披露晩餐会 Ⅲ 〜幕切れは静かなる狂騒〜
本日は第百二十二話を投稿します! 前回に引き続きエリンクス王とヤトとの話はまだ続いています。
▽今日は第百二十一話も投稿しています△
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エリンクス国王陛下とヤトの話しはまだ続いている。思えば魔物と呼ばれる者と言葉を交わすなど陛下自身も思いもよらなかった事だろう。
「魔物の『思い』は理解した。その行動原理もな。しかし現状としては人間と魔物の生活圏が重複する限り、魔物との争いは絶えないと言う事になるな」
「私がこんな事言うのはなんだけど魔物として言わせてもらえば、私達魔物は常に飢えているの。だから食糧を求めて日々縄張りが拡がっていくのよ。それに魔物が食糧を得る手段は狩猟か略奪しかないの。あなた達みたいに物を作るとか植物や動物を育てると言う事はしないし考えた事もないしね」
「ん? それって逆に言えば食糧さえあればヒトや家畜を襲ったりテリトリーを拡げたりしないって事だよな?」
陛下とヤトのやり取りを聞いていて俺は思わず横合いから口を出す。これって結構重要な事じゃないか?
「うーん、そうね……少なくとも今よりは確実に減るわね。無くなる事は無いと思うけど」
俺の言葉にヤトが唇に指を当てながら考え考え答える。
「成程……魔物被害の拡大防止策としては一考の価値有り、か」
国王陛下は顎に手を当て、暫し考える仕草をすると
「うむ! それは良い事を聞いた! ウィル、ヤト、感謝するぞ!」
考えが纏まったらしく、満足げに何度も頷きながら感謝の台詞を紡ぐ。そんなに感謝されてもこちらとしては思い付いた事を言っただけなんだが?
一方の国王陛下は「王都に戻ったらさっそく宮城魔導研究機関に研究させねば」と意気込んでいる。
「ま、まあお役に立てたみたいで何よりです」
「何だか良くわからないけど、王様よかったわね!」
何とも言えない感じで返事を返す俺と、ニカッと歯を剥き出しに笑って答えるヤト。
ある意味本当におおらかなヤトである。
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「それにしてもヤトは本当におおらかであるな。正直私は羨ましい」
国王陛下が葡萄酒の注がれた硝子杯を傾けながら、ヤトをそう評価する。
「私も初めて真近にヒトの王様と話したけど物分りが良くて気に入ったわ!」
片やヤトもいつの間にか手に銀杯を持ち、ワインを煽りつつ国王陛下に馴れ馴れしくしている。どうやら2人とも酔いが回っているみたいである。
「済まないな、ウィル」
「いや、こっちこそ何かすまん」
俺の脇にジュリアスが来て軽く頭を下げ、釣られて俺も頭を下げた。
「父上は御自身の望みが叶い少々燥いでいる様なのだ」
そう言って苦笑するジュリアス。どうやら国王陛下は普段からの不満が鬱積しているらしい。
「まぁ国王なんて職責に就かれていると、その重圧は計り知れないものなんだろうね」
後ろからセルギウス殿がそんな事を言いながら近付いて来た。そういやしばらくグラマスが空気だった気が…… 。
「今更なんだが……これで良かったのか、グラマス?」
本当に今更だがどうしても確認しておきたくてグラマスに尋ねる。するとグラマスは笑いながら
「別に構わないんじゃないかな? そもそも今日ウィル君の所に来ている事自体、私的なんだからね。そうですよね、殿下?」
笑顔で1つの答えを言葉にする。確認されたジュリアスも
「うむ、ライナルト卿が言う通り今回はプライベートで父上も私もウィルの屋敷に訪れている。それはウィルを信頼しての事、余程の事が無い限り咎める事は無いから安心して欲しい」
と言ってはくれるが、いま目の前の現状って余程の事って言わないか?
