炎精の剣と雷精の剣、それと鞭
本日は第百三十一話を投稿します!
最初に些細な(?)トラブルがあったものの、その後は比較的順調な航海のウィル達! そしてこの男、やらかします。
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蒼き海原を突き進む白き剣。言わずと知れた『大海の剣』である。魚人族のマディの教えてくれた ” 水路 ” に入り順調に航行している。マディの言う通り水路の中は比較的穏やかで、俺を含め海に慣れていないメンバーには大助かりである。その俺達は何をしているかと言うと── 。
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刀剣を上段に構え意識を、魔力をセイバーに集める。そして──
「ハッ!!」
切迫の気合と共に振り下ろされたセイバーから発した斬撃波は目の前に広がる海面を断ち割り彼方へと飛んで行く!
「凄い剣技ですね!」
俺が放った空裂斬を見ていたマディはそう感想を漏らす。ここは『大海の剣』の甲板、俺は海面に向かい武技の練習をしていた。
前回マディを救出する際、海蠍と戦った時に苦戦した経験から、海の魔物を相手に有効な手立てを模索しているのである。
「うーん……」
アギトを放った俺は少し顔を曇らせる。アギトは一度、シースコーピオンの硬い甲殻に弾かれているのである。あの時は二度目にうんと魔力を込めたアギトを放ち、倒しているのだが……その都度魔力を溜めていたらどうしても攻撃に隙が出来てしまう。
「なぁコーゼスト」
傍で浮いているコーゼストに尋ねる俺。
『何ですか?』
「俺が使える魔術刃って飛ばせないのか?」
『それはつまりアギトみたいに、と言う事でしょうか? それなら恐らく可能かと』
「本当か?!」
それを聞いて物は試し、セイバーを上段に構え直し──
「──猛る炎よ!」
──力ある言葉を紡ぐ俺! その言葉に反応する様に剣身に炎が生まれる! それを思いっきり振り下ろす! だが何も起きなかった……あれ?
「コーゼスト! 何にも起きないぞ?!」
思わずコーゼストに抗議する俺。だがそれに対するコーゼストの答えは極めて単純であった。
「今のはマスターの心象が不足していたからです。明確に前方に放出するイメージを頭に描いてくださらないと」
まさかの駄目出しを受ける俺。気を取り直してもう一度セイバーを構えると力ある言葉を紡ぎ精神を集中する。心象、イメージねぇ…… 。
俺は頭の中で炎を剣から押し出すイメージを強く思い浮かべ──
「ハァッ!!」
一気に振り下ろす! 振り下ろされたセイバーから炎を纏った斬撃波が生み出され、海面を抉る様に断ち割り彼方へと飛び去って行く!
「……できた、出来たぞ!」
思わず喜びの声を上げる俺。
『おめでとうございますマスター。まさかこんな短時間でものにするとは思いませんでした』
コーゼストが珍しく俺に賞賛の言葉を送ってくれる。傍で見ていたマディとマーユは「すごいすごい!」と我が事の様に喜んでくれている。気を良くした俺は、もう一度セイバーを構える。
今の感覚を忘れない様にしないとな!
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「うーん、何とも凄いものだね」
何度が炎のアギトを放っていたら、いつの間にかグラマス殿が後ろからそんな風に声を掛けて来た。その声に振り返るといつの間にか来たアン達もグラマスの台詞にウンウンと頷いている。
「でも的になる物が無いからイマイチなんだけどな」
グラマスの台詞に苦く笑う俺。するとグラマスは
「そんな事かい? それなら標的浮標を用意してあげるよ」
笑顔でそう言うと近くにいた船員に声を掛ける。程なくして『大海の剣』の舷が開くと、2メルトほどの大きさの浮標がロープに繋がれ幾つも出てきたのだ。なんでも本来はこの船の戦闘訓練用なのだそうだが、何にせよ有り難く使わせてもらおう。
俺は再びセイバーを構えると炎を生み出し、標的の浮標に向かい炎の斬撃波を放つ! 斬撃波は束の間の距離を飛び、標的浮標に当たる! 浮標は真っ二つになり、切り口に炎が燻る!
