迷宮への旅路、無自覚と真実の言明
本日は第百四十七話を投稿します!
『山猫』の3人組を次の町ドゥングアに送り届けたウィル達一行! そして相変わらずの無自覚ウィルでございます!
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「「「本当にありがとうございましたっ!」」」
冒険者パーティー『山猫』の3人、シャミー、ヴィネ、ルマティマが声を揃えて頭を下げて来る。
あの後ドゥングアの町に日が暮れる前に何とか到着し、彼女達と共にドゥングアの冒険者ギルドに出向き、グラマス殿が今回の件に関して口添えをしたのである。
まさかの西方大陸のグラマスの来訪に一時騒然となったりしたが、グラマスや俺からの事のあらましを聞き、最後には向こうのギルマスが出てきて平謝りをしていた。そうして今に至る訳である。
「良かったな、3人とも」
「「「はいっ!」」」
俺が言葉を掛けると元気良く返事を返してくる3人。何と言うか初々しい。
「兎に角これで君達は違約金を払う心配は無くなった訳だし、ギルドからは規定の報酬は支払われるからね、安心していいよ」
「はいっ! セルギウス様も色々とありがとうございましたっ!」
続けてのグラマスの言葉に今度はシャミーが代表して礼を言う。それを笑顔で受けたグラマスは俺の方に目配せをする──わかっているって。
「あと──それとこいつはあんたらの取り分だ」
俺はそう言うと金貨が入った小さな布袋をシャミーの前に差し出した。勿論これは邪猟犬討伐の報酬である。
「えっ?! イビルハウンドの群れはウィルさん達が討伐したんじゃないですか?! こんなのとてももらえません!」
いきなり差し出された金貨を慌てて固辞するシャミー。そりゃそうだな、あの100匹もの大群は俺達が間違いなく全滅させたから、だが──
「それでもこれはあんたらの報酬には変わらない。ヴィネやルマティマに確認したんだが、あんたらは30匹余りの群れを全滅させたんだろ? だからこれはその分さ。心配しなくても俺達の分は分けてあるから」
そう言ってシャミーの手を取ると金貨の入った布袋を握らせる俺。
「!? あ、ありがとうございますっ! そう言う事ならありがたくいただきますっ」
そう言うと漸く笑顔で受け取るシャミー。心做しか顔が赤いんだが? ヴィネとルマティマは何故か羨ましげにシャミーを見ているし…… 。
『マスターはいい加減、自覚なされた方が宜しいかと……』
肩の上に座るコーゼストがボソッと呟き、アン達も「そうだそうだ」と言わんばかりの顔でこちらを見ている。
何なんだ、いったい………… ?
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兎にも角にもシャミー達とギルド前で別れた俺達は、ギルドから勧められた宿屋『白鹿亭』に向かった。何でもギルドが訪れた貴族を泊める為の宿らしい。まあグラマスはともかく曲がりなりにも俺も一応伯爵だった。
『本当に今更ながらですね。先程と言い、本当にいい加減ご自覚なさってくださらないと』
顔の横でふよふよ浮かんでいるコーゼストからまたもや突っ込まれてしまった。アン達はまたもや激しく首を縦に振って同意し、グラマスは苦笑いを浮かべている。何となく俺が悪者になっている気がして居た堪れない気持ちになる。
「さぁてと、この宿屋は何が美味しいのかしら?!」
ヤトだけは相変わらず食い意地が張っていて、マイペースで何よりである。ある意味ブレていない。
そしてそんな居心地が悪い一夜を過ごし翌朝── 。
「では出発します」
御者台からゾラの声が聞こえるとドラゴンキャリーが『白鹿亭』の前からゆっくりと動き出す。そのまま街中を抜け街道に出ると速度を上げ東に向かうドラゴンキャリー。
今日の目的地はディウドォン、都合5つ目の町である。「ドゥングアから次の町は距離が近いから飛ばして行くからね」とはグラマスの弁である。その言葉の通り2時間程でキャリーは次の町に着いたが、そのまま休む事無く通過したに過ぎないのだが。
「ここまでで約2時間か……」
客車の座席に座りながらそう呟く俺。
「──えっと、このままだと次のドゥンスゥの町には2時間半ぐらいかな?」
膝の上に広げた地図を見ながらグラマスがそう言ってひとり頷いている。
「すると、昼食はそのドゥンスゥの町でか?」
「うん、そうなるね。無論この先で昨日みたいな事が起きなければ、だけどね」
グラマス、そういうのをフラグって言うんだぞ?
