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僕も僕も ―side リオン―

 時空間転移とはほんと恐れ入るなー。さすが師匠。

 僕もここでもう一成長できるかな。


 転移軸時間軸ともランダムで、設定が不幸を呼び込む婚約破棄etcの異世界線を師匠が選択していたらしい。どうやら僕は3年後の15歳で性別が女性としてアルバート王国という国で生きていたらしい時間軸へ飛んでいた。アヤネ姉さん曰くこう言うのをTS転移というらしいのだけど。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺は筆頭公爵家であるシャルル家の次女リオンだ。

 こうして話してると俺様キャラのようだが、列記としたおしとやかな令嬢なんだ。


 我がシャルル家は、代々魔力に優れた家系だった。その為、両親とも国王陛下専属の宮廷魔術師だった。次女の俺は由緒あるシャルル家の中でも、選りすぐりの魔力量を兼ね備え、その魔法知識量も豊富な物があるんだ。ただし、自慢じゃないが座学の成績は壊滅的なんだ。何でだか、分かんねー。多分見た目可愛いのに、性格が悪いだとか、リオンちゃんちょっとおかしいよねーと周りから言われているのを教師たちが聞いているからかもしれない。あっ! こいつ変だから減点ねっとか。


 それとは反対に、姉貴のティアラは誰がどう見ても、才色兼備の才女。これは俺が言うのも何だけど、こんな絵に描いたような絶世の美少女が同じ生き物であるはずがないってほどだ。あっ! でも俺もなかなかだぜ。だってクラスでは顔面偏差値超高いって言われてるから、多分。

 でもこんな姉貴にも、弱点はある。魔法の才能が皆無なんだ。魔法大好き家系なのに魔法力がない。魔力は体内の龍脈と呼ばれる場所に貯められるのだが、姉貴にはそれが全く存在しない。だからどんなに努力しようがこればかりは無理なんだ。普通なら、うちは魔法あっての筆頭公爵家なのだ。魔法大好き家系なのに、魔法が全く使えないなんて、貴様は一代の恥だ! 出てけ! とか言われそうなのだが、うちの両親はそんな事全く気にもせず、ただ姉貴を溺愛していた。

 多分、俺が思うに可愛過ぎるからなんじゃないかと思う。


 当然のことながら、ここアルバート王国の国家がこんな才女をほっておくわけがなかった。元々王家御用達の宮廷魔術師を長らく輩出しているシャルル家だ。筆頭公爵ということで家柄も申し分ない。というわけで、姉貴であるティアラが3年前、彼女が15歳の時だ。アルバート王国第1王子ラルフとの婚約をどうかと国王から打診があり、うちの親父は大喜びだったし、お袋もティアラが王族に入ってくれるならこんな嬉しいことはないわなんてはしゃいじゃってさ。

 で、肝心の姉貴はどうだったかというと、わたしこんな愛もへちまもない婚約嫌ですわとか言うと思ったら、ラルフ王太子の色気にやられやがった。

 確かに、流れるような美麗で清潔感あふれるブルーの髪に、これまた人間らしからぬ超整った顔面。そして、その身なりをしながらの女心を鷲掴みにする超美麗ボイス。姉貴と同じ15歳。

 うおー、まじぱねー、欠点探すの無理ゲーって感じだった。

 当時俺は13歳。多分、世間的に言う生意気な年頃だったのだろうと思う。


「ラルフ王太子殿下、お姉様とのご婚約おめでとうございます。わたしのお姉様如何ですか?」


「どうもありがとう。リオン嬢。とっても綺麗だし、器量もいいと聞いているけれど、僕は男だからね。ティアラ嬢はずっと守っていきたいと思えるそんなご令嬢さ」


 ん? どこの模範解答だよ! やべーなこいつやべー。

 でも、つつきどころも探すのムズイ。


「ラルフ殿下、そんな事ないです。わたしなんか。妹もこんなだし……でもこれから精一杯、その……愛を育んでまいりたいと思いますので宜しくお願い致します」


 おい! 姉貴、もうおちてんのかよ!! まだ初日だぞ。頬がやべー、マジ比喩なしに赤い。


「もう、お姉様ったら、そんなに緊張してしまうと、ラルフ王太子殿下もお困りになられますわ。お姉様は殿下に、守っていきたいなんて言われて、きっと戸惑っていますのですわわ」


