激突!黒と黒 〜女海賊の過去と落涙〜(☆イラスト有り)
本日は第百三十三話を投稿します!
前回から引き続き女海賊ジータとの1対1の戦闘からスタートします! いわゆる海賊戦法のジータに対してウィルは勝てるのか?
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揺れる船上で対峙する俺と海賊『黒百合団』の御頭ジータ! しかし短槍使いか……しかも二槍使いとはな。おまけに女ときている。
『女だと思って油断していると足元を掬われますよ?』
妖精状態を解除しているコーゼストから注意を促される。むろん油断する気は無いがな。
一方のジータは短槍を持つ両手をダラリと下げたまま、身体がゆっくり前後左右に揺れている。その動きに注視していると、不意に突っ込んでくるジータ! 咄嗟に小型盾を目の前に構えると、金属同士が激しく打ち合う音と共に構えた腕に衝撃が走る! ジータが4メルトほどあった俺との間合いを一気に詰めて来て、2条の槍を打ち込んで来たのだ!
短槍をバックラーで受け止めながら、右手の刀剣でジータに斬り掛かる俺! だが俺の斬撃を呆気なく躱し、再び距離を取るジータ!
「へぇ、あたしの初撃を止めるとは大したもんだね」
何やら楽しげに笑いながら話し掛けて来るジータ。何がそんなに楽しいんだ?
「そいつはどうもっ──」
「ふん、そんならこんなのはどうだい?!」
俺の返事に今度は猛然と突っ込んでくるジータ! 目前で両腕を振るうがその間合いでは短槍が届かないンじゃないのか?! しかし俺の予想を裏切る様に振り出した腕から短槍が伸びて来た!? 急いでセイバーとバックラーを文字通り盾にすると甲高い音と共に再び衝撃が! 見るとジータは最初の攻撃時には中ほどを持っていた短槍を、今度は目いっぱい伸ばす様に持っていた!
そんな風にしたら手から短槍がすっぽ抜ける筈なんだが?! 注意して見ると短槍の根元にある吊り帯革に手を通してあり、簡単には抜けない様に持っていたのだ!
そして再び斬撃を放つがまたもや躱され、再度距離を取るジータ!
「これも受け止めるのかい? 本当に大したもんだねぇ」
そう言うとニカリと笑うジータを見て、コイツは戦闘狂なのだと確信する。戦闘中に見せる獰猛な笑みが『デュミナス』のオルトとそっくりなのに気付いたのだ。
「そんじゃあ、どんどん行くよぅ!」
そう言うと三度突っ込んでくるジータ! 今度は身体の位置を入れ替えながら1条ずつ、或いは2条同時にと変化を織り交ぜながらの刺突と斬撃の嵐である!
それ等を受け止め受け流し、好機を見てセイバーで斬撃を加えるのだが、それを悉く躱すジータ! まるで激しく打ち寄せ、サーッと一気に引いていく波みたいだな?!
『その表現はあながち間違ってません。ジータは一定の律動で緩急自在に攻撃と回避を繰り返しています。このリズムは船に打ち付ける波とほぼ同一です』
ジータの動きを観察していたコーゼストが俺にその結果を伝えて来る。なるほど文字通り攻防一体の ” 波 ” となっている訳か。
俺はジータが最初に言い放った「海の怖さを教えてやるよ」と言う台詞を今更ながら思い出す。コイツは確かに強い!
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こうしているうちにも緩急自在の攻撃が続き、一旦引き呼吸を整えるジータ!
「ちっ、本当に守りが固いねぇ。これでも抜けないのかい?!」
少し苛立ち気に少し声を荒らげるジータ。それはまぁ、『迅風増強』を発動させているから十分対処出来ているんだが。だが何時までもこのままでは埒が明かないのも確かか…… 。
俺は意を決して左腕からバックラーを外すとセイバーを両手で持ち、身体の中心に剣を真っ直ぐ合わせ、剣先をジータの目に向ける様に構える。久しぶりにこの構えをとるな…… 。
「なんだいなんだい、それは? そんな事したらあたしの朝凪と洪波の餌食だよ!」
ジータは苛立ち気のまま言葉をぶつけてくる。既にその顔には笑みが無い──と言うかあの短槍には名があったんだな…… 。
「やってみろ。今までと同じ様に出来ると思うならな」
セイバーを構えたまま少し煽ってみると
「そうかい……そんなに死にたいならお望みどおり殺してやるよ! あたしの『大波』を受けきれるなら受けてみな!!」
そう叫ぶと先程と同じ様に身体を揺らし始めるジータ! 何と言うか堪え性が無い奴である。
俺は構えを崩さずジータの身体の動きと耳に聞こえて来る波の音に神経を集中する──なるほど身体の揺れと波の音がしっかり同期している。そして数瞬の間を置いて一際波立つ瞬間──ジータが動いた! 同時に俺も動く!
