絶品肉と皮革とドラゴン
本日は第百四十四話を投稿します!
アーマーバイソンの狩りから戻って来たウィル達! 今回はウベルトの食肉店から話が始まります。
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「おお、また随分と狩って来たな!?」
コーゼストの無限収納から狩って来た鎧水牛10頭を取り出すと、目を見開き驚くウベルト。ここはウベルトの食肉店の裏にある解体場、アーマーバイソンの狩りを終えた俺達は日の傾き始める前にドンチュワンの町に戻り、ウベルトに狩りの成果を報告したあと納品する為に解体場へと場所を移して今に至る。
「うん? 多かったか?」
インベントリから全てを出し終えた俺がウベルトに確認する。これでも自重したんだが? 主にアンとヤトがであるが。
「いや、せいぜい4頭ぐらいかと思っていたんだが……」
何でも用意した買取金も4頭分しかないのだと、ウベルトは気まずそうに言ってきた。ふむ…… 。
「それならとりあえず4頭分支払ってくれ。残りの代金は売れた分で構わない」
俺は明後日ドンチュワンを発ち『黄昏の城』に向かう事、用事を済ませたら再びこの町を訪れる事をウベルトに話した。なので再訪の時に売れた頭数分の代金だけ払ってくれれば良い旨を話すと
「それじゃあウィル達が損しかねないぞ?! それで良いのか?!」
とかなり驚いた様子である。だがまあ別に今のところ金に困っている訳じゃないしな、それに俺達としても久しぶりの陸の魔物との戦いの準備運動になったのだからむしろ安い物だ。俺がそう答えると
「……ったく、ウィルは本当に欲が無いな」
半ば呆れたみたいにぼやくウベルト。
「いや、貰える物は有難く頂戴するが? なんと言ってもそこまで人が出来てないしな。何なら1頭分の報酬はそのまま捌いた肉でも良いぞ?」
俺はそう言ってニヤリと笑うとウベルトは不意に吹き出した。
「ぷっ、ふははははっ! 本当に良い奴だな、ウィルは!」
そして一頻り笑うと「んじゃまあ、有難くそうさせてもらうよ」と漸く納得してくれた。そして思い出した様に一言付け加えて来る。
「さてと、そんじゃあ良い人のウィルにもうひとつ頼みたいんだが」
「それは……話によりけりだが……」
少し警戒する俺にウベルトは笑いながら
「いや何、3頭をここに残して残りのアーマーバイソンをインベントリに仕舞い直して保存倉庫に運んでもらいたいんだがな」
至極真っ当な事を頼んで来た。そりゃまあ幾ら広いと言ってもこんな所に置いておいたら腐って商品価値が無くなるからな。
俺は納得するとアーマーバイソン7頭をインベントリに仕舞い込み直し、脇にある保存倉庫に持って行く事にした。
しかし、改めて思うのだが──コーゼストのインベントリの容量は一体どの位あるんだ?! まあ本当に今更なのだが。
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約束していたアーマーバイソンの報酬、4頭分金貨60枚を受け取り、丸々1頭分の肉は明日朝一番に受け取れる様に頼んで、宿舎にしている宿屋『銀蛇亭』に戻る事にした俺達。今夜の夕食用に特上肉を塊で2つ買って来たのは言うまでもない。今夜はこれを調理して欲しいと宿屋の店主にお願いしたら目を白黒させていたが。
その夜、夕食時にグラマス殿から情報があった。何でも物資と輸送手段の手配は済んだらしい。最終目的地の迷宮『黄昏の城』までは当初馬車での移動を想定していたが、東方大陸グラマスであるトゥ女史の手配で竜車なる物を使うのだそうだ。何でも20人乗りの客車を大量の荷物と共に地竜なる「竜」が曳く物らしい。
まあ「竜」と言っても亜竜で、しかも草食性の大人しい性格の竜だが持久力もあり、更に馬の倍くらい足が速いらしい。
結果として『黄昏の城』まで往復1ヶ月半かかる所を24日前後で行き来出来る事になるらしいのだ。
「まあ僕個人としてはゆっくりと行きたいのが本音なんだけどね」
グラマスはそう言って苦く笑うが、こちらとしては願ったり叶ったりである。でもまあグラマスの気持ちは分からなくもないが。
「駄目よグラマス、休める時は休まないと! うちの御主人様を見て、いつもマイペースよ!」
買って来た特上肉の分厚いステーキをあむあむと齧りながら、ヤトがグラマスに意見をする──誰が鷹揚だって?! これでも結構周りに気を使っているんだぞ?! と言うかそれって褒め言葉じゃないよな?!
