殺戮の密謀 〜アルカ再び〜
本日は第百五話を投稿します!
何とも物騒な題名ですが……読めばわかります。
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シグヌム市に向かう前に準備がてらラファエルの元を訪れた。生産設備で見つけた例の魔道具を見てもらう為である。
「──間違い無い。これはツェツィーリアの国営工房の製品であるな」
魔道具をそれこそ穴があくほど見ていたラファエルが、顔を上げながらそう言葉を発する。
『何故そう断言出来るのですか?』
ラファエルと一緒に見ていたコーゼストが質問の言葉を投げ掛ける。因みにラファエルの所を訪れる事を熱心に進言していたのは、当のコーゼスト本人である。
「ここを見たまえ」
ラファエルが正六面体の魔水晶に嵌められた金の枠の隅を指差す。そこには何やらデザインされた花のマークに[E]と言う文字が小さく刻まれていた。
「この蘭の花の意匠に[E]の表記……エヴァン工房と言う工房製を指し示しているのであるよ。そしてエヴァン工房は鉱物資源大臣直轄の国営工房なのである」
「なるほど、な……」
ラファエルの自信たっぷりの説明に納得する俺。流石は元ツェツィーリアの伯爵家だっただけの事はある。
「しかし……着眼点は良いのだが随分と効率の悪い魔道具であるな。そもそも術式が稚拙なのであるよ」
そのまま魔道具の術式と材質の解析に没頭すると、少しして「ふむ」と声を上げる。
「これは参考になるかわからないであるが──この魔水晶は『混沌の庭園』産出であるな。あそこの出のモノは特に高品質として最近出回っているのである」
「見ただけで良くわかるな?」
ラファエルの台詞に感心して言葉を返す。正直見てくれはどれも同じに見えるんだが?
「そこは、長年の経験と私自身の目であるゆえと言っておくのであるよ!」
ラファエルがそんな事を宣いながらドヤ顔をしてくる。正直ウザったいが俺もそれを声に出すほど愚かじゃない。
『兎に角、これでツェツィーリアが今回の件に深く関わっているのは確定ですね』
コーゼストは納得が出来たみたいに頷き
「最近ツェツィーリアは軍備増強を積極的に行っているらしい。もしツェツィーリアに行くならくれぐれも気を付けたまえ」
ラファエルはそんな俺達に注意喚起してくれた。
これは、思った以上にややこしそうである。
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ラファエルの屋敷を出て準備を整え、『蒼眼の新月』の部屋を引き払って再び冒険者ギルドに来た。
ギルマスは王都のギルド本部に話に行っているらしく、指示を受けていたギルド職員に非常用転移陣の部屋まで案内されてシグヌム市に転移する。
「ようこそシグヌム市に! お久しぶりですね、『黒の軌跡』の皆さん。そしてお帰りなさい、『白の一角獣』の皆んな」
転移の光が薄れ、目の前にはシグヌム市二国間冒険者ギルド統括ネヴァヤ・ファーザム女史が出迎えに来ていた。
「ネヴァヤさん、久しぶり」
「お久しぶりです」
「ん、お久しぶり」
俺とアン達は再会の挨拶を口にし
「「「「「ネヴァヤ様、ただいま戻りました!」」」」」
エリナ達は一斉に声を揃え帰還の報告を告げる。それ等に対しにこやかな顔で「はい」と答えるネヴァヤ女史。相変わらずこの人に対するギルド構成員達の人気は高い。
「こんな所で話すのもあれでしょうし、執務室に参りましょう」
そう言って俺達を執務室まで案内するネヴァヤ女史。うちのギルマスとは大違いである。
「さて、詳しい話はヒギンズさんから聞きましたが大変でしたね。もちろん我が二国間ギルドとしても貴方達に協力を惜しみません」
執務室の机に座るなり、まずそう宣言するネヴァヤ女史──何とも心強い話である。
「既にツェツィーリア総領事館には人を送り込みました。一両日中にも天蠍の行方を掴めるでしょう」
そして凄い行動力である。まさか既に手を打っていたとは!
