航海、諸々 〜呪いとリズムと観察と〜
本日は第百三十五話を投稿します!
海賊戦と査問会と言う2つの危機(?)を無事乗り越えたウィル! ようやく静かな航海に……戻りません! 相変わらずドタバタしています!
-135-
魚人族の住むオーリーフ島に向かい航行を続ける『大海の剣』。
その右舷には1隻の船が鎖で係留されていた。言わずと知れた海賊『黒百合団』の海賊船である。その名は『ヴィテックス』号、元レグラ帝国の海軍軍人だったジータが軍籍だった頃から乗っていた、れっきとした軍船である。
「よっ、ほっ」
2隻の間に渡されている揺れる渡し板を器用に渡ってくるジータ。
「どうだったジータ、皆んなの様子は?」
『大海の剣』に戻って来たジータに声を掛ける俺。俺達との戦闘で生き残った海賊達は、全員武装解除してヴィテックス号に纏めて乗せてあるのだ。その人数は57名、この中には勿論副長のダリオも含まれているのだが。
「あ、ウィル♡うん、病人は今の所だれも居ないよ」
俺の問い掛けに嬉しそうに答えるジータ。彼女にはヴィテックス号に乗せている部下の海賊達の面倒を見させているのだ。最初は縛り上げていた海賊達だが、健康面や食事の面等での管理が大変なので拘束をするのを止めたのだ。
その代わりにコーゼストが海賊全員に「呪術」なる魔法を掛けた。この「呪術」は一言で言うと ” 相手に約束を守らせる ” 魔法 ” で、 ” 約束 ” を破ると ” 罰 ” を与える事が出来るのだ。その場合の ” 罰 ” に関しても色々加減ができ、例えば耳が聞こえなくなる目が見えなくなる、と言う軽いのから、最悪相手を ” 死に至らせる ” 事も可能である。その辺は奴隷に施される「隷属魔法」に近いものがあるのか?
兎に角この「呪術」で俺達に敵対する事を禁止しているのである。逆らった場合は身体が女体化する様に罰を設定してある──しかも美少女に。流石に今までバリバリの肉体派だったのに、わざわざ好き好んでオンナになりたがる奴はいないだろう。心はオトコのままなのに身体がか弱い女の子にされたらそのショックはいかばかりか。
因みにこの ” 罰 ” を決めたのはコーゼストである。
本当にコーゼストも容赦がない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
兎にも角にもこの屈辱的な「カーズ」を施してあるので、反乱を起こす心配は今の所無い訳である。更にジータが責任を持って管理しているのだから最早その可能性は皆無と言っても良いだろう。
「まあ食糧不足にもなりそうも無いし、問題無いかな」
そうなのだ。実は海賊達をヴィテックス号に乗せるにあたり、俺が沈めたもう1隻の海賊船を沈める前に出来る限り物資を積み込んでおいたのだ。勿論金品や武器になりそうな物は『大海の剣』に積み、食糧と水だけを積み込ませたのである。元々2隻合わせて120名分積んであったのだから今の人数なら充分事足りる。
「ありがとう、ウィル」
そんな事を思っていたらジータからいきなり礼を言われた。
「? 礼を言われる覚えは無いが……」
「あたしだけじゃ無くアイツらにも手を差し伸べてくれたじゃないか。その礼さ」
思わず疑問符を貼り付けた顔で答えると、そう説明してくれるジータ。しかしなぁ……
「確かにロープは解いたが、代わりに「カーズ」を掛けて束縛しているのにか? それにアイツらの大半は俺達が殺したんだぞ?」
「だけどそうでもしないと他の連中を納得させられないからだろ? それでもあたし達にとっては「生きてるだけで得してる」んだよ。それにあたし達だって殺されるのを覚悟して海賊なんかになったんだ、その事をウィル達を責める奴なんか居ないさ。勿論あたしを含めて、ね」
俺の台詞に真顔で答えるジータ──しかし不意にニコリと笑うと
「──だから生かされたあたし達は本当にウィルに感謝してるんだ……」
そう言うとそっと寄り添ってくる。少し照れ臭い気がするんだが?! 身体を離そうと少し身動ぎすると「お願いだからもう少しこうしていてくれないかい?」と潤んだ目で訴えられてしまった。
仕方ない、少し付き合ってやるか…… 。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しばらくジータと一緒に居て色々話を聞いた。特にあの独特の槍使いに関して詳しく聞かせてもらった。アレはコーゼストが気付かせてくれなければ俺が倒れていた筈なので是非とも聞きたかったのだ。
因みに聞く気は無かったのだがジータのお年は28歳だそうな。何でも女盛りらしい──それで俺にどうしろと!?
