竜の車 〜行旅と些細なトラブルと〜
本日は第百四十五話を投稿します!
いよいよ『黄昏の城』への陸路での旅! 出だしは好調みたいですが…… 。
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草深い街道を疾走する地竜とそれが曳く客車。言わずと知れた竜車である。
「話の通り、かなり速いな」
キャリッジの座席に座りながらそんな感想を漏らす俺。ドンチュワンの町を出てから特にそう感じるのだ。
「まあ流石に街中でこんな速度を出したりしたら危ないからね」
そこは抑制していたんだよ、とはグラマス殿の弁である。そりゃそうだ、こんな大きな亜竜が曳いた大きなキャリッジが街中を爆走したらそれこそ目も当てられない程の大惨事が起きそうである。
「それにしても随分揺れが少なくないかい?」
俺の後ろの座席に座るレオナが感心したみたいに声をあげ、エリナやフェリピナ、マルヴィナやスサナがそれに同意して首肯する。確かに普通の馬車と比べても揺れが少ないが…… 。
「ああ、それはね、このキャリッジに秘密があるんだよ」
グラマスが言うには──何でもこのキャリッジの車輪には懸架緩衝装置と言うが組み込まれていて、地面の凸凹をキャリッジ内に伝わり難くさせているのだそうだ。それは何とも素晴らしい装置だな!?
「それは是非とも一般の馬車にも普及させて欲しいな。長時間馬車に揺られていると尻や腰に来るから、そう言う装置が普通の馬車に付けられれば俺達みたいな利用者が大いに助かる」
俺の台詞にアン以下の全員が頷く。アレは地味に痛いからなぁ…… 。
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『ふむ──使われているサスペンションは構造的に巻発条式サスペンションでは無く、板発条式サスペンションではないですか?』
俺がそんな事をつらつらと考えていたら、コーゼストがグラマスに質問と言うか、確証めいた事を聞いていた。
「確かにこのキャリッジにはリーフ式サスペンションが搭載されているよ。流石はコーゼスト殿、良くわかったね?」
『そうだと思いました。スプリング式にすると振動減衰装置も高機能のを付けなくてはならず費用対効果が高くなってしまいますからね』
そしてグラマスと何やら小難しい話をしている。
「? 何だよ、そのスプリング式とかリーフ式とかショックアブソーバーとかって?」
思わず聞いてしまう俺。そして心の中で「しまった」と思ったりしている。
『端的にキャリッジに揺れを伝えさせない装置の名称なのでお気になさらず。それよりも西方大陸に帰ったら私がラファエル殿と馬車の後付装置としてサスペンションを開発しましょう』
俺の心の中を読んだのか、簡単な言葉に纏めてしまうコーゼスト。そしてさらりとフォールスェン・ジニアとして開発する事を宣言したりしている。
またラファエルが狂喜乱舞する話が増えた気がするんだが?!
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兎にも角にも最初に聞いた通り、馬車の倍のスピードで街道を踏破したドラゴンキャリーは、最初の宿泊地であるズィードゥンの町に日暮れ前に着いたのであった。距離にして約150キルトを一気に走って来た事になる。
亜竜とは言え流石は竜種、スピードもだが持久力も半端ない。ただその大きさ故に街中では些か小回りが効かずゾラが苦労していたが。
それでも無事今日の宿である宿屋『炉床の灯火』の前に留め置く事ができ、俺達は大部屋を宛てがわれて腰を落ち着ける事が出来たのだ。無論グラマスはゾラとそれぞれ一部屋づつ取っているのは言うまでもない。そして食堂で食事を終え──
「さてと、明日の予定なんだけど」
──何故か俺達の部屋にグラマスが居たりする。しかも地図を持って。
「……何が『さてと』なんだ、グラマス?」
俺は思わずジト目で突っ込んだりする。しかしグラマスは
「いや何、こうした事はきちんと話しておかないと何かあった時に大変だからね。だからウィル君達にも旅程を確認してもらおうかと」
と爽やかな満面の笑みを見せながら答える。俺は色々諦めてグラマスが拡げた地図を見る事にした。アン達も苦笑いをしている。
意外とグラマスもそうした所は鷹揚だな!
