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仲間の想いを糧に

 ――翌朝、俺とクリスはギルドへ。


 そこには、屈強な重戦士と、ハーフエルフの美女がいた。

 2人ともギルドSランクの冒険者でギルドお墨付きだという。


「俺がエドガーだ。よろしく頼むぜ!」


「あたしがスナイパーのユーファよ。今日はよろしくね」


 4人揃った俺達は、早速シソ村への日程作りと打合せを始めた。

 エドガーと、ユーファはこういった臨時パーティーでの立ち回りは得意だそうだ。ギルド公認のフリーランスだそうだ。


 こうして、俺達は辺境の地、シソ村を訪れる事になった。寂れた土地だ。もう数年は人の出入りがないと思われる。

 村の門に来ると、死の臭いが一層立ち込めた。

 ドラゴンゾンビは死の臭いを嗅ぎ付け、そこに巣くうと言われる。


 俺達は、村に足を踏み入れた。ゲイルは長居は無用で早々に立ち去るように言っていたが、大物が相手だとそうも行かない。


「……デカイな。俺が受け流してやつの攻撃をいなすから、各自攻撃を頼む」


 ユーファも絶好の位置から牽制ともとれる、掃射を始めている。俺とクリスは、共に自慢の剣裁きで斬りつけた。骨が分断される気味の悪い音が、響き渡った。反撃は、エドガーが受け流しで引き受けてくれてはいるが、瘴気をかなり吸い込む事になるため、一刀両断とは行かない。何度か斬りつけるうち、夢とも現実ともとれない過去の映像が俺の脳裏に映りこんできた。


 シソ村、忘れられた死の村、思い出した。ここは俺の故郷だ。ゲイルはこの事を言っていたのか。完全に思い出していた。


 魔王との決戦。そして、幼馴染み達の裏切りを。ドラゴンゾンビを斬る度、嫌でも感じとってしまっていた。


 とても納得のいかない理由で裏切られた。あいつらが国王の犬だったなんて認めたくないが。ロンド、リリー、ルーシアは今どこで何してるんだろうか。遠くから、俺をせせり笑っているのだろうか? 


 ……やがて気が付けば、ドラゴンゾンビは絶命し、死の灰が舞っていた。


「クロード、大丈夫? 顔色悪いわ。ひどくうなされていたわよ」


「おお、ここは人間には精神衛生上良くないしな。早いとこずらかろう」


「……わたしもここはちょっとこの瘴気に耐えられません」


 頭痛もひどく、もやもやする中、俺はたった一つだけ、絶対確認しておきたい事を頭に焼き付けていた。


 “くそ……今まで忘れていたなんて……妹のナディアの行方は?“


「……ここ俺の故郷だったんだ。どうしても家にだけ……妹と二人暮らしだった、その生家に行きたいんだ」


「事情があるようだな。クリスとユーファは見張りを頼む。俺は何とかクロードの目的を果たさせたい」


 エドガーが、そう言うと俺に肩を貸し、生家目指して付き添ってくれた。


 生家があった。死の灰に埋もれているが、テーブルにあれは……赤い宝石のネックレスだった。そして、妹ナディアの残した手記が添えてあった。



 ………………


 ――12月24日。 今年は……今年こそは、お兄ちゃんと一緒にクリスマスのお祝いしたかったけれど、お兄ちゃんは、世界を救う最高の勇者様だから、わたしは大丈夫。そう、お兄ちゃんだったらきっと分かってくれるだろうから。


 夕方、なんとルーシアのお姉ちゃん、リリーお姉ちゃん、ロンドお兄ちゃんが、うちにやってきました。お兄ちゃんが魔王討伐を果たしてくれた事を伝えに来たって。わたしの最高のお兄ちゃんが。きっとこれがわたしの幸せ。だから、わたしの事は安心して、お兄ちゃん。それにロンドお兄ちゃんが自慢気に言ってくれたんだ。

 “クロードは俺たちの全てだから、何がなんでも守ってきた、そして、信頼出来る人に全てを話して預けてきた“ って。


 ――12月25日。 村の皆で人生最後のクリスマスパーティーです。ルーシアお姉ちゃんがお髭をつけて、サンタさんの格好でした。リリーお姉ちゃんはトナカイさん。ロンドお兄ちゃんなんかソリの役だったんだよ! お兄ちゃんにも見せたかったなぁ。それでルーシアサンタさんが、わたしに最高のクリスマスプレゼントをくれました。お兄ちゃんからのプレゼントですよって。最後の最後でお兄ちゃんずるいよ。こんなの……。今日でわたしの人生終わるけど、皆と、それでこのお兄ちゃんの真っ赤な宝石と一緒にわたしはずっとここにいます。大好きなこのシソ村で最後を過ごします。

 お兄ちゃん、本当にありがとう。愛してます。


 ………………



 最後は震えたような文字で書き込まれていた。

 ナディアは、きっと最後までここで、最後の1日までここで過ごしたというのか?

 あいつらは、ナディアと最後まで過ごしてくれたって言うのか?


