婚約とトラブルは共にあり
本日は第百二話を投稿します!
アンとエリナ2人と晴れて婚約したウィル。だけども何故かトラブルにも愛されているみたいです! まぁいつもの事なんですけどね!
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愚妹の嵐の様な再来訪から一夜明け、今日は王都の貴金属店に俺1人でアンとエリナベルへ渡す婚約指輪を買いに訪れていた。
やはり婚約したからにはキチンと形に残る物を渡しておいた方が良いと思ってである。
『マスターにしては気が利きますね』
「ほっとけ!」
何時もの定位置である左肩に座っているコーゼストの余計な台詞に文句を返す俺。それで無くてもコーゼストを見て店員さんが驚いているのに、更に硬直するみたいな事を言わないで欲しいものである。
気を取り直して応対に出た女性店員さんに話し掛ける。
「あーっと、すいません?」
「ハッ!? あ、はい、何でしょうか?」
彼女は一体今何処に意識が飛んでいたのか?! 俺の問い掛けに慌てて作り笑顔で応対する店員さん。
「実は……婚約したので婚約指輪を買いたいんだけど……どんな物が良いのかわからないんだが」
「あっ! はい! お客様は初めてでいらっしゃいますか?」
「……えっ?」
初めても何も、婚約はおろかこうした物を買うのすら初体験なんだが?! そんなに老練者に見えるのか?!
思わず突っ込みたかった所をグッと堪える俺。良く聴くと「この店は初めてか?」と言う事だった……… 。どれだけ一杯一杯だったんだ俺!?
兎に角初めてなのでお勧めをお願いしてみると、陳列棚から星銀のシンプルなデザインの指輪を出して来た。因みに金額はそれなりだと察してもらいたい。
「それではこれなど如何でしょうか? 最近この王都で人気のある逸品でございます」
「じゃあこれを3つ」
「えっ!? 3つでございますか?!」
そんなに吃驚する事なのか………… ?
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「わぁ……」
俺から贈られた婚約指輪を嵌めた右手を翳し、うっとりと眺め入るアンさんとエリナさん。ここはお馴染み『銀の林檎亭』の客室である。
「「「「何れは私達も…… !」」」」
ベルタ以下『白の一角獣』のメンバー全員からの熱い視線と圧力を物凄く感じるんだが?! 少なくとも君達を嫁さんにする予定は無い! 2人で手一杯なんだよ!
「綺麗ね……アン。ウィル、今度は私にもちょうだい」
珍しくルアンジェが瞳を輝かせそんな事を宣う。いやいやいや、キミは自動人形だろうが!? 最近ルアンジェが益々ヒトっぽい。
「へぇー、人間同士って番になるのにこんな事をするのね! 私にも何かちょうだい、御主人様!」
アン達の様子を物珍しげに見ていたヤトはヤトで、真逆のお強請りである。何かって何だよ?!
俺がそんな事を心の中で叫んでいるとアンが俺の方を向き直り
「ありがとうウィル。凄く嬉しいわ♡」
と瞳を潤ませて幸せそうに微笑む。
「あ! え、えっと、私も嬉しい! ありがとうウィル♡」
エリナはアンの台詞にハッと我に返り、同じ様ににこやかに微笑んだ。そんな2人の様子を見てホッとする俺。無駄に緊張していた分、感慨もひとしおである。
「2人に喜んでもらえて良かったよ」
そう言うと、俺に出来る極上の笑顔を披露してみる。昔は「目付きが悪い」だの「笑顔が凶悪だ」だの散々言われたが、最近は人並みの笑顔が出来ている……と思う。
──トントントン。
そんな事を思っていたら誰かがノックした。近くに居たルアンジェが扉を開けるとこの『銀の林檎亭』店主のオリヴァーが立っていて
「ウィルさん。冒険者ギルドの人から言付かりました。グラマスさんがお呼びだそうですよ。急いで来てくださいとの事です」
言付かった伝言を伝えて来た。
珍しいな、こんな風に呼び出しを掛けるなんて。まぁ今回の件の報告がてら行ってみるか…… 。
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「ウィル君、エリナ君、良く来てくれたね」
取るものも取りあえずエリナ達と一緒にギルド本部に出向くと、何時もの様にグラマス殿が出迎えてくれた。
「招集に馳せ参じたが……何かあったのか、グラマス?」
俺の質問に珍しく渋い顔をするグラマス。何かあったのは間違いないらしい。
「実は……ラーナルー市冒険者ギルドから連絡が来てね、例の『生産設備』に何者かが侵入したらしく、研究対象だった魔物を1体盗み出されてしまった」
「な?!」
『魔王の庭』の生産設備に侵入しただけじゃなく、あの調整漕の魔物を盗まれただって?!? 一体何の為に?!
