出立の日、決断とひとときのわかれ
本日は第百四十一話を投稿します!
いよいよオーリーフ島を発つ日が来たウィル達一行! マディとジータに対するウィルの答えは?!
では本編をお読みください!
☆前回は投稿時間を間違えていました。申し訳ございませんでした。
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「はァ……」
『毎度の事ながら陰気くさい溜め息ですね』
女海賊ザイラが巻き起こした騒動から翌々日、補給物資を積み終えた『大海の剣』がいよいよオーリーフ島を発つ日を迎えた。それはつまりマディとジータの事にハッキリした答えを出す日でもあるのだ、憂鬱な溜め息も出ようものである。
『そこはマスターの決断ひとつかと』
思い悩んでいる俺に対し割りと突き放した言い方をするコーゼスト。
「そんな事言ってもなァ……」
そらまあアン達も俺に一任しているが、何と言うか決心が付かないのだ。今日の今日までマディとジータの事はそれなりに為人も確認し、それなりに色々と考えては来たのである──だが踏ん切りがつかない。
『事は極めて単純です。そもそもあの2人に対してマスターはどう思っているのか、その気持ちひとつだと思うんですが?』
肩の上のコーゼストが不思議そうな顔で尋ねて来る。
「それはそうなんだが……何と言うか、気持ちの踏ん切りが付かないと言うか……」
『では質問を変えます。マスターは何に不安を感じているのですか? 誰もが最初から自信を持って結婚と言う営為に当たる事は無いのですよ? ですからそんなに最初から自信を持つ必要は無いかと。自信とは覚悟の先にある物です、と以前も申し上げた筈ですが』
以前エリナと婚約する時、今みたいに思い悩む俺に言った台詞を改めて口にするコーゼスト。
覚悟か……俺はその覚悟が足りないんだな……マディとジータ2人の人生を背負う為の。アン達に対する引け目も勿論あるが、マディ達が背負うものを受け止める覚悟が…… 。
『マスターがアン達やマディ達に配慮する気持ちは分かります。ですが偶にはマスター自身が我儘にならないと自身の心の呵責に押し潰されてしまいますよ?』
再び思考の環に陥りそうな俺を優しく諭すコーゼスト。
「我儘にか……」
『そうです。結婚も恋愛も男女お互いが我儘になる事で成立するものだと私は思います。私なんか何時もマスターに我儘を言っていますしね』
そう言うと舌をペロッと出して戯けるコーゼスト。その仕草が何となく可笑しくなり、つい吹き出してしまう俺。何となくだが心が軽くなった気がする。と言うか、お前は自覚があったのか?
『迷いは無くなりましたか?』
俺の顔を見ながらニコリと微笑むコーゼスト。
「ああ、お陰様でな」
それに笑顔で答える俺。コイツは何だかんだ言って俺の事を一番わかっている奴である。
さてと、それじゃあ我儘になりに行くか!!
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部屋を出るとそのまま玉座の間に向かう。出立前にマディに挨拶する為にアン達やグラマス達が一堂に会しているはずだからだ。
程なくして到着し玉座の間に入ると、玉座に座るマディとその隣りに座るマーユの前にアン達が立っているのが見えた。一緒にジータも居る。俺が現れると皆んなが一斉に注目する──お願いだからそんなに注目しないでいただきたい。俺は咳払いをひとつすると皆んなの所に進み出る。
「これでやっと全員揃ったね」
グラマス殿が少し苦笑いをしながらそんな事を言う。
「遅れて済まなかったな、グラマス」
そんなグラマスに頭を下げ謝罪すると、いつもの笑顔で
「なんのなんの、ウィル君にも色々考える時間が必要だったんだろうからね」
俺の謝罪を受け取ってくれる。グラマスはグラマスなりに気を使ってくれているみたいである。再度頭を下げると今度はマディに向き合う俺。
「漸く来てくれましたね、ウィル」
「ああ、待たせて済まなかった」
嫋やかな笑顔で話し掛けてくるマディを見て、落ち着かせた心が再びざわめくのを感じる俺。だがそのざわめきに乱される事無く──
「いよいよオーリーフを出立する日が来ましたね。私としてはもう少しここに滞在して欲しいのですが、貴方達にも旅の目的がおありなのですからそこまで我儘を言うつもりはありません」
