老媼と金色のカタナ
本日は第百四十九話を投稿します!
悪路の果て、竜車が着いたのは迷宮『黄昏の城』手前の街フェンチェン! この街でウィルに出逢いがあります!
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荒野を駈ける竜車。些か悪路の為、たまにガタンと客車が揺れる。ドゥンファン市を出て2日、俺達は迷宮『黄昏の城』手前の町フェンチェンに向かっていた。
「しかし随分揺れるな……」
またキャリッジが揺れ、俺が独り言ちる。
「うん、何でもひと月ほど前に大雨が降って近くの川が溢れたらしいよ。それで道が荒れているらしいんだ。ここはまだ復旧工事がされてないんだろうね」
俺の横の座席に座るグラマス殿が苦笑混じりに説明してくれた。まあそう言う事なら仕方ないか…… 。
「とにかく、次の町が『黄昏の城』に向かう為の根拠地になる所だから──」
グラマスがそこまで言うと御者台のエリナから声が掛かる。
「グラマス、皆んな、目的の町が見えて来ましたよ」
その台詞にキャリッジの窓を開けて俺は前方を見やると、街道の先に街並みが霞んで見えていた。
「間違いないね! 彼処がフェンチェンの町だ!」
一緒に窓から顔を出していたグラマスがキャリッジの轍の響きに負けない大声で俺に言ってくる。あれがフェンチェンか…… 。
そうして俺達は、ほぼ予定通りの日程でフェンチェンの町の門をくぐる事が出来たのである。
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「ふぅ」
「エリナ、お疲れ様」
フェンチェンの中でも一番大きな宿屋『黒鷲』、その大部屋のソファーで軽く溜め息を漏らすエリナに労いの言葉を掛ける俺。
「ええ、まぁ、少し疲れたけど大丈夫よ!」
そう俺に返しながら「ほらっ」と両手の握りこぶしを肩の辺りに掲げて力こぶを作る仕草をするエリナ。その仕草が何となく可愛く、つい頭を撫でると見る間に顔を赤らめるエリナとそれに釣られ頬が熱くなる俺。
「えへん、それでこの後の予定はどうなっているのかしら?」
俺とエリナのやり取りにわざとらしい咳払いをするアンさん。顔は笑っているが目が笑っていない──チョットコワイデス。
「あーっとな、それに関してはこの後の食事の時にグラマスと打ち合わせるつもりなんだが……」
そこまで言うと宿屋の従業員の「お食事の準備が整いました」と言う声が扉越しに聞こえた──丁度良いタイミングだな。
「ここの料理は美味しいのかしら?!」
その声にヤトの食欲は掻き立てられたみたいである。ある意味ブレていない奴である。
んじゃまあ、食事に行くとしますか!
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「ちょっと良いかな?」
それなりに豪華な食事を終え香茶を飲んで寛いでいる俺達にグラマスが話し掛けて来た。因みにヤトはアヒルの丸焼きの3皿目に食らいついていたりする。
「えっと、とりあえずだね、これからの予定なんだけど──」
皆んなの注目を集めると、軽く咳払いをして話し始めるグラマス。
「本来ならここで準備を整えてから、迷宮に向かうんだけど──その辺の準備はウィル君達が既に済ませているみたいだし、明日1日は休みにして明後日『黄昏の城』に向かう事にしたいんだけど……どうかな?」
「俺は別に構わないが……皆んなはどうだ?」
グラマスの質問を受けて俺はアン達に確認すると「それで構わないわ」と言う声とともに頷くアン以下のメンバー達。
「聞いての通りだグラマス。俺達に異存は無い」
全員の総意を聞いた結果を改めて伝えると
「そうかい! なら明日は休息日と言う事にしよう。ウィル君達もここまでの疲れを癒してくれたまえ!」
グラマスは安心したみたいな顔で話を纏める。それを受けてアン達はもう街に繰り出す算段をしたりしているのを聞いて、俺は軽く苦笑いをしながら香茶を飲み干すのだった。
君達、明日は休む気が無いな?
