9.俺はすんなりと彼女のことをお姉ちゃんと呼んでいた。
「ろーくん、おいで」
「あ、ああ……」
とある日の放課後、由佳の家に遊びに来た俺は彼女に膝枕されていた。
それはもちろん、嬉しいことではある。ただ、由佳の態度が少し違って困惑しているというのが正直な所だ。
彼女はそのまま、俺の頭をゆっくりと撫でる。これは一体、どういう趣であるのだろうか。
「ろーくん、私の膝枕どうかな?」
「気持ちいいが……急にどうしたんだ?」
「え? ああ、うーん……」
意図がよくわからなかったため、俺は由佳に質問してみることにした。
すると彼女は、苦笑いを浮かべた。やはり何特別な意図があったらしい。
「……ちょっとお姉ちゃんぶりたくなって」
「お姉ちゃん?」
「うん。だって、ろーくんの誕生日は明日だもん。明日になったら、もう同い年になっちゃうでしょ?」
「ああ、そういうことだったのか……」
俺は由佳の言葉に、彼女が誕生日の時に言っていたことを思い出した。
彼女が俺よりも一歳年上なのは、明日までなのだ。よく考えてみれば、それは結構惜しいことであるような気もしてくる。
「……そういうことなら、甘えさせてもらおうかな?」
「ほ、本当に?」
「俺の方からお願いするべきことだろう? でも……」
「ど、どうかしたの?」
「いや、これでそういう期間が終わってしまうのは、惜しいなと思ってな……」
「あっ……」
そこで俺は、ふと思ったことを口にしてしまった。
これで由佳のお姉ちゃんの期間が終わる。それは非常に、惜しい。これからも時々で良いからそうして欲しい。それが俺の正直な気持ちである。
「ろーくん、前にもそんな風に言ってたね? 大丈夫だよ。私がお姉ちゃんなのはずっと変わらないんだもん」
「そうか……」
「だからろーくん、お姉ちゃんって言ってみて?」
「ああ、由佳お姉ちゃん……」
多少の恥ずかしさもあったが、俺はすんなりと由佳のことをお姉ちゃんと呼んでいた。
彼女の甘く囁くような声に、俺はすっかり嵌ってしまっているようだ。
「でも、それでも私の誕生日からろーくんの誕生日までは特別な期間だから、今日はいっぱいお姉ちゃんぶらせてもらうからね……?」
「そうしてもらえると、俺としても嬉しいな……由佳お姉ちゃん」
「えへへ……なんだか、すごくいい気分」
「いい気分なのは、俺の方だ」
「そうかなぁ?」
気が抜けて体を預ける俺に対して、由佳は穏やかな笑顔を見せてくれた。
その笑顔は、本当にとても優しくて、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。
こうして俺達は、しばらくそんな風に戯れるのだった。