「これは……凄まじいね! あの的の部分はダマスカス鋼で出来ているんだけどねぇ……」
結果を見ていたグラマスが驚きの声を上げるが、俺もあまりの威力向上に吃驚している。
「「「「「「「…………」」」」」」」
そしていつの間にか集まっていたアン達やマディも絶句していた。
『これはなかなかの威力ですね』
片やコーゼストは何故か自慢気である。そらまぁ確かにお前からアドバイスは聞いたけど、何でそんなにドヤ顔をする?
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「私も頑張らないと! ウィルに負けてられないわ!」
エリナが俺に触発されたらしく剣を鞘から抜くと、甲板の上で海面に向かい斬り下しの動作をし始めた。どうやら俺のアギトと同じ様な斬撃波を取得したいらしい。まぁ俺はファウストのお陰で使えるんだが。
『エリナは元々魔法騎士ですし、火属性の属性装備も持ってますからマスターと同じ様な火炎の斬撃波をイメージしてみては如何です?』
懸命に剣を振るうエリナにコーゼストがそんなアドバイスをする。
「なるほど……ありがとうコーゼスト!」
それを受け俄然やる気満々になるエリナ。俺と同じ様に上段にロングソードを構えると、目を閉じ意識を集中し始めたエリナの魔力がロングソードに集まるのが視える。
やがてロングソードの剣身の根元から揺らめく炎が立ち上がる──おいおい、そんなまさか?! そして目を見開くと
「ハッ!!」
気合一閃、ロングソードを振り下ろすエリナ!
放たれた炎は弧を描く様に伸びていき、標的浮標に命中した! 大きく揺さぶられる標的浮標!
「出来た……」
あまりの出来事に斬撃を放った本人が惚けていたが
「やった! やったわ!!」
その場で小躍りして喜びを全身で表すエリナ。何と言う事でしょう。エリナさんがあっさり炎の斬撃波を飛ばしました。
『いえ、エリナが放ったのはマスターのアギトとは違い、純粋な火属性の魔法現象ですね。いわば ” 炎の鞭 ” と言う所でしょうか?』
一方、一連の様子を見ていたコーゼストはエリナが発したのは斬撃波では無いと断言した。それを聞いて一転がっくり肩を落とすエリナ。お前もそんなストレートな言い方をしなくても…… 。
「で、でも、遠距離攻撃の手段には変わらないわよね?!」
だが直ぐに気持ちを切り替えて明るく振る舞うエリナ。そうした積極的な所が彼女の良い所なのだと、ちょっと惚れ直したのは秘密である。
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「さて、と」
エリナが無事に魔法刃(?)を使える様になってレオナ達とワイワイしているのを横目に、別の事を試そうとする俺。
「ウィルは何をしようとしているのかしら?」
背後から声を掛けられ振り返るとアンが微笑みを浮かべた顔で立っていた。
「ん、いや、もう1つ考えていた事をやってみようかと思ってな」
「なぁに、考えていた事って?」
『私も気になります。何をする気ですか?』
コーゼストは兎も角、アンに下から覗き込まれる様に顔を見詰められると何だか恥ずいんだが?! 俺はひとつ咳払いをすると
「んんッ! 実は雷撃を使ってみたいんだ」
俺が持っているエレメント・イクイップは火属性と風属性の2つ。そのうち火属性の魔術を使えるのだから、風属性の魔術も出来るんじゃないのか? と考えたからである。
『成程、その可能性は私も考慮していませんでしたね』
コーゼストが珍しく偉く感心している。アンも「確かに、理にかなっているわね」と納得している。兎にも角にも可能性があるなら、あとは実践あるのみである。
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『それでは、こう唱えてみて下さい──荒ぶる雷よ』
「おう! 荒ぶる雷よ!」
コーゼストに力ある言葉を聞き、張り切って力ある言葉を叫ぶが、セイバーや身体には何の変化も見られない。何故だ!? そう心で叫ぶ俺にコーゼストから指摘が入る。
『ふむ……恐らく発動しなかったのは、またもやマスターのイメージ不足だと思われます』
「そんな事言われても今まで電気なんか起こした事なんか無いんだから、どうイメージしろと言うんだよ!」
思わず食って掛かる俺にコーゼストがひとつの案を提示してくる。
『それなら私が一度体内魔力を電気に変換してみましょうか? それで感覚を掴んでみて下さい』
コーゼストの台詞が終わるや否や、急に身体全身がピリピリ痺れる感覚が?! いきなりだな、オイ! だがお陰で体内に電気を宿す感覚は何となくわかった。その感覚を忘れないうちにと、セイバーを再度上段に構え先程の感覚を頭に思い浮かべながら再び力ある言葉を紡ぐ。
目を閉じ意識を集中すると身体の中に再びあのピリピリ痺れる感覚が生まれ、それが徐々に強まって行く。目を開けセイバーを見ると剣身に沿って小さな雷が激しく火花を起こしている!
