閑話〈10〉 男勝りと女振りと 〜ジータの想い〜
本日は閑話を投稿します!
今回は海賊「黒百合団」の頭領ジータの話です!
※投稿時間を間違えて設定してました……orz
本当にすいませんでした!
閑話〈10〉
舶刀と歩兵剣が何度も打ち合う音があちこちから響いてくる──同時に叫び合う声も。
「ほぉら! もう一息さね! 一気に押し込むよ!!」
あたしは先頭に立ちながら、仲間の海賊達に檄を飛ばす。
「くっ?! この……海賊風情がっ!」
相手の船の船長がそう叫びながらショートソードを振りかざして斬りかかって来るが、あたしは難なく避けると朝凪と洪波、2つの愛槍を無造作に振るうだけ。
それで斬りかかって来た相手の胸板には風穴が2つ穿たれ、相手はそのまま血飛沫をまき散らして甲板に倒れ込み動かなくなる。
「うっし、相手の頭は潰したよ!!」
倒れた船長の死体を蹴りあげながら、あたしはそう吠える。その声に仲間達も勢いづき、瞬く間に船上の戦闘が決着する。
「よぉし、あたしら『黒百合団』の勝ちだっ! 皆んな勝ちどきを上げなーーっ!!」
あたしの声に船上のあちこちで仲間の海賊達の勝鬨の声が上がる。それを心地よく聞きながら、あたしは占拠した船の船倉へと向かう。
さて、どんなお宝が積まれているんだろうね…… 。
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あたしはジータ。海賊船『ヴィテックス』号の船長であり、海賊団『黒百合団』の頭領をしている。
まぁ別にしたくて海賊なんざしちゃいない。そうしないと生きていけないから海賊をしているだけなのさ。
それは仲間達にも言えていて、大体の奴はあたしみたいな食いっぱぐれた元軍人や傭兵、あるいは貧しい漁師や農民とかの出の奴らばかりさ。皆んな色んな事情を抱えて海賊なんざになったんだ。かく言うあたしもその1人なんだけどね。
もっともあたしの場合は単なる食いっぱぐれだけじゃない、複雑な事情ってのがあるんだけど……ね。
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そんなある日、あたしらは魚人族の住んでいるオーリーフ島から東方大陸と西方大陸双方に繋がる「海の回廊」でいつもの様に獲物を漁っていた。
この回廊は船乗り泣かせの「荒れる海」の中にあって、穏やかな海流が流れる海域で、あたしも静かな海の上で久しぶりに昼寝に洒落こんでいたんだけど── 。
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久しぶりに深い眠りについていたあたしは、船長室の外から聞こえてきた砲撃の音と続く衝撃音に意識を呼び覚まされたんだ。
なんだ……どっかの貨物船でも見つけて、獲物とばかりに『ヴィテックス』号を強引に接舷させたのか…… 。
そう思い再び眠りに付こうとしたあたしは、何やら外が騒々しい事に気が付いたんだ。人の怒号と共に剣と剣がぶつかり合う音が近付いて来て──
「──何だ、おめぇらは?!」
副長のダリオがどうやら誰かと対峙しているらしい声。知らない男の「俺達はただの助っ人だ!」と言う声とダリオの叫び声、剣と剣がぶつかり合う音、そして「断兇!」と言う声と同時に聞こえてきた甲高い音、ダリオの「な、何?!?」と焦りの声──はぁ、どうやら面倒事らしい雰囲気だね、やれやれだよ。
あたしはベッドから起きると、愛用のコートを羽織りながら船長室の扉を開けて、甲板に顔を出す。
「どうしたんだい……騒がしいねぇ……」
あたしの突然の登場にダリオと対峙していた男が「アンタがリーダーなのか?」と尋ねて来やがる。
「そうさ、海賊『黒百合団』の御頭ジータとはこのあたしさ」
あたしはニカリと笑うと辺りを見回す。男の仲間らしい拳闘士が、あたしの仲間をまとめて吹き飛ばしているし、向こうの船では2人の小娘が仲間と斬り結んでいるのが見える。
なるほどコイツらはあたしの敵って訳だ。
「一応聞いといてやるよ。あんたの名は?」
あたしの問い掛けに男は「俺はルォシーの冒険者のウィルフレドだ」と名乗り、あたしは思わず鼻で笑ってしまった。たかが陸の冒険者にこのあたしが負ける訳が無いからさ。
どれ……この男に海の怖さを教えてやろうかね?!