俺はすっかり意気投合している国王陛下とヤトの様子を見ながら、そんな事を思ったりした。
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その後は特に問題も無く、時間も夜半をだいぶ過ぎあと2時間で子夜になろうと言う頃、パーティーも散会する運びになった。馬車で帰路につく客は大体近隣の街に住む貴族達で、国王陛下以下王都から招いた客は屋敷の客房に一泊させる運びになっていた。
俺は陛下とジュリアスを二階のメイン・ゲストルームに案内する。
「此方です、陛下」
「うむ。ほほう、なかなか良い部屋ではないか、ウィル」
「良いではないですか、父上」
メイン・ゲストルームはこの屋敷で一番広い部屋で幅3.6メルト奥行4.5メルトあり、部屋の中には大きなベッドと卓と椅子が4脚置かれている。
「ジュリアスは此方で」
陛下に案内し終えると次はジュリアスである。案内したのは陛下の部屋に隣接する幅2.7メルト奥行3.6メルトの部屋であった。こちらは大きなベッドと茶卓と椅子が2脚置かれ、陛下の部屋とはドアで繋がっている。
「有難うウィル。心遣い感謝する」
「いや、ジュリアスもそんなに気にしなくてもいいからな」
笑顔で礼を述べてくるジュリアスに俺も笑顔で返す。因みにグラマスとアドルフィーネはジュリアスの先隣と又隣の部屋に泊まる事になり、オルトとベルナデットは第三層区画の宿屋に部屋を取ってあるので其方に戻っていった。
陛下とジュリアスのお付きの従者が部屋に必要な荷物を手早く入れ終わると陛下から声を掛けられ、俺はアンを伴い部屋を訪ねる事にした。
まだ話し足りないのか?
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「今宵は貴重な体験が出来た」
国王陛下が開口一番そう笑顔で話す。寝るまでの時間、話し相手をして欲しいと陛下から懇請され、ジュリアスにも頼まれたので雑談程度ならと了承したのだ。因みにヤトはほろ酔い加減で自室で既に寝息をたてている。
「それはようございました」
陛下の言葉にアンが微笑みを浮かべ答える。
「何せ、何もかもが初めてで色々と心配していたんですが……喜んでいただけて何よりです」
俺もアンに続けて陛下の言葉に答えた。正直言って大変なんてモノじゃなかった。初めて会う貴族とのやり取りとか、使い慣れない言葉とか……迷宮に潜っていた方が遥かにマシである。
その旨を陛下とジュリアスに隠す事無く話すと2人とも笑い出し
「ウィルよ、そう言うな。少なくともお前は伯爵位を持つ者。今後はこうした付き合いが増えるのだからな。次回は今回より必ず良くなるし、楽に感じれる事だろう」
「まあだが、ウィルの言いたい事は良くわかる。私も晩餐会にお披露目させられたばかりの時はそう思ったりもしたが、こうした事は結局慣れるのが一番の近道だからな」
それぞれの立場からの教示を授けてくれた。アンは俺の傍らで笑顔を引き攣らせていたが。
「それにしても少し残念だな。今宵はウィルとコーゼスト卿の話を心ゆくまで聞かせて貰おうと思っていたのだが……ちゃんと寝ないとジュリアスに怒られてしまいかねん」
国王陛下はそう言うと苦く笑う。片や話題になったジュリアスは
「本当の事ではございませんか。父上はすぐに直情径行されますから」
「勇往邁進と言いなさい、ジュリアス」
そう窘めるが、陛下は悠然としている。そして俺に向かい「とりあえずは掻い摘んで話を聞かせて貰おうか」と目を輝かせながら言ってくる。思わずジュリアスの方を見やると「済まないが少し付き合ってもらえるだろうか?」と軽く頭を下げられ、仕方なく冒険の一端を話し始める俺とアン。
何となくだが陛下が子供っぽく感じるのは俺だけだろうか?
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「──こうして我々は無事シグヌム市に着いたのです」
そこまで話すと俺は間を置く。ファウスト、デュークとの遭遇戦に、アンとの出会いの顛末になった戦いも含め、ラファエル達と共にツェツィーリアの迷宮『混沌の庭園』に向かう道中の話を今していたのである。
「ほほう、それでシグヌム市に着いてからどうなったのだ?」
国王陛下が意気込んで話の先を訊ねて来るが、そこは以前ルアンジェの件で話した『混沌の庭園』で出会った蟻亜人の話になるのである。話が重複するが良いのだろうか?
