登録と休息と彼の人と
本日は第165話を投稿します!
今日はウィルがフェンチェンの町の冒険者ギルド支部に、女王蛾亜人のセレネを伴って訪れている所から話が始まります!
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「──はいっ、これで申請は受諾されましたっ! それでは此方をお持ちになってください!」
そう言って手渡される従魔の証明である腕輪──もちろんセレネの、である。迷宮『黄昏の城』を無事攻略し終えて外界に帰還した俺達は竜車で手前の街フェンチェンまで戻って来ていた。
そこにある冒険者ギルドの支部で戻って来て早速セレネの従魔の登録を済ませたのだ。流石最高統括責任者であるオルガさんが話を通してくれたので手続きは滞り無くあっという間だった。
まあ尤もオルガさん本人はいきなり大人になったりしてしまい、一時は本人かどうかを疑われたりしたが、身分証明の星銀の認識札を見せて信用して貰ったりしていた。
また当然の事ながらSランクの魔物であるセレネをそのまま連れて行く訳にも行かず、身の丈80セルトの短身サイズで顕現させていたりする。
兎にも角にも無事に従魔への登録も終わり早速セレネの左腕に腕輪を着ける俺。因みにヤトも左腕に証明の腕輪を着けていたりする。何でも2人とも言うには「御主人様とお揃いッ♡」なのだそうだ。その辺の感覚は意外とヒトっぽくもある。
そんな事を思いつつ腕輪を着け終わり、これで晴れてセレネを現実体で再顕現する俺。
「ん〜っ、はぁ、窮屈だったわァ」
元の姿に戻ったセレネの第一声がコレである。そのまま大きく伸びをすると、自身の左腕に着けられた腕輪をまじまじと眺め、そして俺の顔を見るとニコリと笑顔を見せ
「これで私もちゃんとした御主人様の下僕よ! よろしくお願いしますね、御主人様っ♡」
と俺の右腕に抱き着いて来るセレネ。そんなにくっつくな! 受付の子が目を白黒させているじゃないか! 周りにいる冒険者達も何やら遠巻きに見ているし。
参考までに言うと俺の左腕はヤトがガッチリと死守していたり、アン達は後ろの方で苦笑いを浮かべていたりするのである。
どうでも良いが凄く動き辛い…… 。
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半ば混沌のまま冒険者ギルドを出る俺達。出たら出たで街中の人達の視線が一斉に此方に向くのを感じる。
「へぇー、コレがヒトの住んでる『街』って言うのね」
そんな視線など何処吹く風、飽くまでもマイペースなセレネ。なんと言うか物怖じしない気質みたいである。色んな店先に並んでいる様々な品を見ては「へぇー」とか「ふーん」とか「こんなのまでっ?」とか中々に姦しい。
そんな中でも一番セレネが食い付いたのは青果店だった。聞けばセレネは肉も食うが青果、特に果物に目が無いそうだ。なので当然
「とっても甘そうな香りッ! ねぇ、御主人様ッ! この果物買ってくださらない?!」
店先の籠に盛られていた一山の果物を指差して強請って来たりする。あまり見た事が無い果物なので店の主人に尋ねると、これは蜜桃と言う名の果物で、ここ東方でもこの地域でしか採れない物らしい。
瞳を輝かせ(瞳は無いが)強請って来るセレネに苦笑しながら、径10セルト程の実が5つ盛ってある籠を4籠ほど買ってやる俺。セレネが「ひとつだけ食べたい」と言うので蜜桃ひとつを手渡し、あとは無限収納へと仕舞い込む。
「これこれッ、とっても美味しそうーーーッ♡」
そう言うなり蜜桃に齧り付くセレネ。そして一口食べて「んーーッ! 思った通り美味しいぃぃ♡」と声を上げるとまた齧り付く。シャクシャクと音を立てながら蜜桃を食べる様は何だか栗鼠か山鼠の様にも見える。
ヤトもそうだが魔物って言うのは本当に美味そうに食べ物を食べるよなぁ…… 。
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そんなこんなしながら俺達はセレネにフェンチェンの街を案内する。依頼の半分は達成したんだ、帰りぐらいはのんびりしても罰は当たらないだろう。その事をオルガさんに話すと
「うーん、そうだねぇ。まあとりあえずここで2、3日はゆっくりしても良いかな?」
と中々の心遣いを見せてくれたりする。流石はグランドマスター、懐の深さを見せてくれる。
まあ休むにしても先ずは泊まる所を確保しなくては話にならない、と言う事なので、前回世話になった宿屋『黒鷲』の門を再び潜る。今回はセレネと言う付録が増えていたが、快く宿泊を認めてくれたのは有難かった。
そして一夜が明け──
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翌朝、久し振りの柔らかいベッドで目を覚ますと、俺の膝上の争奪戦の跡が垣間見えた。具体的にはヤトが左膝を、セレネが右膝をそれぞれ独占しており、敗退した小ファウストとデュークは俺の枕元で丸くなっていた──うん、ファウスト、デューク、頑張れよ。
そしてそれ等を取り囲む様にアン、エリナ、レオナ、そしていつの間に部屋に入ってきていたオルガさんが俺のベッドで寝ていたりする──うん、君達も本当にブレないな! 俺が苦笑しながら身動ぎすると
「んむぅ? あっ、御主人様おはようッ!」
「ふあぁ……あらっ、お目覚めね? 御主人様♡」
ヤトとセレネが先ず目を覚まし、それが伝播する様にアン達も目を覚ます。
「「「「あっ、ウィル。おはよう♡」」」」
それは見事なまでの四重奏を奏でながら──と言うか君達、息バッチリだな?!
