休息日、蛇娘の食欲と狩りと
本日は第百四十三話を投稿します!
無事に東方大陸に到着したウィル達。本日朝イチは休息日ですが……この一行が行く先が平穏である筈も無く(笑)
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「珍しい物が沢山あるわね〜」
ヤトがドンチュワンの市場の店先に並ぶ品物を見た第一声である。東方大陸の玄関口リーリエ国に昨日到着した俺達は、長旅の疲れを癒す為に今日明日は休息日と言う事になっていた。
「まあ準備はこちらのギルドでしてもらうから君達はゆっくりと休んでて良いよ」
とはグラマス殿の弁である。何れにしても有難く休ませてもらうとしよう、と言う訳でアン達と共にヤト、ファウスト、そしてデュークを連れてドンチュワンの街に繰り出していた。
はるか異国の町の人達は誰もが俺達が連れている魔物達を思わず二度見していた。そらまあラミアだけでもひと騒動起きそうなのに、二つ首のオルトロスに、黒い巨体の剛鉄ゴーレムが街中を歩いているんだ。この反応は当然の結果である。それでも人々が混乱状態にならないのは、この大陸には魔物調教師が割と居るからだとはドゥンダウ大陸のグラマス、トゥ女史から予め聞かされていたのだが。
「あっ、ねぇ御主人様! あそこに美味しそうなお肉が売っているわ!」
そう言って店先に色んな肉がある店に突撃して行くヤト。一方、突撃された店の主人と思しき男性は「うぉっ?! な、何でこんな街中にラミアが?!」と驚いていた。
「あーっと、すまん。そいつは俺の従魔なんだが……」
あとから店に入り男主人に謝る俺。男主人はそれで得心したみたいで
「ああ、あんたのか?! それなら良いんだが……まあ普通街中に野生のラミアがいる訳無いよな!」
そう言って豪快に笑うと入口前に居るファウストを見て「あの魔犬もあんたのか?」と聞いて来る主人。
「ああ、そうだ。名前はファウスト、大人しくさせているから安心してくれ。それとその横にいるのはアダマンタイトゴーレムのデューク。今店に入り込んでいるのはラミアのヤトって言うんだ」
主人の問い掛けにそう答えると「ほう?! 3匹とも名持ちか?!」とまた驚く男主人。なんだが妙に魔物に詳しいので疑問に思っていると
「あはははっ! 俺は以前は冒険者だったからな、それなりには詳しいのさ! それでも流石にラミアやオルトロスやアダマンタイトゴーレムにはお目に掛かったのは初めてだがな!」
とまたもや豪快に笑う男主人。なるほど道理で詳しい訳であると、俺が納得していると
「御主人様! 私に美味しいお肉買って!」
棚に並ぶ肉の塊を喰いつく勢いで眺めていたヤトが、金色の瞳を輝かせながらお強請りして来た。
本当に食いしん坊だな、お前は!! ある意味ブレていない!
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「そうか、あんた達は西方大陸の冒険者だったのか」
食肉店の男主人──ウベルトが色々と納得したみたいに言ってくる。聞けばウベルトは今年40歳で、嘗てはAクラスまで行った冒険者だったのだが、魔物との戦いで左足を失い冒険者を引退したのだそうだ。
「元は重戦士だったんだがな。まぁ昔から手先は器用な方でな、前のパーティーでは魔物の解体や調理もやっていた事もあって、こうして店を始めたって訳だ!」
左足の義足を見せながら笑うウベルト。こうした怪我で引退する冒険者は結構居るのである。
勿論魔法で完全に治癒されれば問題無いのだが、パーティー内の回復役に『治し』のみならず『欠損治癒』が使える者は極めて少ない。
そうなると治癒院や教会で治してもらう事になるのだが、身体の欠損は時間が経つに従って完全再生が難しくなるし、なんと言っても治療費が凄まじく高額だ。よって冒険者が怪我で身体の一部を欠損すると引退を余儀なくされる場合が多いのである。
「まあ俺の話はどうでも良いや。あんたの名前はなんて言うんだ?」
改めてそう尋ねて来るウベルト。そういや自己紹介がまだだったな。
「ああ、すまん。俺はウィルフレド、クラスはSクラスだ。そして彼女達は俺の氏族のメンバーだ」
「へぇ!? こいつは驚いた! Sクラス冒険者だったのか?! その辺の事を詳しく聞かせてくれよ!」
俺が自身の事を明かすとウベルトは驚きつつも楽しげに声を弾ませる。別に隠す事も無いし特に用事も無かったので、アン達やコーゼストの紹介がてら色んな事を話して聞かせた──勿論その間、ヤトにはこの店の特上の肉を特別にステーキにしてもらい、ファウスト共々食べさせていたが。そんな中──
「ほう! ウィルは無限収納持ちなのか?!」
コーゼストのインベントリの事を話したら俄然食い付いて来るウベルト。なんだがとっても嬉しそうである。そして馴れ馴れしい。
「そうだが……何がそんなに嬉しそうなんだ?」
「なぁウィル、少し副業してみないか?」
俺の至極真っ当な疑問に、いきなり依頼と言う形で答えるウベルト。
何なんだ、本当に?!?
