慎重過ぎるのもナニかと……
本日は第百四十八話を投稿します!
ディウドォンの町を出発するウィル達一行! この先は野営が控えていているのですが、グラマスの様子が…… ?!
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「お気をつけて!」
旅荘『蒼蝶』の主人がそう言って見送ってくれる。
ディウドォンの町に泊まった後、次の目的地に向かいドラゴンキャリーは出発した。目指すはドゥンファン市、その旅程は800キルトと一気に延びた。まあドラゴンキャリーなら5日ぐらいで走破出来るらしいが。ただこの先は小さな村が幾つかあるだけであり、つまりは野営をする率が高いと言う事になる。
尤もその辺の事はグラマス殿もとうの昔に承知していて準備は万端である、と言うか何やら楽しげに見えるんだが?
「グラマス、随分楽しげだな?」
俺がそう聞くと客車の座席に座るグラマスはにっこりと笑いながら
「うん、野営だなんて250年振りだからね。本当に久しぶりだからワクワクするんだよ!」
その虹色の瞳を輝かせ嬉しそうに語ってくる。
そらまあ、仮にも最高統括責任者だし、何より侯爵様なんだから、そんなにホイホイ野営とかされていてもそれはそれで困るんだが。
『まあマスターも伯爵なんですけどね』
俺の思考を読んだコーゼストがわざと周りに聞こえる様に声を発して、アン達が苦笑いしている。
良いんだよ、俺は冒険者が本職なんだから!
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今回は長距離を走ると言う事もあり、御者を務めているゾラの負担も考えて俺とアン、それとエリナがドラゴンキャリーの手綱を握る事になったので、3人で順番にゾラから地竜の扱い方を教えてもらう事にした。
先ずは俺からと言う事になり御者台に座り手綱をとる。隣にはゾラに座ってもらい教えを乞う事になっている──とは言っても然して馬の扱いと変わらず直ぐに慣れた。なんと言うか馬よりも御し易いし、言う事をちゃんと聞いてくれるし良い事づくめである。
そうして2時間ほど手綱を握り、次にアンと交替した。アンもやはり2時間ほどで御し方を熟達し、昼食を挟んで最後はエリナがゾラからグランドドラゴンの御し方を教えてもらっていた。「扱い易くて良い子だわ」とはアンの感想であり、「馬を操るより簡単だったわ」とはエリナの感想だった。
「もし西方で使えるなら屋敷で使ってみたいわね」
アンとエリナが口を揃えてそんな事を言ったりする。かく言う俺もそれは考えたりしたが
「でもなぁ、そもそもこんな大きなグランドドラゴンを誰が世話するんだ?」
至極真っ当な疑問を口にする。人を雇うにしてもドラゴンの世話なんかした人がそもそも居ないだろうし。すると2人とも揃って「あっ……」と小さく声をあげた。
いやいや君達、そこまで考えてなかったな?!
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3人とも教えてもらい、とりあえずゾラが今日の残りの旅程を消化する事になり、俺達はキャリッジの中に戻る事にした。
既に日は西に傾き始めており、1時間半ほど経ちキャリッジの中の魔導照明が灯る頃──
「セルギウス様、今日はここまでに致しましょう」
ドラゴンキャリーが街道沿いの拓けた草地に止まると、連絡窓越しにゾラが一言そう告げて来て、今日の旅程を終える事になった。
「うん、そうしようか。ゾラありがとう、それとお疲れ様」
グラマスはゾラを労うと俺達の方に向かい
「それでは皆んなで手分けして野営の準備をしようか!」
と如何にも嬉しそうな声色で声を掛けて来る──本当に楽しそうだな、グラマス?
何れにしてもそう言う事なら俺達の出番である。俺は座席を立つと全員に指示を飛ばす。
「よし、それじゃあ皆んな、早速準備に取り掛かろう。アンとルアンジェとヤトは俺と一緒にドラゴンキャリーを中心に半径50メルトを索敵、危険が無いかチェックをするぞ。エリナはフェリピナ、マルヴィナに付いて焚き木に使う薪を集めて来てくれ。レオナ、スサナはキャリッジから野営用の道具一式を出しながらグラマスとドラゴンキャリーの警備に当たってくれ」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
「おーっ!」
全員元気良く返事を返してくるとそれぞれ与えられた任務に向かうべく一斉に行動を起こす。
「うんうん、ウィル君達の所は本当に協力連携が取れているねぇ」
それを見ていたグラマスが感心したみたいに盛んに頷いている。
うちの氏族ではこれが普通なんだが?