「ハァァーッ!!」
気合一閃! 上段からスパークを纏ったセイバーを下へと振り切る俺! 勿論前に押し出すイメージで! そうして放たれた斬撃波は激しい雷撃を纏い海面を断ち割り、標的浮標に激突する! 斬撃波が当たった浮標は真っ二つに断ち切られると、激しい雷撃の為粉々に吹き飛ぶ!
「………………」
「………………」
「………………」
『……これ、危険過ぎませんか?』
事の成り行きを黙って見守っていたグラマスや傍で見ていたアン、そして俺が絶句し、流石のコーゼストもあまりの威力に言葉を失っている。
俺だって魂消たわ!!
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『兎に角この ” アギト擬き ” は危険な代物なのは間違いありません。これは使い所を考えて使わないと』
コーゼストが珍しく難しい表情を見せる──と言うか最近表情が豊かになった気がするんだが?
「その擬きってのはやめれ。贋物みたいじゃないか……」
『では新しい武技に名前をお付けになっては如何です?』
俺が上げた抗議の声にそう返してくるコーゼスト。
「そうだね。何事にも名は大切だからね」
「そうね! 折角だから素敵な名前を付けないと♡」
コーゼストの台詞に同調するグラマスとアン。そしてアンの言葉にウンウン頷くマディとマーユ。何だよ、素敵な名前って…… 。
しかし、まぁ、確かに名前は大切だよな。うーん……何が良いか………… 。思わず頭を捻る俺。
炎と雷だろ? ……そうなるとファイアとサンダー、か…………しかしそれだと在り来りだし……うーん…………炎と雷……精霊だと《サラマンダー》と《ヴォルト》だから…………うん、それで行くか。
『何か良い名が思い付きましたか?』
名前を思い付き顔を上げると期待を込めた眼差しで聞いてくるコーゼスト。
「──えっとな、最初に使った炎のアギトは「炎精斬波」で、雷撃のアギトは「雷精断斬」ってのはどうだ?」
俺が告げた名前を聞いて目を瞬かせるグラマスとアンと、いつの間にか集まっていたエリナ達とマディとマーユ。
『サラマンドラ・スラッシュとヴォルト・セヴァーですか。流石はマスター、良い名です』
いち早くコーゼストが俺の命名を絶賛し
「うーん、流石ウィル君は本当にセンスが良いねぇ!」
とグラマスも褒めてくれ、アン以下のメンバー達も「流石はウィル(さん)!」と口々に賞賛してくれた。何だか身体がムズムズするからやめて欲しいんだが?!
「ねえ、それなら私の新しいアーツにも何か素敵な名前を付けて!」
エリナがまさかのお強請りである。だがそれは既に思い付いていたりする。
「エリナのは鞭の様に相手を打つから「紅炎鞭」ってのはどうだ?」
俺がその名を告げるとパァッと顔に喜色を浮かべ
「紅炎鞭! うん、素敵ね! ありがとうウィル♡」
思いっきり抱き着いてくるエリナ。その意外とある胸を胴鎧越しに感じ、思わずドギマギしてしまう俺。
こうして俺、そしてエリナは新たな力を手に入れたのである。
俺は兎も角、エリナは意外と天才肌なんだな!
暇にかこつけて新しい武技を会得したウィルとエリナ! エリナは天才肌だとしても、ウィルも意外と出来る子?(笑)
それにしても迂闊に人に向けて使えない武技が生まれましたね!
*炎精斬波…………刀剣に纏わせた炎を放つ炎の空裂斬。素のアギトより威力が向上している。追加効果として斬られた対象を燃やし尽くす。
*雷精断斬…………セイバーに纏わせた雷撃を放つ雷のアギト。素のアギトよりも絶大な破壊力がある。追加効果として斬られた対象を粉砕する。
*紅炎鞭…………剣に纏わせた炎を鞭の様にしならせて相手を打つ武技。使いようによっては斬撃も出来る。追加効果として相手に熱傷を負わせる。




