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異世界への鍵

 ――思いがけない戦利品『アイテムボックス』。

 これはただの便利グッズではない。

 そう、異世界への最後の鍵を手に入れた瞬間だったのだ。


 マールのいた地球、つまり異世界へは以前の考察通りキーワードは、【空間連鎖(コネクト)】と【ドレイン】だ。

空間連鎖(コネクト)】は、仕組みとしては、紙という平面上に、起点と離れた終点を設け、紙を無理矢理折り曲げる事で、2点を繋ぎ合わせる論理だ。


 では、起点と、終点が同じ紙に存在していない場合は?

 つまり座標軸が異なる。

 それでも、俺の描いた時空魔法であるなら、アクセス出来る確信があった。言わば【異次元連鎖】になるが、時空魔法は元々、異次元の理を3次元に引き出したもの。

 問題は【ドレイン】の魔力で【空間連鎖(コネクト)】自体は発動出来ても、肝心の俺達が穴を無事くぐり抜けられる保証がなかった。生身で【異次元連鎖】に飛び込めば、人が原型をとどめた形で抜けられるのか?


 それが課題だったのだが……


 アイテムボックスに冒険者の魂が入っていたという事は、人の肉体ごと入れる確証もある。アイテムボックス内に、決まった座標軸など存在しない。


 つまり紙を世界に例えれば、2枚の紙を糊付けしたような擬似空間の移動が可能になるという事だ。


 そして、導き出した答えは……


 アイテムボックス内を【異次元連鎖】の場にしてしまう事。自分達をアイテムボックスと言う異次元に同化してしまえばいいのだ。


 そして、転移の方法は、アイテムボックスに飛び込み、内部で【空間連鎖(コネクト)】を発動させる、目的地は、マールから【記憶遡行】で読み取った実際行ったと言っても過言ではない異世界の地球だ。


 異次元内の【空間連鎖(コネクト)】の穴をくぐり抜け、アイテムボックスの外に出れば、そこはマールや、アヤネの切望した世界のはずだ。


 端から見れば、アイテムボックスの袋は内部の転移に伴い、異世界間を瞬間移動したように見えるはずだ。


 ついに新たな一歩を踏み出せる……


 全ての課題をクリアした俺は、マールと、リーシャ2人に打ち明ける事に決めた。



 ――風紀隊詰所。


 マールは力をつけて地球へ戻ることを切望していた。だが果たして今、この平穏幸せな世界を捨てて、つらい思い出ばかりの地球へ戻りたいと思うのだろうか?


「マール、黙っていたけど、お前の故郷の地球へ転移する手立てがやっと揃ったんだ。今すぐに結論は求めない。どうするか考えてくれ」



「あ! 行きます!」



 ……はや!


 せめてもう少し涙とか流して敢えて、故郷への決別決めるとか考えてもいいんじゃね?


 とか思ったんだけどな。どうやら地球はマールにとってつらいだけの場所ではないようだ。


「わたくしは、地球で生まれ育ちました。つらい思い出ばかりですが、やり残してきた事もあります。聖名学園への編入のお返事です。わたくしがこの世界に来て、そろそろちょうど3か月がたつのです。まず体験編入のお返事をしなければ、大変失礼になります」


 マールに聞いた話を思い出した。そういえば、そうだった。

 まだ編入1週間ほどで、惨劇が起きて彼女はこちらの世界に聖女として来たんだった。


「それに何よりも、わたくしはクロード様を懸けて、リーシャちゃんと正々堂々と勝負すると誓いました。わたくしだけが、地球上の世界、こちらの異世界を経験していては、不公平に思うのです。ですのでリーシャちゃんもわたくしと同じ条件でクロード様を奪い合いたいのです」


 ああ、そう言う事か。

 ん? リーシャが地球に行かなくても別に不公平感なくない?

 とか思っていたのだけど、彼女には彼女の事情があるらしい。


「でしたら、わたしもマールちゃんの故郷に何が何でも行かねばならないのですね」


 あれ?

 何でもう準備万端なんだよ!


 ちゃっかり既に荷造りを終えたリーシャがいた。


「俺はてっきり両親やお兄さん、養母さんの仇の悪者に制裁を加えるために行くのだと思ってたよ」


「考えてみてください。そんなつまらない事で時間は使いたくないです。復讐なんて成し遂げたって大事な人が戻ってくるわけじゃないので。もちろん、復讐は何も生まないとも思いません。成し遂げることで止まった時間が動き出す推進力になることもありますが、あんな害虫みたいな人達の為に時間はどうしても使いたくないのです」


 マールもちゃんと考えていたんだな。

 いつもちょっと天然ぽくて、穏やかな感じだったのだけど。


「時間を使うのなら、恋のライバルのリーシャちゃんと思う存分使いたいのです。敵に不足はありませんので」


「わたしもです。マールちゃんとなら、全力でクロード様を取り合えます」


 俺を景品にされてもな~。



 ――そこへノックがあった。


「どうぞ」


「失礼するよ。クロード君、話は聞かせてもらった」


 入ってきたのは、実はすごいやり手のライナーさん、それに奥様のエリシアさん、それに弟子のリオンだった。


「聞こえちゃいましたか。マールは元々異世界から来ました。今回の炭坑探索で、その異世界に行けるピースが揃ったんです。だから、しばらく俺達に暇を頂きたいのですが」


「風紀隊は城下どころか、各諸国にも相当人気でね。本当に素晴らしい。クロード君のおかげでこんな平和が訪れたんだ。そんな立役者が行かねばならない所なら、何処だろうが応援するよ。マール君、リーシャ君はもちろん、あと連れて行くの忘れてもらっちゃ困る者がいるんだ。この影の英雄だ」


「師匠!! 僕を置いていくなんて言わせません。まだ師匠の技を全て会得したわけではないので」


「リオンは貴族学園があるだろ?」


「どうしてもリオンは宿題が苦手だから、連れて行ってくれ。俺とエリシア、二人掛かりでも5回生の宿題無理なんだ。初等部には俺から話しておくから」


「……」


 いらんものを押し付けられた気分だな。


「リオン、クロード君にお世話かけないようにね。でも二股かけるところは似てはダメよ」


 エリシアさん、すごい可愛いのだけど毒吐くよな。


「あの~……わたしも地球人なのですが……忘れてるなんてひどいにゃ!」


 あっ!? 生粋の地球人がいるのすっかり忘れてた。



「ご主人様! わたしもお供します。何処までも」


「スージー。お前は魔物だ。しかも城内のアイドルだ。それを捨てていいのか?」


「じゃあ10%くらい残していきます」


 そう言うと、小ぶりのスライムが生まれ出た。

 すかさずその小ぶりのスライムもすかさず美少女型に変態した。


「見た目は一緒ですが、この子は力が10%です」


 いろいろ突っ込みたいがまあいいか。


「エドワード、アーク、ドイル、ミミ、10%スージー。風紀隊の事頼んでいいか?」


「はい。命をかけて」


「風紀隊の事はわたしに任せて」


「マール、股を見せろなんて言ってごめんなさいね」


「必ず無事に帰ってきてくださいね」


「90%の事、よろしくお願いいたします」


 ――準備は整った。


 だがこの異世界転移は、言わば俺の見解に依るところが大きい。完全な安全は担保出来ない限り、最後の試行は必要なんだ。


 俺は、最後に試行が必要な旨を皆に説明する事にした。

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