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キャリッジから出た俺とアンとルアンジェとヤトは薄暮の中、四方に別れ半径50メルト周辺の索敵を行う。本当ならコーゼストの探査能力を使えばあっという間なのだがそこは様式美である。
『どうだアン、ルアンジェ、ヤト。其方の状況は?』
『此方は今の所、脅威になりそうな魔物は見当たらないわね』
『ん、こっちも同じ。静かなもの』
『小さな動物は何匹かいるけどねぇ』
3人とは常に念話で会話をしていたりする。この方が簡単に情報を共有できるからな。そんな事をしながら索敵範囲を隈無く見回ると、再び念話で3人に声を掛けドラゴンキャリーに戻る事にした。
「あっ、おかえりウィル!」
「おかえりなさ〜いっ」
キャリーに戻るとレオナとスサナが客車の横から野営用に天幕を引き出し、張っている所だった。既に必要な道具を幾つか下ろしてある。
「どうだった、周りの様子は?」
「特になにも無かったな。まあ今の所は、だがな」
様子を聞いて来るレオナにそう端的に答える俺。そうそう何かあってもらっても困るんだけどな。
「それでこっちの方はどうだった? 変わった事とか無かったか?」
そう思いながら逆にレオナに尋ねる俺。まあ何かあったら念話で直ぐに連絡出来るから敢えて聞く必要は無いんだが、それこそ様式美である。
「うん、此方の方も問題無いかな? レオナ君とスサナ君も居るしね」
俺の問い掛けに答えたのはグラマス。ゾラと一緒にキャリッジから野営道具を下ろすのを手伝っていたりする。
「グラマス、あんたはそうした事はしなくても良いんだぞ?」
その様子を見て少し呆れ気味に言ってしまう俺。しかしグラマスは笑顔で
「いや、皆んな色々とやってくれているのに1人だけ何もしないのは悪いからね、これぐらいはやらせてくれないかい?」
と言って憚らない。これには俺も苦笑を浮かべ「仕方ないな」としか言えなかった。
なんと言うかグラマスが見た目相応の14、5歳に見えるんだが?
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程なくしてエリナ達も薪を集めて戻って来て、全員で野営の準備を進めた。集めてきた薪から焚き付けの小枝と枯葉を集めて、フェリピナが点火魔法で火をつけるとエリナが少しずつ薪をくべ、火を大きくしていく。勿論焚き木は魔物や獣避けである。
残りのメンバーは麻の敷物の上に折り畳み式テーブルや椅子を設置したり、手早くキャリッジに備え付けの魔導焜炉で炙った干し肉や燕麦粥、黒パンを木皿に配膳していく。同じく備え付けの木樽からワインを木杯に注いでひと通りの準備完了となった。
俺はキャリッジの陰に沐浴用に「久遠の水瓶」を木桶と共に設置したりしていた。
「よし、コーゼスト」
『はい。魔法障壁及び物理結界、広範囲展開へ』
ここで俺はコーゼストにドラゴンキャリーを中心にした護りの結界を張り巡らしてもらう。
それなら周囲の索敵は必要無かったんじゃないかと言う声が聞こえる気もするが、俺はわざわざ危険があるとわかっている場所に寝泊まりするほど神経が図太く出来ている訳じゃないし、何事にも警戒過ぎても悪い事は無いからな。
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「では皆んな揃ったかな? それじゃあいただこうか」
グラマスの声がけで野営での夕食が始まった。テーブルの上の魔導提燈と焚き木の明かりの中、思い思いに食事を摂る皆んな。
ヤトとファウストにも干し肉が山盛り与えられているのは言うまでもない。普段はステーキを何枚も平らげるヤトが、こうした長旅での食事に不満を持たないか心配だったが、本人曰く「お腹いっぱい食べれるなら味には文句は言わない」らしい。まあその辺はコーゼストの無限収納に大量に買い込んであるからヤト達を飢えさせる事は無いが。何にせよヤトが健啖家で良かった。
「うんうん、これぞ正に「旅」をしている雰囲気だね!」
片やグラマスは干し肉に齧り付きながら何やらご満悦な様子である。
「何がそんなに楽しいんだか……」
その様子に俺はオートミールを啜りながら苦笑気味に呟いてしまう。
「うん? いや何、今までこうした旅をした事が本当に無いんだよね」