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激しい戦闘の末──あたしは負けた。ウィルフレドをたかが陸の冒険者と侮っていた事もあるけど、それでもアイツは想像以上に強かったんだ。
あたしの得意技の大波も効かず、寄せ波も破られ、海賊をする以前から使っていた朝凪と洪波も破壊され、あたしは手も足も出なかったのさ。
そしてあたしは鳩尾にキツい一撃を食らい気を失った── 。
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再び気が付いた時、あたしは生き残った仲間57人と一緒にウィルフレド達に捕まっていたんだ。
結局120人いた仲間の半分以上倒されたり、海に投げ出されたって事になる。あたしらは海賊稼業についた時から、いつか殺される事は覚悟していたけど──何となくやるせない思いがするよ。
そんな事を考えていたら縛られているあたしにウィルフレドは色々と質問してきたのさ。しかもあたしがレグラ帝国の軍人だったのを見抜きやがった! あたしは内心驚きながらも奴の質問に答えたさ。
あたし──ジータ・ルモワールは、かつてドゥンダゥ大陸レグラ帝国の海軍軍人だった事、小さな港町に暮らしていた漁師の両親と2人の弟の事、家族の生活が困窮し軍人となった事。中佐にまで上り詰めた事、上官達の陰謀で反逆罪の汚名を着せられ投獄された事──そして家族を全員処刑された事も。
あたしはそれに激怒して監獄を破壊、同じ監獄に投獄されていた奴等と共に監獄所を脱走し、乗っていた軍船『ヴィテックス』を強奪して海賊になった事、洗いざらい全てね。
でもあたしみたいなならず者の海賊の言う事なんて、ちゃんと聞く奴なんていない──あたしはそうタカをくくっていたんだ。それをウィルフレドは全て受け止めてくれたんだ!
話を聞き終えた奴は、いきなり『ヴィテックス』号じゃないもう1隻の空の船を雷撃を纏った斬撃で粉々に破壊しやがった! もし今のがあたしに向けられていたら、と思うとゾッとするよ。
そんなあたしに向かい「反逆者と呼ばれたジータ・ルモワールも海賊のジータも俺が海深くに沈めた。首領を失った海賊『黒百合団』も海に消え失せた。俺の目の前にいるのはただのならず者のジータしかいない」とウィルフレドは何の迷いもなく言い放ったのさ!
全く……あたしらをドゥンダウの軍に突き出せば高額の報奨金が貰えるってのに……損な性格している男だねぇ…… 。
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そんな事があった後、縄を解かれ自由になったあたしはウィルフレドに猛然と抱き着いていた。こんな良い男を見逃す手は無いさね。
それだけあたしはウィルフレド──ウィルの強さと潔い男らしさにすっかり本当に参っちまったんだよ。まぁ何故かもう1人──メロウ族のマデレイネも抱き着いているんだけど。でも負けないよ! あたしだってウィルに惚れているんだからね!
そんな風にマデレイネと2人でウィルを取り合っていたら、ウィルのお仲間のダークエルフに怒られちまった。何でもこのダークエルフのアンと魔法騎士のエリナと拳闘士のレオナの3人はウィルの婚約者なんだそうだ。あとルォシーにはもう1人婚約者がいるんだそうだ。
流石はウィル、4人も婚約者がいるなんて! あたしがひとりで感心していると、アン達にウィルは「俺はマディとジータを嫁さんにするつもりは無い事ははっきり言っておく。そもそもその為人を良くわかってもいないのに、2人に恋愛感情を持つなんて無理だからな」と宣言していたんだ。でもそれってあたしやマデレイネ──マディの事を良く知れば結婚してくれるって事なんだろ? アンもあたしとマディがウィルと付き合うのは反対してなかったし。
こいつは──マディなんかに負けていられないね!
