暴発と蜘蛛とグラマスと
本日は第百五十一話を投稿します!
初っ端からグラマスの放った魔法が暴走して大変な目に!
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フェリピナが放った火炎槍と共に邪木精に向かい放たれたグラマス殿の真紅豪炎槍──ってぇ、おい!?
俺は慌てて皆んなに伏せる様に大声で指示すると唖然としていたエリナとレオナの手を取り床に伏せる! 次の瞬間、耳を擘く様な爆発音が轟き、イビルトレント達が居た付近が豪炎に包まれる! そのままエリナとレオナ2人を自分の身体で庇う俺!
やがて熱風が頭の上を駆け抜けて行き、そろそろと頭を上げる俺の目に飛び込んで来たのは、イビルトレントの魔核が散乱した黒焦げの床のみ。因みにこうした迷宮は常に換気されていて炎や煙が充満する事は無いので安心である。
「おいおい……」
あまりの事に言葉を失う俺。目の前に居たイビルトレントの群れは魔核を残して全て吹き飛んでいたのである。一方、至近距離に居た俺達はデュークとその配下ゴーレムが文字通り「壁」になって護ってくれていたので助かったのである。
「ふぅ、助かったよデューク」
「──イいえ」
身体を起こしながらデュークに礼を言うと、デュークは言葉少なに、しかし何か嬉しそうに返事を返して来た。
「エリナ、レオナ、2人とも無事か?」
身体を起こした俺は庇っていた2人に声を掛ける──が反応が無い。慌てて下に目をやると、2人とも俺の両脚にしっかりとしがみ……もとい、しっかり擦り寄っていた。
「「うふふふっ♡」」
しかも2人とも艶っぽい声を上げながら、である──ヲイヲイ。
「あーっと、もしもしお2人さん?」
俺がそう声を掛けるがスリスリするのを止めない2人。だが後ろのアンのわざとらしい咳払いにビクッとしてそろそろと離れて行く。
『やはりアンの正妻の力は違いますね』
顔の横をふよふよ浮いているコーゼストがそんな事を宣う。
どうやら俺の4人の嫁予定者の家庭内序列はアンが一番みたいである。
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「う、ウィル君達、大丈夫だったかい!?」
そんな事をしていたらグラマスが珍しく慌てた様子で駆け寄って来る──これは珍しいモノが見れた。
「あ、ああ、何とか大丈夫だが……グラマス、さっきのは一体何だったんだ?」
さっきのとは勿論、真紅豪炎槍についてだ。するとグラマスは
「あー、うん、僕は昔から魔法の制御が下手でね。中級魔法でも気を抜くと、ああした事になりやすいんだよ」
と気まずそうな顔をして教えてくれた。と言うかそう言うのは最初に話しておくべきでは? 思わずそうツッコミそうになる俺より早く
『もしかして、グラマス殿は ” 魔力制御不全症 ” なのですか?』
コーゼストが確信を持った声でグラマスに質問を投げ掛ける。それを聞かれたグラマスは
「その通り! 流石はコーゼスト殿、良くわかったね!」
と目を見開き答えを返す。
「何だよ、その魔力制御不全症って?」
『簡単に言うと、魔法士は体内を巡る魔力を自分で制御して必要な魔力を放出、魔法を発動させるのですが、魔力制御不全症になると魔力を自分自身で上手く制御出来なくなるのです。一番多い症例は ” 放出不全 ” 、つまり魔力がどんなに頑張っても少なくしか出ない症状ですね。グラマス殿のはそれとは逆の ” 放出過多 ” かと。症例1000人中1人と少ない症例ですが』
俺の当然の疑問に丁寧に答えるコーゼスト。魔法に関しては詳しくないがそうしたのがあるのは初めて聞いた。いつの間にか集まってきたアンやフェリピナ、マルヴィナも初耳らしく驚いている。
「お前は本当にそうしたのに詳しいな……」
俺が半ば呆れ気味に言葉を零すと何故かドヤ顔をするコーゼスト。
いや、そこでお前がドヤ顔をしてどうする?
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「まぁコーゼスト殿が言う通りなんだけどね。僕の場合は中度だと診断されたんだよ」
そう言うと苦く笑うグラマス。俺としてもまさかそう言う魔法士特有の病気があるとは知らなかったから驚きである。
「ま、まぁ、なんだ、これからは気を付けてくれれば良い……と思う」
『何ですか、その中途半端な物言いは?』
俺が言葉を選んで話していると、コーゼストが容赦ないツッコミを入れてくる。お前は少し空気を読んだ方が良いぞ?
