泡沫の過去と決意のススメ
本日は第162話を投稿します!
床の下から現れたカプセルは何か?! 今回は謎解き回となっております。
-162-
床の下から現れた冷凍睡眠の密閉容器。まさかこんな仕掛けだとは思いもしなかった。名札はコーゼストが確認したので改めて中を覗き込む俺。中には──誰も居ない、って、ええ?
「グラマス、誰も居ないぞ?」
「そうかい……やっぱり……」
「いえ、下の方に何かあります」
俺の台詞に肩を落とすオルガ女史。だが一緒に覗き込んでいたコーゼストが何かを発見したらしく声をあげる。その声に俺もカプセルの下がった方、つまり足側を覗き込むと確かに何かが置かれているのを確認した。
俺はコーゼストに操作盤を操作してもらい蓋を開け、その何かをカプセルから拾い上げる。
「──魔水晶?」
そう、それは正しく魔水晶であった。大きさ的には記録核ぐらいか?
「なぁコーゼスト、これってもしかして……」
その魔水晶を手にした時、ひとつの可能性に思い当たる俺。コーゼストも
「恐らくはマスターの推測通りかと思います」
と同じ意見の様だ。俺はオルガ女史からこの部屋の管理端末が何処にあるか教えてもらうと、魔水晶を持ったまま3人でその設置場所に向かう。
「一体何をするつもりなんだい?」
オルガ女史は疑問を貼り付けた顔で質問してくる。
「いやな、ここのターミナルを使ってこの魔水晶に記録されている情報を読み出そうと思ってな」
「えっ!? それってつまり──」
「──つまりマスターはこの魔水晶も記録核では無いかと考えているのです。私もその考えに同意します。あのカプセルの内部にコレが置かれていた事には意味がある筈です」
俺の答えに驚きの声を上げるオルガ女史。そらまあ確証は無いが、コーゼストは俺の推測を支持してくれているし自信はある。
「良し、コーゼスト。あとはお前の出番だ。頼んだぞ」
「お任せ下さい」
俺から魔水晶を受け取ったコーゼストは、片手に魔水晶を持ち片手を管理端末に置いて操作を開始し、直ぐに管理端末の水晶板に何やら文字が浮かび上がる。
どうやら古代魔導文明の文字らしい、以前『魔王の庭』の生産設備で見た古代魔族の文字に似ているか?
水晶板に浮かぶ文字列を見ながらそんな事を考える俺だった。
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「コイツは今の言語に変換しない……あ、いや、何でもない」
古代魔導文明独特の文字を見ながら、何時もの調子で考えを口にしてしまい慌てて口を噤む俺。コーゼストは軽く首を横に振りながら
「マスター……」
と短く俺を窘め、しまったと反省する。俺の横ではオルガ女史が今まで見たことない真剣な面持ちで水晶板に浮かぶ文字列を食い入る様に見詰めていた──そうだ、これはオルガ女史へと遺された伝言かも知れないのだ。もしかすると凄く個人的な内容かも知れない──もし個人的なメッセージなら他人に見せたくは無いのが普通である。そう思い至って配慮が足りない自分を省みる。
そんな事を思っているとオルガ女史の虹色の瞳から、不意に涙がはらはらと流れ落ちる──えっ?