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改めてウベルトから話を聞くと、何でもこのドンチュワンから南に少し行った所にある草原地帯に棲む「鎧水牛」とやらを何頭か狩って来て欲しいと言う依頼であった。
鎧水牛自体、草食で性格が大人しく、魔物では無く魔獣になるのであるが、名前の示す通り頭部から肩部にかけ鎧の様な硬く厚い皮があり、生半可な攻撃が通らないらしい。
また外敵には猛烈な勢いで突進し、その頭部にある鋭い角で相手を攻撃すると言う危険性もあり、順位的にはAランク相当に指定されている魔獣なのだそうだ。更に肉が極上品らしく人気があるらしい。
「問題はそいつをいつも狩って来てもらっていた冒険者パーティーが別の依頼を受けていて、しばらく狩れないと話が来てな。しかも運悪くいつもより多めの注文が入っちまってな。ギルドに依頼は出しているんだが反応が思わしくないんだ」
そう言うと渋い顔をするウベルト。
「なるほど、それで俺達にそのアーマーバイソンを狩って来て欲しいって訳なんだな?」
こちらとしてはその理由が明かされたので色々と納得が行った。
「ああ、ウィルならインベントリもあるから新鮮なまま持ってこれると思うんだ。頼まれてくれたならこちらとしても大助かりなんだが……」
「ふむ……報酬はどうなるんだ?」
思わず尻すぼみになるウベルトに確認する俺。
「あ、ああ、それはもちろん払う用意はあるぞ。1頭あたり金貨15枚、それとは別に硬皮は優秀な革鎧の材料になるから、綺麗に狩れれば知り合いの防具職人が1頭あたり金貨5枚から8枚で買い取ってくれる事になっている……って受けてくれるのか?!」
そこまで律儀に答えてくれると慌てて確認して来るウベルト。まあ元よりそのつもりだしな。
「受けるには受けるが、こちらからもひとつ頼みがあるんだ……聞いてくれるか?」
「おう! 聞ける事なら何でも言ってくれ! 何だ?」
良し、言質は取った! その台詞を聞いて俺はにっこり笑みを浮かべると
「そんなに難しい事じゃないさ。ただ獲って来たアーマーバイソンの肉を幾らか格安で売って欲しいんだ。うちには大食らいが居るし、何より土産にしたいしな」
追加の報酬を口にする。それを聞いたウベルトは「そんな事ならお易い御用だ!」と胸を叩いて同意する。その一連の流れをステーキを頬張りながら聞いていたうちの無限胃袋は、残りのステーキを一気に口に掻っ込むと
「流石は私の御主人様! そう言う事なら早速ひと狩り行きましょう!!」
自分は準備万端だと言わんばかりに急かしてくる。
お前はどれだけ食欲に忠実なんだ?!? と言うかちゃんと咀嚼して呑み込め!!
