諸々の事情と蛇姫の慧眼と
本日は第百五十四話を投稿します!
何だが色々と皆んながある意味殺気立っていますが、まだ迷宮探索は半分程を消化しただけ。
この先、ウィルを待つ試練(?)は!
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色々諸々を孕みながら迷宮『黄昏の城』の探索は続く。
何と言うか何人かの──正確にはアン・エリナ・レオナ・フェリピナ・マルヴィナ・スサナ、そして何故かルアンジェが纏う空気が重い。
まぁとりあえずは各々が各々の仕事をちゃんと熟してくれているので問題は無いのだが、何と言うか精神衛生的に宜しくは無い。うむむ…… 。
『そこはマスターの決断ひとつでどうとでもなりますが?』
『ゔっ?!』
頭の中で色々と考えを巡らせていたらコーゼストからズバリ核心を突かれてしまった──もちろん念話でであるが。
それはそうなのだと解っているのだが、俺の決断ひとつで誰かが傷付くのでは無いか、と言う思いが頭に浮かぶとつい及び腰になってしまうのだ。
『まぁマスターの苦悩はそれなりに分かりますが、今は戦闘に集中してくださいね』
『わかっているよ……』
そう念話で言い合いながら刀剣を振るう手は止めずに、襲い掛かって来る蔓を斬り落とす俺。実は貴殺人植物と戦闘中だったりする。
俺とエリナとレオナとスサナ、それにファウストとヤトは、貴殺人植物が俺達を捕らえようと盛んに送り出してくる蔓をセイバーや長剣や拳鍔、短剣や薙刀そして鋭い爪で次々に叩き落として行く!
『?!?』
声にならない声を上げる貴殺人植物目掛け、後列から2本の火炎槍と1本の豪炎槍と1条の輝光十字射が飛来し、貴殺人植物の太い幹や歩行根に命中し激しく炎上させる!
因みに火炎槍はフェリピナとオルガ女史が、豪炎槍はアンが、輝光十字射はマルヴィナが放ったものである。
『〜〜〜ッ?!』
またしても声にならない声を上げて、その燃える体を悶絶させてのたうち回る貴殺人植物! 抵抗虚しく、やがて全身全てを猛火に包まれ、燃え尽くされるのであった。
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炎が収まると貴殺人植物の居た場所には、かなり大振りの魔核が残されていた。
「結構大きいな」
『まぁ格62で順位A+ならこの位はあるかと』
それを見ながら軽口を叩き合う俺とコーゼスト。空気が重い中、いつも通りのコーゼストの態度に少しホッとする。
今の戦闘で怪我をした人はマルヴィナとアンが回復魔法を掛けて回復させているし、とりあえず魔核を回収しようとしたら
「はいっ、ウィルさん! 回収してきましたよぉ♡」
私の役目だと言わんばかりのスサナが、サッと魔核を取ってきてくれた──何だか何時もより声が上擦っている気がするんだが?
「あ、ああ、ありがとうスサナ」
そう言って受け取ろうとする俺の、差し出した手に魔核を持たせると、スサナはそのまま自分の両手を添えてギュッと握って来る──ちょっと待て、何故にそんなに強く握り締める?!
思わず声を掛けようとすると、パッと手を離し「えへへへぇ〜」と笑ってフェリピナ達の所に戻るスサナ。戻って行った先からは「スサナ狡い〜!」と言うフェリピナとマルヴィナの声が聞こえてくる。然もありなん。
「さて……と、先に進むとするか」
そのやり取りを無視し全員が落ち着いたのを確認すると、俺は再び迷宮の奥へと歩を進めるのだった。
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「ところでコーゼスト。オルガ女史達のレベルはどの位になっているんだ?」
迷宮の5階層目を突破し6階層目へと下りた時、全員の今のレベルが気になったので先に進む前にコーゼストに確認してみる。
『はい。マスターウィルはレベル76と変わらず、アンがレベル75、エリナもレベル75に、レオナはレベル73へ。ルアンジェはレベル75相当、フェリピナはレベル70、マルヴィナはレベル71へ、スサナはレベル50に。グラマス殿はレベルが47へと上昇しました。参考までにゾラ殿はレベル75ですね。従魔達はファウストとデュークがレベル77、ヤトはレベル77と変わらず。マスターとヤト以外は順調に上がっています』
俺の問いに即座に答えるコーゼスト。わざわざゾラのレベルまで計測する辺りは流石である。まぁ俺とヤトは今回は殆どトドメを刺して無いからな、そうなると魂の階位から力を得る事は出来ない訳で、仕方ないと言えば仕方ないのだが──この先はもう少しトドメ刺すのにも関わるとするか。
そんな事を思っていると、コーゼストと俺の話を聞いていたオルガ女史が傍に寄ってきて色めき立つ。
「へぇ!? 僕はそんなにレベルが上がったのかい?! コーゼスト殿の共生化と言うのは本当に凄いものだね!」
物凄い饒舌だな、グラマス! だがまぁ興奮するのはわかるぞ、何せうちのメンバー達の特にレベルが低かった人も、コーゼストの共生化の組織網に組み込まれた当初はそうだったからな。
「むぅ、何だいなんだい、その何とも言えない眼差しは?」
そんな事失礼な事を考えていたら、不服そうなオルガ女史の声が耳に届く。どうやら俺は、気付かないうちに彼女に生暖かい視線を送っていたらしい。視界に捉えたのは口を尖らせ不満げなオルガ女史の顔であった。
その表情を見て一瞬ドキッとしたのはアン達には秘密なのは言うまでもない。
『私はしっかり確認しましたが?』
すんませんコーゼスト先生、そこは黙っていてください!
