナ達も異議はなさそうである。
「私も昨日も言ったけど、もう用事は済ませたから何ら問題はないわね」
師匠も特には無さそうだ。なら問題無いか?
「良し、それなら2日後ここを発って西方大陸への帰路に着こう! ゾラ、あとで竜車を準備しておいてくれないかい」
「分かりました、セルギウス様」
皆んなの声を聞くとオルガさんは傍に控えていた爬虫類人の従者ゾラにそう指示を与える。言い渡されたゾラはオルガさんに一礼すると直ぐに「食糧の手配がありますので」と部屋を出て行く。
その辺は流石オルガさんの従者を務めているだけの事はある。細かい所に気が利く。
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「では私は出立までの間にひとつ案件を処理したいと思います」
漸く帰る算段になって、今の今まで黙っていたコーゼストがいきなりそんな事を宣う。それを聞いた皆んなの視線がコーゼストに集まる。
「何だよ、案件って?」
「マスター、お忘れですか? オーリーフ島の魚人族のマーユちゃんに約束した転移の魔道具ですよ」
「あ」
そういやマーユに「東方大陸に着いてか、西方大陸に帰ってから」って約束していたな! 今の今まですっかり忘れていた! アン達も一様に「あっ……」と言う反応をしている──と言うか君達も忘れていたのね。
「それをこれから作るのか?」
気を取り直しコーゼストに尋ねる俺。
「勿論、幸いに『黄昏の城』で回収した部材が豊富にありますし、そんなに手間は掛からないかと」
俺の質問に答えながら自身の無限収納から魔物が落とした5セルトほどの魔核と星銀製らしき壊れた魔道具を取り出すコーゼスト。
「ではこれ等を使って転移の魔道具──転移魔導機を作成します」
「なんだお前、筐体も作れるのかよ?」
「そこはラファエル殿から色々と学ばせていただきましたので」
俺のツッコミにもしれっと答えるコーゼスト。最早絶好調である。
「では──始めます」
そう言うと魔核を掌に乗せて目の前に翳す。続けて
「Magic operation(魔法術式起動)」
一言そう呟くと翳した掌の上に複雑な魔法文字で構成された魔法陣が浮かび上がる!
「Magic search(魔法術式検索)──Construction of proper operative method(適正術式構築)──」
皆んなが注目する中、コーゼストは淡々と次の工程へと進むのだった。
オルガさんの記憶していた事で、不明だったルストラ師匠の過去が少し判明した感じです。流石はオルガさん、伊達に長生きしていませんね!
そしていよいよフェンチェンの街を発つ話が出た所で、コーゼスト先生の的確な指摘(?)が入りました! こうした事に無駄に気が利くコーゼストです!
☆manakayuinoさんに描いていただいた成長したオルガさんのイラストを第175部本編百六十三話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




