明媚な島での闘諍 〜徒花は百合の香り〜
本日は第百四十話を投稿します!
サブタイトルはそのまま内容を示しております。名は体を表す(笑)
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「暇だな……」
浜辺で色々肌色過多の休暇を楽しんだあと、俺達は魚人族の宮殿の迎賓館で暇を持て余していた。と言っても明後日には出港出来るとの連絡があったのでそれまでの間、と言う事なのだが。
仕方ないので戦闘訓練でもしようかとも思ったのだが、グラマス殿から笑顔で却下された。曰く「君達が本気を出したらこの島の自然を破壊してしまうからね」だそうだ。何とも酷い言われようである。
だが身体を動かしておかないと逆に落ち着かないのは、やはり元来のものなのか──うーむ。
『マスターのは単なる貧乏性です』
「うるせえぞ、コーゼスト!」
まったくなんつー言い草だ! そうコーゼストに突っ込みを入れてふと思い付き、ぶらりと港まで出掛ける事を思い立つ。
「折角だからアン達にも声を掛けるか……」
思い立ったが吉日、泊まっている部屋を出る俺だった。
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「賑やかねぇ」
喧騒を極める港の活気にアンがそう感想を漏らす。まあその喧騒は『大海の剣』への物資の積み込みの所為なのだが。それにしても流石は120メルトもの巨船である、積み込む物資の量も半端ない。そんな作業を眺めながら港を散策する俺達。因みにこの港の名前はルルンと言うそうな。
そう騒がしくも穏やかな光景をぼんやり眺めていたら、不意に轟音と共に港の海面に水柱が上がる! なんだ何だ?! あまりの出来事に驚いていると誰かが叫ぶ「か、海賊船だ!」と言う声が耳に入って来た! その声でルルン湾の沖に目をやるといつの間に現れたのか、ジータの『ヴィテックス』号と同じ型の船がこちらに向かって来るのが見えた。すると今のは船首の大砲をぶっ放したのか?!
そうしている間に船首を右側に振る海賊船! そうやって左舷をこちらに向けると舷側に並ぶ大砲を一斉に撃ち始めた! アイツら見境無しかよ?!
『──物理結界、最大範囲展開へ』
慌てる俺の耳に今度はコーゼストの声が聞こえ、同時にルルン湾の湾内を覆う程の結界が展開される──ナイスだ! 海賊船の砲撃はその結界に全て遮られる形となり、こちらからでも船上が慌てている様が見える。
「良くやった、コーゼスト!」
『流石に少し危なかったですが、これで暫くは持つかと。それにしてもこの綺麗なオーリーフを砲撃するとは……無粋な奴等ですね』
……おお、コーゼストさんが御立腹であらせられる。と言うかここまで怒気を帯びたコーゼストの表情を見たのは初めてだ。かく言う俺も頭に来ているが。勿論アンさん達も同様であるのは言うまでもない。
まったく……俺が休んでいると何でこんなに厄介事が起きるんだ?! 思わず自分の悪運に突っ込みを入れる俺。そうして深く溜め息をつくと、次々と撃ち込まれる砲撃が結界で弾ける音が響く中、コーゼストの無限収納から刀剣を取り出す俺。鞘からセイバーを抜き放つと、「正持の型」に構え魔力を高める。そして──
「──荒ぶる雷よ!」
──力ある言葉を紡ぎ、剣身が雷を纏うのを確認すると
「雷精断斬!」
ヴォルト・セヴァーを海賊船目掛け放つ! 放たれた雷撃の斬撃波は海を断ち割りながら進み、海賊船に当たるとその船体を深く切り裂く──どうやら長距離の為勢いが落ちたみたいだな──等と思っている間に大きく裂かれた箇所から浸水して沈み始める海賊船。大慌てで次々と海に飛び込む海賊達を尻目に、俺はセイバーをシースに戻し残心を解く。
一瞬の間を置いて後ろから歓声が上がるのだった。
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程なくして埠頭近くの砂浜に海賊達が泳ぎ着いた。皆一様に疲れた表情を見せているが、上陸したらしたで砲撃で駆け付けたメロウ族の兵士に次々と捕まっていく──これはもう出番無しかな? 元々この島での出来事なんだから彼等兵士に任せてしまえば良いな。
などとつらつら考えていたら一部が何やら騒がしくなったので、其方に顔を向けると──1人の女が暴れていた。軍用刀を振り回し、取り押さえようとしている兵士達を寄せ付けない褐色の髪の女。何と言うか、この辺は女海賊が多いのか?