逆にコーゼストに心の中でツッコミを入れつつ、とりあえず全員の無事を確認すると通路の先に進む事にする──問題を一時棚上げにしたとも言う。兎に角グラマスには初級魔法のみを使ってもらう事にしたが。
そしてそのまま暫く進むと、またもやファウストが唸り声を上げ、同時に
『この先、70メルト先を左折し直線距離50メルトに魔物の反応があります。反応からすると闇大蜘蛛だと思われます。数は3体、格は64、順位はA+』
コーゼストからの警告も発せられる。本当にファウストとコーゼストは優秀だな──などと思いつつ歩を進めると、その先には通路いっぱいに張り巡らされた蜘蛛の巣と、その蜘蛛の巣に取り付いている闇大蜘蛛の姿が!
体長だけでも1.2メルト、長い脚を拡げた姿は2メルト以上ありそうである。そんな大蜘蛛が3体、獲物が掛かるのを今か今かと巣で待ち構えていたのである!
『彼奴らは音や振動に敏感に反応しますから気を付けてくださいね』
『わかっているよ』
闇大蜘蛛に接近する前に俺とコーゼストの会話は勿論、アン達との会話も念話による連絡網に切り替えている。そうなるとグラマスとゾラは除け者扱いになるが2人には事前に話してあり、手話で指示を出す事になっている。
『闇大蜘蛛かぁ……あたしはアイツらみたいな魔虫系の魔物は苦手なんだよね……』
念話でレオナがそう言ってくる。その声色は嫌悪感がありありと感じ取れる物だった。するとそれにアンとエリナ、フェリピナとマルヴィナが「そうよねぇ」と同調する。
まぁこの手の魔物は女性陣には生理的に無理なんだろうな…… 。
『あれはアレで火を通すと中々美味しいのよ?!』
『『『『『………………』』』』』
そんな会話に割り込んで来るヤトの念話に女性陣は言葉を失う。グラマスも俺のハンドサインに顔が引き攣っている。
と言うか、ヤトはアレを喰った事があるのか?!
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とにかく物音を立てない様に闇大蜘蛛の巣に近付く。此奴らは音や振動に敏感な分、目がすこぶる悪いからゆっくり動く物は認知しづらいのだ。
そして攻撃が充分届く距離まで近付くと念話でアン達に指示を出し、全員がゆっくりとそれぞれの配置につく。もちろんグラマス達にはハンドサインで指示を出している。そして──
『よしエリナ、レオナ、やるぞ!!』
そう念話で2人に檄を飛ばすと、構えた刀剣に炎を纏わせた一撃、炎精斬波を1体に向け繰り出す俺! エリナは紅炎鞭を、レオナは正拳砲撃破をそれぞれ別々の闇大蜘蛛に向かい撃ち放つ!
「キシャァァァーーー!?」
「カ、カカァカ!」
「ギギ、ギィ!」
炎精斬波が命中した闇大蜘蛛は、その巣ごと炎の斬撃波に真っ二つに切り裂かれ燃え上がる!
一方エリナの攻撃とレオナの攻撃を受けた2体の闇大蜘蛛はそれぞれその身に火傷と裂傷を負ったが怯む事無く2人に襲い掛かってきた!
2人に迫る闇大蜘蛛に対しルアンジェとヤトの援護攻撃が始まる! ルアンジェの鎌剣がエリナを突き刺す様に突き出された脚を受け止め、ヤトの薙刀が同様にレオナに向かい突き出された脚を切り払う!
その隙にエリナとレオナは追撃を行い、更に何本かの脚を斬り落とし、粉砕する! そして!
「雷撃槍!」
「火炎槍!」
フェリピナが雷撃槍を、グラマスが今度はちゃんと調整された火炎槍をそれぞれ闇大蜘蛛目掛けて放った! 既にエリナ達は退避している!
