披露晩餐会 Ⅰ 〜幕開けは混沌〜
本日は第百二十話を投稿します!
いよいよ始まったお披露目会もとい披露晩餐会! ウィルの口調が色々変ですが御容赦ください。
▽今日は第百十九話も投稿しています△
-120-
あっという間に2ヶ月が過ぎた。
「マイケル・フォン・ワード子爵閣下、お越しになりました」
「ワイアット・フォン・ウッド男爵閣下、お越しになりました」
従僕のアントンとロニーの声が響く。今日は披露晩餐会当日、屋敷には先程から招待した貴族が集まって来ていた。玄関ではアン達4人の婚約者達と氏族のメンバー達が応対している。
「幾つ案内状を出したんだ……?」
書斎兼執務室で貴族の到着の声を聞きながら、俺は脇に控えるシモンに尋ねる。
「国王陛下とは別に25の貴族様に案内状を送りました。皆様お出でになられると40人ほどかと」
シモンはしれっと答えるが結構な人数である。何でも案内状1つに対し配偶者同伴で来る貴族が割りと居る事を見越しての事らしい。まぁその辺の準備は全てシモンに丸投げしてあったので安心はしているが。
「さてと、そろそろ下に降りるとするか……」
「左様でございますね、そろそろお見えになられる頃かと。大広間には執事のディナールが控えております」
シモンと確認し合うと、俺は来客を迎える為に階下に向かうのだった。
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「セルギウス・フォン・ライナルト侯爵閣下、御座しになられました」
来客達に挨拶しながら玄関口に向かうとグラマス殿が丁度来たらしく声が響く。
程なくしてグラマスが姿を現し、俺は恭しく礼を執りながら挨拶を口にし、アン達も同様にお辞儀をする。コーゼストも俺の横に浮かびながら器用にカーテシーを執る。
「本日はようこそお出でくださりました、ライナルト侯爵閣下」
「やぁ、こちらこそお招きありがとうハーヴィー卿。堅苦しい挨拶は抜きにしよう」
そう言って笑顔で握手を求めてくるグラマスに、俺も出来るだけ笑顔で握手を交わす。周りは驚いて見ているが。
「そう言う事なら……改めてグラマス、良く来てくれた。歓迎する」
「はははっ、ありがとうウィル君、それに皆んな。今日は楽しませて貰う事にするよ」
そんな風にグラマスと話していたら次の来客を告げる声が響く。それを聞いて来るべきものが来たと覚悟を決める──程なくして
「兄様!」
そう声を上げ紅玉の瞳をキラキラさせて駆け寄って来る白金髪の女性。そしてそのまま抱き着いて来た。それを見るアン達の顔が引き攣るのを感じる。
「お、おい、アドル!?」
慌てる俺にお構いなく擦り寄って来る女性──アドルフィーネ。周りが更にざわめくがそんな事にはお構いなく、やがて俺の身体から離れると
「御無沙汰しております兄様。本当にお久しぶりですわっ」
と花も綻ぶ様な笑顔を見せるアドル。
「久しぶり。相変わらずで何よりだよ」
一方の俺は変わらぬアドルの姿を見て苦く笑うしかなかった。だが一応きちんとしなくては示しがつかないと思い、俺はアドルに向かい
「本日はようこそ参られた、ヴィルジール卿。歓迎する」
と礼を執りながら改めて挨拶をする。それを受けアドルも
「本日はお招きいただきありがとうございますわ、ハーヴィー卿。皆様も御機嫌麗しゅう」
と優雅にカーテシーを執った。本当はこうなる事が判っていたからアドルに案内状を出すのは躊躇われたのだが、出さない訳にもいかず教えた結果がこれである。まぁ案の定と言うべきか…… 。
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「オールディス王国国王エリンクス・フォン・ローゼンフェルト陛下、並びにオールディス王国王太子ジュリアス・フォン・ローゼンフェルト殿下、ご来臨──!」
来訪を告げる声がひときわ大きく邸内に響き、賓客達に緊張が走る。俺は素早く玄関口まで向かうと右手を左の胸に当て、頭を深く垂れ臣下の礼を執り陛下達を出迎える。アン達やコーゼストも同様に深く腰を折りカーテシーを執る──やがて2人が姿を現し
「エリンクス陛下並びにジュリアス殿下、ようこそお出でくださりました。この度はこの様な地まで御足労願い、感謝の言葉もございません」