『マスターの場合、気苦労が多くとも評価はされないのかと』
肩の上のコーゼストがそう残念そうなモノを見る視線を向けながらボソッと呟く。
お前も随分失礼な物言いだな?!?
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兎にも角にも翌朝、再びウベルトの食肉店を訪れるとちゃんと約束通りに、アーマーバイソンが綺麗に捌かれて結構な量の肉の山と化していた。
「よぅ、ウィル! どうだい、約束通りに丸々1頭分、準備しておいたぞ!」
ニカッと笑いながら俺達を出迎えたウベルトが開口一番言ってくる。
「流石だよ、ウベルト。しかし良い肉だな、素人の俺が見ても良くわかる」
俺は積み上げられた肉の山を目の前にそう言うと、呵呵と笑いながら話を続けるウベルト。
「そりゃあな、何と言っても新鮮なうちに血抜きとかの下処理が出来たからな! それに捌いていてわかったんだが、コイツらは自分が死んだ事に気付かないうちに死んだからさ」
「うん? そりゃどういう事だ?」
ウベルトの物言いがイマイチ理解出来ず思わず尋ねてしまう。
詳しく聞くと──このアーマーバイソン達は急所である頭を一撃で撃ち抜かれた事により、一瞬で絶命したので肉が固くなっておらず非常に捌き易かったのだそうだ。そうした肉は往々にして旨味が格別になるらしい。その辺はやはりアンの射撃術が神憑っていたのだろう。因みにヤトが「烈風斬刄」で仕留めたアーマーバイソン3頭は首筋の太い血管を一瞬で切り裂く、若しくは首を跳ね飛ばしたのでやはり一瞬で絶命しているらしく、しかも血抜きもされていてこちらも格別に良い肉らしい。
そんな話を聞いてふと後ろを見ると、アンとヤトがそれぞれドヤ顔をしているのが目に飛び込んできた。ヤトはともかく、アンがそんな顔をするとは珍しい。
「まあそうした訳で今までに無いくらい良い肉だ! こいつは思ったより高値で売れそうだ!」
そうご満悦な様子で口元を緩めながら話すウベルト。それならこちらとしても狩って来た甲斐があると言うものだ。俺も「そいつは良かったな」と頷きながら、目の前の肉の山をインベントリに仕舞い込んだ。後ろからはヤトが「あとでステーキにして食べさせてね、御主人様!」と早速お強請りして来ていたりする。
まあ俺も興味を唆られるので今日の夕食用に焼いてもらうつもりだけどな!
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「ああ、それとこれは3頭分の硬皮の買取り分な」
そう言って布袋を投げて寄越すウベルト。慌てて受け取るとジャラリと言う音と共にずっしりとした重みが?!
「随分入っているな?!」
「おう、1頭当たり金貨10枚だとよ! これだけ傷が無い極上品は滅多に手に入らないって言って、防具職人のガスパルがイロを付けてくれたんだ!」
「そんなにか?!」
ウベルトの言葉に驚く俺。すると全部で金貨30枚かよ?! と言うか防具職人はガスパルと言う名前なのか……昨日は聞きそびれていたからな…… 。しかし思わぬ増収だな。これはもう一番の功労者であるアンさんに何か買ってやらないと…… 。
そう思いながらチラリと視線を向けると、俺に視線を合わせにっこりと笑うアンさん。その期待に満ちた目はやめてください、ちゃんと後で欲しい物を買ってあげるから! アンから視線を逸らした俺は軽く咳払いをすると、その金も有難く受け取る事にしてインベントリに仕舞い込んだ。
「さてと……それじゃあこのあと俺達は旅の準備があるからな、この辺でお暇させてもらうとするか。残りの報酬は『黄昏の城』から戻って来てから受け取りに寄らせてもらう事にするよ」
どうせ行き帰りを含め何のかんので1ヶ月以上は掛かるだろうしな、と俺がその辺の事も含んで話すと、ウベルトは「任せておけ! その頃までには全部売り捌いてやるさ!」と胸を叩いて請け負ってくれた。
「それじゃあ宜しく頼む。戻って来たら必ず顔を出すからな」
「おう、そっちも気を付けてな! 戻って来たらまた狩りの方を頼むわ!」
そう言ってまた呵呵と笑うウベルトに別れを告げ食肉店を出ると、俺達は長旅に足りない物を買い足す為に市場のあちこちを見て回るのだった。
尤も荷物持ちは俺なんだが…… 。
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更に明けて翌々朝──『銀蛇亭』の前には大きな四輪馬車の様な客車が、二足歩行の馬鹿でかい蜥蜴と共に横付けされていた。言わずと知れた竜車の客車とそれを曳く地竜である。
「これがドラゴンキャリー……」
エリナが目の前のドラゴンキャリーを見て呆然と呟く。無論アンやレオナにフェリピナ達もである──ルアンジェは除くが。
「へぇーっ、こうした乗り物なんだ!?」
うちのヤトさんはそう言いながら曳き役のグランドドラゴンに近付き、その背や頭を叩いたり撫でたりしている──お前は本当に怖いもの知らずだな?! 一方ヤトさんに色々構われているグランドドラゴンはヤトに対して頭を下げ平伏する姿勢を見せた──何だ?