「グラマス──泣いているのか?」
「えっ、あっ?」
オルガ女史は慌てて涙を拭うが、後から後から止めどなく溢れる涙。やがて拭う仕草を止めると
「……ごめん、どうやら堪えきれなかったみたいだ……」
そう言うと横にいる俺に抱き着く様に胸に縋り嗚咽を漏らし始めるオルガ女史。
「お、おい?! グラマス?」
「……お願いだから……少しの間だけこうさせてもらえないかい……?……1人で泣くのは寂し過ぎるんだ……」
慌てる俺の耳に聞こえたのは今にも消え入りそうなオルガ女史のか細い声。それを聞いてしまった俺に唯一出来る事は、彼女のしたい様にさせてやる事のみだった。
そのまま暫く俺の胸で咽び泣くオルガ女史の嗚咽が徐々に収まりを見せて来た。そして顔を盛んに拭うと
「……悪かったね、ウィル君。でも……お陰で落ち着いたよ、ありがとう」
そう言いながら俺の方にニコリと笑顔を向けて来る──その瞳は未だに涙で濡れているが。
「……落ち着いた様なら何よりだ」
そんなオルガ女史には割と素っ気ない言葉を返す俺。彼女の涙で潤んだ瞳と抱き着いていた時の意外と華奢な感触に胸の奥がじんわり熱くなったのは秘密である。
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「なぁ……グラマス、一体何がどうしたってんだ?」
漸く落ち着いた感じのオルガ女史に改めて尋ねる俺。何かそんなに泣くような事が書かれていたのか、気になったのだ。
「あっ……うん、それはね……」
俺の問い掛けにぽつりぽつりと答えるオルガ女史。それによると──まずこの魔水晶に記録されていたのは間違いなくオルガ女史宛てのメッセージだった。
メッセージの主は彼女の一族では無く、このカプセルに入るはずだった彼女の婚約者からであった。その婚約者はオルガ女史が冷凍睡眠した後に同じくコールドスリープする筈だったのだが、直前に急遽取り止めにしたらしいのだ。
その理由は色々な言葉に飾られていたが結局の所、何十、何百、もしかすると千年を越えるかも知れない実験に怖気付いたのが真相であった。
そしてその婚約者の名がエーリヒだったのである。
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「……それでメッセージは最後まで『いつまでも愛している』の繰り返しだったよ……最後まで僕への謝罪は無かったけどね。結局のところ彼は僕の家柄が好きだっただけで、間よくば父に取り入ろうとしていた節もあったからね。だから僕への愛情表現は単なるお飾りだったんだろうさ」
「グラマス殿の話に関しては私が内容を保証します。確かにその様な内容が見受けられました」
自嘲気味に笑うオルガ女史に対し、その話の中身を裏付けるコーゼスト。何とも対照的な2人である。
「そうか……」
こんな時にどう言う言葉を掛けるべきか、一瞬悩んだが短く同意するに留まった俺。でもまあ、どうしてこのカプセルが隠されていたのか、どうしてオルガ女史の一族があえて『精霊の鏡』の記録核にその事を残さなかったのか、わかる気がした。
彼女の一族──恐らくは父親だろうが、元よりそんな野心が透けて見える婚約者との結婚を善とはしなかったのだろう。だから冷凍睡眠しないと言ってきた婚約者の事を記録核には記載せず、こんな手の込んだ仕掛けを仕掛けていたんだろう。
彼女が悠久の時を経て目覚めた時に、傍に居ない婚約者の事を諦めさせる為に。それでも彼女が婚約者を万が一探そうとした時には真実を伝えられる様にして。
恐らくは魔水晶のメッセージは、エーリヒと縁を切る為にわざと記録させたのかも知れない、エーリヒを冷凍睡眠から免れさせる取引材料として。
まぁ全部俺の推測に過ぎないが── 。
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「さてと……ありがとう。本当に済まなかったね、ウィル君」
すっかり落ち着き、顔を上げて済まなそうな顔を見せるオルガ女史。抱き着かれているのは相変わらずだが。
「それは構わないが……」
こんな状況に苦く笑うしかない俺。軽鎧越しに伝わる彼女の身体の感触に、先日の事が脳裏に蘇り思わず鼓動が跳ねる。
一方のオルガ女史はと言うと何故か俺の顔をジッ……と見詰めて目を離さずにいる──なんだ? 虹色の視線が俺の視線と重なっても視線を逸らす事が無い。何となく照れ臭くなって俺から視線を逸らすと
「それではウィル君、先日の答え合わせと行こうじゃないか!」
ニッコリ満面の笑みでそう宣うオルガ女史。その笑顔に嫌な予感しかしないんだが?
「……答え合わせって?」
そうおずおずと尋ねると満面の笑みに更に笑みを重ね
「それはもちろん──僕との結婚を考えてもらえないか、って言う事さ!」
と宣うオルガ女史──うん、まあ、そんな事だと思ってました。つまり彼女はここに婚約者がもしも居たら、と言う可能性を気にして言葉を濁らせていた訳で、結果としてここには婚約者は寝ておらず、その状況から彼女なりに即決したと言う訳か、なるほど──と、こんな状況になっても冷静で居られる自分自身に吃驚する俺。
まぁより正確に言うと数時間前に女王蛾亜人の匂いに晒されて、色々と昂った後なので色恋沙汰に耐性が付いた……のだろうか。
さてさて、兎に角これは予想していた範疇だ。オルガ女史とはそれなりに付き合いも長いし、それに何より俺やアンやルアンジェの事は勿論、エリナやレオナとの事、果てはヤト達従魔の事も理解してくれているヒトだ。当然俺の立場も理解してくれているし、今までだって何度も助けてもらって来た。その為人は信用しているし信頼もしている──うーん、それなら良い、のかな?