あまりの衝撃に唖然とする俺。片やエリナ達は俺とグラマスの話を聞いても「何?」と薄い反応を示し、アンとルアンジェが説明してくれている。
『それはいつ頃の話ですか? 侵入者の数は? 施設を警備していた職員は気付かなかったのですか? あと犯人から連絡は?』
俺が聞く前にグラマスに矢継ぎ早に質問をするコーゼスト。
「事件が起きたのは2日前──つまり叙爵式があった日だね。侵入者の数は残された形跡から3人。施設の警備の隙をつかれたらしく気付いたのは昨日生産設備に出向いた時で、その2日前にはちゃんと調整漕の中に魔物が居る事を最後に施設を出た職員が確認していたらしい」
「それで今日までで何か動きはあったのか?」
コーゼストの質問に答えたグラマスに今度は俺が質問を重ねる。
「今日まで魔物を盗み出した者が取り引きを要求して来た事は無いね。勿論どの様な取り引きだろうと我々冒険者ギルドは応じる事は無いけどね」
そう言って少し胸を張るグラマス。それはそれで頼もしいが……ことが事だけに素直に喜んでいいものなのか…… 。
俺がそんな事に思いを巡らせているとコーゼストが質問する。
『それで盗まれた魔物とは?』
それに対するグラマスの答えが意外だった。
「スライムだよ」
まさかのグラマスの台詞に一瞬思考が止まる。
「は? スライム??」
「そうだよ。だけど普通のスライムじゃない。調整漕の名札には『暴喰者』と書かれていた魔物なんだ。生産設備の技師達は被検体8号と呼んでいたらしい。そして初めて魔物調教師では無いヒトでも言葉で操る事が出来た魔物でもあるらしいんだ。勿論古代語でだけどね」
話を聞くにつけて、かなりやばい魔物みたいである。何だよ、暴喰者って?!
『名前から察するに、かなり危険な能力を持つスライムなのですね』
俺の心の叫びを代弁する様にコーゼストが再びグラマスに尋ねる。
「うん。暴喰者はありとあらゆる物を分解吸収する能力を持つんだ。剣や槍なんかの生半可な攻撃ではダメージを与える事は出来ないし、更には魔法への耐性も高い」
「……何なんだ、その壊れた性能は!? そんなの絶対外に出したら不味いヤツじゃないか!?」
俺は思わず大声を出してしまった。以前コーゼストが俺とアンに提供した増幅指輪もそうだが、古代魔族は生み出す物の性能の加減をわざと間違えてないか?!?