体重を前に掛け独特の足さばきで4メルトある間合いを一気に詰める!
「な?!」
驚くジータ!まさか自分以外に間合いを縮める者が居るとは思わなかったのだろう。
そのまますれ違いざまにジータの左手に握られていた1条の短槍をセイバーで斬り上げる様に断ち切る! 所謂『断兇』である。そのまま続けて弧を描く様にセイバーを振り下ろし、振り返るジータの右手の短槍も断ち切る俺!
2つの相棒を失い茫然とするジータの鳩尾にセイバーの柄頭を叩き込む!
「か、はっ……」
苦しげに息を吐くとそのまま俺の腕に寄り掛かるみたいに、ずるりと倒れ込むジータ。
何とか倒す事ができ油断無く残心を解く俺。まさか師匠に叩き込まれた事が役に立つ日が来るとは思わなかった……はァ。
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首領が倒された事で形勢が一気に逆転し『黒百合団』の海賊達は降伏した。生き残った海賊は御頭のジータを始め58名、2隻120名の半数以上は戦闘で死亡した事になる。尤も何名かは行方不明である──恐らくは戦闘中に海に落ちたのかも知れない。兎に角襲われていた船の乗組員達と協力して生き残っている全員を縛り上げ、ジータが乗っていた海賊船にジータと副長のダリオ以外を押し込めた。
襲われていた船は東方大陸から西方大陸への貨物船で、俺達が停泊地として向かっているオーリーフ島に寄ったあと大陸へと向かっていたのだそうだ。数名が海賊との戦闘で命を落としていたが航海には支障は無いらしく、10数名いた怪我人はアンとマルヴィナが魔法で治療を施したのち、船長以下全員が礼を言われた。
彼等は少しでも早くルォシー大陸に向かいたいらしく、強奪された荷物を海賊船から取り返し、破損した船体を修復するとルォシー大陸に向かい航海を再開するのだった。
そして捕らえた海賊の処遇だが、何と俺に一任されてしまった! 何でも討伐した者が海賊のみならずその持ち船や積荷の所有権を有する事になるのだとは、襲撃を受けた船のアレン船長とうちのモデスト船長の話である。何と言うかそれが海の船乗りの掟なのだそうだ。
まぁその辺は気絶しているジータが目覚めてからでいいな!
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「う……うーん……」
暫くしてジータが身動ぎすると、薄ら目を開けた。
「お、やっとお目覚めか……」
『マスターがご自分がおやりになられたんですけどね』
コーゼストの突っ込みを無視する俺。今はそんな事をしている暇は無いんでな!
「ん、んんッ?! こ、これは?!」
一方ようやく目が覚め、自分が縛られている事に気付き驚きの声を上げるジータ。
「お、おかしら〜」
ジータの横に並ばされていた大男のダリオが情けない声を発する。
「やぁジータ」
俺はジータの前でしゃがみ込むと声を掛け、その俺をキッ! と睨みつけるジータ。少し吊り上がった切れ長の目がなかなか色っぽい。
その瞳はレオナと同じ黒瑪瑙の様な黒い瞳で右目の目頭に黒子がある。良く見ると少し日焼けした顔立ちは鼻筋が通ったなかなかの美人で、烏の様に黒い髪は長く、着崩したドレスには見事な双丘が収まっていてロープで縛られ零れ落ちそうになっている。
『何を観察しているのですか?』
コーゼストからジト目で突っ込まれる。後ろにいるアン達の視線も痛い。特にアンさん、その凍結地獄の様な視線は止めていただきたい!
「んんッ! じ、実はアンタに聞きたい事があるんだが?」
思わず咳払いをして本来の目的を口にする。
「……なんだい、聞きたい事って?」
「アンタ達ってレグラ帝国の軍人だったのか?」
「!? なんでお前がそんな事を?!」
俺の質問に驚くジータ。実はジータが羽織っていた軍服を見たグラマス殿から教えてもらっていたりする──あの軍服はレグラ帝国の物だと。
「質問に答えてくれ。どうなんだ?」
唯のならず者が海賊ならともかく、一国の元軍人が何で海賊に身を窶している訳を知りたくなったのだ。
「まぁ言いたくないなら無理には聞かないが……」
俺がそう言うとジータは首を左右に振ると
「……いいや、どうせ海賊は死罪なんだ。遺言代わりに聞いてもらおうかね……」
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ジータ──ジータ・ルモワールは、嘗てドゥンダゥ大陸北部にあるレグラ帝国の海軍軍人だった。
レグラ帝国の港町ヒンメルで漁師をしていた両親と2人の弟と共に暮らしていたが、生活が困窮し両親と弟達の為に軍人となったらしい。決して楽な仕事では無かったが給金が良かったし、何より軍船を操る船乗りとして頭角を現した事もあり、徐々に官位も上がっていき中佐にまで上り詰めたのだそうだ。
当然給金も上がり、帝都に両親と弟達を呼ぼうとしていた矢先、事件が起きた。女だてらに船長を任せられるまでになっていたジータを疎ましく思う上官達の陰謀で反逆罪の汚名を着せられ投獄されたのだ。
それだけならまだしもジータを貶めた者達は、寄りにもよってジータの家族を全員処刑したのだ!