『グランドドラゴンはヤトに竜の因子がある事を感じ取っているのでは? 恐らくはヤトを自分より上位個体と認識しているのかも知れません』
俺の疑問にそう答えるコーゼスト。そういやヤトはドラゴンの因子を持っていたんだっけ。だが成程、それなら確かに説明がつく。ヤトに頭をペチペチ叩かれているグランドドラゴンはさながらヤトの従魔にも思えてしまう。
「ヤト、その辺にしとけよ。そいつに拗ねられたりしたら流石に不味いからな」
俺がやんわりとヤトを諭すと、ヤトはキョトンとした顔をして
「えーっ、ヴィーなら大丈夫よ? ね、ヴィー?」
いつの間にかグランドドラゴンに名前を付けていたりする。片や「ヴィー」と呼ばれたグランドドラゴンは「グルルルゥゥゥ」と低い声を出しながらヤトに擦り寄ったりしている。
「お前達はいつの間にそんなに仲良くなったんだ?!」
なんだかんだ楽しげなヤトとグランドドラゴンの様子を見て思わず突っ込んでしまう俺。ヤトも本当に大概である。
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そんな事をしている間にもキャリッジには旅に必要な物資が積み込まれていき出発準備が整った。いつの間にか御者台にはグラマスの従者である爬虫類人のゾラ・エルダが座りグランドドラゴンの手網を握っている。
「さあウィル君達、乗った乗った」
笑顔でそう言いながら先にキャリッジに乗り込むグラマス。そのあとに続いて俺達も乗り込むと
「おお……」
思わず感嘆の声を上げてしまう。
キャリッジ内部は外観通りに広く、中央に往来する為の通路があり、その左右に2人掛けの座席が前に向いてそれぞれ5つずつ並んでいる。各座席の横には大きな窓があり、外の景色を楽しめる様になっている。キャリッジの前方にはコーチマンシートとのやり取り用の連絡窓、後方は物資を積んだ貨物室になっている。
「さあ皆んな、座りたまえ」
そう言いながらグラマスは一番前の右の座席に座る。勿論コーチマンシートとのやり取りので為である。俺達は──その左側の座席に俺とアン、その後ろの座席にエリナとレオナ、エリナ達の右側の座席にルアンジェとスサナ、その後ろにフェリピナとマルヴィナが座り、ヤトは2座席を占拠する形で器用に蜷を巻いて腰を落ち着ける。子犬形態のファウストはアンが、抱き人形モードのデュークはエリナがそれぞれ抱いていたりする。
「皆んな着席したかな? それじゃあゾラ、出して良いよ」
皆んなの着席を確認してグラマスは、連絡窓越しにコーチマンシートのゾラに声を掛け、ゾラが手綱を動かし合図を送る。そろりそろりとゆっくりと走り始めるグランドドラゴン。それに伴いキャリッジも動き出し、窓から見える街並みが徐々に後ろへと流れ始める。
いよいよ『黄昏の城』への旅が始まったのである。
どうかこの旅が平穏無事であります様に、と俺は割と切に願うのだった。
ウベルトの予想以上にアーマーバイソンを狩って来たウィル達! より正確にはアンとヤトのお陰なんですが(笑)
それと『黄昏の城』へと向かう為に用意されたドラゴンキャリー! こうしたのってファンタジーならではですからね!
そしていよいよ、『黄昏の城』へと向かう陸路での旅が始まりました!
*竜車…………大きな四輪馬車の様な客車を二足歩行の亜竜「地竜」が曳く大量輸送向けの乗り物。グランドドラゴン自体は性格が穏やかで扱い易く、スタミナや足の速さは馬の倍以上ある。
☆レオナ・シャルリムのイラストをmanakayuinoさんに描いていただきました!manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました! 第125部本編百十八話に掲載されています! そちらもお楽しみください!
お読みいただきありがとうございます。