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生憎と(?)そうした事には出会う事も無く、無事にドゥンスゥの町に昼過ぎに着いた俺達は、昼食を摂ると小休止を30分ほど取り、再び今日の目的地であるディウドォン目指して街道を進む。そんなドラゴンキャリーの中──
「さてと、グラマス。そろそろ話してくれないか?」
俺がグラマスに詰問していたりする。
「うん? 何をだい?」
「俺達を使ってまでグラマス自ら『黄昏の城』に出張らなきゃいけないのか、と言う本当の理由をさ」
回りくどい事は嫌いなのでズバリ要件のみを尋ねる俺。
「…………」
一方のグラマスは沈黙しているが構わず続ける俺。
「単なる迷宮や遺跡の探索なら俺達にやらせれば良い訳だし、いくら個人的な用件だと言っても自身の職務を投げ出してまでこんな東方くんだりまで来るのにはそれ相応の理由があるからだろ?」
「……やれやれ、何時から気付いていたんだい?」
恐らくはと核心をつくと、沈黙のあと口を開くグラマス。その表情には驚きが見え隠れする。
「いつからも何も、依頼を受けた最初からさ」
そらまあグラマス自らから「僕を一緒に連れて行って欲しいんだけど」と言われたら普通は勘ぐるぞ?
「参ったな、流石はウィル君。勘が鋭いね」
そう言うとあっさり両手をあげるグラマス。アン達も何やら驚いているみたいだが、何にそんなに驚いているんだ?
『マスターがグラマスの真意に気付いていた事に驚いているんですよ。まあ私も驚いているんですが』
皆んなの声を代表して、コーゼストがそう宣う。そんなに驚く事だろうか?
『この勘の良さが近付く他の女性に対して働けば一番宜しいんですが……』
続けてコーゼストがボソッと呟くのが聞こえた。
悪かったな、そうした恋愛の機微には鈍感で!!
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「そうだね……ウィル君達には話しておいた方が良いかな」
俺とコーゼストが突っ込みの掛け合いをしていると、グラマスが徐ろに口を開く。
「以前君達に『精霊の鏡』の施設から持ってきてもらった記録核がそもそもの発端なんだけどね」
グラマスが言うには──俺達が回収したメモリーコアにはグラマスが冷凍睡眠した後に、彼の一族が彼に宛てて残したメッセージが残されていたのだそうだ。その中に遥かな未来に目覚める事になるであろうグラマスの為に、様々な分野のモノを「未来への遺産」として『黄昏の城』の奥深くの施設に纏めて保管してある事も記されていたのだそうだ。そしてもうひとつ、今向かっている『黄昏の城』こそがグラマスが本当に冷凍睡眠していた遺跡なのだそうだ。
何故『精霊の鏡』で冷凍睡眠していたと嘘をついたかと問うと、どうやらコーゼストの事をまだ警戒しての事らしい。全く面倒臭い事を…… 。と言うか、古代魔導文明人は慎重過ぎないか?
「はぁ、まぁそれは良い。そんなら何で冷凍睡眠から目覚めた時にその「遺産」とやらを回収しなかったんだ?」
話を聞いていて感じたままをグラマスにぶつける俺。それに対しグラマスは苦笑混じりに答える。
「その時は予期せぬ目覚めだったし、何よりも運び出す手段が無かったからね。だからこうして改めて取りに帰る訳なんだけど、問題はその施設の封印を解除出来るのが僕だけなんだよ。だからウィル君達だけに頼む事が出来なかったんだ」
そう言うと苦く笑うグラマス。だがこちらには存在そのものが理不尽なコーゼストが居るんだが?
『──つまりその施設の封印にはグラマス御自身の魔力波の波形型の『個体識別』が使われていて、それを解除するにはグラマスの個体識別のみ唯一有効な手段であると言う事ではないですか?』
今まで黙って俺とグラマスのやり取りを聞いていたコーゼストが口を挟んでくる。
「その通りだよ、流石はコーゼスト殿。だからどうしても僕が行かざるを得ないんだよ」
コーゼストの物言いに感心したみたいに宣うグラマス。何と言うか随分面倒臭い話ではある。
何度も言うが、古代魔導文明人は慎重過ぎないか?
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「ん? それなら尚更コーゼストで事足りないか?」
その話を聞いていて感じた疑問を口にする。それならコーゼストが居れば簡単に解除出来そうなんだが?