俺がそんな事を思っているとは全く知る事も無く、目覚めるとそそくさと俺から離れていくアン達。
「おはようございます、マスター。良くお眠りになられた様で」
ベッドの脇からはコーゼストが椅子に腰掛けたまま声を掛けて来る。コーゼストは自動人形なので寝る必要は無いのだが、お前は一晩中俺のベッドで起きた事を見ていたのか?
程なくしてフェリピナ達やルアンジェも起きてきたので、皆んなで顔を洗い口を濯ぎ、階下の食堂で朝食を摂る。因みにルアンジェは魔法生命体の身体になったのでヒト並に寝れるらしい。
そして俺はと言えばコーゼストまでもがしれっと一緒になって食事をしていたのを見て、思わずココロの中でツッコミを入れていたりする。
そんなこんなで食後に歯を磨き、部屋に戻ると
「さて、皆んな。昨日も言った通り今日明日は休みにするからね。ゆっくり冒険の疲れを取ってくれたまえ!」
全員が集まったのを見計らいオルガさんがそう言葉を発し、皆んなが小さい歓喜の声を上げて、早速何処かに行くかと算段をしている。
俺も──彼処に行くか。
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身支度を整え宿を出た俺は、『黄昏の城』に潜る前に神鉄で拵えた刀を買った『コウ婆さんの万屋』へと向かう。結局、迷宮探索にカタナは使わなかったが、ダンジョンから戻ってきたらまた立ち寄ろうと決めていたのである。
因みに俺が万屋に行くと言ったら結局全員が付いて来る事になった──君達は暇なのか? そう後ろから付いて来るアン達に軽くツッコミを入れつつ、約1ヶ月振りに万屋の扉を潜る俺。
「……いらっしゃい──おや、アンタらは?」
前と同じ様に店の奥の椅子に1人腰掛けていた老女コウ・クェァシン──コウ婆さんが俺達の顔を見るとそう声を掛けて来る。
「やあ、コウ婆さん、久しぶり」
「お久しぶりです、コウさん」
俺とアンはその声に返事を返し、エリナ達も「お久しぶり」と軽く頭を下げて挨拶をする。
「まぁまぁ、良く無事に帰って来れたねぇ。ひと月振りぐらいかい? それにしても前には見た事が無かった娘や魔物の娘も居るじゃないか」
俺達の姿を見てコウ婆さんも心做しか嬉しそうである。俺は手短に『黄昏の城』を無事攻略した事、そして新しい顔触れについて話した。
「──とまぁ、こんな感じさ」
「へぇ、そんな事がね…… 。するってぇと、その娘さん達がグラマスさんと妖精さんとオートマトンだった娘で、そっちの魔物っ娘が従魔にしたモスクイーンなのかい? 本当に大したもんだよ。ええっと──」
そこまで言うと急に言い淀むコウ婆さん。そういや俺達の名前を言って無かったな。
「そういや名乗って無かったな。俺はウィルフレドだ、ウィルで良いよ」
「私はアンヘリカです、アンで良いですよ」
俺とアンが改めて自己紹介をするとそれに続いてエリナ達も各々がコウ婆さんに自己紹介をする。
「──んで、このラミアがヤトって名前で、モスクイーンはセレネって言うんだ」
「ヤトよ! 改めてよろしくねッ! またアヒルの燻製肉を買わせてもらうわねッ!」
「初めまして、御主人様の忠実な下僕のセレネですわ」
俺が最後にヤトとセレネを紹介すると、胸を張って偉そうに挨拶するヤトと、深々と頭を下げるセレネ。
どうでも良いがヤト、別にそれだけ買いに来た訳じゃないンだぞ?!