それを当時からの副官だったダリオから聞いたジータは激怒、同じ監獄に投獄されていた者達と共に監獄所を破壊し脱走、軍港で自分が乗っていた軍船を強奪するとそのまま海に逃げ海賊となった──のだそうだ。
酷い──だけでは済まされない何とも凄惨な話である。
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そんな重い話をし終えて
「これが全てさ……言っとくけど嘘偽りは言ってないよ。まぁ信じるか信じないかはアンタ次第だけどね」
そう一言付け加えると、全てを諦めた顔で力無く笑うジータ。
「そう言う訳でドゥンダゥ大陸に帰ればどっちに転んでも死罪しかないんだ。まぁあたしを突き出せば反逆罪と海賊行為の二重で報奨金がもらえるだろうけどね。ただあたしの部下達は罪は無い、あたしに付き合ってくれただけなんだ。どうかアイツらだけでも見逃してやってくれないかい? あたしはどうなっても良いからさ……」
そこまで一気に言うと最後に頭を下げてくるジータ。何とも潔い。
『どうします、マスターウィル?』
左肩に座るコーゼストが尋ねて来る。うちのメンバー達も今の話を聞きそれぞれ想いがある様だ──ふむ。
俺はジータから離れセイバーを抜く。ジータは覚悟を決めたらしく静かに目を閉じる。俺はセイバーを上段に構えると魔力を高め
「──荒ぶる雷よ!」
力ある言葉を紡ぐ! 途端に剣身に走る電光! そして── !
「はぁぁぁぁっ!!」
ジータの背中越しに浮かんでいる無人の海賊船目掛け「雷精断斬」を放つ!! 電撃を纏った斬撃波は海賊船に到達すると船体を真っ二つに切り裂き、船体を爆散させる!!
あまりの出来事に皆んなが絶句しているがこれで良い。派手な爆発音を聞いて目を開けたジータが、バラバラに吹き飛んだ海賊船の残骸を驚いて見詰めている傍に行くと
「反逆者と呼ばれたジータ・ルモワールも海賊のジータも俺が海深くに沈めた。首領を失った海賊『黒百合団』も海に消え失せた。俺の目の前にいるのはただのならず者のジータしかいない」
そう言い切る俺。ジータは暫く海を見詰め、それから俺の顔を見詰めて
「……あんたも馬鹿だね。あたしを突き出せば大金が手に入ったのにさ」
心底呆れたみたいに笑いかけて来る。
「ああ、馬鹿野郎さ。頭に大が付くくらいな」
「本当に損な性格してるねぇ……」
「まぁな、それで何時も損してるけどな。後悔はしてない」
「だけどあたしは好きだよ、そう言う大馬鹿野郎はさ」
そう言うとまるで憑き物が落ちたみたいにニコリと笑うジータ。その頬を一筋の涙が流れ落ちるのを見た。
『そうしたのも含めて我がマスターなんですよね』
コーゼストが何やら自慢げに胸を張って宣う。
何でそこでお前がドヤ顔をする?
苦戦はしましたが、見事にジータを打ち破ったウィル! まぁコーゼストのサポートがあっての事もあるんですが、この男、地味に素が強いです!伊達に子供の頃に勇者を目指していた訳ではありません。
それにしてもジータには凄惨な過去がありました。ウィルでなくても同情を禁じえません。
ジータ・ルモアール…………黒瑪瑙の様な黒い瞳で右目の目頭に黒子がある、少し日焼けした顔立ちは鼻筋が通ったなかなかの美人の女海賊。烏の濡れ羽色の長い髪と見事な双丘を持つ。
大波…………女海賊ジータが使う槍術。海の波の律動と同期した攻撃を相手に向かい仕掛ける。それは名前の如く大波みたいである。
レグラ帝国…………ウィル達の目指す東方大陸リーリエ国より北部にある軍事国家。
☆manakayuinoさんに描いていただいた海賊団「黒百合団」の頭領ジータのイラストを掲載しました! manakayuinoさん、素敵なイラストをありがとうございました!
お読みいただきありがとうございました。