『いいえ、こうした特定の個人の魔力波のパターンによる個体識別を利用した封印の場合、まず開ける事は不可能に近いでしょう。もし外部から不正な接触が行われた場合、良くて中に保存されている物の破壊、場合によりその接触者が攻撃を受ける事も考えられます。最悪の場合、その施設もしくは遺跡や迷宮の崩壊も有り得るかと』
「偉く物騒な仕掛けだな、おいっ!?」
サラリと答えるコーゼストに思わず突っ込む俺。一緒に話を聞いていたアン達も絶句している。
本当に古代魔導文明人は加減と言うのを知らないのか?!?
「まあ、それもあるんだけどね」
グラマスの話はまだ続いている──と言うかまだ続きがあったのか。
「封印されている物の中にある魔法工学の品物をコーゼスト殿に調べてもらいたいのもあるんだよ」
「どっちかと言うとそっちが本命じゃね?」
グラマスの台詞に思わず素で突っ込んでしまう俺。
「うん、でももう1つお願いしたい事があるんだよね」
俺の突っ込みに平然と返事を返してくるグラマス。こうした所は流石グラマスである。
『一応お伺いしても宜しいでしょうか?』
俺が変な感心をしていたらコーゼストが代わりに質問をグラマスに投げ掛ける。するとグラマスはニコリと笑いながら
「うん、その施設にある物を運び出すのにコーゼスト殿の無限収納を使わせてもらいたいんだ。勿論対価として施設内に保管されている武具や素材を提供するからさ。ね、宜しく頼むよ!」
と両手を合わせ頼み込んで来る。
「いや、そっちの方が本命かよ?!?」
その様子を見て思わず再度突っ込む俺。グラマスも本当に大概である。
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何とも言えない微妙な空気がキャリッジの中に満ちるなか、エリナがその空気を破るみたいに声をあげる。
「で、でもこれでウィルの懸念は晴れた訳だから良かったわよね? ね?」
エリナよ、何でそこで「ね」を2回も繰り返す?! 俺は軽く咳払いをすると改めてグラマスに質問する。
「えへん、と、とにかくだ、グラマスの頼みは良くわかった。それで具体的にはどう言うのが封印されているんだ?」
「んー、そこは見てのお楽しみかな? 今から全てを知ってしまうと楽しみが半減するからね」
そう言って片目を瞑るグラマス。まぁそれもそうか、宝箱ってのは中身が何か分からないのを開けるのがスリルもあって楽しいんだからな。
そうして見るとさっきの台詞はあまりにも無粋だったと反省する俺。
「でも」
そんな俺の自戒をぶった斬る様なグラマスの声が響く。
「まあそうだね……少なくともルアンジェさんやコーゼスト殿には関係している事かもね」
そう笑顔で宣うグラマス。
「うぉい!? ちょっと待てーーー!」
いやいやいや、つい今しがた「楽しみが半減するからね」と宣ったのは何処の何方だったんだっけか?!? なんだか一生懸命考えていた手品のトリックを先にバラされた感じがするんだが?! 思わずジト目でグラマスを睨んでしまう俺。一方のグラマスは相変わらずの満面の笑みである。
『どうやら人生と言う長い冒険をくぐり抜けてきたグラマス殿の方がマスターより何枚も上手みたいですね』
いつもの定位置に座るコーゼストがくすり、と笑ってグラマスをそう評し、エリナ達も苦笑いを浮かべている。そらまあ人生経験は間違いなくグラマスの方が豊富だろうが、それはそれで酷い言われようなんだが?!
「だ、大丈夫よウィル! 貴方の人生はこれからだから!」
もうひとりの人生経験豊富者であるアンさんがそう言ってくれるが……俺、すでに平均寿命の3分の1を終えているんだが?! そらまあ長生き出来るならしたいが!
『大丈夫です。マスターならこの世の終わりまで生き残りそうですし』
コーゼストがアンの台詞を受けとんでもない事を宣う。
いやいやいや、俺はごく普通のヒト族なんだが?!
やっと明かされた(全てではありませんが)グラマスの目的! 未だ疑問は残りますが、とりあえず目的が明かされた事に安堵するウィルなのでありました。それにしてもコーゼストの無限収納が運送業者扱い……(笑)
☆manakayuinoさんに描いていただいたウィルの三人目の婚約者ルピタ・リットンのイラストを第115部本編百八話に掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
いつもお読みいただきありがとうございます。




