恋の査問会と2人の愛人候補?!
本日は第百三十四話を投稿します!
女海賊ジータとの激戦に決着をつけたウィルに予想だにしない災難が降りかかります(笑)
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どうしてこうなった。
海賊『黒百合団』と戦闘を繰り広げた翌日──
「んふふふっ♡」
ロープを解かれた元『黒百合団』首領のジータが俺の左半身に寄り掛かってしなを作っている。片や右半身には──
「うふふふふっ♡」
魚人族のマディが自分の腕を絡め艶やかな笑みを浮かべている。アン達の豪炎すら凍り付く凍結地獄の視線をものともしない2人。
『睨まれているのは寧ろマスターだと思いますが』
俺の現実逃避をコーゼストが指摘する。何故現実に引き戻す?!
「あのぅ〜、マディさんにジータさんや?」
「「はいっ♡」」
俺の問い掛けに艶っぽい声で返事をする2人。何でそこで声が重なる?
「えっとな、何で2人とも俺に抱き着いているんだ?」
するとマディとジータが声を揃えて「それはもちろん」と前置きし
「私は娘のマーユのみならず、ウィルに怪我をしていた所を助けてもらいましたから♡」
とマディは頬を染め理由を口にし
「あたしはアンタにこの身も生命も心も助けてもらったから♡」
ジータも俺の首に腕を回しながら、その理由を語る。それはわかるのだ!わかるのだが、何でこんなに積極的に攻勢されにゃあならんのだ!?!
「海のオンナってのは情熱的なんだよ、それがいいオトコなら尚更さァね」
俺の心の叫びが聞こえたみたいにニコリと笑いながらそんな事を宣うジータさん。
いや、それにしても……これは情熱的過ぎるだろ!?
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「これは由々しき事態です」
アンがまず声を上げる。この緊急事態(?)にうちの嫁さん候補を中心にした査問会が急遽行われた。議長はアンさんで議題は勿論マディとジータに関してである。俺は何故か当事者としてマディとジータと共に並んで、船室の床に正座させられている──理不尽だ。
「先ず問題なのはマディさん、ジータがウィルに好意を寄せている事です。それの何が問題かと言うと、2人ともこのままでは完全に部外者からの第五、第六夫人になる可能性が高いからです。今まで協調性を保ってきた私達の関係にも悪影響を及ぼす可能性があります」
そうアンさんは力説するが、そんな事言われても俺だって困るわ! そらまぁ確かにアン達は同じ冒険者と言う仕事をしているし、しかも同じ氏族に籍を置く仲間だけどな!
「はいっ!」
ここで勢い良くエリナが手を挙げる。
「はいエリナ、どうぞ」
「えっと、それはやはりウィルが誰彼構わず優しいからだと思うんです」
アンに手を向けられ、エリナがそう発言する。
「そうだねぇ、確かにそれは言えてるわぁ。だからこんな事になるんだよねぇ……」
エリナの発言にレオナが同調する。他のメンバー達もウンウンと頷いている──何やら話が良からぬ方に向かっている──気がする。これって俺が浮気性みたいに聞こえるんだが?! いやいや、浮気も何も未だ結婚していないんだけど?!
流石のマディとジータも大人しい。マディは助けられた時より、ジータは俺の前で死を覚悟した時より顔から血の気が引いている。
因みに俺が手を挙げて発言を求めたら、アンから「被疑者は黙っていて」とにべも無く黙らされた。俺は罪人かよ?!