「まぁ、生産設備の技師達も危険性は把握していたからこそ、暴喰者の性能を何とか落とす為の研究を進めている最中だったらしい」
グラマスは技師達を支援するが、問題の本質はそこじゃない気がするんだが…… 。
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気を取り直して確認を重ねる。
「それで今生産設備はどうなっているんだ?」
「生産設備を含む第八階層は厳重に封鎖されているよ。ヒギンズ君が報告を受けて即座に対応したみたいだね」
とりあえず現状を確認するとグラマスからはそんな答えが返ってきた。うちのギルマスはちゃんと仕事をしたらしい。
「それで遠方話で僕の所に直ぐ連絡が来たんだ。君達『黒の軌跡』に手を貸してほしいとね。そもそも君達だって関係者だし、他人事じゃないだろ?」
そこで言葉を切ると俺の顔を見やるグラマス。俺はアンやルアンジェに視線を合わせる。2人とも頷いてくれた。
「わかった。俺達は直ちにラーナルー市に向かう事にする」
「待って」
了承の意を口にしようとするとエリナが何故か口を挟んできた。
「グラマス、私達『白の一角獣』も『黒の軌跡』と行動を共にしたいと思います。宜しいでしょうか?」
「それは構わないよ。いや寧ろ僕からお願いしたいな。ウィル君もそれで構わないよね?」
「いや、それは助かるが……良いのか、エリナ?」
エリナからの真逆の申し出に戸惑う俺は思わず問い質してしまう。
「勿論構わないわ。アン達から話は聞かせてもらったから事情は理解したし、状況から言っても人手は多い方が良いと思うの。それに──」
毅然とした態度で答えていたエリナが急にもじもじする。
「それに?」
「貴方に私が役立つ所を見せたいし♡」
「「「「勿論私達も!」」」」
そう言って頬に手を当てキャッと嬉声をあげるエリナと、瞳を輝かせるベルタ以下『白の一角獣』のメンバー達。
エリナは兎も角、メンバー達からの圧力が凄い…… 。
「そ、そうか。なら手を貸してもらうよ」
一瞬戸惑うが、やる気を見せているエリナ達を無下にする訳にもいかず了承の意を伝える。
「本当にウィル君は愛されているねぇ」
一連のやり取りを見ていたグラマスがそんな事を言いながらニヨニヨしている。
「…………グラマス」
「えへん、何はともあれだ。『黒の軌跡』と『白の一角獣』は直ちにラーナルー市冒険者ギルドに向かってくれたまえ」
俺がジト目を向けるとグラマスは即座に話を切り替える。どうでもいいがニヨニヨしながら指示を出さないで欲しいものである──やれやれ。
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その他の詳細な情報について説明を受けた後、一旦『銀の林檎亭』に戻り、残りの宿泊を取り消しして部屋を引き払った。オリヴァーにはアドルに再訪の言付けをしておいた。
『色々言ってますが、やはり半分血が繋がっている妹さんですからね。心配させない為にも必要ですね』
コーゼストには何か微妙な言い方をされたが、そうでもしないとあの愚妹はラーナルー市まで来かねないからな。予防線は張っておく事に越したことはない。
「今回は色々慌ただしかったから、次はゆっくり来てみたいわね──勿論ウィルが良ければだけど」
「でも私達が次に訪れる時には、その、け、け、け、結婚式を挙げる時かも!!」
アンがこの数日間を振り返る様に言葉を紡ぐと、エリナがいきなりとんでもない事を宣った! そして言った本人と聞いていたアンさんの2人が顔を真っ赤に染める。そんなに照れるなら言わなきゃいいのに…… 。
「アン、エリナ、顔が紅い」
うん、ルアンジェ、そこは突っ込まなくても良いんだぞ?
「私が居た部屋に行くんでしょ?! 楽しみだわ〜!」
ヤトはヤトで相変わらずブレが無い。ある意味安定感抜群である。
「それじゃあ、ラーナルー市に向かうか……」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
色々突っ込みたかったがグッと堪え当たり障りの無い俺の台詞に、皆んなが声を揃えて返事をする。いつの間にそんなに連係が良くなったのか疑問は残るが、今はやるべき事をしなくてはな!
俺達はラーナルー市に帰還する為にギルドの非常用転移陣を使うべく、王都ギルド本部へと向かうのであった。
因みにグラマスにアンとエリナの2人と婚約した事を言い忘れていたのに気付いたのは、ラーナルー市に帰ってからであった。
多分グラマスは気付いていると思うから完全放棄だな!
盗み出された魔物はスライムでした! 勿論危険なシロモノには違いありません。
次回は推理回になりますので戦闘はありませんのでご了承ください。
これで今年の投稿は最後になります。本年1年間ありがとうございました。2020年1月1日からはスピンオフ作品「スピンオフ/でうす・えくす・まきなの箱庭」をお送りします! 本編とは全く関係無いゆるい冒険譚です。14時投稿予定なのでそちらをお楽しみ下さい!
http://book1.adouzi.eu.org/n0542fy/
本編小説は2020年1月5日13時に投稿します!