「人を送り込んだって?」
「はい、私の所は人材が豊富なので。私の子飼いの斥候が居まして……その人がとても優秀な方なんですよ」
驚く俺ににこやかな顔でそんな事を宣うネヴァヤ女史。どんだけ人材豊富なんだ!? 傍らに視線を向けるとエリナがウンウン頷いている。どうやらネヴァヤ女史はこれで平常通りらしい。
今後、ネヴァヤ女史とは絶対諍いにならない様に気を付けよう……!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして── 。
宿屋で待機していた俺達の元に、天蠍の足取りが掴めたと連絡があり、再びギルドを訪れた。本当にネヴァヤ女史が言った通り2日後であった。
「送り込んでいた斥候が帰って来ました。天蠍の足取りは勿論の事、彼等の目的も掴んで来ましたよ」
開口一番そう告げるネヴァヤ女史。流石は優秀と豪語するだけの事はある。
「先ず天蠍の足取りですが……シグヌム市の総領事館から『混沌の庭園』に向かった事が確認できました。そして彼等が暴喰者を盗み出した目的ですが──」
そこまで言うと机に置かれていた香茶で喉を潤し、話の続きをするネヴァヤ女史。
「──暴喰者を『混沌の庭園』の最下層の蟻亜人の地下都市に放ち、彼等を根絶やしにするつもりなのです」
「な?!」
あまりの衝撃に言葉を失う! 蟻亜人を根絶やしにするだって!?! 何で?!
『何でその様な暴挙をしようとしているのですか?』
コーゼストが投げ掛けた質問の声がひどく冷静に聞こえる。ネヴァヤ女史は机の上で手を組むと
「潜入した斥候はそう書かれていた計画書を見ただけで明確な理由はわかりません。ですのでこれは飽くまでも漏れ伝わって来た情報からの推測なのですが……ツェツィーリアの一部の貴族には蟻亜人達を排斥しようとする動きがあるらしいのです。自分達こそ太古よりツェツィーリアを支配してきた正当な支配者だと。いつの間にかザフィロ山の地下に住み着いた蟻亜人達は不当な侵略者であり、蟻亜人達の地下都市も自分達の物である、と。しかしツェツィーリアが国として形を成したのは今から200年前、更に共和国として成り立ったのは150年前で、蟻亜人達がザフィロ山に住み着いた300年前はそもそも国ですら有りませんでしたから、この主張の正当性は無きに等しいと言わざるを得ません。それよりも──」
そこまで言って一呼吸置くとネヴァヤ女史は言葉を続ける。
「蟻亜人達の地下都市ガナンに眠る豊富な地下資源の独占が、自身の主権を主張する貴族達の本当の狙いだと私は思います。これは非公式なのですが、私達ヒト族の代表と蟻亜人の女王ナミラとの間で初の会談が持たれた際に、彼等が地下都市ガナンを造る際に掘り出した様々な鉱石や魔水晶を大量に保管してあるとの話を女王ナミラが話していたのです。女王ナミラは自分達が使う分以外は私達ヒト族に供出しても構わない旨を話していて、それならその地下資源を各国ごとに公平に分配する話が持ち上がっていました。その話が未だ正式に決まっていないうちに、蟻亜人達から略取しようとしているのかも知れません。上手く立ち回れば自分達が莫大な利益を得る事が出来ますからね」
ネヴァヤ女史はそう話を締め括る。何とも醜悪な話に言葉も出ない。
「──そんな身勝手な理由で蟻亜人達を……!」
辛うじて絞り出した自身の台詞に、気が付くと篭手が軋むほど拳を握り締めながら憤っている俺がいた。俺の後ろではアンやエリナ達も同様に憤っている。
「そんな事はさせない。絶対に……!」
滅多に感情的にならないルアンジェさえもが怒りに満ちた声色で呟いていた。
「もしこの推測通りだとしたら……これは由々しき事態です。私は引き続き情報と証拠を集めます。貴方達は直ちに『混沌の庭園』に向かってください、そしてこんな不毛な虐殺行為を止めてください」
ネヴァヤ女史は飽くまで冷静な態度を取るが、その言葉の端々に怒りが滲んでいた。
「わかった。直ちに向かう事にする──皆んなも良いな?」
俺の言葉に皆んなも頷く。俺と同様に決意に満ちた顔をしている。
「よろしくお願いします。『黒の軌跡』の皆さん、『白の一角獣』の皆んな」
ネヴァヤ女史はそう言うと俺達に頭を下げた。その様子を見て、この人もグラマス同様 ” 人誑し ” なのだと俺は実感した。
まぁ嫌な気持ちではないけどな…… 。
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そのまま準備を確認してからシグヌム冒険者ギルドの非常用転移陣で『混沌の庭園』のギルド支所に転移してきた。