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そんなこんなをしながらも6階層目を奥に進む俺達。何と言うかここまで下りて来ると出現する魔物のレベルも高く、かなりの強さで油断が出来ない。それに遭遇率も上がっている気がするのだが?
『その感覚はあながち間違っていません。1階層目と比べるとレベルが4ないし5レベル上がっていますし、遭遇率も20%ほど上昇しています』
俺の推測を裏付ける様に状況を報告して来るコーゼスト──お前はまた人の考えを読んだのか?
だがまぁ『魔王の庭』でもそうであったみたいに、やはり深い階層に下りると魔物は強くなるのか。ただこの『黄昏の城』ではそれが顕著になっているんだな。
それならばと改めて気を引き締める様に全員に声を掛けて、俺達は更に下の階層を目指して歩を進めるのだった。そして8階層目──
目の前に立ちはだかるのは黒くぬらりと輝く甲殻に無数の脚──暴君百足である!
「キチキチキチッ」
体長は大きく5メルトはあるか? 大蛇が鎌首を擡げる様に頭部を起こし、大顎を鳴らして威嚇して来る!
『──再確認完了しました。この暴君百足のレベルは70、ランクはA+です』
暴君百足を再計測した結果を告げるコーゼスト。レベル70か……Sランク一歩手前だな。更にそのレベル70の奴の傍には体長3メルトほどの一回り小振りな暴君百足が3匹、同様に頭を擡げながら威嚇している! コイツらはコーゼストの計測の結果、レベル62のランクAの個体らしい。しかし──
「──前の「混沌の庭園」の時もそうだが、古代魔導文明人ってのは魔虫系を使うのを好むのか?」
思わず愚痴が口を衝いて出る。だが西方大陸で攻略した迷宮「混沌の庭園」を思い出さざるを得ない。
そこは古代魔導文明が創った魔導人工頭脳が作り上げた迷宮で、最下層の手前から兵刃蟷螂から大椿象、暴君百足までと見事なまでに魔虫系揃いだったのである。
『推測の域を出ませんが、恐らくはそうなのでしょう──ところで前にも言いましたが戦闘に集中してくださらないと困ります』
俺の意見に同意すると共に注意を喚起してくるコーゼスト。
何か、色々すまん。
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とにかく迎撃態勢を取るべくゾラ以外のメンバーには念話で編成を伝える俺! それに呼応して瞬時に動くメンバー達! ゾラにはもちろん手話を送って指示を出した。
先ず前衛は盾役としてデュークと配下ゴーレム3体が立ち、その後ろに俺とエリナとレオナ、そしてゾラとファウストが、更にその後ろにはアンとフェリピナとマルヴィナとオルガ女史とヤトが立ち、ルアンジェとスサナは遊撃としてアン達と俺達の間に位置を取る。
それ等があっという間に終えられたのと同時に、暴君百足の群れが俺達目掛け押し寄せて来た! だが既に準備は整っている!
押し寄せて来た4匹の暴君百足とガッチリと組み合い、動きを止めるデューク達ゴーレム!
次列の俺達はデューク達の後ろを回り込む様に動き、暴君百足の尾節側へと向かう!
そこには歩兵剣みたいに鋭い剣尾と呼ばれる部位があるのだが、先ず前衛で動きを封じたらその物騒な剣尾を折るのが定番となっている。
奴等は獲物に対して毒霧を吐いて動きを封じたり、組み付いて猛毒のある大顎で噛み付いて毒を注入してトドメを刺したり、巻き付いて締め上げ尾節の剣尾で突き刺したりと、意外と多彩な攻撃をして来るのだ。
とにかく剣尾側に回り込んだ俺は、奴がデューク達に巻き付く前にセイバーで、剣尾を2本纏めて叩き折る! 一方でエリナは炎を纏わせた長剣で、レオナは星銀の拳鍔で、ファウストはその鋭い爪と牙で、ゾラは鮮やかな槍捌きで、4匹の剣尾をそれぞれ叩き折っていた!
