女王撃破! 〜反間苦肉の覚悟ありき〜
本日は第158話を投稿します! 女王蛾亜人との決着やいかに?!
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俺を包み込む女王蛾亜人の特殊な匂い!
一瞬鼻腔を擽ったのは胸焼けしそうになるほど甘ったるい匂い──その匂いを嗅いだ瞬間、脳天が痺れる様な感覚に襲われた! その痺れは脳天から首筋、背筋を駆け抜け、動悸が激しくなると共に呼吸が乱れてくるのが判る! すぐさま鼻の奥に血が集まり、鼻血が出そうな感覚にも囚われる! 目の前にいる女王蛾亜人が物凄く愛おしく魅力的に見えて来て視線を離せなくなる! 欲しい──目の前にいるこの雌が!
そう思考した瞬間、身体の中の血が滾るのを自身で知覚する! その次の瞬間、俺はカイトシールドに隠された左手の拳をグッと力一杯握り締めた!
『クスクスクスッ、さぁいらっしゃい。私の元に』
女王蛾亜人は青白い翅と両手を広げ、甘美な声で俺を誘う。
その声に反応する様に足が一歩また一歩前に進み出る俺。
「ウィル!? しっかりして!」
「ウィルッ! しっかり!」
「ウィル!! 負けんなァ!!」
アンやエリナ、レオナの必死な叫び声が聞こえてくる。その声を耳の奥に聞きながらもまた一歩また一歩と歩を進める俺。
「ウィルーーーッ!!!」
アンの泣き声の様な叫び声が耳に届く──そんなに泣かなくても大丈夫だゾ? 心配するなアン。
『クスクスッ、そうよ、良く来たわね』
俺の目前には勝ち誇った様に笑みを浮かべる女王蛾亜人が! 奴は勝利を確信したみたいに俺の両肩に手を掛けて来る──だがそれこそ俺が待っていたモノなのだ!
俺は女王蛾亜人の目前で、カイトシールドに隠して素手で刃の所を握り締めていた長さ10セルト程の手投小刀を握り直すと、そのまま躊躇無く自身の左の太腿に突き立てた! 鮮血が傷口から心臓の鼓動と共に湧き上がり、下袴の表面を真っ赤に染め上げると左足から身体に激痛が走る!
それと同時に匂いの影響で鈍っていた身体全ての感覚が一気に覚醒し、女王蛾亜人の勝ち誇った顔をはっきりと視界に捉える俺!
少し惑わされたが──ここから反撃開始だッ!!!
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『なっ!? 何を?!』
目の前で獲物にしようとしていた俺の一連の行動を見ていた女王蛾亜人は、驚きのあまり声を上げる。それはそうだろう、両手で俺の両肩を掴み、自分の胸に掻き抱こうとしている最中だったのだから。
そんな女王蛾亜人の驚く顔を見上げながら、俺はニヤリと笑って
「──残念だったな」
そう一言告げると、その豊満な胸目掛け右手に持った刀剣を突き立てる! ズブズブと嫌な音を立てながら女王蛾亜人の体内に食い込んで行くセイバー!
『グッ?!? ギィヤャャァァァーーーーーー!!』
自分の胸に剣が突き立てられるのを呆けて見ていた女王蛾亜人が、突如として絶叫を上げる!
「今だッ!!!」
その絶叫に負けじと大きな声で怒鳴る俺! すると背後から聞こえてきたのは魔法の言霊を叫ぶアン達の声!
「──雷霆三叉戟!」
「──真紅豪炎槍!」
「──滅光断閃!」
「──射程距離射入──魔導火砲、最大出力発射」
「──猛炎爆槍!」
アンの、フェリピナの、マルヴィナの、そしていつの間にか封印解除したルアンジェとオルガ女史の声が重なり響く! そして!
「いっけぇー! 霹靂乃衝撃ォォ!!」
「グルオォォォォォーーーン!!」
更にヤトとファウストの咆哮がそれ等に続けて聞こえ、背後から凄まじいまでの破壊の奔流が迫り来るのを感じる!
今度こそ決める──!
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『ぐうぅぅぅ、こ、小癪なァーーー!』
アン達が放った攻撃に焦った女王蛾亜人は、セイバーに胸を突き刺されたまま顔を歪ませながらそう言い放つと、俺を引き剥がす事を止め自分の周りに激しい風を纏わせ始めた──ヤトの「竜の咆哮」をも防いだあの『螺旋風繭』である! だがな、俺もココに居るんだよ!!
女王蛾亜人の胸からセイバーを引き抜くと背後を振り返り、周りを旋回し始めていた風に意識を集中して視る俺。すると風の流れに沿って走る魔力の連鎖が見えて来る! その連鎖の脆い箇所を探すと──見えた! 見えた箇所目掛けセイバーを鋭く振り抜く俺! 確かな手応えがあり、連鎖を絶たれた魔法の風は忽ち霧散する!