またひとつ溜め息を吐くと其方に向かい駆け寄る俺。女を囲んでいた兵士達は俺が近付くと道を開けてくれ、俺はサーベルを構える女の前に立った。
「何だい! アンタも死にたいのかい?!」
琥珀色の瞳で鋭い視線を向け噛み付いて来る女。
「死ぬ気は無いが……黙って見過ごすほど腑抜けでも無くてな」
そう言いながらセイバーを抜いて構える俺。
「……アンタ、名前は?」
女はこちらを見詰めながら名前を尋ねて来たので答える事にした。
「俺はウィルフレド・ハーヴィー、しがない冒険者だ」
「?!? あ、アンタがウィルフレドかぁ!!!」
俺の名を聞き急に激高する女──なんだ何だ?! 戸惑う俺を他所に激高した女の口から聞き慣れた名前が紡がれる。
「アンタがジータ姉様をぉぉ、手に掛けたオトコかぁぁァァァ?!?」
そう言うが早い、サーベルで斬り掛かってくる女! それを難なく躱す俺。戦闘開始前に『迅風増強』を発動させておいたので躱すのは苦では無いが……この女、ジータの関係者か?! 本当の所を確認したいのだが相手の女に聞く暇が無い、と言うか聞く耳を持たないみたいである。特に「姉様」に関して是非聞きたいのだが。
「このっ! ちょこまかと逃げやがって! さっさとあたいの剣の錆になっちまいな!!!」
「それはっ、ぜひともっ、遠慮させていただくっ!!」
女の斬撃の間隙を縫ってセイバーの峰で女のサーベルの腹を思いっきり叩く! その衝撃でポキリと折れるサーベル! まぁただの鋼のサーベルを緋緋色金で出来ているセイバーで思いっきり叩いたのだ、結果は察して余りある。
「えっ?!?」
突然持っていたサーベルが半分に折れ、唖然とする女の鳩尾にセイバーの柄頭を叩き込む!
「ぐっ……は……」
肺の息を苦しげに吐き出し、ずるりと俺の腕に倒れ込む女。それを見て事の成り行きを見守っていたアン達や兵士達から「おお!」と一際大きな歓声が上がる。
何方にしても何とも呆気ない決着になったな──はァ。
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兎にも角にも海賊達は、女も含め1人残らずメロウ族の兵士に捕縛された。俺が海賊船を沈めた時に何人か生命を落としたみたいだが、一方的に攻撃してきたのは向こうなのだ。嘗てジータも言っていたが「殺されるのを覚悟して海賊なんかになった」筈なのだ。こちらに反撃されて殺されても文句は言えないだろう。
そんな事を思っていたりしたら騒ぎを聞きつけ宮殿からマディとジータが駆け付けて来た。特にマディは軟禁状態からこれ幸いと理由を付けて抜け出して来たみたいである。ジータは気を失い拘束されている女の顔を見るなり「ざ、ザイラ?!」と大変驚いていた──やはり顔馴染みか。
「知り合いか?」
「あ、ああ、この子はザイラって言ってあたしより後に海賊になって、とある切っ掛けで世話をしたのが縁で、あたしの妹分を自称している子さ。でも何でオーリーフにザイラが来たのさ??」
疑問符を顔に浮かべるジータに俺はザイラが言っていた事を話して聞かせると、ジータはひとつ溜め息を吐き
「なるほど、ねぇ。済まないけどウィル、マディ、捕まえた奴等の面通しをあたしにさせてくれないかい? ちょっと気になる事があってね」
何か考えがあるらしく懇願してきた。
「俺はマディが良いなら構わないが……」
そう言ってマディの方に視線を向けると大きく頷くマディ。それを見て「悪いね、直ぐ終わるからさ」と捕縛された海賊達のところに行き、1人ひとり顔を確認して行くジータ。やがて1人の男と二言三言言葉を交わすとこちらに戻って来て事の経緯を説明する。
「思った通り、アイツらの中にあたしの部下だった奴が居たよ。そいつがザイラにあたしの事を教えたんだとさ」
そいつはジータと決闘していたあの時、レオナに海に落とされたので決闘の結果を知らずに、「ジータが俺に殺された」と言う間違った情報をザイラに伝え、今回の事になったんだ、とはジータの談である。更に言えばたまたまオーリーフの近くを航行していたら『大海の剣』がルルン湾に停泊しているのを見つけ、ジータの敵討ちをするつもりのザイラの指示で突っ込んで来たらしい。