「──キチキチッ、カカッ」
剣尾を叩き折られた暴君百足は大顎をガバッと開けると毒霧を吐き出した! だがそれも──
「『エスプ・デュ・ヴェン・シルヴォ・リ・ボントデゥ・ラ・プロテクション──風の精霊よ、守りの風を吹かせて』風壁!」
アンの精霊魔法による風の壁で押し留められる!
「今だっ!!」
俺はそう叫ぶとセイバーに炎を纏わせて、一番大きい暴君百足目掛け炎精斬波を、オルガ女史は雷撃槍を、同時に放つ!
その刹那のタイミングで床に沈むデューク! 炎の斬撃波と雷撃の槍は寸分違わず、その巨体を縦に両断し頭部を吹き飛ばし暴君百足は、その巨体を痙攣させながら床にその身を倒すのであった。
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大物の暴君百足が斃れ伏したのを見届け、他の方に注意を向けると、各々が各々の相手にトドメを刺していた。そして──
「──豪炎鉄槌!」
──ヤトが豪炎で形作られた巨大な槌の様なモノを頭上に振り翳し、最後の1匹を頭から叩き潰す所だった。と言うかこうした魔法──魔術も得意なんだな、ヤト?
そんな事を思いつつ残心を解いて大きく息を吐き出すと、不意に背後に衝撃を受ける俺! 何だなんだ?!
「御主人様ーーーッ! どうだった、私の働きはっ!?」
同時に背中越しに聞こえて来たのはヤトの声。どうやら暴君百足を叩き潰すと、直ぐに這い寄ってきてそのまま抱き着いて来たみたいである。
どうでも良いが緋緋色金の軽鎧で突撃しないで欲しいんだが?! 馬車の衝突並に衝撃が来るんだぞ!?
「痛っっっ、お前はいつも元気だな?!?」
「そりゃそうよ! 私はいつも通りだもの!」
そう言うと後ろから両腕を回してくるヤト。其れを俺が苦く笑いながら見ていると、何故かヤトが俺の顔を背中越しにジッと覗き込んで来た──何だなんだ?!
「ねぇ御主人様、何か悩み事?」
「!?」
ヤトにそう聞かれ一瞬にして鼓動が早くなる!
何でヤトは俺の心の迷いに気が付いたんだ!? その質問に思わず押し黙ると
「ん〜、御主人様って結構無理しているわよねぇ。何をそんなに我慢しているのかしら?」
(!?!)
更にズバリ核心を突く言葉を紡ぐヤト! 内心焦りながら
「……何でそう思うんだ?」
と辛うじて言葉を発する俺。するとヤトはキョトンとした顔をして
「えっ? だって我慢してるんでしょ? 御主人様の事は何でもわかるわよ!」
何を当たり前の事を言っているんだ、と言わんばかりの表情をしながら、然も当然の様に云って来る。近くで俺とヤトの会話を聞いていたアン達も驚いた顔をしている。
『ヤトはマスターと、私の固有能力の共生化──より正確に言えば高次元魂魄連結術式『比翼連理』により魂が連結していますからね。それでマスターの心の声に気付いたのかも知れません』
コーゼストの冷静且つ的確な指摘が入り、俺は思わず言葉を失うのだった。
まさかのヤトからの指摘が入りました! やはり魂で繋がっているからわかる事もあるのでしょうか?!
そして次回はこの蛇姫様が色々やらかします!
*貴殺人植物…………全高2メルト、全幅4〜5メルトになる植物系の魔物。肉食で人や動物等動く物なら手当り次第捕食する。鋭い歯が並ぶ口状の触手と相手に絡みつく触手で攻撃して来る。自力での移動は歩行根でゆっくりと行う。
*暴君百足…………第43部四十話後書き参照
*風壁…………アンの風系統の精霊魔法。パーティー全体を風の膜で覆い、毒ガスや毒霧から守る。
*豪炎鉄槌…………ヤトの火属性魔術。炎の巨大な槌によって対象を叩き潰す。
◆現在、第一話から十話にかけて改訂作業を行っております。改訂版差し替え時期はまた通知しますので、その時は何卒よろしくお願いいたします。
☆manakayuinoさんに描いていただいたラファエル家の毒舌メイド、ノーリーンのイラストを第21本編二十話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