 ぬわ! 俺まで噛んだじゃねーか。あっ! そういえば俺誰かに守ってあげたいとか言われた事ねーや。

 ちなみにどっかの男爵子息が、気の弱い伯爵令嬢くどいてるところに出くわして、男爵子息に跳び膝蹴り入れて失神させた事ならある。そして、後で教師に言われた。”君、女の子だよね?”

 ショックだったなー。


 それからは、ラルフ王太子から、お茶会の誘いがかなりの頻度であって、姉貴はほいほいついていくところをこれでもかと俺は見ていた。

 親父もお袋も盛り上がって、次のティータイム用のドレスどれにしましょうか? とか、あんな美形の殿下とうちのティアラが子を持ったら、どんな神が生まれるんだろうかとか言っていた。


 そういえば、俺ドレス……買ってもらえた覚えがない。

 ”あんたどうせすぐ汚すからいらないわよね。あとどうせティアラのが全部あなたに降りてくるんだから喜びなさいね。全部ティアラは1回着た切りなんだから新古品みたいなものよ”


 親父は親父で、イケメン談義がうるさい。

 ”あの王家ほんとすごいよな。あれだけ代が続いてあの超イケメンが出来るのは、ほんと奇跡だな。通常なら代が続けば続くほど世襲であればちょいブスっ家の血が混じって劣化していっておかしくはないのに。まあうちのティアラが嫁げば、歴代最高のイケメンが出来るかもしれんがな”


 そんなこんなで、一応は姉貴とラルフ王太子は共に貴族学園3回生。俺も晴れて、何とか同じ貴族学園に入学する事が出来た。この時ばかりは勉強の仕方が分からないほど馬鹿だった俺も、姉貴に付き添われ、必死に勉強したんだ。何故同じ貴族学園を志望したのか。

 それは、若干だが俺の中に疑念が湧いてきたことが関係したからだ。


 ”出来過ぎている”


 15歳になり、若干物事が多角的に捉えられるようになった年頃で初めて出た些細な疑問だった。

 この懸念の対象は、言うまでもなく姉貴とラルフ王太子。

 貴族学園の中でも、2人は仲の良いところを周囲の眼に関係なく見せつけているわけではなけど、羨望の眼差しで見られている。

 普通に考えれば、王家の次期国王と、筆頭公爵家の長女という黄金コンビだ。安泰と言って過言ないだろう。他の生徒達も恐れ多いとばかりにやや2人に距離を置いているように見える。

 俺は考えていた。

 姉貴は3年間、一途を貫き通して今もそしておそらくこれからも王太子にぞっこんだ。

 ただしだ。ラルフ王太子の方はどうなんだ?


 自分は皆が振り返るばかりのイケメン。超絶美少女の姉貴がいるとはいえ、あの才女が揃う貴族学園で毎日のうのうと過ごしているだけで、果たして満足できるのか? 逆に姉貴がいるから、他の女生徒が近寄れないとも言えるけど。


 ――ある時、俺はラルフ王太子が級友たちと、昼休憩時に中庭で話し込んでいるところに出くわした。

 話題は本当に些細な事だ。俺はラルフ王太子の挙動を注意深く見ていた。

 うーん。やっぱ超イケメンだ。あれモデルに絵描きてー。


 いやいや、あれは姉貴のものであって、姉貴もあれのものである。でもだから俺は気にしてるんじゃないか。

 その時若干だが違和感を感じた。

 ん? 王太子はマンウォッチングが趣味なのか? きもーち周囲を歩く生徒達、特に注意をこらすと女生徒の方へ眼が向いている時間が長いように思える。

 姉貴だけじゃ満足できないから、他の好みの女生徒を物色してる?