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「先ず──今日はここ、ズィードゥンまで来る事が出来たんだよね」
そうした事は気にもかけず話を進めるグラマス。その指は地図上の一点に置かれている。
「明日このまま街道沿いに進むと──」
そう言いながらグラマスが地図の上をなぞるとひとつの町の手前で動きが止まる。
「次の町まで少し足りない……か」
それを見ていた俺がボソリと呟くとグラマスが
「うーん、そうだねぇ、次の町ドゥングアの手前かぁ」
凄く残念そうに答える。ふむ……地図上だと大体20キルトほど足りないか…… 。
「するとグランドドラゴンの歩度を少し上げるか、今日より1時間早くここを発ては日暮れ前には着きそうだな」
俺がそう言うと今まで黙っていたゾラが口を開く。
「ならば1時間早出の方が良いだろう。グランドドラゴンのペースを下手に乱すと些か面倒だ」
「うん? どう言う事だ?」
言っている意味が良くわからなかったので詳しく説明を求めると──何でもグランドドラゴンは一定のペースで走る様に調教されていて、遅くする分には問題無いのだがペースを速めるのを嫌うらしい。それを御するのに一苦労するのだとゾラの言い分である。なるほど、納得である。
「それなら今日より1時間早く、7時に発つ事にしよう」
グラマスがゾラの言い分を考慮してそう決断を下す。
「それでは私は宿屋の主人に早速伝えてまいります。あとグランドドラゴンの準備も」
「うん宜しく頼むよ、ゾラ」
ゾラはそう言うが早い、直ぐに部屋を出ていった。そうした面に於いて、ゾラはやはり優秀なのだろう。
「さて、と。では僕も明日に備え早めに寝るとしようか!」
そう言って腰を上げるグラマス。そして部屋を出る際に
「そうそうウィル君達も早く寝るんだよ? 明日は早いからね」
そう満面の笑みで宣って自室に戻っていった。
俺達は子供か?!?
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そんな事があった翌朝、打ち合わせた通り7時に宿屋『炉床の灯火』を出立した。
ズィードゥンの町を出てから速度を上げ、街道を次の町目指してひた走るドラゴンキャリー。途中、街道の脇の拓けた空き地にドラゴンキャリーを停め、昼食を摂ってから再び街道を走る事しばし──
「ふんふん、このペースなら予定より若干早めに着きそうだね」
キャリッジの座席に座りながら膝の上に地図を広げ、水晶地図板と地図を交互に確認しながらそう呟くグラマス。
だがグラマス、そう言う事を行っていると大体何か良からぬ事が起きるんだぞ?
「セルギウス様、右前方の草原に土煙が見えます」
俺がそんな事を思っているとキャリッジの連絡窓越しにゾラからそんな報告が。ほらな、言わんこっちゃない。
俺は密かに溜め息を付きながらアンとルアンジェに窓越しに確認してもらう。
「どうだ? アン、ルアンジェ」
「──どうやら誰かが魔物と戦っているみたいね」
「ん、正確には3人追いかけられている。あれは──結構な群れみたい」
「ゾラ、停めてくれ。ウィル君、頼めるかい?」
アンとルアンジェの報告を聞いて直ぐにドラゴンキャリーを停めて、俺に救援を頼んでくるグラマス。その辺の判断は流石に冒険者ギルドの最高統括責任者である。
俺は変な所で感心しながらひとつ頷くのだった。
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俺達8人とヤトは停められたドラゴンキャリーから出ると、土煙が上がっていた方に向かい駆けていく。
因みにファウストとデュークは万が一にも何者かに襲撃された場合の護りとして、現実体にしてドラゴンキャリーに置いて来た。
「見て、ウィル」
俺の傍を駆けていたアンが進行方向を指差すと、先の方に土煙が見え、徐々に大きくなってくるのが見えた──ってちょっと待て?!
慌てて全員の進行を止めると土煙の方に目を凝らす──うん、間違いなく此方に向かって来ているな。俺が全員に即座に戦闘態勢を取らせると、今度は何か多くのものが地を駆ける足音がまるで地響きの様に聞こえてきた。それと同時に人が喚く声も。
「──だから止めようって言ったのに!」
「──そんな事言ってる前に走るのよ!!」
「──こ、こんなに居るだなんて聞いてない」
やがて武装した3人の女性が、目の前の草むらから俺達の居る方に飛び出してきた!
「「「──!?」」」
俺達を見て慌てる女性達! だが──
「そのまま此方に向かって走れ!!」
「「「は、はいっ!」」」
俺の声にちゃんと反応して一目散に駆けてくる。その背後から彼女等を追ってきたのは体長1.6メルト程ある茶と黒の斑模様の犬の大群だった!
「?! 邪猟犬か!?」
邪猟犬はそれ単体ならBランクの魔物であるが、必ずかなりの数の群れで行動し、しかも狡猾である事から群れでいる時のランクはA+になる魔物である。
しかしこれは…… 。普通イビルハウンドは群れて精々15匹ぐらいなのに、この大群は軽く100匹は居そうなのだ。
コイツはなかなか厄介そうである──だが!
