第十九話
うわぁめっちゃ短い。その分次回のは長くしたいです。
「今から30分後に逃げる側がスタートして、そのまた30分後に鬼がスタートしてください、それでは解散します。」
襖君はそう締めくくり、マイクの電源を落とした。途端にロビー内のざわめきが戻り、生徒会のメンバーはさっそうとその場を後にしようとする。・・・若干一名を除いて。
澤凪君だ。
澤凪君は自分の失態がよほど恥ずかしかったのか、先ほどの場所から一向に動こうとしない。顔を両手で覆って小さく震えていて、手に隠れ切れていない耳がさらに真っ赤になっている。
「ほら、行きますよ。」
襖君が背中を押してやると、よろめきながらもようやく歩き出した。こちらにこれ以上醜態をさらさないためなのか、やけに速足で。それを追うようにほかのメンバーもロビーから廊下の向こうへと消える。
ああやって支えてくれるということは、澤凪君は本当に人望があるんだろう。なんてすばらしい上司愛。
私もあんな風に慕われる(?)教師になりたいなんて考えながら、動きやすい格好に着替えるために自分の部屋へと向かった。ちなみにあのスタッフの人に奪われた私の荷物はというと、私が部屋についたときには既に部屋に置かれていた。一流ホテルのスタッフの恐ろしさを垣間見た気がした。
木々の間を縫うようにして走る。こうして鬼から逃げている人は相当数いるだろうに、自分以外の話し声も足音もしない。まるでこの森の中に一人取り残されてしまったみたいだ。
走り続けてしばらくすると息が切れてしまったので、手近なところにあった木の後ろにもたれかかる。ふぅ、と息をつくと同時に体の力も抜けてきて、ずるずると背中を滑らせながら地面へと座り込んだ。
こんなに全力で走ったのなんていつぶりだろう。
食券でこんなに必死になるとは、我ながら現金な奴だなんて思いながら腕時計で時間を確認してみる。ホテルを出てから50分くらい走り続けていたようだ。
ということは、もうすぐ鬼がやって来るかもしれないということ。
再び走って逃げるには、もうそれができるほどの体力が残っていない。
かといってこのままここに座っているわけにもいかないだろう。そんなことをしていてはどうぞ捕まえてくれと言っているようなもの。・・・私を捕まえようなんて言う人がいるかどうかは甚だ怪しいけど。
まあ一応手を尽くすに越したことはないだろう。
「となると・・・。」
できればやりたくはなかったと眉をひそめながら、ちらりと上を見上げる。
「勝つためには、やるしかないか。」
戦場に向かう兵士のような面持ちで私が見たのは、そこそこ高くて葉が良く茂っている木の上にあるくぼみだった。
「よっいしょぉ!!」
や、やっと登れた。
たかだか木に上るだけだというのに、大の大人が何回失敗したんだろう。
ただでさえ残っていなかった体力が、息に全部削られたような気分だ。これなら普通に走ってたほうが良かったんじゃないかと思わないでもないが、それを言ってしまうとこの努力が無に帰されそうなので触れない。
体を起こして落ち着いてみてみると、上がってみたそこは意外に広く、これなら座って身をひそめることもできそうだ。
「ふっふっふ・・・まさかレクリエーションごときで木登りまでする奴がいるとは思うまい・・・。」
自分が例外なんだとはわかっているが、というか私もそんな勝負事で本気になるタイプではないが、食券がかかっているとなれば(つまりは金がかかっているとなれば)話は別。
食券で昼食が賄えるとなれば、その間分の食費はもちろんのこと、料理をするときの光熱費、ガス代、さらには洗い物の時間と手間まで省ける。
これからの五か月間に夢をはせていると、下のほうからしゃべり声が聞こえてきた。慌てて身を伏せて葉と葉の間から様子をうかがうと、そこには思いもよらない人がいた。
「は、花咲ちゃん!?」
上からだから多少わかりづらいが、学校の体操着姿で不機嫌そうに立つその姿は間違いなく花咲ちゃんだ。
「話って何よ、くだらない話だったら帰るわよ。」
彼女の視線の先へと目をやると、見たことのない少年がたっていた。
花咲ちゃんと同じジャージを着ているんだから峰來学園の生徒なのは間違いないだろう。攻略キャラのように派手な見た目を持っているわけではないが、とても温和で人が好さそうな少年だ。
「あ、あの、えっと・・・。」
「だから早く言いなさいよ。」
花咲ちゃん、もうちょっと待ってあげて。
少年は花咲ちゃんのとげとげした言葉にびくりと一度体を震わせるが、やがて意を決したように話し始めた。
「は、花咲さん、―――僕と付き合ってください。」
えええええええええええーーーー!!!?




