剣の出港、愛の駆け引きと海戦
本日は第百三十話を投稿します!
今回はいよいよ「大海の剣」が出港します! そして起こる一悶着(笑)
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「出港!」
船長の掛け声が船橋から船全体に響き渡り、巨船『大海の剣』の船首側と船尾側の海面が泡立つと、船体が横付けしていた埠頭から離れ始める。
「凄い眺めだな……」
その様子を出港で慌ただしい甲板上から見ていてそんな声を上げる俺。
「船が横滑りしているわね……」
俺の横に並んで見ているエリナが感心したみたいに呟く。他のメンバーも同様だ。
『この『大海の剣』には主推進機である魔導推進機以外に船首と船尾には側方推進機が付いていて、こうした離岸や接岸に使用するみたいですよ』
コーゼストがさも偉そうに知識をひけらかすが、お前それはさっき船長が言っていた話の受け売りだよな?
そんなこんなしているうちに埠頭から充分に離れた『大海の剣』は、そのサイドスラスターを前後で互い違いに動かしゆっくりと船首を廻し始めた。そして今までと反対方向に船首が向き直ると今度は船尾が大きく泡立ち、『大海の剣』はゆっくりと港を出て行く。
この先は蒼い海が拡がる大海原、いよいよ航海の始まりである!
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港を出て穏やかな海を進む『大海の剣』。
「随分静かだな……」
時折大きな波が来て船体が少し揺れるが、それ以外は波を蹴立てて進む音と海鳥の鳴き声しか聞こえないのだ。もっとこう激しい海を想像していた俺としては拍子抜けである。
「荒れる海はこの先の外海ですからね。この船の速度だと1日後には達するんじゃないんでしょうか?」
いつの間にか傍にマディさんが来てそう説明してくれる。流石は海の民魚人族である。
「流石ですね、マディさん」
俺がそう褒めるとマディさんは少し拗ねた顔をして
「そんな他人行儀は止めてくださいなウィルさん。もう少しくだけた言い方をしてください。それと是非私の事は呼び捨てで構いませんわ」
とまたもや熱い眼差しを向けてくるマディさん。ちょ、ちょっと顔が近い!?!
「あーっと、マディさん?」
「マディと♡」
「……マディ、これで良いのか?」
「はい♡」
「お母さんとお兄ちゃんは何をしているの?」
何とも言えない雰囲気になりつつある場にマーユが元気な声を掛けて来て、サッと俺から離れるマディさん──マディ。
「な、何でもないのよ、マーユ。さぁ向こうに行きましょう」
そう言うとマーユの手を取りブリッジの方へ歩いて行きながら、こちらに艶やかな笑みを向けながら去っていくマディ。その笑みに思わずドキリとする俺。
「何なんだ、一体……」
後ろ姿を見送りながらそう呟く。これはアレか? 攻勢を受けているのか? 流石に婚約者が4人にもなると多少は恋愛の機微にも気付くものである。
「これは要注意ね」
不意に声が聞こえ振り返ると後ろにアンが来ていて心臓が飛び出しそうになる俺。君はいつから暗殺者に転職した?!
「まぁ決めるのはウィルだけども。私としては5人でも6人でもウィルが女性を娶っても、全員を幸せにしてくれるなら文句を言うつもりは無いんだけど……貴方って押しに弱いから……」
「ゔっ!」
アンがジト目でとんでもない事を宣うが、思い当たる節が多く反論できない!
『流石はアン、マスターの事を良くわかっていらっしゃる』
肩の上に座るコーゼストがくすりと笑いそんな事を口走る。
お前は少し黙っていような!