そこまで言うと一旦言葉を区切り、再び言葉を紡ぐマディ。
「ですが全ての懸案が済んだ後にはまたここを訪ねてくださいな。そしてここで私とマーユと一緒に暮らして下さい。勿論アンさん達他の婚約者の方々ともジータとも一緒で構いません」
そう言ってジッと俺の目と視線を合わせるマディ。いつの間にかジータもマディの傍に立ち俺の言葉を待っている。俺は覚悟を決め言葉を紡ぐ。
「俺は──『今は』2人と結婚するつもりは無い。2人とも決して嫌いじゃないんだ。だけど俺は2人の愛を直ぐに受け止めるだけの大きな器じゃ無いんだよ。今の俺にはアン達4人を幸せにして、そして自分も幸せになる未来像は見えるけど、2人を幸せにし幸せになるビジョンが見えないんだ」
俺の言葉を黙って聞いているマディとジータ。アン達も固唾を呑んで聞いている。
「何をそんな陳腐な事をと思うだろうが、幸せは千差万別、100人居れば100通りの幸せがあるはずだ。だけどそれは相手を幸せにする事と自分が幸せになる事が同義じゃ無いといけないと思うんだ。はっきり言って『今は』2人を幸せにする自信も自分が幸せになる自信も無いんだ」
そこまで言うとマディとジータの言葉を待つ俺。何となく裁判で判決を告げられる罪人って気分である。
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「そうですか……それは残念です」
俺の話を聞き終えるとハァと溜め息を付き、言葉を漏らすマディ。
「まあ、そうなるだろうとは思っていたけどねぇ……」
ジータも同様に小さく溜め息を付いている。
「『今は』幸せにする自信も幸せになる自信も無い、ですか……そう言われると何も言えませんね」
俺の言葉を反芻して苦く笑うマディ。その笑みは何処か寂しげであった。
「でもまあ、そうさね……あたしもマディもそれぞれ背負う物があり過ぎるからね。それにウィルを巻き込んじまうのは本意じゃ無いし……ね」
マディの台詞に答えるようにジータがぽつりと呟く。俺だって何かあって2人を俺の事情なんかに巻き込んだりしたら心苦しいに決まっている。
少なくともアンとエリナとレオナは俺と同じ冒険者であり、行動を共にし背中を預け合う仲だし、ルピィは冒険者ギルドで働き、俺みたいな冒険者がどう言うものなのか充分に知っているからこそ、この4人を幸せにする自信も自分が幸せになるビジョンも見えるのだ。
「本当に2人とも済まない」
俺は2人に深く腰を折り謝罪する。別に何かを約束した訳でもないのだが。だがこれは俺自身のけじめなんだ。
「そんな! どうか頭を上げて下さいな、ウィル!」
「そ、そうだよ! アンタが悪いんじゃないんだ、あたし達が勝手にアンタに惚れただけなんだ! それに『今は』なんだろ?!」
これには2人も大慌てで「謝罪を受けるから頭を上げて」と逆に懇願されてしまった。そうまで言われると逆にこちらも悪い気がして頭をあげる。
何にせよ、これで迷いを吹っ切る事が出来た。後ろからアン達の安堵の溜め息がはっきり聞こえた。
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「やだっ!!」
そんな空気を破る様に突然叫ぶマーユ──なんだ何だ?!
「どうしたの、マーユ?」
「だってウィルお兄ちゃんがここを出ていっちゃうなら、もうお兄ちゃんに会えないもの! そんなのイヤ!!」
そう言っていやいやと駄々を捏ねるマーユ。
「そう言う事を言っては駄目よ? ウィルお兄ちゃんが困っているじゃない」
「やだやだやだ!!!」
マディが諭してもマーユの癇癪は収まらない。これにはマディのみならず俺も、アン達すらも困ってしまった。普段のマーユからは想像もつかない状況にこの場に居る者全てが困り果ててしまったのである。
『大丈夫ですよマーユちゃん、またマスターと会えます。私が会わせてあげます』
だがそんな中、マーユに語り掛けるのはコーゼスト。
「お前……そんな安請け合いを……」
マーユを落ち着かせる為とは言え、そんなでまかせみたいな事を軽々に言うな──と言おうとする俺の言葉を遮る様に
『大丈夫です。ちゃんとした根拠に基づいた話をしているのです』
とやたら自信有り気に宣うコーゼスト。何なんだ、その自信は?