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此方に向かって来るイビルハウンドの大群に向かい、先ずアン、そしてフェリピナの魔法が炸裂する! 勿論3人組は俺達の背後である。
「「──雷鳴よ、我が敵を打て『雷電轟天』!」」
『ギャワン?!』
『ヴァオオォォォ!?』
詠唱と共にイビルハウンドの大群の中に雷光輝く大きな半球空間が2つ生まれ、雷撃がドームの中のイビルハウンドを激しく打ち貫き、声を上げ絶命するイビルハウンド!
だが思いのほか群れが散っていた事もあり、約3割ほどしか巻き込めなかった。しかし──
「──『雷霆豪雨』!」
続けてヤトの魔術が残りのイビルハウンドの大群目掛け炸裂した! 突如虚空から無数の雷撃が豪雨の如く降り注ぐ!
『ガアァーー?!?』
雷霆に打ち貫かれ、一瞬で焼き尽くされるイビルハウンド達!
「良くやった、ヤト!」
今ので残りの約8割が灰燼と化し、打ち漏らした10匹余りのイビルハウンドは、俺やエリナやレオナ、ルアンジェやスサナやマルヴィナが一掃し、イビルハウンド100匹の大群は殲滅されたのであった。
「皆んな、怪我は無いか?」
ひと通り戦闘が終了したのと同時に全員に確認する俺。すると全員からは「大丈夫です」と元気な返事が返って来た。それを聞いて戦闘態勢をゆっくりと解きながら
「アン、フェリピナ、ヤト、良くやったな。凄かったぞ」
アン達を称賛すると、アンとフェリピナは頬を紅潮させながら微笑み、ヤトは「もっと褒めて、御主人様!」と何時もの如く抱き着いて来た。何と言うかお約束である。
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「「「あの……」」」
そんな事をしていたら先程助けた女性3人組がおずおずと声を掛けて来た──おっと、忘れてた! 俺はヤトを引き剥がすと3人の方に向き直り「あんた達も怪我は無いか?」と改めて確認する。
「は、はいっ、お陰様で3人とも無事でした!」
金髪のショートヘアの快活そうな女性が代表して返事を返して来る。この声は──「そんな事言ってる前に走るのよ」とか言っていた娘か。
「俺はウィルフレド、西方大陸から来た冒険者だ。階級はSクラス、彼女達は俺の氏族のメンバーだ」
俺からまず自己紹介をすると彼女達3人の目が大きく見開かれ「Sクラスかぁ……道理で強い訳だわ」と言う呟きが聞こえる。
「それであんた達は?」
そうした呟きは敢えて無視して改めて誰何する。すると3人組は慌てて姿勢を正すと
「は、はいっ! 私達は『山猫』って言う冒険者パーティーです! 私はリーダーのシャミーって言います! 職業は戦士、クラスはA、18歳です!」
先ず最初に金髪ショートヘアの娘がそう自己紹介をすると
「あ、あたしはヴィネ! ジョブは槍士! クラスはシャミーと同じAクラスで19歳!」
それに金髪セミショートの娘が続き
「あっ、私はルマティマと言います。ジョブは祭司をしています。クラスは2人と同じAクラスの19歳です」
最後に褐色の長い髪を三つ編みにした娘が自己紹介をする。どうでも良いが何故年齢まで自己申告したんだ?
「と、兎に角だ。一体どうしてこんな事になったんだ?」
気を取り直し経緯を聞く事にする俺。
「あっ、はい、えっと、実はですね……」
リーダーのシャミーが俺の問い掛けに言いにくそうに口を開く。
何となくトラブルの予感がするのは俺の気の所為……か?
案の定グラマスが立てたフラグ回収です! どうやらトラブルは向こうから押し掛けるみたいですね(笑)。それにしても相変わらずの鮮やかなお手並みなウィル達一行です!
*邪猟犬…………一匹単体ならBランクの魔物だが群れを組む習性があり、群れになるとA+へと危険度が上がる。肉食性で敏捷性に優れる。
*雷電轟天…………風属性雷撃の中範囲攻撃魔法。特定の範囲を雷撃で包み込み敵を感電死させる。
*雷霆豪雨…………ヤトが使う風属性雷撃の広範囲殲滅魔術。かなり広い範囲に高電圧の雷撃を文字通り豪雨の様に降らせる。相手は瞬時に黒焦げである。
*シャミー…………Aクラス冒険者パーティー『山猫』のリーダーで戦士、18歳
*ヴィネ…………『山猫』のメンバーの1人。槍士。18歳
*ルマティマ…………『山猫』のメンバーの1人。祭司。19歳
いつもお読みいただきありがとうございます。