「あれはあたしが自分で編み出したもんさ。あたしは元々漁師の娘だからね、波の律動は小さい頃から身に付いているものだったんだ」
何でも波の揺れのリズムは大小あれど常に一定で、しかも人の呼吸のリズムと同じなのだそうだ。なので波のリズムを取り且つ、リズムの大きさを常に変える事により相手がジータのリズムに「酔う」のだそうだ。そうなるとあとはジータのタイミングで好きに攻撃出来ると言う訳である。
また回避も波のリズムに合わせて行い、相手の攻撃のタイミングを的確に読んでいたらしい。
それに2本の短槍の使い方にも変化を織り交ぜ攻撃に幅を持たせていたのである。技の名は『大波』。漁師の娘ならではの技だ。
それとあの時4メルトもの距離を一気に縮められたのも波のリズムに合わせ、体重を前に掛けて短距離を一気に駆け抜けるジータのオリジナルなのだそうだ。其方は俺の短距離移動法──縮地に近い。こちらの技の名は『寄せ波』。『大波』と言い流石は海育ちのジータの名付けである。
それとジータが使っていたあの2条の短槍だが右が朝凪で左に持っていたのが洪波と言うそうな。
「そういやさ、あの時ウィルが見せた構えって一体なんなのさ?」
一連の話に一頻り感心していると思い出した様にジータが尋ねてくる。あの時? あぁ、あの時か…… 。
「……あれは「正持の型」と言う古剣法の構えだ。全ての技の最初であり基本の型なんだ……」
それは俺が剣の師匠から散々叩き込まれた全ての基本の型。これ無くては武技は疎か剣技の1つも使えないと言う代物である。
「アレは地獄だったなぁ……」
俺がつい遠い目でそう呟くと「何か、その、ご苦労さんだね……」とジータに慰められてしまった。
然もありなん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ウィルさぁ〜ん!」
そんな事をしていると船尾側からスサナが俺の名を呼びながら走って来た。それに気付くとスッと離れるジータ。やれやれ、やっと離れてくれた…… 。
「あれぇ? もしかしてお邪魔でしたかぁ?」
駆け寄って来たスサナが俺とジータが一緒に居るのを見て興味を持ったらしい。その証拠に耳は頭の高い位置でピンと真っ直ぐ立たせこちらを向き、瞳は細くなったり拡がったり、尻尾に至っては盛んに左右にブンブン振られているからだ。
「う、うんにゃ、だ、大丈夫だ」
思わず吃る俺を少しジッと見詰めると
「あっ、大丈夫ですよぉ。アンさんには黙っていますからぁ♡」
そう言ってにぱぁ、と笑うスサナ。何となく居心地が悪くなり
「えへん、そ、それで何かあったのか?」
無理矢理話の矛先を変える俺。するとスサナは「そうでしたそうでした」とポンッと手を打ち
「えっとぉ、向こうでアンさんがお呼びなんですよぉ。ウィルさんを連れてきて欲しいって頼まれたんですぅ」
用件を思い出し、えへへへっと笑う。一体何の用だろう?
「わかった、それじゃあ早速行くとするか。んじゃジータ、また後でな」
「あ、ああ、そんじゃまた」
ジータと一旦別れ、スサナに付いてアン達が待つ船尾側に向かう俺。気が付くとスサナが俺の右手をギュッと握って来る。思わず視線を向けると「えへへへ〜」と嬉しそうにしているスサナの顔が見え、その笑顔には年不相応な幼さが見えた。
本当に猫って歳がわからないな…… 。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「待っていたわウィル♡」
スサナと手を繋ぎアン達の待っていた船尾側の甲板に来た。どうでも良いがスサナとの手繋ぎは何も言わないんだな。すると俺の考えを読んだのかアンが笑顔で俺の疑問に対する答えを口にする。
「うふふっ、釈然としないって顔をしているわね。マディさんとジータにあんな事言ったんですもの、皆んなに等しくチャンスは与えないと♡」
そう爽やかな笑顔で言い切るアンさん。何だか性格変わってないか? 一方アンの台詞を聞いてフェリピナとマルヴィナの目が爛々と輝いているんだが?! 思わず顔が引き攣る…… 。
『そこはやはり正妻としての余裕かと』
顔の横で浮遊しているコーゼストがそうアンを評する。そらまぁ、もし結婚に順番を付けて良いなら間違い無くアンが一番最初だけどな!