俺の呟きに反応したグラマスが、ワインを飲みながら律儀にも答えてくれた。
なんでも今まで何処かに旅に出ると、先ずは護衛の兵士達の厳重な隊列の中心に置かれ、馬車から一歩も出る事が出来ないのだそうだ。しかも馬車の窓を開ける事も出来ず、硝子越しに延々と護衛の兵士達の頭を眺めているだけなのだそうだ。
一定距離で行われる休憩も自由に出歩く事が出来ず、出来たとしても何人もの護衛付き、と言う有様なのである。無論食事に関してもちゃんと料理人が別の馬車に乗っていて、普段と変わらない料理が出るのだそうだ。
因みに前回うちの屋敷に来た時はラーナルー市の城壁の外に護衛の兵士達が野営して待機していたらしい。
そらまあ曲がりなりにも侯爵様で在らせられる訳だし、万が一なんて事があったら大変だからな。
「まあ僕が古代魔導文明人の生き残りと言うのは陛下や一部の貴族が知っている周知の事実だからね。彼らとしては古代魔導文明の技術に精通している僕と言う存在は貴重なのさ」
──訂正、もうひとつ理由が存在していた。それなら尚の事、グラマスが大切にされる訳だ。まあ本人の意思に関係なく、だが。
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「まあそう言う訳で、今回に限りだけどウィル君達『神聖な黒騎士団』が護衛に付くから、と言う事で陛下以下の上位貴族とギルド会議を説き伏せられたんだけどね」
そう言いながら笑顔を見せるグラマス。つまり俺達はグラマスの格好の言い訳になったって訳か?
「勿論それだけじゃないよ」
俺の考えを読んだみたいに台詞を繋げるグラマス──あんたはコーゼストか?!
「僕自身の目で君達と言う人柄を見定めたかったんだ。まあより正確にはコーゼスト殿のね」
いきなりそんな事を宣うグラマス──と言うか、あんたはコーゼストの事は最初の話の時に信用してなかったのか?!
『それで──グラマス殿の中におありでした不安要素は払拭出来ましたか?』
一方のコーゼストは極めて落ち着いた声でグラマスに確認する。するとグラマスはコーゼストに向かいニッコリと笑顔を向け
「うん! 今までコーゼスト殿の行動を良く見せてもらっていたけど、君にはこの世界に対する悪意の欠片すら無いのがわかったよ。最初に言っていた通りにね!」
と、とんでもない事を口にする。それじゃあアレか、最初にコーゼストと話した時の「信用する」と言うのは嘘だったのか?!
『マスター、グラマス殿は言葉では信用すると仰いましたが、完全には古代魔族の魔道具である私を信用せず、つぶさに観察し、何か良からぬ事を──この場合マスターへ対する不利益ですが──そうした事をしないか時間を掛けて見定めていたのですよ。具体的には半々ぐらいでしょうか? 信用されていたのは』
相変わらずコーゼストは落ち着き払ってそんな事を宣う。
「まあそれについては改めて謝罪させてもらうよ。済まなかったねウィル君、コーゼスト殿」
そう言うと深々と頭を下げるグラマス。なんと言うか、この2人は笑顔の裏でそんなやり合いをしていたのか!?
『以前も申し上げた通り、私に謝罪は不要です。グラマス殿の行動は良識ある者としては当然の行動ですから。マスターは気付いていなかったみたいですけどね』
そう言いながら俺の方を振り向くと、顔を見てくすりと笑う妖精コーゼスト。
いやいや、アンタら化かし合いが上手過ぎじゃね? よく見渡すとアン達もあまりの出来事に絶句している。
やたら塩っぱい干し肉を齧りながら、俺は深い溜め息をひとつ吐き出すのだった。
いよいよグラマス待望(?)の野営でしたが、色々な話が飛び出しましたね! まぁグラマスは曲がりなりにも侯爵閣下なので、こうしたオープンな野営とかは初体験なのはわかりますが、一言で言ってはしゃぎ過ぎです(笑)
さて、このドラゴンキャリーでの旅もいよいよ終わりが見えて来ました。次回は『黄昏の城』手前の町に到着します!
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの三人目の婚約者ルピタ・リットンのイラストを第115部本編百八話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