 いや、ただ眼で追うだけじゃ何とも言えないし、これだけ見れば普通の健全な男子の行動の一つとして切り捨てる事も出来る。ただ若干の違和感を俺は持つことになった。


 ――そして、秋に入り、季節的にも過ごしやすい時期になる。秋の夜長とはよく言ったもんだ。

 貴族学園にも大規模な学園祭の季節が近づいてきた。


 学園祭までまだ1か月くらいの時期。

 朝の朝礼で不穏な注意喚起を俺は受けることになる。


 貴族学園の女生徒がここ数日で、何名か続けて行方不明になっている。

 何とも不可思議な事件である。蒸発したように消えてしまうようなそんな気味の悪いものである。

 誘拐なのか、家出なのか全く不明らしい。

 なるべく友人同士、または貴族らしくパートナー同士で帰る事。

 そんな諸注意があった。俺はもちろんドフリーだ。


 貴族学園限定の女生徒……ラルフ王太子のあの眼の挙動……

 まさかな……

 だんだん、懐疑的な眼をもつ自分が嫌になる。王太子は少なくともこれまで姉貴に対して守るという事を有言実行していた。ほとんどの日、帰りが遅くなる日は特に彼は姉貴をエスコートしてくれていた。

 自分が王太子という身分にも関わらずだ。

 でも、この時更に俺は王太子の行動に注目せざるを得なくなった。


 そして、落ち葉が舞う木漏れ日が気持ちいい秋のある日の放課後、校門に珍しくラルフ王太子が校門の壁を背に、カバンを抱え佇んでいた。

 ぬわ~。落ち葉舞う風景と相まって絵になるポーズ。眼福だぜー。

 やはりただのイケメンじゃない、ありゃ兵器だな。


 俺は別に隠れる必要はなかったが、ここ数日の疑念が邪魔をして、王太子に見つからないよう校舎脇に身を潜ませた。


 そういえば、今日は姉貴は学園祭の打ち合わせでちょっと遅くなると言っていた。

 王太子は校門で、姉貴を待っているのだろう。やはり非の打ちどころのない色男。

 下校していく女生徒達も、ここ数日注意喚起されている女生徒蒸発事件を案じて、友人同士2人やパートナー同士で皆下校していく。

 そこへ、ある2人組の女生徒、2年生だろう。結構可愛いと評判の2人組だ。まあ俺の方が可愛いが。

 校門の王太子がシングルでいた事が珍しかったのだろうか、たまたま顔を合わせたようで、2人は王太子に対してお辞儀をした。

 そして、注意深く見ていた俺は見逃さなかった。

 ラルフ王太子の両眼が一瞬赤く光ったのだ。

 ――その瞬間、女生徒2人組は立ち止まり、ある意味姉貴がいた時は踏み込めなかったラルフ王太子との聖域ともとれる近距離にまで迫っていったのだ。

 すかさず、何か声をかけているラルフ王太子。遠すぎて聞こえないが、口の動きをみるに、”……にきて”と言ったように見える。何とかに来て? 何処か指示するところに来てくれということだろうか。