「それに」
俺がそんな事を思っていたらアンが台詞の続きを話し始める。何だ、この既視感?
「ジータに迫られてウィルが困っていたみたいだからよ♡幾ら貴方に判断を委ねたと言っても、節度は守って貰わないと、ね♡」
……どうやら先程の俺とジータの一連のやり取りはアンさんがずっと観察していたみたいである。そこは流石涅森精霊、視力が半端ないな!?
お陰で助かったのでこんな事言うのも何だが……チョットコワイデス。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とりあえずそれ以外に用事は無いみたいなので、少しアン達と話したあと船橋に上がる事にした。特に用事は無いが今の状況を知っておきたかったのだ。
船尾側から15メルトものブリッジのある中央部へ向かう。その手前、ブリッジの構造物の後ろにやや細長い大きな膨らみが。クラーケンにとどめを刺した魔導魚雷の発射器である。
魔導魚雷とは推進に『大海の剣』や『海飛竜』と同じ魔導推進機を使い、40セルトの径の金属製の筒の先端には「超爆裂魔法」並の爆発力がある特殊な爆薬を積んでいるシロモノなのだ、とはグラマス殿とモデスト船長の談である。
何でも船内にある製造設備で製造されるのである程度補充は効くのだそうだ。改めて古代魔導文明や古代魔族の時代の技術って言うのは凄いものなんだなと実感する。
「あっ、お兄ちゃんだぁ!」
発射器の前でそんな事を思っていたら声がして、其方に顔を向けると発射器の向こう側からマーユが笑顔で駆け寄って来るのが見えた。
「おっと!」
その勢いのまま俺に抱き着いて来るマーユ。
「えへへっ、つかまえた!」
「はははっ、いつも元気だなマーユは」
「うんっ!」
マーユをしっかり受け止め声を掛けると満面の笑みで返事を返してくるマーユ。
「マーユは何をしているんだ? しかも1人で?」
「えっとね、このおーしゃんそーどの中を冒険しているの!」
そう言うとニコッと笑う。成程、確かにこれだけの巨船ならマーユぐらいの小さい子には充分迷宮だな。そう思うとつい顔が綻んでしまう。
「ところでお母さんはどうしたんだ?」
そう言えば滅多にマーユの傍を離れないマディの姿も形も見えないのが気に掛る──どうしたんだろう?
「うんとね、お母さんは船長さんに呼ばれてぶりっじ? に行っているの!」
俺の質問にもハキハキと答えるマーユ。だがそうか、マディが呼ばれたのはオーリーフ島に今日辺り到着する予定だったからだな。
マーユの頭を撫でながらそんな風に考えていたらブリッジの拡声器から「島影確認!」と声が響き渡る。目的地のオーリーフ島か?! 俺はマーユの手を握ると
「マーユの家がある島に着いたみたいだから、一緒にブリッジに行くか? もしかしたら島が見えるかも知れないぞ?」
笑顔で語り掛け、マーユも笑顔で「うんっ!」とこれまた御機嫌な笑顔で答える。そして一緒に手を繋ぎながらブリッジの中へと入っていった。
ブリッジではマディとモデスト船長が作業机の上に置かれている海図を見たり、遠眼鏡で島影を確認したりしていたが
「間違いありません。彼処が私達メロウ族が住まう島、オーリーフです」
遠眼鏡を覗いていたマディがはっきりと断言した。
途中様々な厄介事は有ったものの、俺達はマディとマーユの為に目指してきたオーリーフ島に無事着いたのである。
様々な事がありましたが、何とか無事に当初の目的地であるオーリーフ島を視界に収めました!
次回からはこのオーリーフ島が舞台になります! お楽しみに!
*寄せ波…………ジータが使用した短距離移動法。寄せては引く波の様に自身の重心を前後に変えて、あっという間に相手との距離を縮める走法。ジータオリジナル。
*縮地…………ウィルが身に付けている短距離移動法。瞬間的な重心の移動と独特な足さばきで相手との距離を瞬時に縮める。相手から見ると瞬間移動したみたいな錯覚に陥る。
*正持の型…………剣を両手で持ち、身体の中心に剣を真っ直ぐ合わせ、剣先を相手の目に向ける様に構える構え。いわゆる正眼の構え。
お読みいただきありがとうございました。




