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残る者の想い ―side ミミ―

「いいの? このまま行かせちゃって」


「もしかしたら、これが今生の別れになるかもしれないのよ」


 クロード様達が、地球世界への転移テストと精神研鑽の為にアイテムボックスに入って行った直後、リーダーのアーク姉さん(元は性的に男)と、ドイル姉さん(元は性的に男)が詰め寄ってきた。


 何故2人がこんな事をあたしに押し問答しているのか?

 それは、あたしが今まで必死に秘めていた気持ちの行き先を2人が心配したからだ。


「リーダーもドイル姉さんも分かってるってば」


 確かに今伝えておかなければ、後悔してしまうかもしれない。

 でも、もし拒絶されてしまったらと思うと……今までどうしてもあと一歩が踏み出せなかったのだ。


 初めてあなたと会ったのは、マールちゃんを追放してしまったあの現場だった。

 あたしもあの時は、まさかあのマールちゃんが性女として王都に君臨していたなんて、思ってもみなかった。


 でもそこで颯爽と現れたのが、あなただった。

 きっとあなたのあたしに対する第一印象は、可愛い聖女様を追放してしまった悪どい勇者パーティーの性悪女ってところだろうと思う。

 クロード様があたし達勇者パーティーを”お色気にゃんにゃんパラダイス”に行かせたのはマールちゃんの無実を証明するのと同時に、あたし達への制裁の意味も入っていたと聞かされていました。

 でも、実際はリーダーのアーク姉さんもドイル姉さんも、本物の性女のマールさんに会ってから、すっかり心を入れ替えたばかりか感情の性転換をしたくらい幸せに満たされていた。

 あたしは、この時から感じていた。クロード様は元勇者パーティーの本質を見極めた上で、”正義に変えられる”と判断していたんだと。だからわざわざ性女マールさんを紹介した。


 あたしはそれからクロード様にどんどん引き寄せられていくようなそんな魅力を感じていた。

 リーシャちゃんもマールちゃんもクロード様を王子様のような目で見ている。実際に彼女達はピンチのところを王子様であるクロード様に助けられたわけだから。

 正に可憐な王女様を白馬に乗った王子様が助ける乙女なら誰もが夢見る救出劇を、クロード様は2人同時にやってのけてしまったとんでもないヒーローだ。

 クロード様も2人からしっかり気持ちを伝えられ、その大切な想いを真摯に受け止めていて”2人とも俺の特別な存在だ”と言っている。

 だから、この中にわたしが入り込むなんて、絶対無理なんじゃないかって、ずっと思ってきた。


 でもそれとは裏腹に自分がやってきた軌跡は全てクロード様、あなたに気に入られたいが為。

 ”あたしには風紀しかないんです! 風紀が全てなんです!”なんて言っていた事も全てはクロード様が喜んでくれると思っていたから。

 ちょっと心が不安定になってしまって、皆の為に身に付けていたはずの【癒しの波(ヒーリングウェーブ)】が【魅惑の波(テンプテーション)】になって優先的に発動してしまう事も、この世界の情勢を日夜猛勉強して風紀隊の参謀になった事も全てがあなたの為だった。


 あなたの事を思えば思うほど心が苦しい……気付けばクロード様、あなたの事を性女免許皆伝真近にまでなっていた”お色気にゃんにゃんパラダイス”の師匠である性女マールさんに相談してしまっていた。


『出会ったタイミングは他の2人と一緒のわけでしょ? だったら、ミミ、あなたにだってクロード君の”特別”になれるチャンスはあるんじゃない?

 出会いのスタートラインは同じ、最初の印象でリーシャちゃん、マールちゃんに比べてしまうと大きく出遅れてはいるけれど、最初この子苦手だなって思っていた子が、逆に奇跡の急上昇を見せてきた方が、きっとクロード君の印象に残るはずだから、結果的に2人を凌ぐくらいクロード君の愛情を勝ち取れる可能性だってあるわ。その気持ちが本物であるならアタックしてみるべきよ! 映画版ジャ〇アンよ! だから、あなたは破門。それがわたしからの餞別。あなたはクロード君だけの性女になるの』


 そして、この師匠の言葉が決定打となった。


 ついにクロード様がマールちゃんの為に地球に行ってしまう。

 すぐ帰ってくるかもしれないし、ドイル姉さんの言う通り、場合によってはこれが今生の別れになってしまうかもしれない。

 だから、想いを伝えるなら、もう今しかない。


 きっと、クロード様なら、俺にはリーシャとマールしか見えていない、その気持ちには応えられない、今後も変わる事もないと言うと思う。

 でも、それでもあたしは師匠の言葉を信じる。未来は決まってはいない。変えてしまえばいいんだ。

 現時点では2人に遠く及ばなくても、いつかクロード様の”特別”にわたしはなって見せるから。


 もし今の時点ではあたしはクロード様の”特別”にはなれないと分かったとしても、本当は地球にあたしもついていって少しでもその距離をつめることをしたい。

 でも、それ以上に、今あたしに課せられた風紀隊の重責は重い。


 だって、最愛のクロード様に言われていたから。この重責を果たさない限り、愛の土俵には立てないって、あたしは思っているから。


『俺が、この風紀隊、いやこの新生ルシェ連邦国を留守に出来るのは、ミミ、お前がいるからだ』


 何故あたしなんですか? と聞いたら、俺の勘がそう言っている。知見も広く偏りのない判断も冷静に出来るリーダーに適任だと。


 この言葉の意味、最初はあたしには重過ぎる、あまりに重過ぎる……そう思った。

 でも、きっと真意は他にあって、あたしの事を見てくれていたって事をこの人なりに伝えてきてくれたんじゃないか、今のあたしには最高の言葉なのではないか。

 そう思えるようになった。


 これってあたしも、クロード様の意識の中にずっとあったんだ。

 だったら、その期待に応えなければいけない。

 応えられなければ、クロード様を好きになる資格はないと。


 だから、あたしは残ります。


 あなたを心から愛しているから……


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