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それから一晩明け──海はマディが言った通り荒れていた。時折大波が押し寄せ、『大海の剣』の船体にぶつかり砕け散り流石の巨船も揺れが酷い。それでも船は波をものともせず荒れた大海原を進んで行くのだが。
その頃俺達はどうしているかと言うと──
「おろろろろ〜〜〜」
──盛大に船酔いしていた。より正確にはルアンジェとマーユ、マディ以外のメンバーが、である。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
マーユが俺の傍に居て心配してくれているのに大丈夫だと言いたい所だが、気持ち悪いのが収まる気配が無い。マディは安全に通れる水路があるからと案内の為ブリッジに行っている。
『船酔いは慣れるしかありませんね』
ふよふよ浮いているコーゼストは他人事みたいに宣っている。
「そん……な事言って……ないで、うぷっ……何とかならな……いのか」
息も絶え絶えの俺の台詞に、コーゼストはふむと考えると
『確か回復魔法『癒し』なら症状を軽減出来るかと思いますが……試してみましょう──Light up him『Cure』』
そう言うと俺に向かい手を翳し魔法を唱える。身体が淡い光に包まれると、吐き気が急速に収まるのを感じた。
「……治った」
『やはり外科的治療の『ヒール』より内科的治療の『キュア』は効果はありますね。恐らく定期的に掛け続ければ効果がより高いかと思われます』
気持ち悪さから解放され唖然とする俺と、何やら納得しているコーゼスト。
「コーゼストちゃん、すごーい! お兄ちゃんが治った!!」
その様子を見ていたマーユは目を輝かせコーゼストを賞賛する。因みにマーユは何故かコーゼストを「ちゃん」と呼ぶ。まぁ見た目は可愛らしい妖精だがらな…… 。
「よしコーゼスト。皆んなにもキュアを掛けて回るぞ!」
『そうですね。アンやマルヴィナを回復させて全員に定期的に魔法を掛けてもらいましょう』
「ん、その方が効率的」
俺が提案するとコーゼストといつの間にか傍に来ていたルアンジェが同意して、俺達は宛てがわれた船室を出てアン達の船室に向かうのだった。
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「はははっ、そう言う時はお喋りしていると気が紛れて船酔いしないんだよ」
コーゼストが船酔いしたメンバー達にキュアを掛けたお陰で全員復活し、今の状況を知りにブリッジに来てみたらグラマス殿から酔い止めのコツを聞かされた。
「まぁあとは只管寝る事だね」
笑ってそう言うグラマス。何故グラマスは酔わないのか尋ねたら「慣れだよ」とあっさり答えられた。すると船員さん達も慣れなのか?!
「遠くの水平線を見るのも酔いにくいですよ」
ブリッジで水先案内をしているマディがそう教えてくれた。そう言うもんなのか?
「それにもうじき船の揺れも少し収まりますからね」
マディの言う事には、じき『大海の剣』はメロウ族が使っている水路に入るらしい。そこは荒れる海の中にあって比較的穏やかな海流がオーリーフ島まで流れている文字通りの海の回廊なのだそうだ。
「この速度で航行すると凡そ1時間ぐらいで水路かと」
ブリッジの中央に置かれている作業机で何やら船員と打ち合わせていた船長がそうした現状を報告して来る。そうなら1時間後ぐらいには少しは楽になりそうだな。
見るとアン達もホッとしているみたいである──然もありなん。
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そんな事をしていたら船体が大きく揺れる! 同時にブリッジで何かの機械を操作していた船員が
「音響探知に反応有り! 進行方向から接近する何かがいます! 大型です!」
と緊張感のある声を上げる!
「何だ、ソナーって?!」
『音響探知とは水中で特殊な音を船の周りに放ち、水中に潜む物体に当たって跳ね返って来る音で障害物を探知する魔導機械の事を言います』
俺の疑問にコーゼストがざっくりと答える。何でも古代魔導文明や古代魔族では殆どの船に積んでいたらしい。
船長がブリッジの窓から遠眼鏡で前方を眺め、その何かを確認しようとする。俺達もブリッジ前方の窓に貼りつくと不意に海面が盛り上がり、その巨大な何かが姿を現す!
「! クラーケンだ! 真っ直ぐこちらに向かっているぞ!」
「?! あれがクラーケン?!」
前方から迫って来たのは海の魔物としては通俗な、そして厄介な魔物クラーケンだった! 紡錘形の巨大な身体を波間に浮かせ一直線に『大海の剣』に向かって来るクラーケン!
「くそっ! 皆んな行くぞ!」
俺達はブリッジを降りてクラーケンを迎え撃とうとすると
「大丈夫だよウィル君。クラーケンぐらいなら問題無いから」
グラマスは落ち着いた声で話し掛けて来た。それと同じく船長が大きな声を張り上げる!
「総員戦闘用意! 配置に付け!」
その言葉と共に船員達が慌ただしく動き回り、それぞれの配置に付く。同時に船首付近にあった膨らみがガコンと言う音ととも開き2連装の大砲が姿を現す!