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明けて翌日、グラマスの言った通り休息日となった今日は、朝からアンがエリナやレオナ、フェリピナ達とヤトを伴い、フェンチェンの街へと繰り出していた。勿論俺は荷物持ちとして付き合わされているんだが。
「それにしても、随分西方の方とは品揃えが違うのね」
街を歩きながらアンが感想を口にする。そらまあ西方と東方では、そもそも文化様式が違うしな。
「でも珍しいものが色々あって見ているだけでも楽しいわね」
「そうだよね! ほら、変わった服や武具なんかもあるしね!」
エリナとレオナは店先に並ぶ品を色々と見て楽しげである。それはフェリピナやマルヴィナ、スサナも同じらしく西方では滅多に見る事が出来ない品を珍しげに見ている。
「私は何か美味しそうな食べ物に興味あるわね!」
うちの氏族の主力兼大食い担当のヤトは相変わらずブレが無い。尤も、この町でもラミアは衆目を集めるらしく、街中ですれ違う人は全て二度見していたが。
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「ウィル、あれを見て」
そんな感じで賑やかに色んな店先を冷やかしていたら、ルアンジェが1軒の店を指し示した。
「ん、なんだ? えーっと、ま、まんや?」
看板には間違い無く大陸語で「万屋」と書かれていて、何となく興味が惹かれた俺はその店先を覗き込む。そこには本当に様々なモノが雑多に置かれていた。それこそ魚や干し肉、宝石や鉱石、衣服に回復薬、果ては長剣に槍まで、多種多様にである。
『これは──昔存在していたゼネラルストアみたいですね』
何時もの定位置に腰掛けていたコーゼストが店の概要を見てそんな事を宣う。
「何だよ、そのゼネラルストアって?」
『所謂「何でも屋」ですね。昔はもっと大規模でしたが』
俺の質問に端的に答えるコーゼスト。その「何でも屋」と言うのも良くわからんのだが?
そう思いながらも開け放たれた店の扉をくぐり店内に入る。店内も店先同様に品物が山の様に雑多に置かれている。それでもきちんと人が通る通路は空けてあり、ヤトでもギリギリ入る事が出来た。そして──
「……おや、いらっしゃい」
店の奥の椅子に店主らしき老女が1人腰掛けていた。
「こんな大勢のお客なんて久しぶりだねぇ。まあ好きに見ていっておくれ。欲しいのがあったら勝手に手に取ってくれれば良いからさ」
老女はヤトを見ても動じる事無く、無愛想に言葉を掛けてくる。なかなか肝の据わった老女である。
兎にも角にも店主の許可も得た事だし好きに見させてもらうとしようか。
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店内をメンバー達が思い思いに見て回る中、俺は店の一角──武具が無造作に置かれている場所に居た。何となくここに足が向いたのだが、目の前に置かれている一振の細身の長剣から何とも言えない雰囲気を感じて目が離せないでいた。正確には風格と言えば良いのか。
黒い鞘に反りが入っているのから察すると、この長剣も俺の持つ刀剣と同じなのだろうか?
「へぇ? そいつに目を付けるとは大した眼力だよ」
いつの間にか老女が俺の後ろに立っていて声を掛けて来た──全く気配を感じ無かったんだが?!
「そいつはずっと昔、あたしの旦那が『黄昏の城』の宝物庫から見つけて来た神鉄で拵えた刀って言う剣さ。この東方で昔使われていた剣なんだけど、今となっちゃ刀を打てるのはドゥンダウでもひと握りの職人になっちまってね、しかも今じゃあこんなくせの強い剣なんざ使いたがる奴もいなくて、ずっとそこに置かれたままだったのさ」
そう懐かしそうに語る老女。聞けば彼女の夫は嘗ては結構高名な冒険者で、今は遺失した職業「刀使い」だったそうだ。そう言いながら置かれていた刀を鞘ごと俺に手渡してくる老女。俺に向けられた柄の握りには魔物の革が滑り止めとして丁寧に巻かれている。それをしっかり握りしめて受け取る俺。
成程これがドゥイリオが言っていた刀と言う剣なのかと納得する。その重量はロングソードと比べ少し軽いか同じぐらいの感じがするが、今使っているセイバーと比べると間違い無く軽い。
それにしても何でこんなにも手にしっくりくるんだ?