俺は恭しく口上を述べる。
「出迎えご苦労、ハーヴィー卿。本日は楽しみにしているぞ」
「久しいな、ハーヴィー卿。今日は父上共々楽しませて貰おう」
陛下と殿下の2人は鷹揚に頷くと、俺の後ろに控えるアン達に向かい「此度は宜しく頼む」と声を掛け、コーゼストには「今宵は是非コーゼスト卿の話を聞きたいものだ」と笑顔で語り掛けていた。
これで今日の賓客は全て参集した事になり、いよいよパーティーの開催の運びとなった。
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やがて日が沈むと大燭台だけでは無く魔導照明が灯され、邸内を明るく照らす。
「皆様、ようこそお出でくださりました。今夜は私の屋敷の披露を兼ねたパーティーを是非楽しんで行ってください」
昼間の様に明るいホールで、俺は賓客の前で挨拶に臨んでいた。パーティーは基本立食形式で、上座には国王陛下とジュリアス殿下の為に豪奢な椅子を用意してある。卓はもちろん円卓だ。
因みに今の挨拶の口上の台詞は、シモンが準備してくれたのを丸暗記したものである。流石はうちの完璧家令だ。今日の臨時手当を増やそう。
そんな事を思いながらも俺は銀の杯を手に取ると、列席者達も思い思いに銀のコップを手に取る。臨席されている陛下と殿下の手には硝子杯が握られている。
これもシモンが進言してくれた賜物で「王族の方々には一段上の饗をしなくては」と言われ、俺がドゥイリオを通じて手に入れたドワーフ職人の逸品である。俺はシモンに感謝をしながらコップを高く掲げると
「では──『王に奉ずる』──乾杯!」
そう言うと俺はコップの葡萄酒を一気に飲み干した。それに続いて列席者達が、そして国王陛下と殿下もワインを飲み干す。この乾杯の掛け声と挨拶も決まっていて、シモンに言われた通りにやったに過ぎない。ただ主催者が毒見を兼ねて真っ先に酒を飲み干すのは知っていたが。
何はともあれ無事にパーティーが始まり列席者達は、ある者は並ぶ料理を食べ、ある者はワインや蜂蜜酒と言った酒類を飲み、ある者は話をしたりと、思い思いに楽しんでいるみたいだった。
さて、俺も出来るだけ楽しまないとな。
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「ハーヴィー卿、宜しいでしょうか?」
幾人かの列席者に応対しながら、あちこちをアンと2人で巡っていると不意に声を掛けられた。顔を向けると短めの金髪を綺麗に撫で付け、口髭を蓄えた、歳の頃30代後半が40代辺りの紳士がにこやかな顔で立っていた。その傍らには同じ金髪の妙齢の女性が。
「──失礼、貴方はどちらの方か」
俺が誰何すると紳士は慌てた素振りで
「これは失礼しました、家令の方からは挨拶を受けていたのでつい。私は卿の又隣に居を構えるエヴァン・フォン・マイヤーズ子爵と申します、これは私の妻のイヴリン。以後良しなに」
と自己紹介をして来るマイヤーズ子爵。イヴリン夫人もカーテシーを執ってくる。
──なるほどご近所さんか。
「これは丁重な心遣い痛み入る。私は伯爵位を賜っているが若輩者であり、一介の冒険者でもあるし、何よりご近隣同士、堅苦しい挨拶は無しにしてもらいたい」
俺はマイヤーズ子爵夫妻にそう返事を返すと、脇に控えていたアンに手を向けると紹介する。
「申し遅れた。こちらは私の婚約者の1人、アンヘリカと言う。彼女も私と同じ冒険者だ」
「初めましてマイヤーズ卿、奥様、アンヘリカ・アルヴォデュモンドです。宜しく御願いします」
俺の紹介を受け、頭を軽く下げカーテシーをするアン。今夜のアンのドレスは濃黄色のロングドレスで、膝から裾にかけ絞りが入り裾は人魚の尾鰭の様に広がった、いわゆる人魚ドレスである。アンの返事を受けマイヤーズ子爵は
「これはアンヘリカ嬢、宜しく御願い致します」
とアンの手を恭しく取り、自らの口を近付け挨拶をする。なかなか貴族らしい仕草である。一方のイヴリン夫人は「まあ、御丁寧にありがとうございます」とアンに返事を返す。そしてコーゼストを紹介すると「これは素敵な妖精様ですね」と夫妻ともども感嘆の声を上げる。
聞けばマイヤーズ子爵は父親が元冒険者でSクラスまで登り詰め爵位を賜ったのだそうだ。なので生粋の貴族と言う事では無いらしく