「ん」
俺がひとり悶絶していたらルアンジェが手を挙げる。
「はいルアンジェ」
アンが手を向けルアンジェが椅子から立つと
「ん、だけどそれがウィル。アンもエリナもレオナもそんな優しいウィルだから好きになったんじゃないの? 私は自動人形だけどウィルが私を大切にしてくれている事はわかる。だから私はウィルが好き。オートマトンの私でも好きと言う感情が何なのか理解は出来る。それはきっと一緒に居たいと言う気持ちだと思うから」
何と俺の弁護をしてくれたのだ! 何と良い娘なんだ──オートマトンだけど。それにルアンジェは俺の事が好きだとはっきり口にした。益々この娘はヒトっぽくなって来たな。
「…………確かにそうね。私がウィルを好きになったのも、私もマディさんやジータみたいに助けられたのが切っ掛けだったわ。その優しさに触れ、初めてこの人と一緒に居たいと思えた人だった……」
俺がルアンジェの言葉に感心していると、アンが思い出したみたいにポツリと呟きほんのり頬を染める。その呟きを聞いてエリナもレオナも「確かに……」と自身と俺との馴れ初めを思い出して同様に頬を染めた。
「そうですよねぇ……行き場の無い私を何の損得も無く引き取ってくれましたしぃ……」
スサナも以前の事を沁沁思い出し、フェリピナもマルヴィナも「私達も似たような感じだったわね」とこちらも沁沁している。
先程まで何か勝手に熱くなっていた皆んなの気持ちがスッ……と落ち着いたみたいである。やれやれ………… 。
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「ウィル、本当にごめんなさい!」
そして現在、目の前でアンさんが平謝りしている。エリナやレオナ、フェリピナ達も同様だ。
「少し頭に血が上ってしまって……酷い事をしてしまったわ……それに前に貴方に『5人でも6人でも娶っても文句は言わない』って言っていたのに……本当にごめんなさい!」
片や俺は土下座から解放され漸く椅子に座っている。何故かマディとジータはそのままだが……まぁ当事者なんだし少しは頭を冷やして欲しいものである。
「ウィル、アンを許してあげて欲しい。アンはウィルの事になると周りが見えなくなる」
先程俺の弁護をしてくれたルアンジェが今度はアンを弁護している。実に良く出来た娘である──オートマトンだけど。
「まぁ今回の件は俺もハッキリとした態度を取らなかったのがいけないんだし、お相子って事で良いんじゃないか?」
あまりの必死な平謝りに俺は苦く笑いながらアンを赦す事にした。何方にしても浮気者の謗りは免れたのだから些細な事だ。
『恐らくアンはマスターに一途過ぎるのではないかと』
今まで黙りを決め込んでいたコーゼストがアンをそう評する。
「それはそうなんだが……お前、何で今の今まで黙っていやがった?!」
『それは当然、マスターが慌てる様子を楽しんで──もといじっくり観察していました』
俺の突っ込みにしれっと答えるコーゼスト。お前いま楽しんでいたって言わなかったか?! 思わずジト目を左肩に向けるが素知らぬ顔のコーゼスト──まったく、コイツは!
頭の中でブツブツ文句を言いながら俺は自身の考えを口にする。
「と、兎に角だ! 俺はマディとジータを嫁さんにするつもりは無い事ははっきり言っておく! そもそもその為人を良くわかってもいないのに、2人に恋愛感情を持つなんて無理だからな」
尤もエリナと知り合った時は偉く短期間だったけどな! だがまぁあの時はエリナから「好き」だと告白されて、その気持ちに応えたいと思ったから婚約したんだが。
一方、俺の言葉を聞いてシュンとするマディとジータ。
これで解決……かな? アンも落ち着いたみたいだし…… 。
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「ではマディさんとジータの2人には今後自重して貰えれば、今回の件は不問にしたいと思います」
話し合いが再開され、アンが2人にそう告げる。その評決に「はい……」と小さな声で答える2人。やれやれ、これで少しは静かな航海を過ごせそうである。
「……でもまぁ2人の気持ちは分からなくは無いので、ウィルを好きでいる気持ちまで否定する気はありません。なので当面の2人の扱いは恋人以上婚約者未満の位置と言う事で。あとはウィルの判断に委ねます」
せっかく無事丸く収まったかと思った矢先、思いっきり場を乱すアンさん! うぉい!? それって丸投げじゃね?! 思わずワタフタする俺に
「貴方がちゃんと2人を見定めて決めてあげてね。お嫁さんに迎えるのも良し、愛人として囲うのも良し♡」
満面の笑みでそう追撃の言葉を投げ掛けるアンさん。いま何気に愛人とか言わなかったか?! 周りを見ると皆んな頷いている! 正確にはルアンジェを除いてだが。
訂正──アンさんの暴走が止まりません。
「「「それなら私達にも好機が……!」」」
フェリピナとマルヴィナ、スサナが不穏な文言を口にしている。またマディとジータも「今度こそは……!」と何やら目を輝かせている。
言っとくが結婚してもいないのに愛人もへったくれも無いんだが?!