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受け取った刀をいつまでも眺めている訳にも行かず、俺は老女に「抜いてみてもいいか?」と許可を求める。老女は薄い笑みを浮かべると
「良いともさ、鞘からその刀が抜かれるのは何十年ぶりになるけどね」
と了承の意を示してくれた。なので俺は柄に力を込め、鞘をしっかり握るとゆっくりと刀を引き放つ。店内のランプの灯りに照らされ薄い金色の刀身がぬらりと輝きを放っている──こいつは間違い無くオリハルコンだな。
刀身には錆はもちろんの事、脂による汚れも無く刃こぼれひとつ無い。そりゃそうだ、何と言ってもオリハルコンだからな。それにしても本当に手に馴染む。まるでこの刀と言う剣を最初から使っていたみたいに、である。
『これは──オリハルコンだけあって魔力との親和性が抜群に良さそうですね。確かにこれは逸品と言っても差し支え無いかと』
俺の顔の横で浮遊しているコーゼストがこの刀を見てそう評する。
「あははははっ、妖精様にそこまで言われると、何だかこそばゆいもんだね」
それを聞く老女が事の他うれしそうである。一方の俺は俺で金色の刀身に目を奪われながら老女に思わず尋ねていた。
「これって、本当に売り物なのか?」
「勿論、売り物だよ。そいつを貴族様の飾りになんざさせるものかね。『使われない刀など唯の飾りにもならん』、うちの旦那が言っていた言葉さ。使われてこその刀だからね」
はっきりそう言い切る老女。何だか何処かで聞いた事がある台詞だな?!
「そ、それじゃあ、俺にこの刀を買わせてくれないか?」
変な既視感を感じながらも俺は、思い切って刀を買いたい旨を老女に話してみた。すると老女は笑みを浮かべ「良いともさ」と、あっさりと売る事を了承してくれたのである。
「そんじゃあ、ちょっと待っておくれ。握りの革を良い革に巻き直してあげるからさ」
そう言うと俺から刀を返させて店の奥に引っ込む老女。何だかとても嬉しそうに見えるのは気の所為か?
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「ウィル、何か買ったの?」
そんなやり取りを終えたのと同じぐらいに、店内を巡り終えたアンが俺の傍に来て何を購入したのか尋ねてきた。俺が店主の老女との一連のやり取りをアンに説明していると、奥から老女が刀を持って戻って来て俺に差し出す。
「ほら、新しく殺人鮫の革を巻いておいたよ。滑り止めにはこの革が一番良いからね」
そう上機嫌に話す老女はアンの姿を認めると
「……この涅森精霊さんは、あんたの嫁さんかい?」
何やら真剣な顔で俺に聞いてくる老女。そのあまりの真剣さに俺が黙って頷くと
「そうかい……大切にしておやり。エルフさん、あんたもね。この男を幸せにしておやりな」
少し寂しげに言葉を掛けてきた。そしてわざとらしい明るい声で
「あんたらも冒険者なんだろ? 『黄昏の城』で見つけたお宝を売るなら高値で買い取ってやるからさ、また帰りにでもこの『コウ婆さんの万屋』にお寄りよ」
と何事も無かったみたいに語り掛けて来る。
「コウ婆さんの万屋?」
「そうさね。あたしの名はコウ・クェァシン、この辺じゃコウ婆さんで通っているんだよ」
ここに来て老女──コウ婆さんが自らの名前を明かした。と言うか店名、まんやじゃなくてよろずやって言うのか…… 。
「あ、ああ、もし見つけたらその時は頼むよ」
俺はそう言うと聞いた刀の代金、金貨20枚を腰袋から取り出し支払った。コウ婆さんは「毎度あり」と満面の笑みで金を受け取ると
「そんじゃあ、エルフさんやお仲間のお嬢ちゃん達のはサービスしておいてやるかね」
意味深な笑みを浮かべながらそんな事を宣う。その笑みに後ろを振り返ると、いつの間にかエリナ達が手に手に宝石やらアクセサリーを持って立っていたのである。勿論アンさんも手に気に入ったアクセサリーを持っていたりするし、ヤトに至っては昨日宿で食べたのが美味しかったのか、アヒルの燻製肉を山の様に抱えていた──君達、いつの間に?!
俺は苦笑いを浮かべながらコウ婆さんに代金を聞いて支払いを済ませる。かなりおまけしてくれたらしく、〆て金貨3枚となった──と言うか、それで商売成り立っているのか心配になるんだが。
何にせよ、思いがけない所で思いがけない逸品と見つけられ、俺なりに充実した休息日となったのである。アン達も欲しいモノが買えてほくほく顔だったのは言うまでもない。
さてと、俺は早く刀を使いこなせる様にならないとな!
ウィルが出逢ったのはオリハルコン製のカタナでした! このよろずやに立ち寄ったのは偶然でしょうか? それとも…… ?
それにしても不思議な雰囲気のあるお店と店主のお婆さんでした。
*コウ・クェァシン…………フェンチェンの町の万屋の女店主。亡くなった旦那さんが高名な冒険者だったらしく、本人も冒険者だったのか? 迷宮手前の街の生き字引である。
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの三人目の婚約者ルピタ・リットンのイラストを第115部本編百八話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