『なっ、なにぃ?!?』
突然自身を護るべき風を掻き消され、驚愕の声を上げる女王蛾亜人!
その刹那、俺は女王蛾亜人の身体に蹴りを入れ彼我の距離を取り、自らの体を半回転捻る様にし床にうつ伏せる!
それと同時に破壊の奔流が女王蛾亜人に到達する! 女王蛾亜人の身体が轟雷と豪炎に焼かれ、閃光と衝撃波がその身を撃つ!
『ガガッ?! グウゥゥゥァァァァァァァァァ……』
アン達の多重攻撃をその身に受け、激しい炎に焼かれていく女王蛾亜人。それをただぼんやりと見上げている俺。至近距離での爆発に巻き込まれたので背中や頸等を焼かれたし、自らが刺した左腿や抜き身の刃を握り締めズタズタに切れた左手がズキズキと激しく痛む。
かなりの強敵だったが、何とかなったな──等と怪我や火傷の痛みで良く回らない頭で考えていると
『素体質量、虚数変換開始』
女王蛾亜人の焼かれていく身体が、いつの間にか実体を顕現したコーゼストの台詞と共に変換の光に包まれる!
『変換完了──収納』
次のコーゼストの台詞で女王蛾亜人はその姿を光へと変換され、妖精体のコーゼストの体へと吸い込まれて行くのであった。
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「ウィルッ!!」
どうにか女王蛾亜人を退けた俺の元にアン達が血相を変えて駆け寄って来る。俺は床にへたり込みながら、ふよふよと空中に浮遊しているコーゼストに語り掛ける──まだ左腿が痛くて立ち上がれない。
「アイツは従魔にするんだ……」
『はい、あの女王蛾亜人には明確な自我がありました。それに私の申し出を聞き入れましたからね。それにあれほど手強かった魔物をむざむざ死なせるのは惜しいと思いまして』
「まぁその辺の判断はお前に任せているが……」
コーゼストの尤もらしい理由に苦笑するしかない俺。そんな事をしている間にも駆け寄って来たアンとマルヴィナに怪我の程度を診て貰っていたりする。
「ウィルッ! 良かったぁ……」
より正確にはアンに絶賛抱き着かれている真っ最中である。頼むからそんなにきつく抱き締めないで欲しいんだが──結構地味に痛い。
「貴方が女王蛾亜人に引き寄せられる様に近付いたと思ったら、いきなり自分の腿をナイフで突き刺すんですもの。本当に生きた心地がしなかったわ……」
そう涙目で訴えてくるアン。その様子を見るにつけて悪い事をしたなと自戒すると
「……ごめん、アン」
セイバーを離した右手をそっとアンの頭に乗せて、優しく撫でながら謝罪の言葉を口にする俺。そこにはいつの間にか2人の世界が出来上がっていた。
この際、同じ傍らで俺の怪我の程度を診ながら何とも言えない顔をしているマルヴィナには申し訳ないが。
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俺に頭を撫でられて復活したアンさんが改めてマルヴィナと2人で俺の怪我の治療を施してくれ、漸く立ち上がる事ができた。
その様子を少し離れた所に居たエリナとレオナが、俺の回復を見て思いっきり抱き着いて来て「アンと同じ様に頭を撫でて欲しい」と言ってきた。無論ちゃんと撫でてやった事は言うまでもない。
2人がホクホク顔で離れて、ホッと息を吐く間もなく今度は
「御主人様ァ〜♡無事で良かったァ〜」
ヤトの突撃を背後からモロに受けた。だから軽鎧を着けたまま突撃して来るな! 衝撃が本当に半端ないンだぞ?!
俺が痛がる素振りを見せても遠慮する事無く抱き着いて来るヤトの顔をよく見ると、金色の瞳が今にも泣きそうに見開かれていた──どうやら本気で心配してくれていたみたいである。まぁヤトはラミアなので涙は流せないらしいが。兎に角心配掛けた事は悪いとは思うのだが──俺の体を自分の蛇身で締め上げるのはやめてくれ!