「父上、子夜も過ぎました。そろそろ御開きに致しませんか?」
そこでジュリアスに待ったをかけられた国王陛下。ジュリアス、ナイスである。
「うむむむ、もうそんな時間か……致し方がない」
如何にも残念そうな陛下。かなりノってきていたみたいであるが、そろそろ俺も眠いしアンも目を瞬かせているので正直助かる。
「全く父上は…… 。ウィル、アン、済まなかったな」
「うむ、2人とも大儀であった」
「楽しんでもらえて何よりでした」
陛下とジュリアスの労いの言葉に返事を返す俺。そして2人に就寝の挨拶をすると俺とアンは部屋を辞した。
やれやれ、漸く解放された………… 。
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そして翌朝── 。
陛下を初めとした宿泊客に朝食を振る舞う。食事中は俺の隣をアドルが占拠し、陛下達からは生暖かい、アン達からは冷たい視線をそれぞれ浴びせられる事になったが、昨夜はアドルに突撃されなかっただけ幸運だったと自身を無理矢理納得させた。
その後それぞれの馬車に乗り、宿泊客はそれぞれの領地や王都に帰って行ったのである。俺達が玄関口まで見送りに立っていたのは言うまでもない。
そしてアドルが帰る時が来て──
「兄様、昨夜はとても楽しかったですわ! 次に王都にお越しの際には是非とも私に歓待させてくださいまし!」
そう言いながら抱き着いて来るアドル。もういい加減に慣れた。伯爵家の美々しい馬車に乗り込むと窓を開け、手を振って去っていくアドルを見送り、やっと嵐が過ぎた気がしたのである。
そして次にグラマスが帰る時が来て──
「なかなか楽しかったよウィル君、アン君達もありがとう。また遊びに来させてもらおうかな」
相変わらずの笑顔で握手を求めてくるグラマスに俺も手を差し出し握手を交わす。
「とりあえずはお疲れ様。ゆっくり休んでくれたまえ」
そう言って侯爵家の華美な装飾の無い質素な造りの馬車に乗り込むグラマス。「ではまたね」と言葉を残しグラマスは帰って行った。
そして最後にエリンクス国王陛下とジュリアスが──
「此度は色々と世話になり、また貴重な体験をさせて貰い感謝の念に耐えない。本当にありがとうウィル」
「本当に、今回は父上の我儘を聞いて貰い感謝する」
陛下とジュリアスは笑顔で俺達に謝辞の言葉を掛けて来た。
「満足されたみたいで何よりです、陛下、ジュリアス殿下」
「どうか帰路の道中もお気を付けて」
「この度は本当にありがとうございました、陛下、殿下」
「こ、これからもよろしくお願いします!」
「ま、またのお越しをお待ちしております!」
「王様、ジュリアス、またね!」
俺が陛下達の言葉に応えると、続けてアン、エリナ、ルピィ、レオナ、そしていつの間にか起きてきたヤトが言葉を重ねる。
「うむ、皆の者大儀であった」
俺達の応えに鷹揚に頷く国王陛下。そしてジュリアスはと言うと
「また王城を訪ねて来てくれたまえ。今度は妹にも紹介したいのでな」
と笑顔で手を差し出す。俺はその手をしっかり握ると「何れまた」と返事を返す。そして2人は王族の豪奢な馬車に乗り込み、陛下が馬車の窓越しに「ではさらばだ」と口にすると馬車馬がひと声嘶き、馬車が滑るように走り始めた。
「陛下、殿下、ありがとうございました! さようなら!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
俺とアン達婚約者は声を揃え見送りの言葉を口にすると、離れゆく馬車に深く頭を下げる。
やがて蹄の音が聞こえなくなると誰とはなく深い溜め息をついた。
「帰られたな……」
「ええ……ウィルもお疲れ様」
俺がぽつりと呟くと、アンがそっと寄り添いながら労いの言葉を掛けてくれた。
「皆んなもお疲れ様。お互い大変だったな」
エリナ達にも声を掛けると互いにホッとしたみたいに「お疲れ様」の声が聞こえる。
こうして初めての披露晩餐会は無事に終わりを告げたのであった。
こんな事、本当に年に一度っきりにして欲しい。じゃないと俺が持たん──主に精神的に!
様々な事はありましたが、何とか無事に披露晩餐会を終える事が出来たウィル! まぁ貴族の責務としてはこうした晩餐会を開くのも義務なんですけどね…… 。いずれにしてもお疲れ様でした、ウィル。
*子夜…………真夜中、午前0時の事。
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近未来の地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の冒険活劇です!
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