そして一瞬の後、闇大蜘蛛に命中する雷撃槍と火炎槍! 激しい電撃と火炎に包まれ闇大蜘蛛は一瞬で絶命するのだった。
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「どうだ、コーゼスト?」
戦闘が終了してコーゼストに尋ねる俺。どうだとは勿論グラマスのレベルの事である。とりあえず魔物と2回戦っただけなのだが2回とも高レベルの魔物だったので、どれだけレベルアップしたか気になったのだ。
『はい。グラマス殿の現在のレベルは37、やはり高レベルの魔物のトドメを刺したのでそれなりには上昇していますね。但しあまり効率的でもありませんし──』
コーゼストの意見にそりゃそうだと納得する俺。しかし、かと言って俺達みたいにコーゼストの共生化の組織網に組み込む訳に行かないだろうし、悩みどころではあるが…… 。
『──なのでグラマス殿とマスターに提案です。先ずグラマス殿の魔力制御不全症を治してから、一時的に共生化のネットワークに組み込むと言うのは如何でしょうか? そうすれば現状より格段に効率が上がります』
「「そんな事が出来るのか(い)?!」」
コーゼストの台詞に思わず俺とグラマスの声が重なる。グラマスの「そんな事」とは魔力制御不全症の治療に対し、俺のは共生化ネットワークにグラマスを一時的に組み込む事に対してである。
『お2人の疑念は尤もですが、可能としか答えられません』
そんな声にしれっと答えるコーゼスト。そんなあっさり答えるんじゃあない! それじゃあ俺のさっきからの苦労は何だったんだ?! 全く…… 。
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『そもそも魔力制御不全症とは、魔力が魔法士本人の体内を巡る経路に滞りが起きて発症するのです』
宙にふよふよ浮きながらコーゼストが説明を始める。それに聞き耳を立てる俺やグラマス、それにアン達。
『この魔法士特有の病気は既に古代魔族では治療法が確立されていました。なので治療は可能なのです』
そう自慢げに宣うコーゼスト──だからそのドヤ顔はヤメレ。
「成程! そうした面は古代魔導文明よりも古代魔族の方が進んでいたんだね! それってどう言う治療法なんだい、コーゼスト殿?」
一方それを聞いているグラマスはコーゼストに先を促せる。
『方法はとても簡単です。高出力の魔力を体内の魔力経路に沿って瞬間的に流し、魔力が澱んでいる箇所に負荷を掛けます。そうすると澱んでいた箇所の魔力経路が正常に流れる様になります』
グラマスに聞かれたコーゼストは饒舌にその方法を語る。
「……何だか随分簡単な方法だな」
『はい。なのでマスター、マスターの魔力を私が瞬間的に高出力化しますので、マスターはグラマスの魔力が澱んでいる箇所に手を当ててください』
俺の言葉に肩に舞い降りつつ、にこりと笑顔を見せて頼んでくるコーゼスト。
「結局俺頼みかよ?! ……はァ、仕方ない。協力するよ。グラマスもそれで良いな?」
「あっ、うん、それで治るなら僕は願ったり叶ったりだからね。一向に構わないさ」
相変わらずのコーゼストの人使いの荒さに閉口しつつ、グラマスに一応許可を求める俺。勿論グラマスに否は無い。
「それで、何処に手を当てれば良いんだ?」
『はい。グラマス殿の場合、胸部のやや左──つまり心臓の位置だと言うのが私の事前の走査で判明しています。なのでマスターは左手をグラマスの左胸に当てて下さい』
俺の質問に淀みなくスラスラ答えるコーゼスト──と言うか、お前はいつそんな事をしていたんだ?
ツッコミたいのをグッと堪えて、とりあえず言われた通りにグラマスの左胸に自分の左手を当てる俺。
当てた手には小振りながら確かな胸の膨らみの感覚が伝わってきて──って! ちょっと待て! グラマスはオトコだぞ?! それが何でこんな確かな胸の感触があるんだ?!? 色々戸惑う俺の目には頬を赤らめるグラマスの顔が飛び込んできた! ま、まさか!?
「も、も、もしかしてグラマスはオンナなのか?!?」
俺の問い掛けに顔を赤らめたままコクリと頷くグラマス。
その瞬間、俺の思考は完全に停止するのだった。
喧々諤々とはありましたが、判明した真逆のグラマスの正体!
そらまぁ確かに中性的な顔立ちでしたが女性だったとはウィルも思っても見ませんでしたからね。そして真逆の「ボクっ娘」キャラ!(笑)
いつもお読みいただきありがとうございます。