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「御主人様〜、終わった〜?」
兎にも角にも話は一応の決着を見たところでドアがノックされ、廊下で待機していたヤトが顔を覗かせる。続けて
「お母さん、お兄ちゃんたち、おはなしはおわったの?」
とマーユもヤトの脇から顔をぴょこんと覗かせる。評議会と言う吊し上げをするに当たって、幼いマーユにこうした話を聞かせたくないと言うマディとアン達の希望で、ヤトを召喚しマーユの相手をさせていたのである。
最初の頃はヤトに対し少し怯えていたマーユだが、底抜けに明るいヤトに徐々に慣れていき、今ではヤトの蛇身に乗って燥ぐほどである。
「うん! 子供を相手にしたのは初めてだけど可愛いわね!」
とは懐き始められた頃のヤトの台詞である。
「ええ、終わったわよマーユ。ちゃんと待っていられたのね」
マーユから声を掛けられにこやかに返すマディ。そこは流石に母親である。
「マーユは偉いな」
俺はそう言うとマーユの頭に手を置き優しく撫でてやる。
「えへへへっ、お兄ちゃんにほめられた!」
やたら御満悦なマーユを羨ましそうに見ていたヤトが、不意に自分の頭を俺に向け差し出す。ヤト、お前は何を張り合っているんだ? 仕方なくもう片方の手でヤトの頭も撫でてやる。
「ヤトも良くマーユの面倒を見れたな、偉いぞ」
勿論褒め言葉も忘れていない。ヤトは金色の瞳を閉じ気持ち良さそうにしていたが
「ああ〜ん、御主人様大好き〜♡」
といきなり抱き着いて来る。でもまぁこれは何時もの事だな。それに釣られマーユも
「あたしもお兄ちゃんが大好きっ!」
とこれまたヤトに張り合う様に小さな手を広げ抱き着いて来た。これはコレで可愛らしい。
「あらあら、マーユったら♡」
そう言いながら目を細めるマディ。良かった、このまま流れで抱き着かれたらまた揉める所だった──はァ。
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『以前から疑問だったのですが……マスターはヤトに抱き着かれてもマディさんやジータの時と違い慌てる素振りがありませんね。どうしてです?』
何時までも抱き着いているヤトを引き剥がし、マーユにも退いてもらった所でコーゼストがそんな疑問を口にする。
「ん? そりゃあヤトのは単なるじゃれ合いからな」
ヤトは本当に感情が豊かで好き嫌いが凄くはっきりしている。最初の頃は抱き着かれるたび少し疎ましく思っていたが、これがヤトの感情表現であり愛情表現なのだと気付いたら、何のことも無くなった。寧ろ清々しいくらいである。
最近はアン達も慣れて、以前より厳しい視線を向けて来る事も無くなったしな。俺がそう話すとコーゼストは
『でしたらマディさんやジータがマスターに抱き着くのもヤトと同じ愛情表現では?』
「いやまぁ、それは確かにそうなんだが…………」
至極真っ当な意見を言い、急に言い淀んでしまう俺。
「何と言うかヤトは信頼しているし付き合いがそれなりに長いから安心しているのであって、付き合いが短いか殆ど無い女性に、しかも2人から同時に抱き着かれると落ち着かないんだよ。俺には明確なその差が俺自身の戸惑いとして現れているだけなのだと思うんだけどな」
『ふむ……それでしたらマディさんとジータのお2人のスキンシップにも慣れれば問題無い、と言う事ですね?』
いや、まぁ、確かにそうではあるが……と言うか何で鎮火した火を再び焚きつけるんだ?!
思わず周りに目をやるとアン達は苦笑いをしているし、マディとジータの目が爛々と輝いているんだが?!
俺は問題を蒸し返したコーゼストをジト目で睨みながら深い溜め息を吐くのだった。
早くオーリーフ島に着かないかな……はァ。
査問会と言う名の吊し上げを食らったウィル!
何と言うかアンの感情が暴走気味ではありますが…… 。まぁそれだけウィルの事を愛していると言う事の裏返しですね!
それにしてもウィルはヒエラルキーが底辺です。将来は確実にアン達4人の嫁さんの尻に敷かれるのが目に見えています(笑)




