第21話 一目惚れがわからない訳ではない。
「……四条、少し聞いてもいいか?」
「別にいいけど?」
「由佳とは中学の時に出会ったと言っていたよな? どんな出会いだったんだ?」
「そうね……」
なんとなく帰る気にもなれず、俺は四条にそのような質問をしていた。
竜太は、中学で舞と由佳が仲良くなったと言っていた。考えてみれば、二人は違うタイプである。どのように仲良くなったのかは、少し気になる所だ。
「最初に見た時に可愛いって思ったのよね」
「可愛い? 由佳のことだよな?」
「ええ、もちろん由佳のことよ」
四条は楽しそうに笑っていた。
確かに由佳は可愛い。それは紛れもない事実である。百人に聞いたら百人がそう言うだろう。四条もその例に漏れず、第一印象はそのようなものだったようだ。
「だから、少し話してみようと思ったの。できれば仲良くなりたかったし」
「異性ならわからなくはないが、同性でもそう思うんだな……そういうものなのか?」
「さあ、一般論なんて知らないわ。でも、私は仲良くなりたいと思ったのよ」
四条にとって、可愛いというのは仲良くなりたいと思う対象であるようだ。
確かに、四条一派の女子は全員可愛い。あれは四条の好みだったということなのだろうか。
「それで話してみたらとてもいい子で、しかも話も合ったのよ」
「……それは少し意外に思えるな」
「それは、どの部分に対して言っているのよ?」
「由佳がいい子であるということは言うまでもない事実ではあるが、四条と話が合うとは思っていなかった。由佳と四条はタイプが違うように思える」
「……まあ、確かにそうね。でも、タイプが同じだから話が合うという訳でもないでしょう?」
「……それもそうか」
四条の言葉に、俺は納得した。話が合う合わないなんてことは、なんとなくで決まるものだ。気質が偶々噛み合った。そういうこともあるだろう。
「まあ、平たく言ってしまえば、私と由佳が仲良くなったのは、私が由佳に一目惚れしたからということね」
「一目惚れか……」
「あんたは幼馴染だから、由佳とはずっと一緒にいたのよね? それなら、そういう気持ちはわからないのでしょうね」
「……いや、そんなことはないさ」
四条の質問に、俺は思わずそう呟いていた。
失言をしてしまったかもしれない。だが、口から出てしまった言葉はそう簡単には取り消せない。驚いた顔をしている四条に事情を説明するしかないだろう。どう考えたって、逃がしてくれそうにはないし。
「一目惚れかどうかはわからないが、小さな頃から、由佳の顔を見て衝撃を覚えることは何度かあった」
「ふーん……衝撃って?」
「つまり、その……改めて可愛いと思うというか、新たな発見があったというか……」
俺は、思わず頭を抱えていた。一体何を言っているのだろうか、俺は。
わかっていたことではあるが、無性に恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたいというのは、こういう時に使うべき言葉なのだろう。
「……帰る」
「え?」
にやにやとしていた四条は、俺の言葉にまた驚いた顔になった。
確かに今の俺の発言は唐突だったかもしれない。だが、流れを考えれば別に理解できることではあるだろう。
「ちょっと待ちなさいよ。由佳を待たないの?」
「別に待つ必要があるという訳ではないだろう……頼むから、もう帰らせてくれ」
「いや、なんかごめん」
四条は、俺に謝ってきた。その彼女にしては珍しい態度も、俺の心に刺さってくる。
やはりあんなことは言うべきではなかった。調子に乗って失敗する。いつものパターンである気はするが、今回に関してはなんだかいつもとは違う恥ずかしさがある。
とにかく家に帰って寝たかった。早く、今の一瞬を忘れ去りたい。
「ろーくん、ちょっと待って」
「……え?」
そんな俺は、聞き慣れた声に足を止めることになった。
ゆっくりと後ろを向くと、由佳がいる。どうやら、教室の後ろから入って来ていたようだ。
「ろーくんに話したいことがあるんだ」
「は、話したいこと……」
俺の額からは汗が流れてきていた。色々と不安があったからだ。
まず俺が先程言っていたことを由佳が聞いていたかどうかが気になっている。あれを聞かれていたら、非常に恥ずかしい。
さらにこの話したいことというのも気になった。このタイミングでこの切り出し方をされたら、まるで告白を受け入れたかのようだ。
事実として、由佳の顔は少し赤くなっている。俺の言葉で照れてくれている可能性もあるが、告白を受け入れたからそのような顔なのかもしれない。
「な、なんだ……?」
俺は、なんとか自分の頭の中にあった様々な考えを振り払った。
元々、覚悟を決めていたことであったはずだ。例え由佳がどこぞの誰かの告白を受け入れたなら祝福するべきだろう。
無論、相手がどうしようもない奴なら、なんとかするだけだ。それに関しては、四条も竜太も強力してくれるだろうし何も問題はない。
「明日、お休みだよね?」
「え? あ、ああ……」
「どこか遊びに行かない?」
「遊びに……」
由佳の言葉に、俺は少しだけほっとしていた。
未練がましい。我ながらそう思ってしまう。やっぱり俺は駄目な人間だ。
「どこかというのは、どこへ?」
「どこでもいいよ。ろーくん行きたい所とかある?」
「いや、あるという訳ではないな……というか、二人で遊びに行くのか?」
「うん。駄目かな?」
由佳は、上目遣いで俺を見てきた。
男女が二人きりで遊びに行く。それは一般的にはデートと呼ばれるものであるはずだ。由佳にそんなつもりはないのだろうが、そうとしか思えない。
「だ、駄目ということはないさ。明日は暇だしな」
「そうなんだ。それなら一緒に遊ぼう?」
「あ、ああ……」
結局俺は、いつも通り由佳の提案を受け入れていた。
一体、明日はどんな服を着ていけばいいのだろうか。俺が最初に悩んだのは、そんなことだった。
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