そのヤトをどうにかこうにか引き剥がすと、今度は背中にポスンとした軽い衝撃が?! 振り返って見ると、そこにはルアンジェが背後から抱き着いていたのである。
「ルアンジェ?」
「私、とても心配したの。ウィルはもう大丈夫よね?」
俺の声にそう返してくるルアンジェにちょっと驚く。この子はこの迷宮での数日間で更にヒトっぽく、いや年相応の少女みたいな反応をする様になってきている。そうは思いながらも何となくその反応を嬉しく感じ
「ああ、ルアンジェにも心配掛けたな。ごめん」
その頭に手を乗せてこれまた優しく撫でると
「ん」
短い反応ではあるが嬉しそうな声が返って来る。
何となくだがルアンジェの頭と尻に犬耳犬尻尾が見えるのは、これもまた何時もの事である。
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「ウィル君、ご苦労様だったね! かなりの難敵だったけど、もう大丈夫かい?」
ルアンジェが頭を撫でられ満足して離れると、続けてフェリピナ、マルヴィナ、スサナの3人が口々に俺の名を呼びながら、これまた抱き着いてきた。勿論彼女らも頭を撫ぐってやったが。
そんな事をようやくし終えるとオルガ女史が明らかにホッとした顔を見せながら俺の方に近付いてきた。もちろん傍にはゾラが付いている。
「それに初めて見たよ、コーゼスト殿が魔物を仲間にする瞬間を。ファウスト達の時もああだったんだね。話には聞いていたけど現実に目の当たりにすると何とも凄いものだね」
続けてそんな事を宣うオルガ女史。そういやオルガ女史は話だけでコーゼストの「共生化」を目の前で見るのは初めてだったな。
『まぁ私もこの姿を得てからの「共生化」は初めてなんですが』
浮遊するのを止め定位置の左肩の上に降りながらコーゼスト先生がそんな発言をしている。なのであんな風になるとは思っていなかった、とはコーゼストの弁である。
まぁさっきのアレは視覚的にはなかなか綺麗ではあったが。
「それで? これから取り込んだ魔物はどうなるんだい?」
コーゼストに対してそんな思考をしていると、続けざまに質問を投げ掛けてくるオルガ女史。そういや俺も、その辺はどうしているのかコーゼストから聞いた事が無かったな、等と思って女史ともども黙ってコーゼストの話を聞く姿勢を取るのだった。
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とりあえずは『黄昏の城』の最下層である10階層目に進む事にし、俺は歩きながらコーゼストの話に耳を傾ける事にした。いつの間にか俺やオルガ女史のみならず、アン達も興味津々な顔をしている。
『先ず私の中に収納した魔物は戦闘による怪我や身体の欠損のみならず、欠損した魂魄をも修復する所から始めます』
そうこうしている内にコーゼストの講義が始まった。
『その修復をマスターの魔力を使い修復する事により、マスターの情報を文字通り身体と魂魄に刻みつけます。そうする事でマスターと魔物との上下関係を決定付けるのです。それに伴いマスターの魔力との繋がりを構築します。同時に高次元魂魄連結術式『比翼連理』でマスターと魔物の魂魄を連結します』
『……何となく俺の魔力が麻薬扱いされている気がするんだが?』
『気の所為です』
俺のツッコミを軽く往なすコーゼスト。
『──続けます。そうして身体魂魄共に修復された魔物は基本マスターに対し随順となり、完全にマスターの支配下に置かれる事になるのです』
……間違い無く俺の魔力は完全に中毒性が高い麻薬扱いを受けている! 同じ話を聞いていたアン達やオルガ女史も顔を引き攣らせているし。思わず抗議の声を上げようとすると
『マスターウィル、皆さん、10階層目に到着しました』
コーゼストの台詞で気が付くといつの間にか下降通路を終え、空間が目の前に広がっていた。
俺達は遂に当面の目的地である10階層目に到着したのである。
兎にも角にも仕事はきちんとするが──まださっきの話への俺の抗議は生きているからな、コーゼスト!
苦難の果て遂に女王蛾亜人を倒す事に成功したウィル! 文字通り満身創痍の勝利ですが何とかなりました! そして女王蛾亜人をも仲間にしてしまうコーゼストの強かさ! ウィルのパーティーはますます大所帯になって来ました!
*滅光断閃…………数少ない聖属性の極大攻撃魔法。聖属性の魔力を超高圧縮し変換された熱光でビームの如く相手を撃ち貫く。撃たれた相手は一瞬にして塵芥と帰す。
*猛炎爆槍…………炎属性の極大魔法。爆裂魔法の爆炎を槍と化し相手に打ち出す。爆炎は命中後、相手の体内で爆ぜる。
*霹靂乃衝撃…………ヤトが使える風属性の極大中範囲攻撃魔術。激しい雷撃の嵐で効果範囲にあるあらゆる物体を粉砕・焼却する。範囲は設定出来る。
反間苦肉…………肉を切らせて骨を断つと言う意味の四文字熟語。
☆2021年1月1日から1月3日の3日に渡り「なぜか俺のヒザに」スピンオフ!を公開します! 其方もお楽しみに!
http://book1.adouzi.eu.org/n0542fy/
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルのヤンデレブラコン妹のアドルフィーネのイラストを第107部本編百一話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