 そして女生徒2人組は何か心ここにあらずと言ったような表情で帰って行った。


 そして、俺は少々ドジっていた。その光景を見ていたが為に身体の半身以上が校舎脇から出てしまっていた。

 あっ! 王太子に見つかった。

 だが、別に焦る事はない。今日はダメだったが。


「あー、ラルフ王太子殿下。お姉様をお待ちなのですね。今わたしちょっとお花摘み……いや紅葉狩りで校舎裏に行っていまして疲れたので帰ろうかと」


 間違えた。校舎裏で野トイレになってしまうところだった。


「リオンちゃん、ちょうど良かった。ティアラがもうすぐ来そうなんだ。3人で一緒に帰ろう」


 ラルフ王太子は、兵器並みのキラキラした笑顔を俺に振りまいた。

 程なくして、走って現れた姉貴。今日もキラキラした眼。王太子と並んでダブルキラキラ。

 俺はどうしたらいい。


「ラルフ様、お待たせして申し訳ございませんでした。あれ? なんでリオンがいるの?」


 最後の方、そんな急降下のトーンで話すなよな、もう……


「たまたま殿下に会ったのですわ、お姉様。今物騒な事件が起きているので、殿下がわたしもご一緒にどうかっておっしゃってくれまして」


「殿下、今日は、じゃじゃ馬が一緒で申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」


「じゃじゃ馬だなんて思っていないよ。リオンちゃん、良い子じゃないか」


「いや~。それほどでも~……ございますわ」


「こら! リオンってば」


 この日、俺に沸いた疑念。これが杞憂に終わればいいのだが……


 学園祭が近づくにつれ、校内も騒がしくなってくる。だが以前消えた女生徒の消息は不明。憲兵も厳戒態勢で行方不明者を捜してはいるそうだが、成果は全くないそうだ。


 ――そして、あれは学園祭準備の日も最終段階に差しかかかった日だった。


 やはりこの日も、姉貴は帰りが遅くなるようだった。どうやら学園祭実行委員って言うちょっと大変な責務の役を拝命しているようだ。さすがは才色兼備の姉貴。

 ちなみに俺は、何かやりましょうかっていっても大事な物だから壊さないようにしてくれるかなとか、リオンちゃんはちょっとあれだからとかで大体すぐ帰される始末だ。あれってなんだあれって?


 そして校門の前に1人絵になる美少年がいた。

 もうここまでくると、姉貴じゃなくても惚れる以外選択肢がなくなるような王太子の神対応。

 姉貴は当初考えていたよりも、帰りが遅くなっていた。

 それでも王太子は待つ。今日は他の女生徒に眼を変に向けたり、妙なマンウォッチングはしていないようだった。そして、俺は校舎脇に隠れている。

 何だか、妙な胸騒ぎがこの日は朝からしていた。どうか杞憂に終わってくれと思いながらも。

 おっと。姉貴がまた走って王太子の元へ。もう辺りは暗い。

 姉貴。あんたどんだけあの王太子を待たせてるんだ。王太子やべー、今だけグッジョブ。


「ラルフ殿下、こんな遅くまでわたしの為に残って頂いて申し訳ありません」


「ティアラ、君だっていつ攫われるか分からないじゃないか。行方不明者は皆この学園の女子生徒だしね。僕は、君を守りたいんだ」


 この期に及んでこの優しい言葉。俺は嘘でもいいからこの王太子を信じたい。でも俺は知っている。あの時……この王太子は何を思っていた? あの一瞬光ったあの眼は……頂けない。


 2人は腕を組んで歩く。俺は今日は尾行だ。この時からもしもの事を考え足音を消す魔法を発動させる。

 俺の魔力はずば抜けて多い。足音を消して歩くぐらい多少長時間になろうとわけもない。

 王太子が姉貴を無事、自宅へ届けた。


「ラルフ殿下。本日も夜分遅くに申し訳ありませんでした。ご一緒出来て本当に幸せです」


 姉貴の陶酔ぶりもすごいがこれはこの王太子が相手じゃ仕方ないだろう。

 さて。これからが本番だ。

 ラルフ王太子はきもち速足になったようで、帰りを急ぐ。

 王太子なのに、送迎の馬車も呼ばずとは、本当に恐れ入る。実際、こういった庶民的な行動のせいか、国民の人気がやたら高い。


 俺は気取られないよう、慎重につける。

 今回はこの前、校舎でドジった時のようには言い訳がきかねー。より慎重に。

 王城へのメイン通りまで来た。もう辺りは真っ暗だ。街灯があるとはいえ、本当によくこんな時間まで王国の次期国王が姉貴の為に。まだ俺は王太子を信じたい。


 ――だけど、王太子は無情にもその希望を打ち砕いた。


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