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結局あたしの船『ヴィテックス』号はあたしの仲間達を乗せたまま、ウィル達が乗る巨船『大海の剣』に係留される形になったんだ。それも嬉しかったよ、何せこの船には思い入れがあるからねぇ…… 。
勿論ウィル達の目的地であるオーリーフ島に着くまでの間、あたしはウィルといい感じになりかけたんだけど思わぬ所で邪魔が入ったりして、あまり進展しなかったんだよ。折角マディに差を付けられると思ったのに残念さ…… 。
そんな駆け引きをしているうちにあたしらはオーリーフ島に到着、ウィル達はマディ親子と共に船を下りていき、あたしは仲間達と船内でお留守番さ。まぁ仕方ないさね、あたしらが一緒に下りたらそれこそトラブルになりかねないからね。
そんな風に船で大人しく待っていると、いきなりメロウ族の宮殿からあたしを出迎えにやって来たのには驚いたね。何がなにやらわからないまま宮殿に連れていかれた先でも更なる驚きがあたしを待っていた。
なんとあのマディが実はメロウ族の女王様だった事、そのマディ──マデレイネ陛下にウィルが交渉して──まあウィルに付いているインテリジェンス・アイテムが大半の交渉を進めたらしいんだけど──あたしら元海賊に、ひとつの島を開拓させて住まわせてくれるって事、本当に何年分驚いた事だったか!
でも一番驚いて一番嬉しかったのは、ウィルのあたしを助けてくれた理由を、その思いを知る事が出来た事さ。
人から見て例え無駄だとしても、この手で救えるのなら躊躇無く生命を救う。
そんなお人好しな、はっきり言って甘ちゃんな考えで縁もゆかりも無いあたしを、あたしの仲間を助けてくれたウィル。それを知った時あたしは思わずウィルに抱き着いていたんだ。
ウィル、流石はあたしが見込んだだけの事はある男性だよ!
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「ほぉら、もう少し気張んな!」
あたしの檄に仲間達が「応っ!」と答え、少しずつ土地が開拓されて行く。ここはオーリーフ本島の近くにある『伍の群島』と呼ばれる島のひとつ。あたしらにマディから与えられた開拓の地さ。
あれからマディがすぐに動き、話から2日後にはもう開拓が開始されていたんだ。そこはマディの即断即決なんだろうけど……何とも凄いもんだね。メロウ族と一緒に汗を流しながら一生懸命働く仲間達を見ているととても気持ちが良いもんだ。
「ジータ姉様! 向こうの荒地はあらかた片付きました!」
そんな事を思っていたら傍に駆け寄ってくる褐色の髪の娘。この娘はザイラ、昨日オーリーフ島にいきなり殴り込みをかけて来たあたしの妹分の娘だ。何でもあたしがウィル達に殺されたと勘違いして、仇討ちのつもりで押し掛けて来たらしい。何ともおっちょこちょいな娘だよ、全く!
まぁもっともそのウィルとマディの計らいで、あたしと一緒にこの島で暮らす事になれたんだけどさ。
「ああ、そんじゃ今度はその隣の土地の木を伐採してもらおうかね」
あたしは笑顔で次の指示をザイラに告げる。
本当に夢みたいだけど勿論タダで暮らせる訳じゃない。あたしらは元海賊の力量を存分に発揮してメロウ族の住んでいる領海を護る仕事を担う事になっているんだ。元々メロウ族の国土は幾つかの島が集まっているから、ほとんど海が領海と言うか領土になっている。なので海に精通したあたしらがメロウ族と協力してこの領海を護る事になったんだよ。
それでも今まで根無し草だったあたしらが、初めて安心して暮らせる場所を得られた事はとても大きいんだ。
それを実現してくれたウィルが明日、オーリーフ島を発つ事になっている。それはあたしとマディ2人との事をはっきりさせる日でもあるんだ。ウィルがどんな決断をするのか……何となく予想は付くんだけど、もし、万が一にもウィルが選んでくれたなら……と思うと、あたしは頬が熱くなるのを感じるんだ。それはきっとマディも同じ気持ちだと思う。
あたしだって女の端くれ、少しぐらい夢を見たって良いだろ?
それにまだまだあたしも捨てたもんじゃないだろうしね!
ジータの目まぐるしい心境の変化について描きました。それにしても本当にジータは情熱的な熱情家です。そして意外と乙女な一面も(笑)
次回からは本編に戻ります。お楽しみに!
☆エリナベル・セルウィンのイラストをmanakayuinoさんに描いていただきました!manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました! 第96部本編九十一話に掲載されています! そちらもお楽しみください!
いつもお読みいただきありがとうございます。




