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26 当主


 男が立っていた。


 マスケット銃を構え、その銃口をネイサンとキールがいる方向へ向けていた。


 銃口を向けられているというのに、警戒心より困惑感の方が強かったのは、銃を構える男に見覚えがあったからだ。


 ベルフォルマの商会当主、ルーク・ベルフォルマ。


 そしてその後ろには、もう一丁のマスケット銃を携えていた、ルーク・ベルフォルマ従者アドルフと、キールから逃れたはずのヨハンが立っていた。


 確かにネイサンは、ヨハンがベルフォルマの当主と連絡を取るだろうと思っていたが、これは、いくらなんでも早すぎた。


 彼がどうして、ここにいるのか。


 「やあ、我が“息子たち”。息災にしていたかな? お父さんだよ?」


 冗談めかして、彼は言う。

 ネイサンとキールが立っている間に、銃口を突きつけたまま。


 「“そっちのキール”は、相変わらず憎たらしいほどの色男だね。でもって、“こっちのキール”は、相変わらず目がイっちゃってる愉快な男だね」


 それぞれの顔を見比べ、それぞれをそう評する。


 「ここに来る途中、ヨハンちゃんと会ってね。だから、あらかたの事情は聞いてある。ちなみに、さっきまで“そっちのキール”が熱弁していた話も、こっそり聞いてたんだよね。うん。“そっちのキール”が言った通りだ。切り捨てられるのは“こっちのキール”、お前の方だよ」


 そう言って、ルーク・ベルフォルマは、マスケットの銃口を本物の息子(キール)に向けた。


 「ちょっ、なにを――」


 ネイサンの制止を無視して、当主はキールを挑発するように笑う。


 「どうせだから、お父さんとして一言添えてやろう。いいか、お前は失敗したんだ。アンジェリカ王女から与えられた、生まれ変わりというチャンスを、お前はついに掴めなかった。本当に残念だったな」


 容赦のない父親の言い様に、キールはただ、怯むことなく睨み返している。


 「というわけで、お前はもう用なしだ。バイバイ、“こっちのキール”」


 マスケット銃の引き金は、本当に引かれた。







 耳をつんざく銃声が、玄関ホールに再び響き渡った。

 それとほぼ同時に、何かが割れる音もかすかに聞こえていた。


 残響が耳に届く頃、何が起きたのか、ネイサンも状況を認識する。


 血を流している者は、誰一人いなかった。

 ただ、玄関ホールに飾られていた壺が、割られただけだった。


 「驚いた?」


 いたずらが成功した子供のように笑うルーク・ベルフォルマを、キールが腹立たしげに睨み付けていたが、その顔には冷や汗が浮かんでいるように見えた。


 「やだなあ。殺すわけ無いじゃないか。そんなことしたら、ボクが奥さんに怒られちゃうよ」


 ははは。と軽快に笑いながら、マスケット銃を肩に担いだ。


 「さてと、“こっちのキール”。もう一回、死の間際を味わって、さすがのお前も頭が冷えたんじゃないか?」


 「…………」


 「よしよし、そうか。それじゃあ、その冷えた頭によーく叩き込む事だ。今回はこれで見逃してやるが、もしまたこんな暴挙に出るようなことがあったら、ボクはベルフォルマの当主として、もうお前をトップに近い位置に置いておくわけにはいかない。殺すは無いにしても、何らかの処置を下さなければならなくなる。分かるな?」


 変わらない笑顔を浮かべているはずなのに、その声音は低く冷酷なものだった。


 キールは何も答えないが、父親から目を離そうとはしなかった。


 「それが理解できたなら、今度は、どうしてボクがここにいるか。その種明かしをしてやろう」


 担いだマスケット銃で、肩を軽く叩きながら片手間のように語り出す。


 「少し前に、お前たちからバーナード・レイトンがやらかしたという連絡を受けたね。だから、ボクはウキウキとしながら色々と手配していたんだけど……その肝心のバーナード・レイトンが消えた。養女アンジェラ・レイトンも同様だ」


 思わぬ名前が出てきたことにも驚いたが、消えたという不穏な響きに、ネイサンは目を見張った。


 「どうやら、彼らには後援者がいたらしい。しかも、そいつは貴族らしくてね。さらに言えば“こっちのキール”、お前とも、浅からぬ因縁があるようだ」


 言われた当の息子(キール)は、わずかに眉を顰めていた。


 「情報源は、セントリーズのご領主様だよ。何でも、お貴族様とご領主様は昔からの知り合いらしい。とは言っても、金品の遣り取りという、とても素敵なご関係だけどね。で、その素敵なお貴族様は、いつもセントリーズ王家の宝物を、どこからともなく見付けては、ご領主様に高値で売りつけに来るそうだ」


 話の脈絡を掴めずにいたネイサンは、その流れがどこにあるのか見えてきた気がした。


 「さすがにおかしいと思われたご領主様は、出所を調べられていたようで、その結果判明したのは、3百年前、ゼノア王国によって滅ぼされた、あの隣国の元貴族だということだ。政権には直接関わっていなかったため処刑をまのがれ、隣国が滅亡したあとは、当時のゼノア王国にいた親戚を頼って生き延び、今ものうのうと貴族を名乗っているらしい」


 「…………」

 「…………」


 「どうしたものかと、ご領主様が思案されていたところに、ある日、そのお貴族様がやってきて、旧都市(ミラ)を来訪される予定のご領主様(かれ)に、とある提案をしてきたそうだ。ご領主様が長らく探し求めていた、アンジェリカ王女の遺品と引き替えに」


 そこで一端、言葉が切られた。


 勿体ぶるような間だったが、けれど、話に聞き入っていたキールとネイサンには言葉がない。

 ルーク・ベルフォルマは、そんな2人の顔を楽しむように眺めたあと、笑う。


 「なかなか面白い話もあったものだろう? だから私も、超特急で手近な仕事を片付けて、遠路はるばるここまで来てしまったわけだよ」


 そう言って彼は、持っていたマスケット銃を従者のアドルフに預けると、キールの方へ改めて向き直った。


 「なあ、キール。もう一度、お父さんから一言添えてやろう」


 自分の息子に、ルーク・ベルフォルマは言葉をかける。


 「お前はそろそろ、3百年前の因縁にケリを付けてもいいんじゃないか?」






というわけで、ストックが切れました……ゴメンナサイです。

10月中に再開できたらいいなーと、思っております(`・ω・´)


長めの中編予定でしたが、もしかしたら初の10万字越えをするかもと、

ちょっとドキドキもしております。

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