『何時ものマスターとはえらい違いですね? どう言う心境の変化です?』
そこまで思いが至ると不意にコーゼストが念話で話し掛けて来る。
『うん、まあ、今までは婚約者を増やす事に抵抗があったんだが、もう良いかなって考えられる様になったんだ。より正確に言うと今まで心の中でモヤモヤしていたのが無くなって、一気に思考が鮮明になった感じなんだよ』
これもまた女王蛾亜人のフェロモンの影響なのだろうか? 兎に角吹っ切れた気分なのである。
『まあ何れにしても、今までみたいにうじうじされるよりは遥かに建設的ですが』
そう肯定的な意見を述べるコーゼストだが──お前はいつも余計な一言が多い奴だな!
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コーゼストとそんなやり取りをして、ふとアン達が傍らに来ていたのに気付いた。そらまあオルガ女史があんなに泣いていたら流石に異変に気付くだろうしな。
「ウィル……何かあったの?」
皆んなを代表してアンが口を開く。俺にオルガ女史が抱き着いているので、少し不機嫌に見える──気がする。その様子に少し心がざわめくがそれも直ぐに落ち着き、俺はひとつ大きく息を吐くと
「アン、エリナ、レオナ、それに皆んな。俺はオルガ女史を婚約者として迎え入れようと思う」
自身の正直な思いを口にする。その台詞にアン達は少し驚いたみたいであるが構わず話し続ける。ここで発見したモノと事柄、オルガ女史に纏わる話全てを。そして──
「──とまあこんな感じだ。予め言っておくが、単なる同情から婚約を決めた訳じゃないぞ? それはそれで彼女に失礼だろうしな。そらまあ全く無いと言えば嘘になるけど俺はアン達なみに、いや、もしかするとそれ以上に、俺やアン達にヤト達を理解してくれているこのヒトと一緒になりたいと思ったし、護ってやりたいと思ったのは本当なんだ」
自分の想い一切を偽る事無く伝える俺。全てを聞き終えると先ずアンが口を開き
「──私は貴方がこのヒトと思うなら反対しないわ。それに貴方の心を縛るつもりも無い。貴方が私達誰をも等しく愛してくれている事はわかったから。ね、エリナ? レオナ?」
俺の決断を支持してくれ、次いでエリナとレオナに話を振る。
「ええ、私も貴方がそこまで考えた末の決断なら反対しないわ。寧ろ遅かったくらいだし」
「あたしも構わないよ。あたし達を平等に扱ってくれれば」
話を振られたエリナとレオナも俺の決断を支持してくれる。それに続けてフェリピナ達も笑顔で首を縦に振り
「──だそうよ、ウィル──なのでグラマス、いえオルガ様、私達は貴方がウィルを愛する同志となるのを歓迎します」
皆んなの意見を集約する形でアンがそう締める。それを聞いて思わず安堵の溜め息が漏れる俺。一方のオルガ女史は事の成り行きを固唾を呑んで見守っていたが、アン達の歓迎の意を伝えられると固い表情から一転、パァっと破顔すると
「ありがとうウィル君! ありがとう皆んな!」
嬉しさを爆発させながら俺に抱き着き直し、そして──
──プチュ♡
その勢いのまま俺の唇に自分の唇を重ねた──うぉい?!
「チュッ……んっ……チュ……」
そして一心不乱に俺の唇を何度も自分の唇で吸うオルガ女史。
「「「「「「アアアァァァァァァ?!」」」」」」
部屋の中にアン達の絶叫が響き渡る。そしてヤト、「私もまたマスターとキスしようっと♡」とか言うな!
俺──この迷宮でこんな目に遭うのは何回目だよ!?!
意外とあっさりオルガ女史との婚約結婚を決断したウィル!
まぁ流石に嫁さんも5人目になれば色々と度胸も付きますよね(笑)決して女王蛾亜人のフェロモンだけが切っ掛けでは無いはず……そう思ってくださいませ! 主にウィルの名誉の為に! (笑)
それにしてもまたキスをされていますね…… 。
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルのヤンデレブラコン妹のアドルフィーネのイラストを第107部本編百一話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
☆第13部本編十三話に掲載のアンのイラストがmanakayuinoさんのイラストに差し替えられました!そちらも是非!
いつもお読みいただきありがとうございます。