何と言うか、そんなあやふやな情報を信じるとは……思い込みが激しい奴である。
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「う、うーん」
程なくして気が付いたらしく身動ぎするザイラ。そして二、三回頭を振ると目の前に立つ俺に気付き「お、おまえぇぇ!」と再び激高する。だが──
「ようやく起きたのかい、ザイラ」
「?!? じ、ジータ姉様! い、生きていたんですね!!」
ジータの姿を見つけると別な意味でヒートアップする。何と言うか面倒臭いタイプの人である。
「ああ、ご覧の通り五体満足でピンピンしているよ」
「よ、よ、よ、よがっだ〜〜〜〜〜」
今度はそう言うと一転、わんわんと大声で泣き出すザイラ。良く言うと感情豊かと言うんだろが、何となく情緒不安定っぽい。やがてザイラが少し落ち着いて来た所を見計らってジータが再度声を掛ける。
「落ち着いたかい?」
「ひっく、ひっく、ぐす、ぐす、は、はい……」
まだえぐえぐしているザイラに事の経緯を語って聞かせるジータ。それを愚図りながらも黙って聞いていたザイラは徐々に目を大きくしていき、そして──
「早合点しましたっ!! 本っ当にすいませんでした!!!」
最後には平身低頭、平謝りをしていた──縛られているけど。
「まぁこちら側にはコーゼストさんのお陰で何ら被害もありませんし、被害を被った者もおりませんから叱り置くに留めておきます。もう二度とこの様な行為はしないでくださいな」
そう言って厳重注意だけするマディ。ザイラはジータから「彼女はメロウ族の女王だ」と聞かされ、器用に縛られている体を深く折り地面に頭を擦り付けながら「は、はいぃぃぃ!」と畏まっている。
「マデレイネ陛下、ウィル。この子の事はあたしに任せてもらえないかい?」
ジータは何か思い付いたらしく俺とマディに尋ねて来る。特にマディを「陛下」と呼んだ辺り、並々ならぬ決意の表れなのだろう──俺はマディと呼び捨てにしているが。
「何か考えがおありみたいですね──良いでしょう、ではメロウの女王としてジータにこの件は一任します。上手く解決して下さいね、ジータ?」
ジータの言葉に一瞬考えると、「女王」として「依頼」と言う形で頼むマディ。そして俺の方を向き「これでよろしくて?」とにっこりと微笑んだのだ。勿論マディが良いなら俺に否やは無い。
「! ありがとうマディ! ありがとうウィル!」
自分の願いが叶い破顔するジータ。そしてあまりの急展開について行けず呆然としているザイラに
「ザイラ。今あたし達は近くの島に住む所を作っている最中なんだ。アンタ達にはそこで働いてもらう。そしてアンタ達が望むならそこに住んでもらっても構わない。勿論そのあとの仕事もマデレイネ陛下から頼まれた仕事が有るんだ。どうする? あたしと一緒にやらないかい?」
そう提案をする──まぁそうなるとは俺も思っていたけど。ザイラはその提案を受けパァッと明るい表情を見せると
「は、はい! 喜んで♡」
勢い込んで何度も首を縦に振る。と言うか、お前の部下の意見は聞かないのか?
兎に角こうして『伍の群島』に暮らすメンバーに、ザイラ達海賊団が加わる事になったのである。
何となくザイラがジータを「姉様」呼ばわりするのかわかった気がする──色々危ない意味で。
出発前に巻き起こったトラブルの回でした!
それにしても恐るべきはウィルのトラブル誘引体質!(笑)でもまあ丸く収まって何よりですが!
*ザイラ…………自称『ジータの妹分』を名乗る女海賊。褐色の腰上までの長い髪、琥珀色の瞳。設定年齢22歳。とにかく思い込みが激しい性格。少し百合系(笑)
☆エリナベル・セルウィンのイラストをmanakayuinoさんに描いていただきました!manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました! 第96部本編九十一話に掲載されています! そちらもお楽しみください!
いつもお読みいただきありがとうございます。