 赤い宝石が涙に滲んで見えた。



 ――全てを心にしまい、俺はシソ村を後にした。

 帰り道は、クリスに心配され、ユーファに慰められ、エドガーに肩を借りるくらい無様だった。あの3人には改めて礼を言わないと……


「……ただいま」


「……帰ったか」


「ゲイル、全て知っていたんだよな」


「おそらくいつかはとは思っていたがな。大丈夫だ。シソ村は英雄の村なんだ。

 シソ村は魔力を持つ家系の者だけが集う集落で、勇者の信託は魔力のある者に下される。つまり村からしか勇者は誕生しない。

 そして、勇者が誕生した時、初めて勇者本人以外にその定めが知らされる。勇者本人には心的負担から、その定めを知らされる事はない。

 魔王を討つには、勇者自らその全魔力を以て、コアを貫かねばならない。魔王は解き放たれた魔力を終焉魔法に封じ込め、その死を以て発動させる。発動は死後3日後。

 終焉魔法とは、この世の魔力を持つ者全てを呪い尽くし、必ず死を与える恐るべき呪詛。死は即座に訪れ、身体は崩れ死の灰となる。止める術はない。

 更に魔力を持つ者をキャリアとして、魔力を持たない人間にも死の疫病をもたらす。

 故に勇者が魔王を討伐した3日以内に魔力を持つ者全員を国王は、シソ村に封じ込めた。

 勇者本人は、魔力そのものをコアを破壊した時点で失う為、終焉魔法のキャリアにはならない。

 だが世界に驚異を与え、多くの犠牲を出した張本人として迫害を受けるんだ。勇者を輩出した国の国王はその責任をとり、驚異を与えた勇者を処分する事になる」


「……ありがとう。俺の為に……黙っていてくれて……」


 俺はゲイルに胸を預け、泣いた。


「クロード……礼は全てあの3人に……だな。全てを事細かく俺に伝えてくれてな。ルーシアが絶妙なコントロールでお前の記憶を消してくれたみたいだな。精神障害が起きないよう。もっともそのせいで、シソ村に入っただけで、記憶が戻るくらいの軽いものだったようだが。出来る事なら、お前が思い出さないよう幸せになってくれるよう願いを込めたんだろうが」


「……うん」


「結局、あの時本当は、ロンドが寝ているお前を大事に背負って来たんだ。傷一つ負わず綺麗な姿でな。最後に、彼らは、“クロードはわたし達の希望だから、わたし達の分まで生きて欲しい“そう言ったんだ。国王への報告に必要だからと、お前の死を偽装するため、やむを得ずひどい事をしたと恥じていたが」


「………………」


「彼らの厚い想いに応えたかった。断る道理はないさ」


 俺は思い切り泣いた。


 確かに全て知っていたなら、俺は躊躇なく魔王討伐を拒否していただろう。


 討伐を果たした後の俺の事だけを……ただそれだけを守るために……あいつらは……



 ………………



 ――3年前、12月24日。ゲイルとの対面後、道中にて。


「なあ、ルーシア、俺の芝居大したもんだったろ?」


「……そうですわね。クロードくらい素直で実直であれば、まあ、誰でも……」


「……でもルーシアだって、クロードがナディアちゃんへのプレゼント渡すように頼まれた時、狼狽えたでしょ」


「……あの時は、まさかあんなひどい事したのにって戸惑ってたのです」


「一番冷静だったのはやっぱりロンドだね。もうあのニヤケ顔とか悪魔そのものだもん。頼りになるな」


「だが立役者はルーシアだぞ。ちゃんとクロードを処分したと見せかけた瞬間を記憶映像に残したんだから」


「魔封じの崖とか、よくあんな出任せ思い付いたよな?」


「クロードが転移使おうとしてたの見て、思い付きましたの。魔力がないのはクロード自身である事は、あの時点では彼は気付いていませんでしたものね」


「でさ、ルーシアのクロードが落ちたと同時に、【スリープ】かけるタイミング絶妙だったよね」


「それを言うならリリーの【フローティング】での、眠ったクロードの釣り上げお見事でしたわ、怪我一つ負わさずでしたから。さすが大賢者様ですわ」


「俺の活躍は誉めてくれないのか?」


「誉めてますわよ。その悪党ぶりを……結局一生懸命、国王にクロードの死亡を偽装しに行ってくれたのはあなたですからね」


「とにかくリミットまで間もないからな。俺の速足なめるなよ」


「重戦士じゃん! その重い格好でよく言うよ」


「……もうクリスマスイブだしな。そろそろってところか」


「……最後だね。ルーシア、孤児院開く夢あったのにね」


「夢ですから、ずっと覚めない夢で見ますわ」


「……ロンド、あんたが一緒だと何故だか怖くない」


「ははは、大丈夫だ。生まれ変わってもお前らをずっといつまでも守ってやるから」


「……バカ」


「……おバカさんですわね」


「そろそろだね。じゃあ俺たちの最後の希望、勇者のお姫様の元にみんなで行きますか!」


「行きましょう。可愛いお姫様の元に」


「……うん! 最後で最高のサンタさんになろう!」



 ………………


 ――俺はきっと知らずして、この上ない最高の仲間達を手に入れていたんだ。


 ありがとう。ロンド、ルーシア、リリー。

 ……そして、ありがとう、ナディア……



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