「私は父の跡を継いだ二代目に過ぎません。まぁ父が残したこの地位を守るので精一杯ですが」
と笑ってなんの事も無いみたいに話す。なかなかの苦労人でもあるみたいだ。
「マイヤーズ卿」
「何でしょうか、ハーヴィー閣下」
俺は思った通りの事を口にする。
「どうか私──いや俺の事は名前で呼んで欲しい。どうも堅苦しいのは苦手なんだ」
俺の言葉に一瞬驚いた表情を見せるが、直ぐに笑顔で
「──わかりましたウィルフレド殿。では私の事も是非エヴァンと呼んでいただきたい」
と手を差し出すマイヤーズ卿──エヴァン。俺はその手を握りながら「俺もウィルでいい」と笑顔を返す。傍らではイヴリン夫人がアンに「私達もその様にいたしましょう」と仲良く語らっている。
どうやら良いご近所に恵まれたみたいである。
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周りの視線をものともせずエヴァンとお互いの事を語り合っていたら
「ご歓談中失礼しますわ」
不意に後ろから声が掛けられ振り向くと、アドルがワインの注がれた銀杯を手に立っていた。
「やぁ、アドル」
俺は何の気負いも無くアドルに声を掛けるがエヴァン夫妻はそうもいかず「こ、これはヴィルジール閣下!」と慌てて礼を執る。それに対して「そんなに畏まらないでくださいませ」と穏やかな顔で宥めるアドル。そして俺とアンの方を向くと
「兄様、アンさん、遅ればせながら御婚約おめでとうございます」
祝福の言葉を贈ってくれる──その顔は少し寂しそうだった。
「ああ、ありがとうアドル」
「アドルフィーネ様、ありがとうございます」
俺とアンはアドルの祝福に礼を述べる。アドルは徐ろに溜め息をひとつ付くと
「それにしても……本当に婚約されたのですね。しかも婚約者の人数が増えてますし……」
呆れたみたいに俺を見やる。
「いや……俺が一番驚いているんだが」
「こんなに婚約者の方が大勢いらっしゃるのに、何故私とは……」
「アドル、少し黙っていようか」
アドルがこれ以上話していると良くない妄想を垂れ流しそうなので制止する俺。アドルも「そ、そうですわね」と正気に戻ったみたいである。ふと気が付くとエヴァン夫妻が完全に静止していた。そう言えばアドルの事をまだ話してなかった…… 。
俺はエヴァン夫妻に自分とアドルが異母兄妹である事を改めて話した。エヴァン夫妻は最初は驚いていたが全てを聞くと漸く納得してくれた。同時に周りで聞き耳を立てていた他の列席者達も納得したみたいである。
「なるほど……お2人はその様な御関係だったのですか……」
「まぁ屋敷を訪れ直ぐに抱き着いたりしたら誤解もするだろうけどな」
エヴァンの物言いに苦笑する俺。恐らくは他の列席者達も同様な誤解をしていたのではないかと思う。
「そう言えば兄様、エリナさんは兎も角、他の婚約者様を御紹介してくださいな」
俺が1人納得していたらアドルがそんな事を宣う。そういやエリナ以外は知らなかったな…… 。
「では私が呼んで参りますので、少々お待ちください」
するといつの間にか傍にいた執事のディナールがエリナ達を呼びに行った──と言うかキミは何時から俺の傍にいたんだ?!
『気配遮断が完璧ですね、我が家の執事は』
コーゼストがディナールの背を見ながら、ぽつりとそんな感想を漏らす。
「それって──暗殺者の技能じゃなかったか?!」
俺はコーゼストの台詞に思わず突っ込みを入れるのだった。
うちの使用人はどれだけ特殊技能を持っているんだ、本当に!?
国王陛下のみならず愚妹アドルフィーネにも声を掛けていたウィル。まあ貴族としては当然ですが揉めないと良いんですけどね…… 。披露晩餐会はまだ続きます。
*マイケル・フォン・ワード子爵…………モブです。
*ワイアット・フォン・ウッド男爵…………こちらもモブです。
*エヴァン・フォン・マイヤーズ子爵…………ウィルの屋敷の又隣に住む貴族の二代目。父親が冒険者で身を立て爵位を賜った。なかなかの苦労人。短めの金髪、口髭をたくわえたナイスミドル。妻の名はイヴリン。
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