程なくしてクラーケンは船の前方20メルトぐらいまで近付くと、泳ぐのを止めその巨体を海面に起こした! でかい、大体30メルトはあるか?!
「キュルルルルル!」
ひと声吠えると馬鹿でかい吸盤の付いた10本の腕を振り上げ、『大海の剣』に襲い掛かってくるクラーケン!
「主砲撃てーっ!!」
船長の号令が掛かり、船首の大砲が火を噴く!
撃ち出された砲弾はクラーケンが振りかざしていた一際大きい腕の2本に立て続けに命中、吹き飛ばした!
同時に舷から雷撃がクラーケンに向かって放たれる! ブリッジの窓から見ると魔法士が使う短杖が2本突き出した様な小さな砲が幾つも舷から出ていて、雷撃を放っていたのだ。
そうしているうちに大砲が更に1本の腕を吹き飛ばし、堪らず海中へと姿を沈めるクラーケン! 数瞬の間を置いて再び船が大きく揺れる! ブリッジの窓から甲板を見るとクラーケンの腕ががっちりと絡み付いている!
どうやら『大海の剣』を海中から締め付けて破壊しようとしているみたいである。だが船長はそんな事態でも慌てる事無く
「「雷霆之城壁」起動!」
と船員に指示を出す。すると激しい雷撃が船全体を包み込み、締め付けているクラーケンを感電させる! クラーケンは締め付けていた腕を振り解くと船の左側にその巨体を浮かび上がらせる!
「左舷、電撃砲、魔導魚雷発射!」
船長がすかさず指示を飛ばし、再び小さな砲から雷撃が放たれるのと同時に、ブリッジの後ろから細長い筒の様な物が2本撃ち出され、海中に飛び込むと数瞬の間を置いてクラーケンの身体に大爆発が巻き起こった! 激しい雷撃と大爆発に流石のクラーケンもその身を粉砕されたのである。
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「何なんだ、この船は……」
事の成り行きをブリッジで見ていた俺は思わずそんな呟きを漏らす。他のメンバー達も同じである。
「船首と船尾に2連装魔導砲2門、両舷に2連装電撃砲が6門ずつ計12門、船中央に2連装魔導魚雷発射器を装備。防御兵装としては雷霆之城壁。これが古代魔導文明の遺産、高速戦闘船『大海の剣』さ」
唖然とする俺達にグラマスはそう自慢気に宣うが、あんたは一体何処の誰と戦争をする気なんだ?! 思わず頭の中でグラマスに突っ込む俺。
しかし古代魔導文明にしろ古代魔族にしろ、大昔に栄えていた文明と言うのは全くとんでもないモノなんだな…… 。
「これ程の戦闘船は私達メロウ族にもありません」
同じく事の成り行きを見守っていたマディは呆れるやら感心するやら。と言うかメロウ族にもこんな戦闘船があるんだな、と変な感心をする俺。
こうして予期せぬ出来事はあったが、『大海の剣』はマディに案内され海の回廊へと進んで行くのであった。これで少しは酔わなきゃいいんだが………… 。
因みに「雷霆城壁」で感電して浮いた魚はその日の昼食に供されたのだった。
いよいよ始まった船旅!まぁ船酔いに魔物との遭遇戦があったりと幸先が悪そうな(?)始まりではありますが、この先数回に渡り船旅の様子をお届けする事になりますので宜しくお願いいたします。
それにしても「大海の剣」はチート艦…… 。
魔導砲…………「大海の剣」の船首と船尾に配置されている直結40セルト口径の2連装の大砲。爆裂魔法の力で砲弾を撃ち出す。
電撃砲…………魔法士が使う短杖みたいな砲身を持つ2連装の魔導兵器。高出力の雷撃を相手に浴びせる。
魔導魚雷…………弾頭に超爆裂魔法級の爆発力がある火薬が使われ、推進機は魔導推進機を使っている強力な兵器。
雷霆之城壁…………「大海の剣」船体表面から発せられる防御用の雷撃波。
クラーケン…………海の魔物。姿は巨大なタコやイカが混ざった頭足類に似る姿である。そして所詮モブ。
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」をなろうとノベプラにて連載中!
近未来の地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の冒険活劇です!
なろう→http://book1.adouzi.eu.org/n0259fr/
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