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とりあえず自己紹介も済んだ所で、コウ婆さんが「それで今日はどうしたんだい?」と尋ねて来る。
「ああ、見つけたお宝を幾つか売ろうと思ってな」
その問い掛けに端的に答える俺。別に約束していた訳じゃないが、まあ気持ちだ。それにその辺に関しては施設で回収した物のうち数点の調度品を売る許可はオルガさんから貰っていたりする。そして無限収納から売る為の調度品を取り出す俺。
コーゼストは新しく身体を手に入れたが、飽くまでも本体は俺の左腕の腕輪なので、こうして自由にモノの出し入れは出来る様になっている。
「へぇ、どれどれ……これはなかなかのもんだねぇ」
床に置いた調度品の数々に目を輝かせるコウ婆さん。そしてひとつひとつ手に取り、とくと見ると
「よし……それじゃあ、これぐらいで買わせて貰おうかね」
座ってる脇に置かれているテーブルの引き出しを開け、中から金貨を25枚出してテーブルの上に積み上げる。
「結構な金額だな」
俺が素直な感想を言うと
「ああ、まず材がこの辺じゃ珍しいトネリコで細工が細かく綺麗で見栄えがする。それに金銀細工が沢山使われてるからね。貴族様が高値で買ってくれる事請け合いさ。誰も損はしないさね」
そう笑って答えてくれるコウ婆さん、なかなかの眼力である。俺は納得すると積まれた金貨を有難く頂戴する事にした。
因みに他のメンバー達は思い思いに店内を物色していた。
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「そういやウィル、この前買っていったカタナは使ってみたのかい?」
ひと通りの取引を終え、徐ろに尋ねて来るコウ婆さん。やはり亡くなった旦那の形見であるカタナが気になるのだろう。
「ああ、それなんだが……」
俺は今回の迷宮探索ではカタナを使わなかった旨を伝える。初めて潜る迷宮で使い熟していない武具を使うのが躊躇われたのだ。その事を正直に告げると
「まあカタナの扱いってのは独特だからね。仕方ないさね」
と何の事は無いと笑って答えてくれて、俺も胸の奥の煩慮が無くなるのを感じた。
俺は軽くコウ婆さんに頭を下げると、アン達に声を掛けて万屋を後にした──ヤトは宣言通りアヒルの燻製肉を抱えていたので買ってやったが。
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コウ婆さんの万屋を出ると今度は攻守交替で、アン達の好きな店を見て回る事になった。昨日はセレネにざっくりと街中を案内しただけなので、アン達も色々と物足りなさを感じていたのだろう。色んな店を冷やかしつつ、気に入った品を好きな様に買うアン達。言うまでもなく代金は俺持ちである。
やがて陽が頭の上に昇り切り、昼となったので何処かの料理店に入ろうかと言う事になり、フェンチェンの街の大通りへと向かう。そして馬車が通る広い道に出た時、大通りの手前に人集りが──何だなんだ?
「ちょっと君、何かあったのかい?」
オルガさんが手近に居た男性に声を掛ける。すると男性は
「ああ、いやな、ウーラン男爵様の馬車に子供が跳ねられてな。進路を塞がれたと怒った男爵様が怪我をした子供を無礼討ちにしようとしたら、女の人がそれを止めて、護衛の兵士達と睨み合っているんだよ」
そう早口で言うと「あんなにいっぱいの兵士相手じゃな……」と苦々しく呟く。その台詞を聞いた俺は気付くと人波をかき分けて最前列へと進み出ていた。
俺の目の前には道の真ん中に停る馬車と、上等な服を纏い額に青筋を立てている貴族の男と立ち並ぶ15人の兵士達、跳ねられて道に伏せている男の子と、この子を庇う様に立つ長身の女性。長い銀髪を紅い組紐でひとつに束ね、右手に抱えた黒檀拵えの120セルト程ある長尺の杖、左腰には70セルト程の濶剣を下げた、横顔から見える鋭い眼差しの妙齢の女性──って?!
「し、師匠ッ?!」
俺はその女性を見た瞬間、そう声を上げていたのである。
無事セレネの従魔登録が出来ましたが、フェンチェンの町の人達のセレネに対する慣れが早い事!
そしてウィル達一行の前に姿を現したのはいつもの如くトラブル! そしてそこに居た女の人とウィルの関係はいかに?!
*蜜桃…………いわゆる桃の実。甘くて美味しい。
*栗鼠…………いわゆる普通のリス。
*山鼠…………いわゆる山ネズミ。そのまんま。
☆manakayuinoさんに描いていただいた成長したオルガさんのイラストを第175部本編百六十三話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