『マスターはお忘れかも知れませんが、以前『混沌の庭園』の魔導人工頭脳アルカが使った転移魔法を使えば問題は解決します』
「?! アレをか?!」
コーゼストの話で思い出した。以前のトラブルの時、アルカに協力を仰いだ際、俺達を転移陣無しに任意の場所に転移してくれたのだ。確かその際、コーゼストがアルカが使用した転移魔法の術式を記憶したと言っていたのである。
「つまりアレか、転移の魔道具を作って西方側とオーリーフ側を行き来できる様にするって訳か?!」
『流石は我がマスター。その通りです』
俺の言葉に我が意を得たりと頷くコーゼスト。だが問題は山積みである。
「だけど9,000キルト以上もある距離を、どうやってここを目指して転移させるんだ?」
『そこは今この場で探知目標となる魔道具を作製して設置しておきます。私と魔力的に繋がる言わば標識ですね。そしてこの旅の途中、若しくはルォシー大陸に帰ってから転移の魔道具を作製し、こちらに設置したビーコンを目標に転移して来れば良いのです』
俺の指摘に明確な答えを示すコーゼスト。まぁ予想はしていたが、お前は本当にもう何でもアリだなんだな…… 。
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兎に角すったもんだの末、コーゼストがいつもの如くササッと魔道具を作製し、皆んなが見ている前で宮殿の中庭に設置し、漸くマーユの機嫌をとる事が出来たのである。これにはマディも喜んでいたが、アンタはこの転移の魔道具が完成したらまた公務をさぼる気だろ?!
まぁ何れにしても、これで後腐れなくオーリーフ島を出立する事が出来る事になった俺達は輿車に分乗して『大海の剣』が停泊するルルン湾へと向かったのである。マディ達も見送りの為に付いて来たのは言うまでもない。そして舷梯の所で別れの挨拶を交わす俺達とマディ達。
「協力に本当に感謝するよ、ありがとうマデレイネ陛下」
「いいえ、私達も色々とお世話になりましたから。それに見合うだけのおもてなしが出来なかったのが心残りですが……どうかお気をつけて」
グラマスと形式的な挨拶を交わすとマディは俺の方を向き直り
「ではウィル、本当にありがとうございました。貴方達の旅の無事を祈っています──そしていつまでも待っています」
少し潤んだ目で話し掛けてくる。俺は頭を掻きながら
「あ、ああ、ありがとうマディ。あなたも元気でな」
割りとぶっきらぼうに答える。どうもこうしたのは柄じゃない。
「あたしもウィルには世話になったよ、本当にありがとう! 気をつけて行くんだよ? まぁアンタならどんな魔物も海賊も太刀打ち出来ないだろうけどね!」
片やジータはそう言って呵呵と笑いながら俺の肩をバシバシ叩いてくる。
「ああ、ジータも元気でな。ザイラにもよろしく」
そう言いながらジータと握手を交わす俺。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん達、元気でね!」
「マーユもな。コーゼストが転移の魔道具を作ったら必ず会いに来るからな」
「また会いましょうね、マーユちゃん」
「「「「「「元気でね!」」」」」」
「うんっ! またね!!」
マーユはマーユで御機嫌に俺やアン達と挨拶を交わす。先程の愚図り様が嘘みたいである。俺がマーユの頭をくしゃりと撫でると「それじゃあ──行こうか」と声を掛けるグラマス。それに頷きタラップを昇ると、タラップが船体に静かに引き込まれ、やがて「出航!」と船橋の拡声器からモデスト船長の声が響く。
側方推進器が動き出し、ゆっくりと埠頭を離れる『大海の剣』の甲板から俺達は見送るマディ達に大きく手を振る。
「じゃあ元気でなーーーッ!!」
「「「「「「「さようならーーーッ!!」」」」」」」
俺達の声に手を振って答えるマディ達の姿が徐々に遠ざかっていく。それにいつまでも手を振り続ける俺達。
こうして俺達は色々あったオーリーフ島を旅立ち、目的地の東方大陸へと向かうのだった。
やれやれ、やっと本来の旅に戻れる…… 。
とりあえずこの様な形に落ち着きました!ご意見は多々あると思いますが受け付けません(笑)
でも『今は』ですから、ウィルの気持ちが固まれば、将来マディとジータとの結婚も有り得ます!
☆エリナベル・セルウィンのイラストをmanakayuinoさんに描いていただきました!manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました! 第96部本編九十一話に掲載されています! そちらもお楽しみください!
いつもお読みいただきありがとうございます。