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そのあとウベルトから更に詳しい情報を聞いてから、一旦『銀蛇亭』に戻りグラマスに事情を話すと「行って来ていいよ」と笑顔で送り出してくれた。それならばと言う事で早速馬車を借り草原へと向かった。そして──
「はぁー、こう来たか」
──今に至る。到着した南の草原地帯は意外と近かったが同時に意外と、いや結構広かった。そこには様々な獣や魔獣が入り交じる様に、のんびりと草を食んでいる様子が見受けられた。
「さてと、そんじゃ目的のアーマーバイソンを探すとするか……」
「そうね、そうしましょう。まあ大型の魔獣だから見つけるのは大丈夫だと思うけど」
俺の言葉に答えるアン。その肩には彼女の相棒である魔導小火砲が掛けられていた。今回は俺達が獲物を探し出しアンの射撃で仕留める手筈になっているのである。
「良し、それじゃあ先程決めた様に別れてアーマーバイソンを探すとしよう。見つけたら念話でコーゼストに報告してくれ」
「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」
俺の号令に元気よく答えるメンバー。今回は俺とアン、エリナとフェリピナ、レオナとマルヴィナ、ルアンジェとスサナ、と言う風に2人1組に別れ、この広いエリアを探すのだ。
「そんじゃあ私も探して来ようっと!」
馬車を降りて元の大きさになったヤトも張り切って草原の中に蛇身をくねらせて入って行った。散っていった全員の動向はコーゼストが逐一追跡していて、探知に掛かった大型の魔獣らしき反応にそれぞれ向かう様に念話で指示を出しているのだ。
やがてルアンジェ・スサナの組から見つけたとの連絡が入り、俺とアンはコーゼストの案内で其方の方に向かう事にした。
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(結構デカイな……)
ルアンジェ達と合流し指差す方を見やると、体高1.6メルト程のアーマーバイソンが悠々と草を食んでいるらしいのが確認出来た。尤も100メルト離れた位置から見ているのでいまいち正確では無いが。それでも切裂水牛と比べるとこじんまりした感じがする。
『どうだアン? 狙えそうか?』
『ええ、何ら問題無いわ』
俺は念話でアンに確認するとアンはひとつ頷き、弾倉を属性弾倉の『Shine Ray』と交換する。そして立て膝をつきリュシフェルを構えると、呼吸を整え引き金を引き絞るアン!
リュシフェルの銃口から放たれた眩く細い光は一瞬でアーマーバイソンに達し、数瞬の間を置いて100メルト先のアーマーバイソンの身体が頽れるのが見えた。
「やったか?!」
そう言いながら急いでアーマーバイソンの所に駆け付けると、そこには絶命し倒れているアーマーバイソンの骸が。良く見ると右眼が小さく穿たれ、左後頭部に抜けている。
『どうやらアンはアーマーバイソンの脳を右眼から真っ直ぐにShine Rayで撃ち抜いたみたいですね、流石です』
コーゼストはアンの射撃をそう評するが、アーマーバイソンの眼はせいぜい直径4セルト程である。そんな小さな的に100メルト先から寸分違わず命中させ、尚且つ正確に弱点である脳を撃ち抜き、高額買取対象の硬皮に傷ひとつ付けないなんて芸当はそんなに簡単に出来る事じゃない。つくづくアンの射撃センスは尋常ではないのを改めて思い知らされた俺である。
『──マスター、ヤトがアーマーバイソンを仕留めたみたいです』
アンを褒めようとしていたらコーゼストから真逆の報告である。どうやらそんなに離れていないらしいので、急いでヤトの元に駆け付けると
「あっ、御主人様! 見て見て! こんな大きなのを仕留めたわ!!」
そう満面の笑みで宣うヤトの背後には、先程アンが斃したのが子供に思える程の大きさのアーマーバイソンが!
良く見ると頭部と肩部の硬皮を避け、隙間の首筋を的確に深く切り裂いている。
「どうやったんだ、ヤト?!」
「ん〜? 風の刃で切り裂いたのよ? 凄いでしょ?!」
どうやらヤトはフェリピナが使う『烈風斬刃』を使ったみたいである。何と言う器用さだろう。
「それにしても良くこんな針先の一点で切り裂けたな……」
「だって、この硬い皮はお金になるんでしょう? だから傷付けない様に気を付けたの!」
あまりの手際に俺が呆然と呟くと、ドヤ顔で元気良く答えるヤト。と言うか良く覚えていたな?!
「さあ、どんどん狩りましょう! そして御主人様に美味しいお肉を沢山買ってもらうの!」
そう言って俄然やる気を見せるヤト。
やる気があるのは結構なんだが、最後の台詞で全て台無しになっているぞ?!?
ひと狩りいこうぜ! (モンハン風に)
と言う訳で食肉屋の主人から狩りを依頼されました! まあ、案の定と言えば案の定なんですが(笑)
でも意外に難易度が高い狩りですが、このメンバーには造作もないみたいです!
*ウベルト…………元Aクラス冒険者で重戦士をこなしていたベテラン。左足を魔物によって失った事により引退した後、解体のスキルを生かして食肉店を始めた。現役は退いたが筋骨隆々である。
*鎧水牛…………ドゥンダウ大陸に生息する体高2メルト程の魔物ではなく魔獣。硬い革は防具に、肉は食用にされる。肉質はA5黒毛和牛以上。
☆レオナ・シャルリムのイラストをmanakayuinoさんに描いていただきました!manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました! 第125部本編百十八話に掲載されています! そちらもお楽しみください!
お読みいただきありがとうございます。