ここでヤト達を顕現する事にし、迷宮の広間に入った。迷宮の転移陣を使い第三階層に向かおうと思ったのだが、それに対しコーゼストから意見を言ってきた。
『一度最下層に降りて「アルカ」に尋ねてみては如何でしょうか? 「アルカ」ならこの『混沌の庭園』の全てを把握している筈です。天蠍が何処に居るかなど一目瞭然です』
「そう……か。そうだな、既にガナンに居るにしても途中だとしても居場所がわかれば対処もしやすいしな」
実の所、アルカの事をすっかり忘れていたのは秘密である。後ろではアンがエリナ達にここでの経緯を説明していた。因みにヤトにはコーゼストが説明済であるが、物珍しげにキョロキョロしている。
「行くとすると第九階層か……」
正確には第九階層から更に下だけどな! すると俺の思考を読んだコーゼストが
『冒険者ギルドは正式に第九階層まで転移陣を設置したと聞き及んでいます。ですから心配ご無用です』
「アア、サイデスカ……」
言いたい事はあったが、言葉をグッと呑み込んでコーゼストの言う通り『混沌の庭園』第九階層の避難所まで一気に転移した。そこは嘗ては暴食魔蜚蠊に埋め尽くされていた曰く付きの部屋であり、その話をエリナ達にすると身震いしていたのは言うまでもない。
とにかく部屋の隅に隠蔽されている転移陣を起動して更に下層に降りる事にした。そこでは──
「お久しぶりでございます、ウィルフレド様。アンヘリカ様、ルアンジェ、そしてお供の方々」
地下施設の管理用自動人形UNIT・RO-81225──ユニトロの出迎えを受けたのだっだ。
「こちらにどうぞ。主がお待ちしております」
そう言ってアルカが安置されている最下層の部屋への最後の転移陣に案内してくれるユニトロ。そして最後の転移が明けると目の前には──
『歓迎する、魔物の主人ウィルフレド殿。涅森精霊アンヘリカ殿。Ω1000ーZ99、いや今はルアンジェと言う名だったな。そしてお連れの人達。改めて自己紹介を。私は魔導人工頭脳アルカと言う』
中央に大きな魔水晶を頂く2メルトの尖塔が聳え、その周りに五芒星魔法陣に配置された小さな魔水晶を頂く5つの尖塔──魔導人工頭脳アルカが鎮座していたのである。その圧倒的な光景に言葉を失うエリナ達。流石のヤトも硬直している。
「久しぶりだな、アルカ」
「本当にお久しぶり」
俺とアンは再会の台詞を口にする。一方のルアンジェは
「アルカ、ただいま」
と懐かしげな表情で話し掛けていた。やはりここがルアンジェにとっては故郷なのだ。
『ルアンジェ、元気そうでなによりだ。積もる話は多々有るが……先ずはウィルフレド殿、今回の来訪はどの様な要件であるか?』
「ああ、実は──」
アルカの問いに、ここに訪れた要件を手短に話す俺。
「──と言う訳でアルカの協力が必要なんだ」
『私からは対象の3人の映像データを提供します。これが有れば直ぐに見つけられるかと』
事情を説明すると共にコーゼストが生産設備で見つけた例の映像データをアルカに送る。
『──ふむ、これが有れば容易い事。早速全階層を走査する』
データを受け取ったアルカの筐体の6つの魔水晶が一瞬輝きを増したかと思ったら、次の一瞬には報告してくる。
『──対象の者達を発見した。第四階層の蟻亜人達の転移陣がある部屋の手前を移動中。どうやら場所の特定が出来ていないらしく部屋の近くを行きつ戻りつしている』
遂に見つけたぞ──── !
ラファエルに始まり、ネヴァヤ女史、そして最後は久しぶりの魔導頭脳アルカへと繋がりました。
それにしてもとんでもない事を考える輩はどの世界のどの時代にも居るんですね……まるで某国みたいです。
そして次回、お待ちかねの戦闘シーン入ります!
☆本編十三話にてイラストレーターnyazさん作のヒロイン・アンヘリカのイラストを載せました! 過去作品を振り返る意味も込めて是非見て下さいね!
☆「俺ヒザ」スピンオフ作品、スピンオフ/でうす・えくす・まきなの箱庭も連載中!
https://book1.adouzi.eu.org/n0542fy/
☆「魔法と銃との異界譚 〜Tales of magic and guns〜」をなろうとノベプラにて連載中!
近未来の地球の民間軍事会社の傭兵クリスと異界から来た大魔導師のルーツィアの2人が主人公の冒険活劇です!
なろう→http://book1.adouzi.eu.org/n0259fr/
ノベルアッププラス→http://novelup.plus/story/529278724
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